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暁のオークション㉗




はじめに目に飛び込んできたのは”穴”だった・・・


オークション会場の壇上前にポッカリと開いた巨大な穴・・・・


下から上に向かって強力な力が働いたかのように円周上の地面がささくれだっていた。


そして、次に目に付いたのは逃げ惑う人々だった。


人々は出口を求めて右へ左へとお互いを押し退けながら逃げ惑う。


だけど彼らは一体何から逃げているんだろう・・・?


だって敵らしき人物なんていないじゃないか・・・・


そして、次に目に入ってきたのは”柱”だった。


逃げ惑う群衆の中に黒い鉄の柱が何本も無骨にそびえ立っていた。


その黒い柱は、底辺に土台がある不思議な形状をしていた。


柱と土台は酷くアンバランスな形で接着されており、


土台の端に柱が立ち、柱から離れるほど土台は鋭角に細くなっている。


・・・あんな柱なんてさっきまであったっけ?





「・・・化け物がぁ!お前達絶対にここを抜かせるな!!」





声のした方向に注意を向けると、逃げ惑う群衆の中で踏みとどまる人間が何人かいた。


・・・会場を警備していた兵士達だ。人数でいえば50人以上はいるだろうか。


彼れは何故か黒い柱に対峙しており、今まさに臨戦態勢の状態だった。





肉体能力向上フィジカルアビリティ・ブースト!!」



風の障壁(ウィンド・プロテクト)!!」



鎧強化アーマー・レインフォースメント!!」



槍超強化(マイティ・ランス)!!」





補助スキルによって、彼らの力が見る見るうちに高まっていくのを感じられる。


す、すごい・・・


僕もここまで戦闘に特化した補助スキルを見るのは初めてだ。


彼らを遠目にしか見てないけど、それでも使用前とは比べ物にならない程強くなったのは一目でわかった。


盛り上がった筋肉。


身体の周囲を保護するように吹きすさぶ風。


魔力でコーティングされた青白く輝く鎧。


魔力が穂先に伝導して、強度が伝説の金属にも匹敵するほど超強化された槍。


お互いに能力を掛け合い、一騎当千の強者と化した兵士達。


その威風は決して熟練の冒険者にも劣るものではないと確信できる程だ。





「よしっ!かかれぇぇぇ!!!」





怒号にも等しい兵士長の号令がかかる!


それを合図に兵士たちは一斉に黒い柱に飛びかかった!!


鬼気迫る咆哮を上げながら強者達は渾身の一撃を黒い柱に加える。





ガキン!!!ギィィイーーーーン!!





しかし、黒い柱の強度は異常だった・・・


彼らが渾身の一撃を見舞っているのに、傷らしい傷すら付いていない。


目が点になっている僕の目の前で、次の瞬間さらに驚嘆する出来事が起こった。


グググ・・・・・





「う・・・・うごいた!!?」





なんだあれは・・・!?


柱のモンスターかなにかか!!?


彼らが攻撃を加えている一部の黒い柱が土台ごとゆっくりと上昇を始めた。


それは緩やかに上空へと浮かび上がっていく。


そしてそれはある時点で狙いを定めたかのように周囲を動き回っている兵士たちの頭上へと移動を始めた。





「絶対に止まるなぁ!!動き続けてダメージを与え続けろ!」



「止まったら死ぬぞぉ!!」





兵士長の掛け声が掛かると彼らの攻撃はさらに苛烈さが増した。


ヒットアンドアウェイで周囲に点在する柱に攻撃を加え続ける兵士達。


その動きはまさに神速と言ってよく、常人には到底出せないような機敏な動きだった。





「す、すごい・・・」



「これが本気を出したカーラ王国軍の力なのか・・・」





彼らの華麗な動きに僕の目が釘付けにされているその時だった!





ズシャーーーーーーン!!!! .....グチャ!!.....





上空から猛烈なスピードで柱が落ちてきた!!


落下したその衝撃はあまりにも凄まじく、衝撃の震動が波紋となって広がる。


衝突地の地面は陥没し、粉塵が舞い上がる程だった。


衝突場所がどうなっているのかすぐ目視できない・・・


だが、今嫌な音がした。なにか、そう、肉が潰れるような音だ・・・・


僕は自分の目と耳を疑った。


だって、直前まであそこに兵士がいたはずなんだ・・・・・


それがあの黒い柱が落ちてきて・・・・


呆然としている僕の目にさらなる衝撃が襲い掛かる。


黒い柱が再びゆっくりと上がった・・・・


そして、そこには・・・・・





「・・・あっ・・・・ああ・・・・・」





ペタン!





僕は言葉を失い、その場にへなへなと崩折れた。


・・・柱の底には”直前まで兵士だったもの”がこびり付いていた・・・


赤黒く変色したそれは、もはや人の体を成していなかった。


ショックによって座り込むことにより、僕の目線が初めて上空へと向く。


そして、この時僕は初めて正しく理解した。


モンスターの一種だと思っていたものが、もっと恐ろしく巨大な物体の一部だったことを・・・


その柱は上空に行くと他の柱と中央で交差しており、二本で一対を成していた。それは、まるで人の脚だ!


