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探知の結果




私は彼の姿を見送った後、後ろに控えていた団員たちに向き直った。





「よし!お前たち指令を出す!」



「第1小隊はこのまま私に続き、南門から出て町の外で哨戒を行う!」



「第3小隊は南門の城壁に上り、町の近辺の警戒!!」



「第4小隊は西門と南門の出入口で検問を行い、通行人の荷物の検品と不審者の摘発をしろ!!」



「なにかあればすぐに合図で知らせるように!!」



「以上!行動開始!!」



「はっ!!」





私の指令を受けて、各小隊は各々の持ち場へと散開していく。





「第1小隊は私に続け!」



「はっ!」





アイナとグレースが現在別任務に従事しているため、第一小隊の隊員は私を含めて9名。


私は直属の部隊を引き連れて南の最前線へと赴く。


荒野の中で見晴らしの良い岩山へと登った。





「お前たち・・・いつ接敵してもいいように武装の準備をしておけ」



「一瞬でも気を抜くなよ!!」



「はぁっ!」





私の号令に覇気のある喚声を上げながら隊員達が続く。


やがて岩山の頂上に着くと四方に散らばって、前後左右の哨戒を始める。





「隊長!!3時の方向異常ありません!」



「同じく、6時の方向異常なし!」



「9時の方向も異常ありません!」



「・・・分かった。そのまま哨戒を続けろ!」





私と隊員2名“ケイファ“と“セルマ“が12時の方向・王都方面の監視をしていた。


ミンツの町の外は、だだっ広い荒野と石畳で舗装された道路が延々と王都まで続いている。


道路の向こう側からはちらほらと旅人や行商人の姿の往来が確認できる。


それ以外に目立った変化は今のところない。


私は懐から懐中時計を取り出して、現在の時刻を確認した。





10:12





「・・・・・」





既に哨戒任務を始めて1時間以上経過していた。





遅い・・・





それが私の抱いた正直な感想だった。


奴らが王都北門からこちらに向かったのが夜明け前としたらもうとっくに来ていてもおかしくないはずだ。


にわかに焦燥感が巻き起こる。


まさか、読みを外したか・・・!!?


大河方面は無理にしても、トール山脈を突っ切った可能性がないわけではない・・・


・・・どうする?哨戒の範囲を広げるか・・・!?





「隊長!!・・・あれを!」





私が逡巡を繰り返していた時、横にいたケイファの声が私の注意を引き付けた。





「・・・なんだ!?」





まだうっすらとだが、前方に土煙が舞い上がっている。


奴らが来たのか・・・・!?


一瞬緊張が私の中に走ったが、すぐに杞憂だったことが分かる。


土煙は街路をはみ出して広範囲に横に広がって起こっており、


数百人規模の集団が並走して近づいてきていることを意味していた。


明らかに巨人達ではない。


私が目を凝らしてその集団の先頭を見ると馬に騎乗している兵士たちの姿が見えた。


カーラの国章であるヘルヴォルの盾が刺繍された軍旗も確認できる。





「あれは・・・追撃部隊か!」





そう、カーラ王都から遥々巨人達を追撃していた部隊が到着したのだ。





「お前たちはそのまま周囲の警戒を続けていろ!」



「追撃部隊の応対は私が行う」



「はっ!お任せを!!」





私は騎士団の団旗を一本持つと、一旦岩山を降りた。


街道へと歩を進め、追撃部隊の注意を引くべく団旗を大きく振る!





バサバサバサ!!





「・・・おい!あれを見ろ!」



「ヘルヴォルの楯に白いバラの印章・・・あれは第9近衛騎士団だ!」





先頭を走る偵察部隊の2名が私の振っている旗に気づいたようだ。


彼らは街道上にいる私の所まで馬を走らせてくる。


そして、そのまま馬上から私に声を掛けてきた。





「失礼する!我々はカーラ王国北門警備連隊遊撃隊の者だ」



「その軍旗と甲冑姿を見るに、貴公は第9近衛騎士団の者とお見受けするが、間違いないか?」





彼らの言葉に敬礼を返しながら、私は返答した。





「役目ご苦労」



「私は第9近衛騎士団団長クラウディア・フィリア・マリュス・ヒルデグリムだ」



「貴殿らの指揮官はいるか?」



「確認をしたいことがあるので、至急取り次ぎ願いたい」





私の言葉を聞いた2人は驚きの表情を浮かべる。





「・・・はっ?・・・はっ!!」



「ク、クラウディア団長、御自らお出迎えとは、恐れ入ります!!」



「少々お待ちくださいませ!!」





そう言うと2人は慌てて、来た道を戻っていった。





ピィィイィ!!!!!!





