光と闇
「こいつ!攻撃が全然通用しねぇぞ?!」
ユーリは後ろ足に攻撃を集中させるも、全く効いている気配がない。全てを嘲笑うかの如く傷が修復される。
「全ての手段が通じない。足を狙い転倒を狙うのも不可能、目を潰してもすぐに再生する。他に何か手立ては・・・」
烈火のごとき攻撃を魅せるアリシアだが、それすらも通用していない。まるで遊ばれているような、そんな立ち振る舞いを怪物は見せていた。
「ここは一旦退きますか!?こんなのどうしろって!」
ヴァルフリートは攻撃を続けながら叫んだ。
「こいつを外に出せば終わりだ!何でもいい!奴を倒す方法を探るしかない!」
皆で試行錯誤を重ねた攻撃を繰り返すも全く効果がなく、その先に見えたのは絶望だけだった。私はエルフの妖力を用い、空を飛び怪物の気を引いた。攻撃はしなくていい。避けることに全神経を使え。それが私に与えられた役目だった。素早く動けば当たらない。敵の動きがスローに見える。避けることは容易かった。
「ゴオオォォォォォォォォ!!!」
怪物は咆哮をあげ、暴れだした。壁は抉られ地面は震えた。ユーリは怪物と接触し、吹き飛ばされたようだが、何とか軽傷で済んだようだ。
「暴れているうちは無理だ!考えろ!なにか分かったら伝達だ!」
アリシアはそう叫び、あらゆる部位を継続的に攻撃し続けた。
あれからかなり時間が経つ。しかし、未だに打開策は得られない。そんな時、怪物は目の色を変えて、さらなるスピードで暴れだした。暴れるだけではない。今度は明らかに攻撃を行ってきた。
翼を器用に使い、私たちを薙ぎ払うように振り回してくる。その攻撃がユーリに直撃し、高く吹き飛ばされ、倒れているのが見えた。
「ユーリ!!!」
「おい!よそ見をするな集中しろ!」
アリシアの声が聞こえ、前を向いた。目の前には怪物の翼がこちらに近づいて来るのが見える。エルフの妖力を持ってしても不意打ちには反応できなかった。気がつけば私の視線は低いところにあった。意識が朦朧としつつも、なんとか立ち上がる。意識を失っていたのか?ヴァルフリートが倒れているのが見える。アリシアもかなり疲弊しているようで、かなり動きが鈍い。
「こ、こんなのって・・・」
私は膝を落とした。なんで・・・なんで・・・。頭に浮かぶのはそれだけ。平静を失って、自分が何を感じて、何を思っているかわからない。
そんな時だった。怪物の身体が光ったと思えば大爆発を起こした。
「な、何・・・?」
黒い煙が辺りを覆い隠し、すぐに煙が晴れた。
怪物は唸りをあげ、身体に欠損が見られた。
「何をへばっているのだ?」
そこにはヤハウェの姿があった。私たちにトドメを刺しに来たとでもいうのだろうか。
「貴様!?なんのつもりだ!」
アリシアは驚いた様子でヤハウェに問いかけた。
「苦戦してるお前たちを助けに来てやったぞ?ほら、感謝はないのか?」
「こんな状況だ。理由は後で聞かせてもらおう。だがこいつを倒す手段は無いように思うが」
「まぁ待て。スキャン実行」
ヤハウェはそう言うと、何やら怪物をじっと見つめている。
「私がこうやってる間、怪物の気を引け。メーセリア、お前もまだ立てるだろう?」
「う・・・うん・・・」
状況はよく分からないがとにかくやるしかない。全てのエネルギーを、振り絞る。怪物は再び暴れ出す。私たちは攻撃せずに避けることだけに集中した。その時、ヤハウェの口が開いた。
「スキャン完了。奴の弱点は体の中心。それもかなり小さい。剣など全く歯が立たないわけだ。メーセリア、こっちに来い」
言われるがままに私はヤハウェの隣に立った。
「奴を倒すには身体の中心にあるコアを破壊する必要がある。そのためにやるべきことは、その中心を跡形もなく消せばいい。」
「そんなのどうやって」
「単純だ。右手を前に出せ」
ヤハウェの指示通りに動いた。この状況を打開するには、もう従うしかないと感じた。ヤハウェの思惑がどうであれ、仕方ないことだった。
「お前の力全てを右手に宿せ。全神経を右手に集中させる。そんなイメージだ。まぁ、なんとかなるだろう。光と闇のエネルギーを奴の体内で反発させ、その反動の爆発を利用して消し飛ばす。簡単だ」
ヤハウェは冷酷な笑みを浮かべながら、私の右手に添うように左手を前に出した。その左手には黒い霧が纏だした。その瞬間、私の右手にも白い光の粒達が集まりだした。
「お前のエネルギーが最高潮に達した瞬間、その時がきたらそれを維持しろ」
「うん、今が・・・その状態」
不思議だった。私の腕が光っていて、まるで魔法使いのように、かなり独特な感覚が右手を包んでいる。
「あとは位置の調整。もう少し右だ」
「こ、こう?」
私は右手の位置を多少右にずらした。
「そうだ。そして右手に溜めたエネルギーを前に押し込むように、その瞬間最大の力を右手に込めろ。これを外せばお前たちは終わりだ。私は知らんが・・・」
「じゃあ、撃つよ・・・!」
「お前に撃つタイミングは任せる。私はそれに合わせるだけだ」
私の右手と、ヤハウェの左手を怪物の中心部位に微調整し、私は叫んだ。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
その時、2人の手の平からビーム状のエネルギーが物凄いスピードで放出された。白と黒の2つのエネルギーが混じり合い、ダンスをしているかのように調和している。それが怪物の胴体に直撃。
エネルギーが怪物の中へと吸い込まれしばらくした後に、怪物の唸りと共に大爆発を起こす。黒い煙が消えた時には、怪物は見るも無惨な姿で上半身と下半身の一部が床に散乱しているだけだった。
「終わったのか・・・?」
爆風に巻き込まれないように、ユーリとヴァルフリートを柱の裏に運んでいたアリシアが出てきてそう言った。
「あぁ、まさに芸術品だな」
ヤハウェはバラバラになった怪物の破片を足で転がしながら冷酷な笑いを見せる。
「約束通り聞かせてもらう。何故私たちに加担した?」
アリシアはヤハウェに問いただす。
「感謝の一言もないとは、傷つくよ。まぁ、こんな虫けらの塊みたいなやつにやられるのを見てるだけじゃつまらないと思ってね。もっと傑作な死に方じゃないと」
「私たちを助けたこと、後に後悔することになっても知らんぞ。まぁ、感謝はしているが、お前は我々、いや、人類の敵であることに変わりはない」
アリシアはヤハウェを睨みつけながらそう言うと、ヤハウェはそれを無視し、私の方をじっと見つめた。
「メーセリア、あれは実によかったぞ?あれほど強力な魔力を制御できるとは、実に驚いた。いつかあいつを超える存在になるのかもしれないな」
「・・・あいつ?」
「まぁ私は他にもやることがある。突然で悪いが、ここで帰らさせて貰おう。では、ごきげんよう」
ヤハウェは軽はずみなお辞儀をしたあと闇の中へと消えていった。一体何が目的だったのだろうか。そんなこと今考えてもしょうがないし、それよりも、怪我をおったヴァルフリートとユーリの介抱だ。きっと私たちも疲弊してる。とにかく戻らなければ。私は、ユーリを抱え、アリシアはヴァルフリートを抱えてザルベスへ報告に向かった━━。