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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第96話 入学試験⑧

更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。

ですが今回の話は、少しボリューミーになっているので、最後まで楽しんで読んでいただければ幸いです。

後書きに、活動報告で事前に知らせておきました、100部分突破記念のサプライズについての報告があります。

 


「ああ、お察しの通り。 レミエルはボクの所に宿っている、天使なんだ。 恥ずかしながら、ね」



  レイシアが大きく溜息を吐きながら、愚痴のようにそう零していた。



  するとレミエルは「素直やないなぁ」と、いたずらっぽい笑みをうかべて、レイシアの肩をぱんぱんと叩く。



「うちが選んだんやで、天使のうちが。 恥ずかしがらんと、もっと誇ったらええやんな。 な、ユウちゃんもそう思うやろ?」



  レミエルは、そう言ってこちらを見ると、俺に対して、目と言葉で共感を求めてくる。



「いや、俺に聞かれても……」


  俺は、急に自分に話を降ってくるなよ、と内心で文句を垂れると、肩を竦めながらそう呟いた。


  ただ、ひとつだけ客観的意見を言わせてもらうとすれば、彼女の言う『恥ずかしい』と、レイシアの言う『恥ずかしい』は、おそらく意味が一致していない。


 だが、レミエルはその事に気づいていないように見える。


 ここで俺が、本当のことを言ってもいいが、レイシアがその事実を伝えるのを我慢しているあたり、下手に言及すれば、間違いなく面倒なことになることは目に見えている。



 だから余計に、俺はここでしらばっくれることが最善手になってしまうのだ。



 そう考えると、レイシアの苦労がひしひしと伝わってきて、何だか彼女が不憫に思えた。



 俺はレイシアにひっつきかかるレミエルの方をちらりと眺めると、ラフィーの方に向き直り、ほっと頬を綻ばせる。



「俺のところに来てくれたのが、ラフィーで本当に良かったよ」



 そう呟いて、目の前にいる小さな天使の青髪をさらりと撫でた。

 すると、彼女は「んふ」と鼻を鳴らし、目を細めると。



「はい。 あたしもマスターのところに来れて、とても幸せですよ」



 ラフィーは俺の顔を見上げながら、愛らしい笑顔を満開に咲かせて、そう囁くように言った。


 狙って言った訳ではなかったが、あまりに嬉しい一言が返ってきて、思わず心臓が跳ね上がる。



 人と人を、というか、天使と天使を比べるのは、正直、とても褒められたことではないのだろう。

 それでも、俺は心の底から、自分のところにはラフィーが来てくれて本当に良かったと感じてしまう。



 サイオス邸で出会った、ラフィー以外の天使であるミカエル、それについ先程現れたレミエル。

 こんなことを言ってはあれな気がするが、どちらとも、なかなかにクセが強いような印象を受ける。



 ミカエルは一見普通そうに見えて、話してみると、会話が噛みあなかったり、間合いが掴めないような、そんなに変な感覚に陥ったりする時があった。


 レミエルは、まだ出会って間もないから、なんとも言い難いところはあるが、どう考えても、面倒くさい系の方だ。


 しかし、ラフィーに限っては、そんなことを一切感じたことはないし、周りからもそんなふうに思われることは絶対ないと言いきれる。


 お淑やかで、見た目よりは少々大人びている性格だが、無垢で幼いところもあって、とにかく可愛らしい。

 純粋で、優しくて、いつだって俺のために一生懸命になってくれる。

 他にもいい所をあげればキリがないが、何よりも、ただ居てくれるだけで心が癒される。



 これじゃあただの親バカ、いや、天使バカとでも言われそうだが、それでも、師匠であり母であったミルザという存在を失ってから、初めて外に出た時に出会ったのが、ラフィーでなければ、俺は今、こんな風にはなっていなかったと、本気で思う。



