終焉のプレリュード
この前投稿したのに投稿が反映されず、あれ、丘People!?すいません。ショックでしばらく投稿ませんでした。とはいえここからミアの物語は始まると言っても過言ではありません。ぜひ、読んでみてくださいね!
「うーん、この辺には無いみたい。」
私とユーリは、ノースセルシオンからほんの少し離れた草原で、ある薬草を探していた。ついに私にとってギルドでの初仕事をこなしている最中なのである。
「退屈だなぁ。もっとデカイ魔物とかと戦いたいぜ。」
「わざわざ私の受けた依頼についてこなくてもよかったのに。」
私は広大な草原を見渡しながら言う。
「比較的簡単な依頼でも、ここは自然の真ん中。不測の事態が数多く潜んでいる。今こうやって薬草探してる最中にでも、ドラゴンが襲ってきたりするかもしれないんだぞ。」
「心配してくれてるの?」
私はユーリの顔を覗き込む。
「ば、馬鹿言え! 早いとこランク上げねぇと、満足と言える額は稼げないから。」
ギルドにはランクという概念が存在し、ランクが高ければ高いほど危険な依頼や難しい依頼を受注出来るようになる。危険であればあるほど、報酬も豪華なものになっていくシステムだ。
「あっ! これじゃない?」
私は依頼にあった薬草を見つけ出した。草原に一つだけ寂しく生えている木の下に、凛々しく咲いている。
「おっ! ナイスじゃん! さっさと採取してギルドに報告しちゃおうぜ!」
「うん!」
私は薬草を取り、帰ろうと立ち上がる。その時だった。空は黒い雲に覆われ、黒煙のような霧が周りに立ち込める。
「なんか、急に天気が悪くなってきたね。」
私がそう言った瞬間、ユーリは深刻な表情を浮かべ、唇がわなわなと震え始める。
「ま、まさか・・・これは!」
絶望的な声色で後ずさりするユーリを見た私はただならぬ不安と恐怖を感じた。
「ど、どうしたの!?」
「いいから逃げるぞ! はやく!」
「きゃっ!?━━」
ユーリから腕を強く握られ、黒霧の立ち込めた場所から逃げるように走らされる。
走っている中、背後に一瞬見えたのは黒くて細い、顔のない人型の生き物だった。その細い身体は、しなるように、そして踊るかのようにこちらに向かって進んでくる。重力を感じさせない動き。それが、何体もの群れを成して地を滑っている。
「なんで、こいつがいるんだよ!」
ユーリは後方を確認した後、さらに速度を上げて走る。その努力虚しく、黒霧が私達の前へと立ちはだかることになってしまった。
「戦うしか、ないのか・・・。ミア、下がってろ!」
ユーリはそう言うと、腰にかけた鞘から短剣を出す。私は恐怖で護身用に持っていた剣さえも持つことは出来ず、立ち尽すばかりだった。
気がつけば、黒い異形の群れが私達を取り囲んでいた。
次の瞬間、異形達は踊るように地を滑っていた身体を捻り、私達に向かって突進してきた。
「この数は流石に・・・クッソぉぉぉおぉぉ!」
ユーリは剣を大きく振りかざす。私の目から光は消えていた。見えていたのは絶望だけ。私は、新しい世界を知るために田舎から飛び出したのに、こんな場所で、こんな訳の分からないものが原因で死んでしまうのか━━━━。
「待て。」
その声が聞こえた瞬間に、異形達の動きがピタッと止まった。その声はユーリの声ではない。私でもない。
顔を上げて声の元を視線で辿る。
「久しぶりだな。ミアロンド━━。」
フードの上からでもわかる凄まじい程の冷酷な表情と、恐怖を感じる程の低い囁き声。この声には聞き覚えがある。
「こんなところで、会えるとはな。その男に用はない。眠らせておけ。」
その声の主がそう言うと異形達はユーリの背後に回り込み黒い触手のようなもので巻きつく。触手を離すと同時に、ユーリの身体は魂を抜かれたかのように倒れてしまう。
「ユーリに何をしたの!?」
「眠らせただけさ。お前も、大きくなったな。
覚えているか?お前がまだ小さな世界で生きていた頃の、あの日を。」
男はそういうと、深く被っていた黒いフードをまくり上げて顔を出す。
「あっ、貴方は...。」
世界を知る者━━。私に世界を教えてくれた。そして、進むべき道を示してくれた。そんな人が何故こんな場所にいるのか。考えることが多すぎてひどく混乱した。
「な、何故こんなことをするんですか!」
「救済だ。この世界は荒廃し、分裂している。このような腐った世界に、革命を起こす為だ。」
「言ってる意味がわからない! 一体何が目的で!?」
「そのままの意味だ。そして、一つだけ言う事がある。慈悲の心を忘れるな。常に正義と共にあれ。そして、強くなれ。決して悪を許すでないぞ。」
そう言うと男は闇の中へと消えていく。異形達もまた、その闇の中へと続いていった。
「まっ、待ってくだ・・・!」
闇は徐々に小さくなり、終いには完全に消え去ってしまった。
意味がわからなくて混乱する内に倒れているユーリが視界に入る。その時、はっとして即座に声をかける。
「大丈夫!ユーリ!目を覚まして!」
呼んでも呼んでも返事は無かった。このままでは埒が明かないので、ノースセルシオンまで運ぶことにした。ユーリの無事をただただ祈りながら、肩を組んでひたすらに走った。
「死なないで━━。」