その上方には胸板の厚い胴体が存在しており、手のような鉄柱が二本生えていた。


そして、さらに上・・・・首の角度をさらに上へと顔を向けた時、遥かな高みから巨大な鉄仮面が僕達を見下ろしていた。


・・・もう、間違いなかった。


こんな存在いるワケがないと理性が存在を拒否している。


しかし、目の前でこれ程までに圧倒的な存在感を放っている以上認める他なかった。


巨人だ・・・!


フルアーマーの甲冑を装備した巨人。それも信じられないほど巨大な・・・


全長で言えば10メートル・・・・いや、そんなもんじゃない・・・優に20メートルは超えているだろう。


しかも、巨人は1人ではなく、5人いる。


巨人達だけを見ていても結構な大きさの違いが見受けられる。


一番小さな巨人は約20メートルに対し、一番大きな巨人は約30メートル。


その差は約1.5倍。大人と小さな子供くらいの差がある。


自分の遠近感がおかしくなってしまっている・・・・


巨人達を見ていると、一番の背の低い巨人を「小さい」と思ってしまうが、


その足元を動き回る兵士達を見ればいかに愚かしい勘違いかすぐに理解出来る。


兵士達は小さいなんてもんじゃない。


一番小さい巨人からしてもネズミ程度の大きさしかなかった。


30メートルの巨人からしてみたら、もはやちょっと大きめの虫くらいの感覚だろう。


そんなサイズ差で足を踏み下ろせば、どうなるかは明白だった・・・・・





ズシャーーン!!ズシャーーン!!ズシャーーン!!





超大な質量を持った金属の塊が地面に幾度となく突き刺さる。


衝突音が会場に幾重も響き渡り、激突地には粉塵とともに赤黒い血しぶきが舞い上がる。





....グチャ....グチャ.....グチャ.....





踏み降ろされた足の下で無慈悲にも潰れていく兵士達・・・


その音はあまりにも生々しく、直前まで人だったものが靴底の赤いシミと成り果てていく・・・・


人は身体があってこそ、その人が誰なのか、どのような生き様をしてきたかを知ることが出来る。


だが、あの様にグチャグチャになってしまったら、もはや人だった事を認識することすら難しい。


目の前で行われている虐殺は人の尊厳すら踏み躙る行為だった。





「ひ・・・ひどい・・・」



「なんだよ・・・・なんだよこれぇ・・・」



「・・・・・うっ!!」





この時、僕はようやく会場の異質さを悟る事が出来た・・・


中央にぽっかり開いた大きな穴に加え、いくつもの巨大な足跡が刻み込まれた地面。


その周囲にはここまでに来る通路がそうであったように”モノ”が散乱していた。


倒壊したテーブルやイス。投げ出された荷物や衣服。こぼれ落ちた料理や飲み物。そして・・・


・・・グシャグシャに潰された、かつては人だったもの。


全身がスタンプのように押しつぶされて形成された人の残骸と血溜まりの池。


半身だけ存在し、腰から下だけ押しつぶされ苦悶の表情を浮かべて絶命している人。


中には生きているものもいたが、全員漏れなく見るに堪えない状態だった。


その人達は中途半端に巻き込まれたがゆえに、身体の一部が足跡にめり込んで地面に貼りついていた・・・


地獄から復活した亡者のような呻吟(しんぎん)がそこら中から漏れている・・・


言語を絶する凄惨な光景と、辺り一面に漂う血と肉が入り混じった汚臭。


僕はもう耐えられそうになかった・・・・





「あぐっ・・が・がはぁ・・!!」



「おえええ、えええ・・・・」



「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」





胃の中のものを全てぶち撒けてしまう。


もはや、恥も外聞もへったくれもなかった。





「・・・・逃げなきゃ!」



「はやくにげなきゃっ・・・!」





本能が死を告げている。


今すぐこの場を離れなければ死ぬと本能が叫び続けている。


それなのに・・・・





「くそっ!!何でだよ!!・・・何で立てないんだよ!!!」





・・・・今日ほど自分の体を恨めしいと思ったことはない。


自分の体が自分の意志で動こうとしなかった。


足に力を入れて立とうとしているのに言うことを聞かないのだ!


経験したこともない恐怖で僕の身体が痙攣してしまっていた。





「くっ・・・くそっ!言うことを聞けよ!」



「この臆病者おぉぉっ!!!!」





自分の体にムチを入れるように声を張り上げる。


・・・だが、僕の努力も虚しく、身体は相変わらず言うことを聞かなかった。


そして、僕の努力は最悪の形で結実しまう・・・・





ギロッ!!





・・・僕の声に反応し、死を告知する眼光が僕の身体を射抜いた。


兵士を虫のように踏み潰しているあの一番大型の巨人。


僕はそいつと目が合ってしまった・・・・




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