誘拐
突然私の目の前に巨大な手のひらが襲ってきた!!
余りにもいきなりな急襲だった!
だめ・・・・!避けられない・・・!
手のひらは、避けようとする私を無造作に掴み強引に私を攫っていった。
それは余りにも暴力的な力の強さだった。
一歩間違えたら私なんて身体ごと潰されてしまうだろう。
い・・・痛い・・・いたい・・・苦しい・
・・・・死ぬわよこれ・・・・
私は天高く持ち上げれられ、よく分からない状態のまま、どこかの暗闇の中に押し込まれた!
せめてもの救いが足から押し込まれたことだ。
頭から押し込まれていたら、着地の衝撃で首の骨を折っていたかもしれない。
それくらい、加減なんて考えずに暴力的に押し込まれた。
周りは何かの布地のようだが・・・
くっ・・・どこ・・・ここ?
頭がふらふらする・・・
凄い埃っぽい・・・
そう思った次の瞬間、私は急速に上昇するGを感じた。
それはまるでエレベータに乗っている感覚だった。
「これは司祭様。いえ、ちょっと探し物をしてただけです」
「おや、そうでしたか・・・」
外から話し声が聞こえてくる・・・
さっきの兄貴と呼ばれた男の声と初老の司祭の声だ。
そして間違いなく、その兄貴が私を攫った人物・・・
そうなると、今いる場所は奴の上着のポケットか・・・
私はなんとかここから出ようと思ったが、奴の手のひらに押さえつけられていた。
とても動ける状態じゃない。。。
やってくれるじゃない・・・あいつ・・・!
「すみません。お騒がせいたしました」
「いえいえ、それならいいんです。それでは・・・」
司祭の声は遠ざかっていった。
ああ・・
私の希望が・・・
「おい、兄貴その子どうすんだよ・・・」
「こいつは家に連れて帰る。」
なにが連れて帰るよ!
誘拐もいいところじゃない!!
もし、私の自由が利くなら、すぐに警察に突き出してやるところよ!
この世界に警察というものがあるか分からないけどさ・・・
「・・・とりあえず、ここは衆目を浴びているからまずい・・・ずらかるぞ・・」
「あ、・・・うん」
そういって二人は足早に歩き出した。
私は相変わらず奴のポケットの上から押さえつけられたままだ。
逃がすつもりはないらしい。
もう、あったまきちゃう!
人が抵抗できないことを良いことにそんなことする!?普通?
いきなりこんな実力行使で来るとは思わなかったわよ!
どうやら、ここの人たちの倫理観について少し考えたほうが良さそうね・・・
まあ、この二人がとりわけ頭おかしんだろうとは思うけど・・・
すたすたすた・・・
2人が街の中を歩いていく足音がする。
はぁ・・・さて、どうするか・・・
なんとかここから脱出したいんだけど
こうも上から押さえつけられちゃどうしようもないわね・・・
力で叶うはずもないし・・・
私は、仕方なく大人しくしていることにした。
・
・
・
あれから1時間は経っただろうか?
私は相変わらず押さえつけられたままだ。
いい加減暑苦しくてかなわない。しかも、暗闇の中埃っぽくて最悪だった。
外界の視覚情報は全くと言っていいほど入ってこない。
ただ、そんな中でも街の生活音や声は聴こえてくる。
馬車が横切っていく音、ハンマーでなにかを叩いている音、機械の駆動音、
露店のお店が商売をしている声、通行人が雑談している声など、様々な音が聴こえてきた。
かなり繁栄した街のようね・・・
今歩いているのはどこかの商店街なのかな?
人々にはとても活気があった。
とても大魔王に侵攻されている世界だとは思えないわ・・・
そういえばさっきも疑問に思っていたんだけど、今私を押さえつけている男は”大魔王”というワードにまるで反応しなかった。
大魔王の軍勢が攻めてきている世界だったら、多少なりとも反応するもんだろう。
ところが、実際はそんなもんおとぎ話か空想の世界の話みたいな扱いで、まるっきり相手にされなかった・・・
どういうことよこれ・・・
私、またあの”自称”神に騙された・・・?
大魔王なんて実は存在しなかったとか・・・?
・・・
考えても答えは出なかった。
そういえばあのバカの名前聞くの忘れてたわ・・・
そう、考えていた矢先、外の世界に変化があった。
先ほどと同じく、上昇するGを私は感じた。
カンカンカン・・・
足音から察するにどうやら階段を昇っているようだ。
奴らの自宅に着いたのだろうか?
「ギィ」という扉が開く音がしたと思ったら、二人の男が中に入り扉を閉めたようだ。
そして、着いたと思ったらすぐに巨人の兄が弟に向かって言葉を発した。
「おい、鳥かごあっただろ、持ってこい」
「わかった」
鳥かご・・・
もしかしたら、インコのピーコちゃんでも愛でる趣味とかあるのかしら?
そんな妄想を一瞬抱いたが、もちろん違うのは分かっている・・・
「持ってきたよ」
「よし!テーブルの上に置け」
兄の巨人がそういうや否や、私を押さえつける力がふっと消える。
そして、ポケットの中に再度手のひらが侵入し、私の身体を締め付けた。
私はそのままなすがまま運び去られる。
直ぐに締め付ける力からは解放されたが私は地面に投げ出された。
・・いたいっ!
なんとか受け身は取れたが、痛いことには変わりはない。
ガシャン!
なにかの扉が閉まった音がした。
急いで、起き上がるとあの二人の巨人が私を見ていた。
籠の外から・・・
そして、兄の巨人が私に話しかけてきた。
「よお、調子はどうだ?妖精さんよ?」




