第101話 入学試験⑬
更新遅れました、申し訳ありません!!
第4スタジアム前に戻ってくると、そこには、エルフィアとラフィー、そして、途中で合流したのか、レミエルの3人の姿があった。
あの念話をしてから、少しばかり後始末をしていたせいもあって、どうやら、彼女らの方が、俺達よりも、ひと足先に到着していたらしい。
「ん? どうしたエルフィア。 なんか元気なさそうだけど。 試験で何かあったのか?」
しかし、エルフィアの顔色が心做しか良くない気がして、俺は彼女にそう訊ねると「それがですね」とラフィーが眉尻をさげながら苦笑いで横から応える。
「実は、試験自体には何も問題がなかったんです。 むしろ、試験官も驚かせるほど、凄い魔法だったんですよ。 ただ、そのせいで、周りからすごい注目されてしまって……」
あー、そういう事か。
確かに、今のエルフィアには、周りからの注目というものは、最もと言っていいほど、苦手な部類に入ってくるのだろう。
恐らく、試験で使用したであろう強力な魔法が、注目を集める大きな原因となったのだろう。
それに、本人は気づいていないようだが、もともとエルフィアの容姿は注目を浴びやすい。
立てば芍薬、座れば牡丹。
まるで白百合のような、一切の淀みもない、真っ白で長い白髪。
正直、控えめに言っても、エルフィアは抜きに出て美少女なのだ。
そんな彼女が、試験官をも驚かせるような強力な魔法を使えば、注目が集まってしまうのは、むしろ当然と言っていい。
ただ今回の場合は、普段では気にならないようなな視線とは違った、あからさまな注目に、エルフィアはまいってしまったのだろう。
仕方ないことなんだろうが、いつまでもそう言っているのも、今後のことを考えるとあまりいい傾向とは言えないのだが、今はとりあえず、
「まあ、ひとまず、試験おつかれ、エルフィア。 ラフィーもありがとな」
俺はそう言って、2人の頭に手のひらをのせた。
するとエルフィアは「ん」と頷いて、安心したように頬を緩ませ、ラフィーは「えへへ」と、気持ちよさげに目を細める。
どうしてかは分からないが、こうすると2人がとても喜んでくれるので、ついついやってしまう。
「ま、一段落したみたいやし、お昼にしようや。 うち、お弁当つくってきてん」
その時、なぜだか随分と上機嫌なレミエルはそう言って、竹かご製の大きなバスケットを自分の顔の横に持ち上げて見せてきた。
どうやら、事前にレイシアがレミエルに作って持ってくるように伝えておいたらしい。
中身はサンドイッチで、その後5人で食べたのだが、一瞬、本当にレミエルが作ったものなのかと疑うほど、美味しいサンドイッチで、エルフィアもラフィーも目を見開いて食べていた。
そんなふうに、昼食休憩を挟み、ついに、特別推薦枠試験の受付開始時間である午後1時を迎えた───。
「えーっと、ミシェド学園高等部2年、上位保持者のレイシア・コルヌスさんの推薦で受験する、ユウ・クラウスさんで間違いないですね?」
第4スタジアムの入口では、受付係と見られる女性が、1枚の用紙を見下ろしながら、そう訊ねてきた。
受付役をしている女性は、身なりからして、この学園の職員だろう。
彼女が手に持つ、あの用紙は、昨日のうちにレイシアが提出してくれていた、特別推薦枠試験の志願証明書というものだそうだ。
「ああ、間違いないよ」
隣に並んだレイシアが、堂々と頷いてそう返す。
特別推薦枠試験の時は、推薦者と被推薦者が一緒に入口を通らなければならないという決まりがあるため、こうして、並んでここに立っているわけだ。
すると、受付係は「それでは失礼して」と短く言うと、俺達2人をじっくりと吟味するように数秒眺める。
証明書の情報に齟齬がないか、『鑑定眼』で最終チェックしているのだ。
そして、受付係は「はい、問題ありません」と、にこやかに頷いて、
「それでは、おふたりは待機場にて今しばらくお待ちください。 後ほどお呼びにあがります」
