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クラス転生譚 〜最弱無職の成り上がり〜  作者: 美夜尾maru
第9章 ~精霊契約と入学試験~
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第92話 入学試験④

 




「へぇー、君が噂の無職なんだね」



 その声が聞こえてきた瞬間、体がビクリと振動して、俺はゆっくりと、声の方向に振り返った。


 そこに立っていたのは、制服らしき黒色の装束を身に纏う1人の少女だ。


 シルバーブルーの長い髪を頭の後ろでひとつに纏めたポニーテールが、夕陽に照らされて、赤っぽく照っている。

 スッキリとした目鼻立ちに、若干ツリ目気味の大きな赤い瞳が印象的な、綺麗な少女だった。


 だが、いくらそんな美貌を持った少女と言えども、音もなく突然背後に現れたのだから、警戒は増すばかりだ。


 ゴクリと息を呑み、二息文ほど間を開けると、俺は恐る恐る聞き返した。



「───なにか、用か?」



 すると、少女はどこか残念そうに肩を竦める。



「そんなに警戒されると、ボクも少しへこんじゃうんだけど……」



「無理言うな。 いきなり背後に湧いて出た、知らないやつに『無職』なんて声かけられて、警戒しないわけないだろ」


『ボク』という一人称に少しだけ慣れない感覚を覚えつつ、そう言い返してやると、少女は少し困ったような表情を浮かべて、小さく両手をはためかせた。



「あ、いや、別にそういうつもりで言ったんじゃないんだ。 驚かせるつもりもなかったし、気分を害してしまったなら謝る! だから逃げないでくれ!」



 少女は慌てたようにそう言うと、ペコッと頭をさげてくる。



「え、いや……え?」


 いきなり謝ってきた少女に、俺は困惑した。


 何故こいつはこんなにも必死なのだろうか。

 特に悪いことをした訳でもないのに。


 それよりも逃げないでって、一体どういうことだ?


