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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第94話 入学試験⑥

 



「───は?」


 気づけば思わず、そんな声が俺の口からは漏れ出ていた。

 口がぽかんと開き、思考が絡まるような感覚を覚える。


 そんな態度をとる俺を見て、レイシアは肩を竦めると、少しばかり不安そうな面持ちで言った。


「も、もしかして、ボクでは不満、だろうか? たしかに、ボクは友達すら一人もいないような寂しい女だが、これでもこの学園のトップをはっているんだ。 そのボクが、君を、推薦したいと言ったのだから、喜んで受け入れてくるだろうと、期待していたんだけどなぁ……」



 それを聞いた時、俺の頭の中はさらにこんがらがる。


 ちょっとエグい事実が聞こえた気もしたが、ひとまず今は置いておくことにした。



「どうしたんだい? ボクの言ってること、やっぱりおかしいのかな?」



「いや、おかしくないから余計に混乱してるというか」



「ねぇ、その言い方だと、ボクの言っていることは全部おかしい、みたいに聞こえるんだけど?」



「いや、今のはそういう意味じゃなくて……」



 まあ、レイシアの言っていることは大概おかしいけど、というのは、さすがに面倒くさくなりそうなので、口に出さず、喉元でぐっと堪えた。



「意味じゃなくて?」



 レイシアは復唱するように、聞き返してくる。

 俺は少しだけ息を吸い込んで、その真意を伝えた。



「……あんたがなんで、何も知らない俺の事を推薦してくれるのかが、分からないんだよ」


 レイシアの話はひとまず理解できた。

 そう、理解出来たからこそ、これは、率直に浮かんだ疑問なのだ。


 そもそも、俺は一次試験に不合格している。

 この時点で、腹立たしくも、このミシェド学園は俺を見限ったということになる。

 1度は俺のことを落とした学園側の人間、それも生徒の中ではトップのやつが、突然、自分がお前を推薦して入学させてやる、なんて言ってきても、すんなりと受け入れられるわけがない。


 確かに、俺は一次試験を突破できなかった時のために、特別推薦枠入試という方法は考えてはいたから、もしこれで入学できるのならば願ったり叶ったりだ。


 しかし、俺はまだ一切行動を起こしてはいない。

 それなのに、レイシアは俺に声をかけてきた。

 自分が推薦してやる、と。


 何も見ていない、何も知らない彼女が、どうしてそんなことを言ってきたのか、それがまるで理解できなかった。


 仮に腹に一物抱えていたとしたならば、まだ納得はできたが、話してみた感じ、そんな気配はこれっぽちもなかったように思えた。

 だから、余計に混乱する。


 そんな思いから零した一言を聞くと、レイシアは「なるほどね」と呟いた。


 そして、微笑を浮かべながら、俺の目を、その赤い瞳がじろりと覗き込むと、



「それはね、ボクがボク自身を信じた結果なんだよ」


 そう言いながら、一歩、身を乗り出して、俺の方へ近づいてきた。

 たった一歩なのに、とても距離が詰まったように感じる。



「……どういう意味だよ、それ?」


 僅かの沈黙の末に、俺は若干気後れしつつ聞き返した。


 ただ単純に、レイシアが一歩前に出てきて近づいできたことに驚いただけなのかもしれない。


 しかし、もしかしたら、俺は今、彼女に対して期待を抱いているのかもしれない。

 いや、今からではなくて、きっとレイシアが声をかけてきた時からだろう。

 そして、俺はそれを、信じられないと思ってしまっている。


 だから訊きたい。

 この期待が本物になることを信じてみたいから。


 俺の反問に対して、レイシアはすっ、と元の位置に戻って、俺の方に指を指してきた。



「ボクがボクの目で見た君を、信じたってことだよ」



「あんたから見た、俺……」



「そうだ。 数時間ほど前に、偶然、この場所で君を見かけてね。 一目見ただけでボクは分かったよ」


 一瞬、俺の体が、ピクリと震えた気がした。



「───君が、只者ではないということをね」



「……」


 その瞬間、絡まっていた思考は、しゅるりと紐解かれ、奥の方でつっかえていた何かは、綺麗に流れ落ちるような感覚を味わった。


 そしてもう一度、レイシアの瞳の中に、一切の淀みがないのを見て、俺は、自分の期待が本当に現実になったのだと理解した。


 この学園にも、俺の事を認めてくれる人がいたということを。



「───はは。 あははは」


 そう考えた時、自然と口元が綻んで、何故か小さく笑みが溢れてきた。


 それを見たレイシアは、不思議そうに首を傾げて、口をポカンと空けていた。

 エルフィアとラフィーも彼女と同じような面持ちでこちらを見ている。



「えっと、どうしたんだい? 何かボク、面白いこと言ったかな?」



「いや、ごめんごめん。 なんでもない。 ただ、何だか、自分のことが馬鹿らしくなってきてな」


 ほんとにそうだ。

 自分で自分が馬鹿らしい。

 変に警戒して、いちいち、その話には俺を陥れるための何かがあるのではないかと怯えて、自分に正直になれない。


 多分最初から分かっていた。

 レイシアの話に裏がないなんてことくらい。

 けれど、俺はそれを素直に受け入れられなかった。

 それはただの逃げだ。

 もし裏切られたらと、そんなことばかり考えて、臆病になっていた。


 こんな臆病な男が、ミルザの願いを叶えることなんて出来るはずがないのに。


 それでも、俺はミルザの願いを叶えなければならない。


 サイオスは言ってくれた。 たとえ立ち止まったとしても、また歩き出せばいい話だ、と。


 だから俺は今、臆病な自分を、馬鹿な自分を、笑い飛してやったんだ。



「本当に俺は馬鹿だったよ……。 こんな馬鹿な男だけど、まだ、俺の事を推薦してくれる気はあるか?」



 俺は、そう呟くように言って、レイシアに右手を差し出した。

 もしここで、レイシアが俺の事を見放したとしても、何も文句は言えない。


 けれど、彼女は、満面の笑みを浮かべて、その手を握ってくれた。



「もちろんだとも。 ただし、ボクに恥をかかせないように頑張ってくれよ?」



 ほっと安堵の気持ちが募る。

 けれど、安心する前に、俺は力強く、返事をしてやった。



「まかせとけ!」



 こうして俺は、ミシェド学園の上位保持者(ナンバーズ)の1人、レイシア・コルヌスの推薦のもと、特別推薦枠入試を受験することが決まった。




更新速度が遅くて本当に申し訳ありません。

読者様からも、更新速度をあげて欲しいと言われておりますので、なんとか週に2話か3話くらいは更新できるように努力する所存ですので、これからも当小説を読んでいただけると幸いです。

それでは次話もお楽しみに。

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