 そんなことを考ながら俺は頬を緩ませ、ラフィーの頭をもう2、3度撫でると、そっと手を離した。



 その時、こちらをじっと見つめるような視線を感じ、その方へ首を向ける。



「ん? どうした、エルフィア?」


 そう訊くと、彼女は、頬をうっすらと染め、あわあわとふためくと、はにかみながら首を横に振る。



「う、ううん。 な、なんでもないの。 気にしないで」



「そうか? 顔赤いけど、体調とか悪いなら言ってくれよ?」


 するとエルフィアは、こくりと頷いたが、俺は、一体なんだったのだろうと首を傾げる。


 時々、エルフィアは挙動がおかしくなったりすることがあるが、まだ外の世界に慣れていないせいなのか、それとも他に何か理由があったりするのだろうか。


 そんなふうに考えを巡らせていた時。



「───え!? まだ言ってへんかったん?」



 レミエルの驚いたような声が、突然に耳に入ってきて、自然と、俺達の意識その方向へと向かっていった。

 するとそこには、口に手を当てて目を丸くするレミエルと、何故か顔を赤らめ、照れくさそうに俯くレイシアの姿がある。


 俺はその光景を視界の中に捉えると、ひとつ小さな溜息を零した。


 正直なところ、いまここで二人の間に俺がなにか言い絡む必要性はないのだ。


 別にレミエルは悪い奴ではないのだろうし、話したくないとか、そういう気もさらさらない。

 ただ、あの関西人ばりのノリとテンション、話のペースには、とてもじゃないが、まともについていくのは大変だ、というか苦手だ。



 かといって、あんないかにも「話に入ってきて」みたいな眼差しをレミエルから向けられれば、さすがに無視する訳にもいくまい。

 レミエルには、ラフィーについて訊いておきたいこともあるし、何より、いま無視することにはなんのメリットもない。



 俺は、すぅっと肩の力を抜くと、2人の方に向かって「どうした?」と訊いた。


 すると、レミエルは、待ってましたと言わんばかりに、ぱっと顔をあげると「それがなぁ」と、どこか楽しそうな表情を浮かべて手招きするように手をひらひらとさせる。



「レイシアたんったらなぁ、ユウちゃんらに言いたいことあって、あとつけたりまでしたんに、まだそれ言えてへんのやってぇ」



 レミエルがそう言うと、レイシアの肩がびくんと震えて、何か嫌な予感でもしたかのように目を大きく見開き、表情が固まる。



「───え? お、おい、レミエル!?」


 そう言ってレイシアは、顔を引き攣らせながらレミエルの横顔に慌てたように視線を滑らせるが、レミエルは無反応のまま、どこか悪戯っぽい、含んだような微笑を浮かべている。



 ──うわ、なんか企んでそう。



 それにしても、さっき、耳を疑いたくなるくらいの衝撃発言が、しなっと飛び出した気もするが、ひとまずそれについては後ほどじっくりと追求させてもらうことにしよう。 絶対にだ。