 そんな風に頭を悩ませていると、後ろからエルフィアが俺の肩をちょんちょんと叩き、顔を近づけて、小声で言ってきた。


「ねえ、悪い人そうには見えないし、別にそんなに警戒しなくてもいいんじゃない?」


「んー、まあ、エルフィアがそう言うなら……」

 俺はそう呟くと、緊張感を解き、頭を下げていた少女に向き直る。



「なあ、頭上げてくれよ。 確かに少し驚いたが、ただ、それだけだ。 別にそこまで謝ることじゃないだろ?」



 さすがにいたたまれなくなり、焦った感じで頭を上げるように促すと、少女はすっと頭を上げて、胸に手を置くと、安堵の溜息を吐いた。

 そしてうっすらと微笑を浮かべる。



「良かった。 ボクって少し影が薄いみたいだから、話しかけた相手がおどろいてるのか分からないけど、何故かいつも逃げられるんだよね」



「「「────」」」


 少女がケロリと何の気なしに放ったその言葉を聞いた瞬間、俺は呆然となった。

 後ろにいた2人も、同じように口をポカンと開けている。


 数秒間考えた結果、俺の頭にはとある仮説が浮かび上がった。



『なあラフィー、エルフィア、さっきのは多分あれだ。 聞き間違いってやつだと俺は思うんだよ』


『な、なるほど、その可能性は考えてませんでした! 流石はマスターです!』


『うん、それよ! 絶対そう! そうに違いないわ!』


『よ、よし、もう1回訊いてみよう。 きっと別の応えが返ってくるはずだ。 今度は聞き逃さないようにしっかり聞いとけよ』


『はい!』

『分かったわ』



『念話』を使い、ラフィー、エルフィアとそんな算段を取り付けると、俺は大きく息を吸い込み、呆然とする俺たちを不思議そうに眺めていた、当の本人に聞き返した。



「すまん、今なんて言った? よく聞こえなかったんだ」


 すると彼女は、一瞬はてな、と言ったように首を傾げると。



「……? いや、良かったなぁ、と安心して胸をなでおろしていたところだよ。 ボクは少しばかり影が薄い所があるみたいで────」



「いや、良くないだろ!」


 その瞬間、俺たちの現実逃避は無残に散った。


 ラフィーとエルフィアは「はぁ」と頭を抱えて、溜息をつき、いきなり盛大なツッコミを入れられた当の本人は戸惑いを隠せずにいる。


 想像してみると、なかなかに惨いことではあるが、恐らく、自分が話しかける相手からどういう風に思われているかが分かっていない可能性が非常に高い。


 だから俺は、意を決して、それを言い放ってみせた。

 初対面の人間にこんなことを言うのは、さすがにお節介というものかもしれないが。



「多分気づいてないっぽいから教えとくけどさ……、あんたのそれは、もう、影が薄いみたいとか、そう言う次元の話じゃないんだ」



「??」

 彼女はさらに困惑の表情を濃くする。



「いいか? これはあんたのためを思って言うことなんだが……あんたは、その、影が薄いんじゃなくてな……気配が全くしないんだよ。 あと足音もしない。 かく言う俺達も、あんたが声をかけてくるまで、そこにいたってことに全く気づかなかったんだ」



「────」



 その瞬間、彼女の表情は凍りついた。

 その、信じられないような事実を知ってしまったかのような面持ちを見る限り、ようやく現実を捉えきれたようだ。


「え……っと、それはつまり、ボクは誰かに話しかけるまで、相手に、全く認識すらしてもらえていない、ということかい?」



「……そういうことになる」


 ラフィーとエルフィアは、もう見ていられないと言った感じに、顔をそっと俯かせた。


 一方目の前で唖然となる少女は、俺の肩をがっしりと掴み、前のめりになる。


 ───顔が近い。



「そ、そんな、馬鹿な……。 じゃ、じゃああれかい。 ボクが話しかけると、みんなが逃げるのは───」



「残念だけど、ただ単純に不気味がられた、という説が濃厚だな」


 話しかけられる方からしてみれば、彼女は足音も気配もなく、忽然と現れて話しかけてくるのだ。

 恐怖以外の何物でもない。

 普通に考えれば、ホラーだぞ、それは。



「そんな……、じゃ、じゃあなんで君は逃げなかったんだい? 君だってその、ボクのこと、不気味だって思ったんじゃないのかい?」



「確かにあれは不気味だったな」


 素直にそう応えてやると、彼女はあからさまに肩を竦めて落ち込んだ。


 いや、自分から聞いておいて、それはやめてくれよ、と内心で文句を垂れた。

 ただ、さすがにド直球すぎた自覚はあったため、反省の意を込めて、フォローの言葉をかける。



「まあ、待てって。 確かに不気味だったとは言ったが、それとこれとは話が別だ。 俺は逃げる必要はないと判断したから、今こうして会話が成り立ってんだろ?」


 彼女の肩を掴み返し、自分の体から引き離すようにして、そう言うと、彼女の固まっていた表情が少しずつ溶けていく。



「そ、それならそうと、早く言ってくれよ。 ボクはこれでも一介の乙女なんだ。 いくら初めて会ったとはいえ、男性にそんな風に言われては、少なからずショックなんだよ?」


 プクッと頬を膨らませて、不満そうに俺に訴えかけてきた。


「え、ここって俺が責められるところか?」


 確かに、俺の言動を振り返って見れば、初対面の女性に対する態度としては、些か失礼が過ぎてしまったように思えてきて、困窮しながら、そう言った。


 すると彼女はくすっ、と微笑を浮かべて。


「冗談だ」


「んな!?」

「さっきのお返しだ」


 なんだよそれ、と文句を付けたい気持ちはやまやまだったのだが、さすがにこれ以上は話が進まないと判断し、俺はぐっと堪え、大きな溜息に変換した。



「はぁ、まあいいや。 それで、漸くって感じなんだが、結局あんたは誰なんだ?」


 俺は、有耶無耶になりかけていた本題を、本当に漸くといったところできりだした。


 すると彼女は「おっと、そう言えば」と、何かを思い出したような表情を浮かべる。


「ボクとしたことが、自己紹介を忘れていたよ。 それじゃぁ改めて……。 ボクの名前は、レイシア・コルヌス。 一応このミシェド学園で首席を務めている」


 俺は、それを聞いた途端唖然とした。





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