そう言って、俺たちのこの後の動きを案内すると、受付係は「それで……」と言葉を挟み、首を傾げて、俺たちの背後を窺う。
「レミエル様は分かるのですが、そちらの方々は?」
エルフィアとラフィーを背後に眺めながら、受付係はそう訊くと、レイシアが「ああ」と、2人の方へ振り返り、
「こっちはラファエル。 ユウの天聖武具だ。 そして隣の彼女は、エルフィアと言って、ボクの友人なんだ。 今回は一緒に試験を観覧しようと思って、連れてきたんだよ」
「なるほど、そういうことでしたか。 それでは、ラファエル様は待機室へ、レミエル様とエルフィアさんは、観覧席へどうぞ」
レイシアがスラスラと説明すると、受付係は、特に何かを言ってくることもなく、すんなりと納得して、そう言って、手振りで案内する。
そして、俺とラフィー、レイシアは待機室へ、レミエルとエルフィアは観覧席の方へと、二手にわかれた。
スタジアムに備え付けられた待機室で、10数分ほど待っていると、先程の受付係の女性が呼びに来て、案内されるがまま、競技場の方へと移動した。
そこはまさに、スタジアムというのが相応しい作りで、円形の広場を取り囲むようにして、階段のように観覧席が、数段に分かれて設けられている。
その中にはレミエルとエルフィアの姿もあり、正面の観覧席に、見るからに『重鎮』という言葉が似合いそうな人影が5つ、一際立派な椅子に鎮座している。
その下方、俺たちの入ってきたゲートの対面のゲート前には、1人の男が悠然と立っている。
恐らく、彼が、今日の試験の対戦相手の講師だろう。
そうと思うと、背筋が無意識にくっと伸びる。
その時レイシアが「一応確認しておくね」と声をかけてくる。
「あそこに座っているのが、今回の試験の審査役であり、この学園の重役達だ。 そして、ボクたの対面ゲート前に立っているのが、今回の試験で戦う講師だよ」
レイシアはそう言って、小声で、あそこに座っている重役達と、対戦相手の講師の説明を簡単にしてくれた。
まず、観覧席に座っている5人。
左から、
ミシェド学園の事務部長、アルス・クランド。
講師長、カルス・バーナード。
学園統括理事長、ドルド・アル・ミシェド。
学園長、ケイル・アル・ミシェド。
学園長補佐、クレア・ミラード。
対戦相手は、副講師長、アルド・オルフィス。
そして、審査役の1人、アルス・クランドが、1つ咳払いをして立ち上がると、
「えー、それでは、レイシア・コルヌスの推薦者、ユウ・クラウスの特別推薦枠試験を開始しますが、初めに、試験内容を改めて提示させていただきます」
彼はそう言って、今朝、レイシアから伝えられた試験内容と同じ内容と、ルール説明を手に持ったカンペを見下ろしながら、さらりと読み終える。
「以上で試験内容の確認を終わりますが、何か質問はありますかな?」
10秒ほど待って、誰も、質問をしないのを見ると、アルス・クランドは「えー、では」と言葉を挟み、
「特に何もないようですので、試験を開始致します。 両者、指定の位置に構えてくだされ」
そう促すと、対面に立っていた、アルド・オルフィスは、さっと移動を始めた。
そして、レイシアは俺の背中にそっと手を当ると、
「それじゃあ、健闘を祈るよ」と言って、俺の背中を軽く押すと同時に、俺は1歩を踏み出し、彼女はさっと振り返り、入ってきた方へ戻っていく。
「ああ、任せとけ!」
俺は、後ろで逆方向に歩き出したレイシアに向かってそう言うと、ラフィーの手を取って、競技場の中央へ向かった────。
最後までご拝読頂きありがとうございました。
あれ……と思った方も多いと思いますが、入学試験編、やはりあと1話続きます。
なんで、こんなに長くなったんだろう……。
何はともあれ、本当の本当に、あと1話で終わります。
絶対です!
第9章最終話は、戦闘描写がメインになってきます。
なるべく早めに投稿したい思いますので、投稿日の前日に活動報告でお知らせ致します。
今後とも、本作をよろしくお願いします!