 そう固く決めて、俺は1つ咳払いを挟むと、気を取り直して訊いた。



「でもそれって、推薦試験の話じゃないのか? それなら、さっき訊いたけど……?」



 すると、レミエルは、口元に手のひらの先をあてて「んふふ」と、楽しげに喉を鳴らして。



「それがちゃうんよぉ。 レイシアたんったらなぁ、ユウちゃん達のこと見かけた瞬間なぁ『友達になりたい!』て言い出して、ほんでなぁ────ごふっ」



 レミエルが続きを言いかけたところで、レイシアが顔を真っ赤に染めて、慌てて、レミエルの口を自分の両手で強引に塞いだ。


 まあ、結局レミエルは、ほとんど核心を喋り終えたあとだったために、その行為もあまり効果なしという結果に終わってしまったのだが。



 レイシアは、レミエルの口に蓋をし、背を向けたままの状態で、肩をぷるぷると震わせると。



「───ち、違うんだ」



 そう言った彼女の震えた声音からは、凄まじい羞恥と狼狽の感情が、たとえ表情を見なくても、ひしひしと伝わってくる。


 この場合、俺達は、どう反応してやればいいのだろうか。


「あのさ───」


 そんな風に当惑しながら、レイシアの背中に向かって声をかけようとした、その瞬間、レイシアが電光石火の勢いで、ばっとこちらへ振り返り、その赤面を露わにする。

 それと同時に、レミエルの口にされていた蓋は外れ、その下にあったのは、言うまでもなく、喜悦の表情だった。



「あの……違うんだよ!」



 その大きく、深紅の瞳は、若干うるうると湿っており、きゅっと噤まれた唇は、微かに揺れているのが分かった。

 そして俺と目が会うと、彼女は視線を下方へ逸らす。



「いやその、レミエルの言ったことは、確かに事実なのだが……」



「いや、どっちだよ?」



 俺は思わず、ツッコミを入れてしまった。

 しかしその時、レイシアの背後にちらりと見えたレミエルの表情は、先程の含んだような微笑とは、打って変わって、複雑そうな微笑みだった。


 慈愛のようなものも感じられるその眼差しは、まるで、母が、頑張る娘を、心配そうに見守るような、そんな感じだった。



 そして、俺のツッコミから数秒間の静寂のあと、レミエルはどこか寂しそうに目を伏せ、ふっと吐息を零すと、レイシアの震える肩に手を伸ばし、添えようとした、その時───。



「レミエルの言った通りだ……」



 レイシアが小声でそう呟いた。

 すると、レミエルは肩に向かわせていた手を、触れる直前にぴたっと止めて、目を丸くする。


 しかし、それもほんの一瞬で、レミエルは、ほっと安堵の吐息をつき、穏やかに微笑んだ。


 レイシアはその事に気づく気配もなく、すぅーっと、深く息を吸うと。



「つ、つまり、ボ、ボクと、とと…………」



 そこで、ぱっと顔をあげ、俺の、俺たちの瞳を覗き込む。

 その眼差しは、まっすぐに俺たちのことを捉えており、どこまでも一生懸命で、真剣そのものだ。


 そして、最後の言葉を紡ぐ。

 とても力強く、噛み締めるように。



「───友達になってくれないか!」



 そう言い放って見せたレイシアは、目をぎゅっと瞑り、拳を固く握りしめていた。



 たった15分間程度のやり取り。

『友達になろう』というたったの一言。

 そう、たったそれだけの事でも、彼女は必死だった。 一生懸命だった。


 それが、馬鹿馬鹿しい時間であっただろうか。

 つまらない茶番であっただろうか。



 ───そんなわけがない。

 


 確かに俺達は、レイシアについて、ほとんど何も知らない。

 彼女にどんな過去があり、今、何を抱えているのか、現時点では、到底、理解してやることは出来ない。


 それでも、この15分間が、たった一言を言うだけの一連のやり取りが、レイシア・コルヌスという1人の少女にとって、一大事であり、相当の勇気が必要だったということくらい、何も知らない俺達にだって、はっきりと分かる。


