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暁のオークション㉕




・・・・っ!!


ビックリしたぁ・・・・・


急に起き上がって大きな声出されたもんだから、こっちが驚かされちゃったよ・・・


彼の挙動に驚かされて硬直している僕を尻目に、アランさんは落ち着いた声で兵士に声をかけた。


こういう時彼のような大人がいると助かる。





「・・・起きられましたか?」



「ここは連盟会館の牢の中ですよ」



「あなたは先程までここに寝かされていたのです。身に覚えはありませんか?」





アランさんの問いに兵士は訝しげな視線を向ける。





「・・・あんたは誰だ・・・?それに牢の中だと?」



「な、なんでそんなところに放り込まれているんだ俺は!?」





彼はキョロキョロと周囲に視線を這わせながら、声を震わせた。


その顔には戸惑いの色がハッキリと見て取れる。





「私は吟遊詩人のアラン。恐らく貴方も泥酔してここに放り込まれた口なんじゃないですか?」



「貴方の立場を考えると本来は厳罰ものですが、王妹殿下の大赦があったそうです」



「恐らく懲罰房程度で済んだのでしょう。よかったですねぇ、あなたは運がいい」





アランさんの声が呑気に響き渡る。


思えば彼も牢屋に入れらているというのに、この状況を楽しんでいるかのように思えてくる。


兵士の人は相変わらず顔が真っ青のままだけど。





「俺が、酒で泥酔だと・・?・・・任務中に、俺が・・・!?」





彼はその表情のまま自分の言葉を反芻していた。


どうしても今の状況が理解できないらしい。





「落ち着いてください。まずは状況の把握をしましょう」



「ここに入る前の記憶はありますか?」





今度は僕が彼に声を掛けた。





「直前の記憶か・・・そうだな・・・」



「なんか頭に霞がかかっているみたいに、記憶がおぼろげなんだが・・・・」





僕の言葉にうなずくと、彼は下を見つめたまま回想を始めた。





「・・・今日の昼頃はいつも通り北門の警備を俺はしていた」



「だけど、夜に大規模なオークションがあるって事で、北門警備連隊の何割かは会場の警備に回された」



「んで、俺の率いる第3小隊は会場のルーン壁を担当することになって・・・」



「それで警備自体は問題なく進んでいたはずなんだよ・・・・」





自身に言い聞かせるかのように彼を言葉を呟き続ける。


僕もアランさんも彼の言葉を黙って聞いていた。





「王妹殿下の演説が終わり、オークション品も1品目、2品目と落札されていった・・・」



「そこまでは俺も覚えているんだ・・・」



「それで・・・・その後は・・・確か第1小隊の奴らが、何か”差し入れ”とか言って持ってきて・・・・・」





そこで彼の呟きがパタリと止まる。


視点が定まらず俯いたまま彼は静止していた。


様子がおかしいと感じた僕とアランさんはお互い顔を見合わせる。


すると・・・・





「・・・・!ああ、くそぅ!頭がいてぇ・・・!!」





彼は突然うめき声を上げた!


