旅立ち
初投稿です。ちょっとわかりにくい部分があるかもしれませんが暖かい目で見て欲しいです。
物語の途中に出てくるヴァルフリートっていう女好きのキャラクターが登場します。作者お気に入りのキャラとなってます。愛してあげてくださいね。凛花の救世主、少女メーセリアの冒険を描いた作品となっております。ではでは、どうぞ!
あ、あと救世主は「メサイア」って読むのでそこはよろしくお願いします。
貧富の差。かつて世界が抱えていた問題。いや、成り立ちと言っても過言ではなかった時代。そんな時代に、世界に、ある一人の女性が抗いの産声を上げた。この時から既に、世界の歯車が動き出す物語が始まっていたのだ。何も知らなかった彼女は、世界を廻り、世界を知り―。
ここから先の物語には続きがない。この空白を埋めることが出来るのは、そう、この本を読んでいる貴方だけなのです。そして、貴方だけがなれるのです。「凛花の救世主」に―。
「わぁ、かっこいい!。ばっちゃ、もう一回読んで!」
一人の小さな少女が興奮した様子で跳ねている。
「またかい?いいわよ。何回だって読んだげる。けどね、一つ約束があるの」
少女の祖母と思われる女性はそう言うと、笑顔で少女に顔を寄せ、さらに続けた。
「この本のこと、たとえ友達でも、知り合いでも、どんな人にも教えたり話すことは絶対に駄目だよ」
「えっ、なんで?」
「私たちだけの秘密のお約束だよ。守れる?」
「秘密のお約束・・・。うん、わかった!。ばっちゃ、指切りね!」
小さな家に二人の歌声がこだましていた。穏やかで、そして温かい。
ガタガタと揺れる馬車の音。振動に揺れる吊り下げられたランプ。そして、食べ物が入っている保存箱が無造作に散乱していた。
そんな中、馬車に揺られている一人の少女は目を覚ました。
「あっ、夢」
夢を見ていた。このような悪い環境では、浅い眠りのおかげで夢を見ることが多いのだ。
「あれ、誰?」
少女は独り言を呟き、全く手入れの施されていない窓の外を、何も考えずに暫く眺め続けた。
視線の向こう側には、見ていても何も面白くないような砂原が永遠と、淡々と続いているだけだった。
暫く窓の外を眺めていて、気がつけば日が一番高いところまで昇り、気温も著しく上昇していた。あれから一週間が経とうとしている。目的地への到着はまだなのか。あまりにも暇だったものだから、自分が世界を救うことでも頭に描き、妄想しながら少しの間愉悦に浸っていた。
「メーセリアさん、到着致しました」
脳内の世界の人々から、喝采を浴びている場面で、急に声をかけられたので少し驚いた。
私は、ミアロンド・メーセリア。田舎のマサ村落出身。両親は小さい頃に亡くなっていて、祖父母の顔は知らない。育ててくれる人がいなかったので、小さな保護施設に預けらていた。食事も貧相なもので、少量の豆とサラダだった。サラダと言えるようなものでもなかったような気がする。ただ野菜を粗末に切って無造作に置いてあるようなものだった。このような生活は、先ほど馬車の移動中に見ていた永遠に、そして淡々と続くだけの砂原のようだった。
こんな生活に嫌気がさしたのは、ある日施設にやってきた世界を知る者から話を聞いた頃だった。世界を知る者は、この世界の広大さを私に教えてくれた。私は狭い世界に閉じ込められているだけだと、彼はそう言っていた。この世界にはもっと素晴らしいものがたくさんある。空を飛ぶ馬、天翔る巨大な翼竜、地下に眠る巨人、それだけじゃない。様々なファンタジーが、この世界には溢れていると。幼なながら半信半疑だったが、一応信じてみることにしていた。その方が面白いし、世界に飛び出す楽しみが増えるものだ。
私が今まで馬車に乗っていた理由は言うまでもない。田舎のマサ村落から出て北の都であるノースセルシオンに向かっていたのだ。見たこともない世界。自分の知らない世界に飛び出すことが楽しみで仕方なかった。だが、移動にものすごく時間がかかる。もう一週間も経っている。さっき馬車の主から到着の声があったが、それもただの中継地点に過ぎなかったのだ。
「ここから乗り継ぎになります。少し北の方に歩いていただければ、列車が見えてくるかと。」
「れっしゃ?」
私には列車がわからなかった。それもそうだ。わかるはずがない。移動手段なのはわかっていたが、どのような手段で移動するのかは、全く検討もつかなかった。その反面心に宿る好奇心は私の中で踊っていた。
「れっしゃ」という物が何なのか、暫く考えていた。名前からなんとなく、凄まじいスピードで怪物の咆哮のような猛き地鳴りでも周囲に撒き散らしながら移動するものかと想像していた。「れっしゃ」という名前の響きが気に入ったので、「れっしゃー、れっしゃー、れっ、れっしゃー」と少し興奮した息遣いでリズミカルにささやきながら、「れっしゃ」まで向かっていったのだった。
「え!?これが、これが!」
恐らくこの十八年間の人生で一番興奮したと思う。長旅で蓄積した疲労も全て吹き飛んでいった。
「列になってるから列車なのか!なるほどぉー。・・・ふむふむ」
止まっている列車の外周を走り回って観察する。
傍から見たらただの痛い人だろう。しかし、そんなことは蚊帳の外だった。