彼らは胸に吊るしていた警笛を鳴らし、


数キロ先まで轟きそうな大声で四方へ伝令を飛ばした。





「全軍止まれぇ!!!!止まれぇ!!!!」





土煙を起こしていた遊撃隊の進軍が止まる。


彼らは遊撃隊の中央部まで行くと、指揮官の男を同伴して私の所までやってきた。


指揮官は私の姿を認めると、馬から降りて私の前まで歩み寄ってきた。


お互いに敬礼をした後、言葉を交わす。





「・・・初めまして。クラウディア団長」



「私は北門警備連隊遊撃隊・中隊長の“リューク・フロタウス“と申します」



「御身のお噂はかねがね伺っております。お会いできて光栄です」





彼の言葉を受けて私の表情に少し笑みが浮かぶ。





「私の事をご存知とは恐縮です。リューク殿」



「呼びかけに応じて頂きお礼申し上げる」



「とんでもありません。エレオノーラ王妹殿下を警護している方々のお役に立てるのであれば我々としてもこの上ない本望です」



「そう言って頂けるとこちらとしてもありがたいです」





彼に一礼をすると私は本題に入った。





「・・・早速ですが、至急貴殿に確認したいことがあります」



「例の巨人共についてですね?」





私の言葉にリューク殿の眼光が鋭くなる。


彼の問いに頷いて話を続ける。





「ええ・・・奴らの動向について今知っていることを全て教えて頂きたい」



「・・・貴殿の部隊に交戦の跡が見られないところからして、どのように見失ったかも含めて教えて頂けると幸いです」





腹の探り合いをしてもしょうがないので私は単刀直入に聞いた。


正直もし奴らと接敵していたら追撃部隊は全滅していても可笑しくない。


だが、彼らの部隊を見渡しても、交戦した様子は見られなかった。


つまり彼らは巨人達を追撃していたにも関わらず、捕捉できなかったという事だろう。





「御身には申し訳ありませんが、その通りです」



「昨夜巨人共がミンツ方面へ逃走した所までは我々も確認しております」



「しかし、追撃しているうちに我々は奴らを見失い、さらに不可解な出来ことがあったのです」



「不可解なこと・・・ですか?」





彼の含むような言い回しに私は眉をひそめた。





「はい。我々が奴らの姿を見失っても私は追跡はそう難しいことではないと思っておりました」



「奴らは超重量のフルプレートを装備し、あれだけの巨体を誇ります」



「そして、道行く先は荒野で足跡が残りやすい地形です」



「足跡を辿れば奴らの追跡は容易だと考えておりました」



「今回の我々の任務の目的は敵の殲滅ではなく、捕捉がメインでしたからね・・・・」



「・・・なるほど。それでどうなったのです?」





私は勿体つける彼に話の続きを促した。





「・・・はい。正直まだ私も見たものが信じられなくて、どう話せばいいのか分からないのですが・・・」





リューク殿は一度間を置いてから驚きの言葉を口にする。





「巨人の足跡は・・・荒野の真ん中で突然に消えておりました」



「それこそ、神隠しにあったかのような感じで・・・・」



「・・・・!?」





彼の言葉に私は目を見開く。





「荒野のど真ん中で5人の巨人達がそこから羽が生えて飛んで行ったかのように足跡が消えていたと言えば分かるでしょうか?」



「奴らの足跡はくっきりと残っていたのですが、ある地点を境にそれ以降全く姿を消してしまったのです」



「正直我々も途方に暮れた次第ですよ」



「・・・・・」





どういうことだ・・・!?