こめかみを手で押さえながらそのままベッドにうずくまってしまう。





「だ、大丈夫ですか!?」





流石に心配になったので、駆け寄って抱き起こそうとした。


しかし、彼はその手を取らず、結構だと言わんばかりに軽く手を上げて僕の手を振り払う。





「・・・大丈夫だ。突発的な頭痛がしただけだ。自分で動ける」





彼はそう言うと、ベッドからムクリと起き上がる。


そして、そのまま鉄格子の方に歩いていった。





「どうされるのですか?」





アランさんが兵士に声をかけた。


兵士は軽く顔を向けると、無愛想に返事をした。





「・・・決まっているだろ。任務に戻る」



「前後の記憶があやふやなのは気になるが、それは他のやつに事情を聞けば済むことだ」



「お前達の素性も満足に聞かずに悪いが、さっさとここを出て行かせてもらうぞ・・・」



「そうですか。別に止めはしませんよ。ただまあ、お身体だけはお大事に」





出ていこうとする彼を止めるでもなく、アランさんはあっさりとした返答をする。


僕も兵士のことは少し心配っちゃ心配だが、止めようとは思わない。


彼の兵士としての立場もあるし、自分で大丈夫だと言っているんだから行かせるべきだろう。


兵士はアランさんの最後の言葉に反応することもなく、そのまま鉄格子越しに看守がいるであろう出口を窺った。





「おい!ここを開けてくれ!」



「私は北門警備連隊所属第3小隊隊長の”オロフ・フロールマン”」



「任務中の我が隊の現況を至急確認する必要がある!」



「誰かいないか!」





彼の大声が辺りに響き渡る。


泥酔していた人間の何人かが気だるそうな声を上げながら反応を示した。





「・・・・ああ?・・・・なんだぁ?」



「あたまいてぇ・・・どこのバカだよ・・・」



「うるせえええ・・・・!」





牢獄エリアのあちこちから不満の声が上がる。





「おい!!聞こえないのか!!?」



「すぐにここから出してくれ!!」



「誰かそこにいないのか!?」





しかし、彼は構わず入り口へ向かって大声を上げ続けた。


先程まで静寂が支配していた廊下に叫声が響き渡る。





「・・・うるせえええ!!」



「黙れこの野郎!!何時だと思ってんだ!!!」



「ぶっ殺すぞてめえ!!!!」





その声量は寝ているものを叩き起こして怒らせるには十分だったようだ。


隣接している牢屋からは次々に非難の声が上がる。


周囲の反発の凄さに、自身を”オロフ”と名乗った兵士もたじろいでしまう。





「っ・・・・貴様ら、静かにしろ!俺の邪魔をするな!!」



「・・・ああん?てめえの叫び声が原因だろうが!!」



「そーだそーだ!!お前こそ俺たちの眠りを妨げるな!!」



「これは至急の要件なんだ!私の邪魔をするならば、公務を妨害した罪で牢にいる期間を長くしてやることもできるんだぞ!」



「・・・・なんだとぉ!この野郎!」





オロフさんは、自身のことを棚に上げて威嚇するように周囲を注意するが、


当然のことながら酔っ払い達がそんなものに耳を貸すわけもない。


しばらくの間、そんな低レベルな罵り合いが続いた。


僕はそれを見ていて辟易してしまう。





うわぁ・・・もう、勘弁してよ。


騒ぎたいなら外でやってくれないかなぁ・・・


こっちだって疲れているのに・・・・





「・・・変ですね・・・」





そんな状況の中、アランさんが僕の隣でぽつりと呟いた。


常に余裕を崩さない彼にしては珍しく、表情が真剣そのものだった。





「・・・どうしましたか?」



「私の” 危険察知スキルハザード・パーセプション”が発動したんですよ。先程まで無効化されていたのに・・・」





僕の問いに、アランさんは首をかしげながら言葉を返してきた。


危険察知・・・確か探知系パッシブスキルの一つだったよな。


それが・・・発動した?





「どういうことでしょう?」



「・・・私にも分かりません。この場所はルーン結界の影響下にあるはずです」



「普通なら発動するはずないんですがね・・・・」



「・・・・・」





確かに変だな・・・


探知スキルは当然ルーン結界の規制対象のはず。この建物内で使えるはずがない。


規制対象が変更されたとか?


・・・いや、そんなはずはない。


ルーン結界は大規模呪法で、その効果も絶大だからこそ発動には厳格な条件が必要だし、ルーンを刻み込む手間も掛かる。


おいそれと条件を変更できる代物じゃないんだ。


探知スキルなんて使えるはずがない。それこそルーンでもかき消さない限りは・・・





「僕、なんか嫌な予感がするんですけど・・・」



「エノクさんもですか?私も同じですよ」



「それに、気づかれましたか?先程からこれだけ騒いでいるのに看守の兵士がやって来る気配がない」



「これだけ騒いでいたら普通は止めに来てもいいはずです」





深くかぶった三角帽の奥からアランさんの鋭い視線が僕に向けられる。





「何かが起こっている。それも危険と言えるものが・・・」



「私もそれなりに修羅場をくぐって来たんで、こういう時の勘はよく当たるんですよ・・・」



「危険・・・ですか?それってどういう――」





――恐る恐るアランさんに僕が尋ねようとしたその時だった!





