第115話 入学祝い①
Sクラス教室を後にしてから10分程度で、待ち合わせ場所である、学校棟エリア正門前付近へ着いた。
近くにあった立ち時計で時間を確認すると、約束の時間である12時からは5分前での到着だった。
「さて、レイシア達はどこだろ?」
特にそこまで混雑しているという訳ではなかったが、正門前は多くの新入生達で少しばかり人混んでいる。
その場で立ち話をして交流を深める者。 そのまま正門から出て『日常エリア』や『学生寮エリア』へと向かう者など様々だ。
まあ、2人ともいい意味でよく目立つ容姿をしているからすぐに見つかるだろう。
そう考えていた矢先にも、エルフィアが「あれじゃない?」と、1番右端の石門柱の辺りを指さした。
そこに立っていたのは間違いなくレイシアだったのだが、どうしてかレミエルの姿が見当たらなかった。
ただまぁ、相変わらず俺達以外にレイシアのことを気にしている人はいないみたいだ。
あれだけ美人なのだから、声をかけるなり見蕩れるなりする男なんて少なくないだろうに。
ひとまず、人混みを掻い潜りながら近づいていくと、彼女の方も俺達のことに気づいで、ニコリと微笑し、手を小さく手を振る。
「やぁ、3人とも。 待ってたよ」
「よぉ、レイシア」
俺の後ろでエルフィアとラフィーも「こんにちわ」と、挨拶を返していた。
「レミエルはどうしたんだ?」
「あぁ、レミエルなら、先にお店の方に行って席を取ってくれてるんだよ。 これから行く所は予約制じゃないからね」
「そういうことか。 確かに今日はどこも混みそうだし、ありがたいな」
なんと言っても今日は入学式。
俺達のように、集団で一緒に昼食をとろうというパターンは少なくないだろう。
店に着いたら本人にもお礼を言っとくか。
「さぁ、無事合流できたし、そろそろ行こうか」
「そうだな」
そして俺達4人は正門からメインストリートへと出て、目的地の店へと足を向けた。
しばらく歩いきながら周りを見ていると、改めて気になったことがあった。
「やっぱりここって、学生ってより一般人の方が多いよな」
「そうだね。 基本的にミシェド学園は全エリアを含めて教育施設として隔離されていて、学園関係者以外は立ち入り禁止なんだけど、この日常エリアだけは一般の人も自由に出入りできるんだよ」
「学園の一部でもあり、都市の一部でもあるってわけか。 この規模で客が学生限定ってなると商売にならんだろうしな」
「そういう事。 今向かっているお店もそうだけど、ここにしかないお店も沢山ある。 それに、中心街と比べて物価が学生向けで安いのも一般の人が賑わう理由なんだろうね」
一種の観光地、小さな繁華街としても機能しているから物価も安くできて、これだけ賑わうわけか。 ほんと上手くできてるもんだな。
「そういえば、入学試験の時から今日まで借りてた宿も、確かに比較的安かったな」
宿と言っていて思い出した。
2年前、ラフィーと初めて王都に来た時も、たしかこの街の宿を利用したんだ。
通り縋った人に地図を見せて、どこがおすすめかを訊いた時に、この街の宿が安くて旅人には良いと聞いたのをよく覚えている。
当時はまさか、自分がこうして制服を着てこの道を歩くだなんて想像もしてなかったな……。
そんな風に感慨に耽っていると、レイシアが不意に「着いたよ」と言って立ち止まった。
『食事処パトリア』
どうやらこの木造の建物が、今日のお目当ての店らしい。
レイシアが扉を開けると、チリンという心地よい鈴の音と、食欲をそそるいい匂い、そして店員の元気な声が俺達を出迎えた。
奥の方から、20代後半くらいの女性店員が出てくる。
「こんにちわリンさん」
「あらあら、レイシアちゃんじゃない! いらっしゃ〜い」
口振りからして、レイシアとこの店員は結構な顔見知りのようだ。
2人の様子を後ろから見ていると、リンさんと呼ばれた店員が「あら?」と、俺達の方を窺ってきた。
「後ろの御三方はどなたかしら?」
「あぁ、彼らはボクの友人だよ。 ユウに、エルフィア、ラファエル。 今日は入学祝いでここに来たんだ」
「彼女はリンダさん。 ここの店主の奥さんで、よくここに来るボクとレミエルとは顔馴染みなんだ」
レイシアはそう言って俺達と、同時にこの店員のことを紹介し、俺達もとりあえずそれに合わせて会釈した。
リンダはニコニコと微笑みながら「よろしくね〜」とこちらに向かって手を振る。
「それにしても、レイシアちゃんがお友達をねぇ〜。 あらあら〜」
リンダが心底嬉しそうに微笑みながら頬に手を当てる様子を見て、なんだかレミエルと同じ雰囲気を感じた。
「ささ、とりあえず席につきましょう。 レミちゃんも向こうで呼んでるわ〜」
そう言ったリンダの視線の先を見ると、先に来ていたであろうレミエルが、こちらに向かって大きく手を振っていた。
「待っとったでぇ。 ほらほら、みんなはよぅすわりぃ」
リンダに案内してもらい、レミエルとも無事合流し、俺達も彼女が抑えておいてくれた席に腰掛けた。
「それじゃあ、注文が決まったら、この呼び鈴鳴らしてね〜」
リンダはお店の注文表を机に置き、机の上に置いてあった呼び出し用のベルを指さしてそう言い残すと、奥の方へ戻って行った。