この情報は私にとっても流石に予想外だった。


確かに、魔法の中には飛翔魔法や空中に足場を作ると言った魔法がないわけではない。


私も少しはその可能性を考えなかった訳ではない。


しかし、結局それはないだろうと結論付け、頭の隅から追いやっていた。


この周辺で飛翔魔法使った所で大した意味がないからだ。


理由は明快で、航続距離が持たないのだ。


飛翔魔法(フライ)にしても、空中階段(エアロ・ステップ)にしても、この荒野の中で使用した所で効果はたかが知れている。


ミンツ周辺には町らしい町は存在せず、東西は大河と山脈に阻まれており、そこを飛行しようとしてもとてもじゃないが魔法力が持たない。


大気中の魔素(マナ)は上空に行けば行くほど薄くなり、MPの回復が鈍くなる。


その上、飛行する物体が巨体であり質量が大きいほど必要な魔法効果も大きくなるのが道理だ。


巨人共が飛行魔法を使ったところで他所の国に飛んでいくなど出来はしないはずだ。


そもそも我がカーラ王国には鷹の目(ホークアイ)のスキルを持つ宮廷魔術師がおり、カーラ上空へ常に目を光らせている。


他国には空軍を持つ国家も存在するため、外敵の侵入をいち早く察知する必要があるためだ。


当たり前だが、奴らが空を飛ぼうものなら鷹の目の探知スキル(レーダー)に引っかかる。


宮廷魔術師の報告もない以上、空から逃げたという可能性はやはりないと考えて良い。





「・・・リューク殿。足跡の件はたしかに不可解です」



「遊撃隊の追撃を撒くために飛行魔法などを使った可能性もありますが、」



「周辺の地理状況と航続距離からしても使用する可能性は低いと私は見ています」



「足跡は隠蔽スキルを使って隠したという事は考えられないでしょうか?」





私の意見にリューク殿も相槌を打った。





「確かに、昨夜は月明かりもよく出ており、空を行けば遠方からでも奴らの姿を捉えることは出来たでしょう」



「私も空の可能性は低いと見ております」



「しかし、なるほど隠蔽スキルですか・・・・」



「確かにその可能性はありますね・・・迂闊でした」





私の言葉に一理あると見たリューク殿は悔しそうに顔を歪める。





「リューク殿。足跡以外に痕跡になりそうなものはなかったのですか?」



「・・・いえ、残念ながら他にはなにも・・・」



「我が遊撃部隊も全力で王都からここまで駆けてきましたが、足跡くらいしか痕跡になるものはありませんでした」





彼はそう言って無念そうに首を振った。


リューク殿の言葉を聞いて、私はしばし考え込んでしまう。





一体奴らはどこに消えたんだ・・・!?





正直これは想定外だ・・・


王都を出たときは奴らと死闘を演じることを覚悟して出てきたというのに、


戦うどころか、奴らは蒸発でもしたかのようにいなくなってしまった・・・


しかし、このままここで指を咥えているわけにもいかない。


危険だが探索の範囲を広げるしかあるまい・・・





「・・・リューク殿。話はわかりました」



「奴らがここに来ない以上探索の範囲を広げるしかありません」



「危険ですがトール山脈方面に追跡部隊を――」



「・・・隊長!!!」





――出しましょうと、言葉を続けようとしたその時、


遠方から私を呼ぶ声が聞こえてきた。


振り向くと馬に騎乗して手を降っているグレースの姿があった。


彼女の後ろには黒い法衣を着た女魔術師も同伴していた。





「グレース!!」





来たか!!これぞ天の助け!!


グレースは私の前まで来ると馬から降りて跪いた。





「隊長!お待たせ致しました!」



「連盟魔術師の“ラナ“殿をお連れしました!!」





ラナと紹介された魔術師も、馬から降りて私に会釈をしてきた。





「グレース!よくぞ連れて来てくれた!」



「良いタイミングだったぞ!!」





そう言うと、私は連盟魔術師のラナ殿の方へも顔を向ける。





「“ラナ・サックウィル“と申します」



「お会いできて光栄ですわクラウディア公女」



「よく来てくれましたラナ殿!」



「商人ギルド連盟のご助力心強い限りです!」



「王妹殿下に代わり、この場でお礼申し上げます・・・」





私は深々とお辞儀(カーテシー)をして、ラナ殿に感謝の意を伝えた。


そして、改めて彼女を見据える。





「・・・満足に自己紹介もしないで本題に入らせて頂きますが、今は危急の時ゆえご容赦願います」



「早速、奪われた神遺物の探知(サーチ)をお願いしたい」



「・・・承知いたしております。すぐに取り掛かりますゆえお待ちを・・・・・」





ラナ殿は私に一礼すると、目を閉じてスキル発動のために集中を始めた。


彼女の手からルーンが刻印された魔法陣が浮かび上がり、それは徐々に魔素を含んで大きさを増していった。


それから程なくして彼女は目を開き能力を発動させる。





希少探知(レアサーチ)!!」





彼女の掛け声と共に浮かび上がった魔法陣が反応する。


中に描かれたルーンが大気中の四方八方に散開していき、


魔素の波動が彼女を中心に円形状となって広がっていった。





「・・・・・」



「・・・・・」



「・・・・・」





その光景を私とグレース、そして、遊撃隊の面々が固唾を飲んで見守っていた。


しばらくして、彼女が結果を報告してくる。





「探知結果出ました・・・」



「周囲数100kmに探知を掛けましたが、対象となる宝箱は一つも見つかりませんでした」



「神遺物の宝箱は完全にロストしております・・・」



「・・・なっ!!」



「えっ!!!?」





その言葉は、私を含めそこにいた者全員を驚かせるに十分過ぎるものだった・・・









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