ドオオオォーーーーーーーーーーーン!!!!!!





「うわおっ!!」



「なんだあ!!!」



「うぎゃ!!?」



「なんだ、なんだ!!?」





突然、建物を揺るがすような強烈な音が襲いかかってきた!!!





「うわぁ!なんだぁ!!?」





思わず裏返った声が出てしまった。


あまりにも突発的に訪れた衝撃に僕も周囲の人間も混乱状態に陥る。





ズズズズズ・・・・・





続いて、何かが崩壊する音が上方から聞こえてきた。


流石にただ事じゃない事を感じて酔っ払い達はお互い顔を見合わせる。





「おい・・・なんかやばくないか?」



「・・・ああ、これはただ事じゃない」



「上で何かが起こっているんだ!」



「看守はどうしたんだ!?状況を説明しろ!」





ガンガンガンガン!!





牢を叩いて看守に存在を自己主張する酔っ払い達。


中には蹴破ろうとしている者もいたが、牢は頑丈でびくともしなかった。


周囲が狼狽えている状況の中、アランさんだけは壁に寄りかかりながら冷静に上方を伺っている。


僕もそれにつられ注意を上に向けるが、それ以降何も聞こえてくることはなかった。


・・・アランさんは先程”危険”が起こっていると言った。


それが何かは分からないが、常軌を逸した何かが起こった事は間違いない。


それもすぐこの上の階層で・・・


そう、ちょうどオークションが行われている会場だろう・・・





「ふぅ・・・・」





自分を落ち着かせようと、僕は大きな息を吐いた。


目と鼻の先で起こっている危険。


自分の身に害が及ぶかもしれない得体の知れない恐怖。


否が応でも心臓の鼓動が早くなってしまう。


”人為的な事件””大規模な爆発””テロリズム”


先程クラウディア団長の発した言葉が僕の頭の中をよぎる。


落ち着け・・・まだそうだと決まったわけじゃない。


頭を振り、浮かんできた嫌な予想を強引に振り払った。





「・・・仕方ない、緊急事態だ。牢をぶち破るぞ、下がれ」





・・・えっ!?


物騒な言葉に思考が中断された僕は顔を上げる。


声のした方に視線を向けると、そこにはオロフさんがいた。


彼は僕とアランさんを横目でチラリと見遣ると、鉄格子から少し距離を取った場所に立った。


彼はその場で右足を後ろに引いて腰を落とすと、目の前の鉄格子に狙いを定めるかのように腰をひねった。





「はあぁぁぁ・・・!!」



「” 身体硬化(ハーデニング)”!!!」





彼の身体に気合がみなぎり、身体硬化の能力が発動する!


その瞬間彼の右足は淡い光を放ち、みるみるうちに人の皮膚でない何かに変化していく。





「はぁっ!!!!」





そして、活の入った声とともに彼の右足が言語を絶する速さでしなりを上げた。


ブゥン!!という空気を切り裂く音とともに閃光のような一撃が鉄格子を横切る。


まさに一瞬の出来事だった。


閃光が横切った鉄格子の箇所はきれいに抉り取られていた。


そこにはただ”空間”だけが存在していた。





ぎぎぎぎぃぃぃ・・・・・





さらに、抉り取られた鉄格子の上下部分から金属の不協和音がこだまする。


次の瞬間、鉄格子は風化した土壁のようにパラパラと音を立てて崩れ落ちていった。


うわぁ・・・すごい・・・・


唖然とする僕。




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