 だから俺が、かけてやる言葉は、きっとひとつだ。



「その申し出は、受けられない」



 それを言った瞬間、レイシアは、固く閉じていた瞼を大きく上げ、絶望したような、悲愴な表情を浮かべた。

 そして、それを隠すように、顔を伏せる。



 こうなってしまうことは分かっていた。

 きっと彼女は自分が今、なんと言えばいいのか、どんな顔をすればいいのか、分からないのだろう。


 一瞬たりとも彼女に、そんな悲痛な思いを抱かせてしまうのは、本当に俺の至らなさが原因だと思う。


 もっといいやり方があったのかもしれない。

 それでもこれが、思いつく限り、俺の為にも、彼女の為にも、俺に出来る最大限なのだ。


 だから俺は続ける。

 今、最も伝えたいことを伝えるために。



「だってさ───俺達はもう、友達だろ?」



 すると、レイシアは伏せていた顔をはっとあげる。

 その表情は、何が起きたのか、理解できないといったようなものだった。



 目は大きく見開かれて、その空いた口からは「───え?」という霞んだ声が、吐息とともに漏れでる。



 そして徐々に、言葉の意味を理解していくと、レイシアは当惑の色が混じる声で言った。



「だ、だが! さっき、申し出は受けられないって……」



「だからさ。 もう友達になってるから、その友達相手に『友達になってくれないか』は通らないに決まってるだろ?」



「え? え??」



 レイシアは困惑し、目はぱちぱちとさせる。

 今の状況を上手く理解できず、思考が混濁する。

 呆気に取られたように空いた口は、まだ塞がっていない。



 しかし、それもほんの数秒のことで、彼女は戸惑いながらも、どうやら状況の整理は出来ているようで、恐る恐る、訊いてくる。



「本当に、そう、なのかい?」



「本当にそうなんだよ」



 まあ、これで違うなんて言われたら、本気で顔面から火が出そうなものだが。

 それくらい、俺の吐いた言葉は、かなりの恥ずかしさを伴うものだった。



 しかし、その心配は杞憂に終わり、レイシアはまだ少し、戸惑いつつもら顔色には、うっすらと安堵ようなものが見え始め、強ばっていた肩の力は抜けていく。



「ボクと、君が、本当に、もう、友達……」



「君が、じゃなくて、君たちが、だけどな。 2人も、友達になってる。 だよな?」



 レイシアがぼそりと言ったのに対して、俺はそう返し、背後にいるエルフィアとラフィーの方へと、顔を振り向かせ、そう訊ねた。


 すると、2人とも微笑みながら頷く。



 それを見ると、レイシアは「そう、か……」と、強く噛み締めるように呟くと。



「不束ものではあるが、これからよろしくな。 ユウ、エルフィア、ラファエル!」



 レイシアの顔には、最初にあった時のような余裕が戻り、俺達のことを順に目で追っていくと、満面の笑みで、力強くそう言った。



 もちろん初めは抵抗があった。

 こっちの世界に来て、早々にクラスメイトに見捨てられ、親友だと思っていた男には騙されていて裏切られた。


 それでもミルザという恩人に出会い、エルフの国では、友人と呼べる存在も出来た。


 同じ人間で、友人と呼べる存在は、この世界に来て、1度たりともいたことは無い。

 そんな中で、レイシアという人間と友人になれるとは、正直思ってもいなかった。



 だが、レイシアは俺を理解してくれた。 認めてくれた。 レイシアはあいつらとは違った。

 俺なんかと友達になりたいと言ってくれた。

 どこまでも真摯に、一生懸命に。


 それを見たから、俺は、信じようと思えた。

 彼女なら、きっと大丈夫だと確信したのだ。



 だったら、何故、あんな回りくどいやり方になってしまったのか。


 ───それは、友人関係の中に、上下関係は含まれない、含まれてはならないからだ。


 あのまま、レイシアの申し出を受け入れていれば、確かに友人関係は築けたのかもしれない。

 だがそれは、あくまで見せかけの友人関係になってしまう。



 レイシアが申請し、俺達が了承する。

 そうやってできた関係の中には、どうしても、上と下が存在してしまう。


 たとえ、当人達がその事を全く意識していなかったとしても、気づかない所で距離というものができてしまう。


 だが、別に多少その距離があっても、良好な友人関係は築けるだろう。



 だがそれでも、俺は、どうしても対等な関係をつくりたかった。


 上とか下とか、そんなものが介入する余地のない『本物の友人関係』が欲しかった。


 レイシアにも、俺達が絶対的に対等であると、そう確信を得て、俺たちと友達になって欲しかった。



 ()()()のような思いは、もう二度としたくはないから────。



 いろいろと、とつおいつしたものの、こうして、俺達とレイシアは、お互いに『友人』になったのだ。








最後までご拝読いただきありがとうございました。

今回の話は、自分の中では結構長くなったと思っているのですが、みなさん的にはどうなんでしょう?


まあそれはおいといて、サプライズについての報告です。

今回、100部分突破記念として用意させていただいたサプライズは、明日、8月25日の18時過ぎに投稿させていただきます。

サプライズについてこれより活動報告で詳細を書かせていただきますので、どうかご覧になってください。


8月27日追記

どうやら、わたしのミスで作者リンクが貼られておらず、活動報告が見に行きにくいということがあったみたいです。 本当に申し訳ありませんでした。

現在はその問題も解決しているので、どうぞ気軽に作者リンクから活動報告を見にいってもらえれば幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう友達だろ?って言ってるが 何処にそんな要素有ったのか謎です。 同じ天使付きだとしても友達要素全く無かった様に感じるました。
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