「やっぱり、あの人が言ってた通りだった!」
私のいた世界は狭すぎたのだと、ようやくここで確信が持てた。外の世界への好奇心が燻られる。列車の操縦をしていると思われる人が、こちらを困った表情で見つめていので私は慌てて列車に乗り込んだ。これから、もっと新しい世界を知れる。もっと新しいことに出会う。そう思うと、興奮せずにはいられなかった。
列車に乗ってから三日が過ぎた。これだけ速い乗り物ですらまだ目的地のノースセルシオンが見えてこない。気がつけば、永遠に続いているようだった砂原の光景も終わりを告げ、周辺には草木が生えていて暖かな光景へと変化していた。
新しい世界への興奮も少し落ち着いてきた反面、不安も過ぎり始めた。私みたいな田舎者でも、受け入れてもらえるかな。無知でも生きていけるのかな。そんなことを考えながら自分の座っている席の頭上にあるランプを見つめていた。そんな時、突然青年から声をかけられたのだ。
「あんた、見ない顔だけど、どこから来たんだ?」
青年はそう言うと、私と向かい合っている座席に腰を下ろした。第一印象は、少し馴れ馴れしい一面を持つが、良く言えば誰とでも気軽に話せる陽気な好青年といった印象を受ける。不安を抱えた自分にとっては、こうやって声をかけてくれたのは有難かった。
「あっ、その、ありがとうございます」
「違う違う。どこから来たって聞いてるの」
田舎出身だと打ち明けていいのだろうか。こんな田舎者でも、普通に接してくれるのかな。結局もっと不安になってしまっただけなのかもしれない。でも嘘をついてもいつかはバレてしまうと思い、一応正直に答えておくことにした。
「北の都からずーっと南の方にあるマサ村落という小さな小さな村から来ました。」
そう言うと青年は、私の身体を数秒間見つめてから、笑いながらこう言った。
「服装からして田舎出身っての、わかりきってたよ。」
意地悪な人だ。分かりきった上で無意味な質問を飛ばしてきた。少し不機嫌な表情になってしまった私に気を遣ったのか、すぐに話題を変えてきた。
「これに乗ってるってことは、つまりノースセルシオンに向かってるってことだよな?」
これも答えがわかりきっている質問だった。恐らく話題の切り替えに焦ってしまった挙句、出した質問もまた無意味なものになってしまったのだろう。
「さっきから答えなくてもわかる質問ばっかりですね」
私は睨むように少し勝ち誇ったような表情を浮かべた。
「あっ、まぁとにかくだ!ノースセルシオンのこととか、知らないんだろ?俺が色々教えようと思って!」
「えっ!本当ですか!?」
私は咄嗟に身を乗り出した。素直に嬉しかったし、気づいたら身体が勝手に動いていた。何も知らない私に、何か教えてくれるのなら有難い。
「ち、近い。」
「あっ、ごめんなさい。ちょっと嬉しくて、つい。でも、色々教えてくださるんですよね。有難いです。」
「あぁいや、敬語はいいよ。同い年くらいだろうし。あと、自己紹介忘れてたけど、俺はユリアス・シャークロン。ユーリって呼んで。」
ほんとに話題の切り替えが素早い人だ。無意味な質問をしたり、急に自己紹介をしだす。良い意味で自由奔放で無神経な人なんだなと感じた。
「私はミアロンド・メーセリア。えっと、その。」
「ミアでいいだろ。よろしくな!」
「ミア・・・ね。わかった!ユーリ君、よろしくね!」
そう言って私達は握手を交わした。そう、村を出てから初めての友人が出来たのだ。とても嬉しかったし、不安も少し解消された。私にとって、新しい世界にいるユーリの存在はとても大きいものだった。
自己紹介に長い時間を使ってしまい、これから行く手筈となっている肝心な北の都について聞いていなかった。しかし、実際に聞いてみると、飯が美味いとか、街が広いとか、全く役に立たない情報だらけだった。
「天候が安定してて、いつも晴れているところ だ。ずっと晴れていたら農作物が育たないから、魔力を利用して雨を降らせたりしてんだ。」
「え!?ま、魔力!?」
魔力。そんなものは逸話や伝説上の話でしか知らない。そんなものがこの世界には実在している。こんなにも世界が広いなんて、世界を知らない故郷を不憫なものだと思ってしまった。
「魔力なんて存在したんだ・・・」
「まぁ田舎者には、わかんねえか」
ユーリは笑いながら、枕のように両手を後頭部に添えながら笑った。
「また馬鹿にしたでしょ!」
「馬鹿には、してないよ。あっ、そろそろノースセルシオンが見えてくるよ。」
ユーリはそう言うと、窓を開けて上半身を投げ出した。
「私も見たい!」
新たな世界を、いち早くこの目で見たい。そんな思いで咄嗟に私もユーリと同じように上半身を窓から投げ出す。
「せ、狭いって!」
「わぁ、凄い・・・。これが、世界!」
空にまで届くような高々とそびえ立つ城壁。故郷の何個分なのだろうか。想像もつかない。故郷がまるで細胞のように思えたくらいだった。小さな窓から二人で身を投げ出しているので、ものすごく狭かったが、今はそんなことはどうでも良かった。もうすぐだ。夢にまで見た、何もかも新しい世界、私の知らない世界。再び昂る興奮は、誰に何をされようとも収まるようなものではなくなった―。