不枯の花
遅れて本当に申し訳ございませんでした。
ミアの初戦闘です。ぜひ読んでいただければ幸いです。
喰らう者だ━━。
ここで逃げても少女が犠牲になってしまう。
もはや選択肢は一つしかなく、戦うことを選ぶしかなかった。付近にあった大きな荷物でドアを外から塞いで、護身用に持っていた剣を抜き出し不格好に構える。想像を超える量の汗が頬を伝うのを感じる。
「怖いけど、やるしかないよね・・・守らなきゃ・・・助けなきゃ」
私は自分を落ち着かせるためにそう言い聞かせた。喰らう者は不気味な動きで、身体を捻りながらこちらに向かってくる。
「これで!」
こちらに向かってくるタイミングを見計らい縦に剣を振り下ろす。
「は、外した!?」
違う。避けられたのだ。気がつけば攻撃を避けた喰らう者は私の背後に回っていた。そう簡単にやられまいと、私はすぐさま身体の方向を変えて距離を取る。その時、私は喰らう者の背後に佇むもう一体の喰らうものの存在に気付いた。
「に、二体も!?ど、どうしよう」
喰らう者は、私を惑わすように交互にポジションを変えながら近づいてきた。そして同時に飛びかかり、左右から私を襲う。
「も、もうこれしか!」
私は左腕を曲げて喰らう者の鋭利な手を受け止めながら、剣を持つ右腕を大きく右に振って片方の喰らう者の胴体を引き裂いた。
「ぐっ!・・・」
一体の喰らう者はそのまま消滅させることに成功したが、左腕には小さな穴が空いてしまっていた。赤き鮮血が滴り落ちる。
喰らう者は攻撃を止められたことに動揺したのか、私から距離を取りしばらくこちらの様子を伺っている。私は喰らう者に向けて真っ直ぐに剣を突き出した。それと同時に、喰らう者もこちらに向かって突っ込んでくる。直進的な動きで真っ直ぐ突っ込んできたので剣を振り下ろすタイミングは容易だった。
「うわああああああああ!」
私は剣を振り下ろした。瞑った目を開くと、剣からは喰らう者の気のような黒い影が蒸気のように漂っていた。
「た、倒したんだ。や、やった・・・」
私は溜めた息を一気に吐き出し、緊張していた身体から一気に不安が解放された。
「あ、あの子は!?」
私は思い出したように急いで少女の家の扉を開けた。
「大事なものは見つかった?」
少女はまだ探し物をしているようだった。
「そんなに大事なものなの?」
「うん。」
少女は一切こちらを振り返らず、何度かの質問にも全て頷くだけだった。
「あっ、あった。」
「見つけた?じゃあ、早く行こ!」
立ち上がって振り向いた少女の手を見ると、既に枯れてしまっている花を強く握りしめていた。
「うっ、血・・・」
私の怪我をした左腕を見て少し怯えている様子を見せたが私は大丈夫だとなんとか安心させ、図書館へ共に戻った。
「ああ!ありがとうございます!お陰で助かりました!」
「いえいえ。娘さんが無事で何よりです。」
父親が必死で頭を何度も下げている。娘は父親の足にしがみつきながらこちらを見ていた。
「セティ!お前は・・・なんて危ないことをするんだ!危険だとあれほど!」
父親はそう怒鳴ると少女セティは背中に隠していた枯れた花を父親に見せた。
「これがあれば、ママは、帰ってくるよ。」
セティは力がない小さな声で言った。
「なっ・・・お前、そんなことで・・・」
父親は少し動揺を見せたがその後すぐに納得したように頷いた後、セティを強く抱き寄せた。
「そっか。そうだよな。一人で留守番してた時も、ママが帰ってくるまでの間、その花とずっと一緒だったもんな。」
父親の声は震えていた。
「いつも、帰ってきてたから、ママ、また帰ってくる。」
「あぁ。きっと帰ってくる。」
父親は堪えていた涙を耐えることが出来なかったようだ。このやり取りから、喰らう者の襲撃で母親の行方がわからなくなったことは察しがつく。それでも、希望を持ち、決して捨ててはいけないということを一人の少女から学ぶことが出来た。花は枯れていても、少女の強い意思は永遠に枯れることはないだろう━━。