第103話 試験終了
お待たせしました!
本日日曜日より、クラス転生譚、第10章を始めさせて頂きます。
今章も楽しんでいただければ幸いです。
「どう、なっているんでしょうか……」
審査員席にて、学園長補佐、クレア・ミラードが、ぽかんと口を大きくあけて、目を丸くしながら呟いた。
彼女の視線の先にあるのは、競技場中央で、大剣を必死で振り回す副講師長のアルド・オルフィスと、凄まじい速さで、彼を圧倒する、特別推薦枠試験、受験者、ユウ・クラウスの姿だ。
これは、誰も予想していなかった事態だった。
たった今、この席に審査員として座っている、ミシェド学園の重鎮達が皆、クレアのように瞠目して、彼らの戦いを見つめている。
彼らが、驚愕するのも無理はない。
なぜなら、ユウ・クラウスという少年の天職は『無職』、つまりは、この国で、この世界で、弱者の中の弱者、最弱とされる烙印なのだから。
「にわかには信じられない光景だ」
講師長、カルス・バーナードが言った。
己が認めた、強者である、アルド・オルフィスが、あそこまで圧倒されてしているのは、どうしても現実とは思えないのだろう。
「天聖武具持ちとは聞いていたが、まさかこんなことになるとは、思いもよらなんだ……」
アルス・クランドもまた、刮目して呟く。
「あのステータスは、どうやら、偽装ではなかったと、言わざるを得ないものを見せられてしまったようだな」
そして学園長、ケイル・アル・ミシェドは瞑目して、1人静かにそう零すと、驚嘆の様相をかきけして、開眼し、その試合の行く末をじっと見つめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「そこまでっ! 副講師長、アルド・オルフィスの魔法障壁決壊を確認した。 よって勝者を、ユウ・クラウスとする!」
ミシェド学園、学園長、ケイル・アル・ミシェドの痛快な宣言と共に、試合の終了を告げる鐘の音がらスタジアム内に響き渡った。
「────勝った、のか……?」
数秒間残っていた反響音も静まり、スタジアム内にしばしの静寂が満ちる中で、俺は1人、息を吐くようにして、ボソリとそう零したが、徐々にこの状況を把握していき、俺はようやく、自分がこの試合に勝利したのだと理解した。
すると、緊張の糸が切れたのか、途端に全身から、すっと力が抜けていくような感覚を覚え、俺はその場に尻もちをつく。
「───」
体のうちから湧き上がってくる、なんとも言えない高揚感に、拳を固く握りしめ、俺はゆっくりと、そして深く息を吸い込んで、
「───っし!」
俺は体をくっと縮こませ、小ぢんまりとガッツポーズをつくりながら小さく、歓喜の吐息を零した。
するとその時、甲高く可愛らしい声音が耳に入ってくる。
「やりましたね、マスター!」
透き通るような青髪をキラリと靡かせながら、欣喜雀躍とした様子で、俺の懐に飛び込み、抱きついてくる少女の姿が視界に入った。
俺は「うぉっ」と、驚いたような声を漏らしつつも、飛び込んできた、その小柄な体躯をそっと抱きとめる。
「ああ、ラフィーのおかげだ。 ありがとう」
抱きとめた瞬間に感じたその軽さに、柔らかさに、温かさに、そして愛らしさに、俺はついつい頬を緩ませながらそう言って、彼女の頭をさらりと撫でた。
するとラフィーは「えへへ」と心地良さげに喉を鳴らす。
───あぁもう、本当に可愛いなラフィーは!
治癒の能力があるって言ってたけど、正直そこにいてくれるだけでも滅茶苦茶癒されるんだよなぁ。
まあそれ故に、ことあるごとに頭を撫でてしまうのが癖になりかけているのだろうけど。
「でも、勝てたのはマスターの実力があってのものですよ!」
「───僕も、その通りだと思うよ」
ラフィーがそんなふうに、意気揚々として言ってくれた時、いつの間にやら近づいてきていた人影が、そう声をかけてきた。
「す、すいませんアルドさん、座り込んでしまって」
俺は、声のした方向へ顔を上げて、その声の主に気づくと、そう謝罪して慌てて立ち上がる。
ラフィーも俺の意図を直ぐに察してくれたようで、立ちがる前には俺の上からさっと離れていた。
「いいや、構わないとも。 敗北したのは僕で、勝利した君が謝ることなんてひとつもないんだから」
「……」
───相手が誰で、勝敗がどうであろうとも、その相手を敬えないような愚か物は、決して真の強者足りえない。
レイアースでの模擬戦や武闘会に参加する際には決まって、サイオスがよく俺に言ってくれた言葉であり、一瞬とはいえ、アルドを蔑ろにしてしまった俺の態度はこの言葉に反していた。
ここではどうなのかは知らないが、その言葉こそが、俺が従うべき指標だ。
だが、今は切り替えろ。
どうしたって時間が巻きもどる訳では無いのだから。
俺は自分にそう言い聞かせて、息を吐いた。
「本当にすいませんでした」
そしてもう一度謝罪すると、アルドは「ふっ」と、柔和な微笑を浮かべた。
「君は謙虚なんだね。 いやしかし完敗だったよ。 むしろ、君を侮っていた僕の方が謝らなければならない。 本当に申し訳なかった」
そう言って、アルドは俺に対して頭を下げる。
アルドは俺のことを謙虚だと言ったが、彼もまた、性根の真っ直ぐな人なのだろうことはその目と、態度をみれば容易に分かることだった。
「いえ、そんなことは。 最終的には本気で戦ってくれたのでしょう?」
「もちろんだとも。 最初の動き出しを見た時には、既に本気だったよ」
「それもう、本当に初めっからじゃないですか?」
「はは、違いないね」
そんな話を面白がって、俺とアルドは互いに笑いあい、ラフィーもくすくすと微笑んでいた。
最後までご拝読ありがとうございました!
次回も楽しみにして頂ければ、幸の至でございます。
面白い、続きが気になると思って頂けた方は、宜しければ、ブックマーク、ポイント評価よろしくお願いします!
作品に対する感想や意見も、随時お待ちしております。
頂いた感想には必ず返信致します!
 




