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暁のオークション⑱




「・・・おいっ!なんでお前がここにいる!?」





彼は僕の姿を認めると、激昂して詰め寄ってきた。


くそっ!


こいつがここにいる可能性をすっかり失念していた。


なんとか切り抜けなきゃ・・・!


ここは平常心だ・・・





「あ、どうも・・・こんな所で会うとは奇遇ですね。公子」



「ご機嫌いかがですか・・・?」





僕は何事もないように普段どおりの挨拶を返す。


この態度がいけなかったのかもしれない・・・





ぐいっ!!





「あぐっ・・・」





彼は鬼気迫る形相で僕を睨むと胸ぐらを掴んできた。


半ば宙吊りの様な形にされて、僕はくぐもった声を出してしまう。





「・・・さっき消え失せろって行ったよなぁ!!俺は!!?」



「10分はとっくに過ぎているぞ!?チビィ!」





再会するなりいきなりこれかよ!こいつは!





「ぼ・・・僕は公子に言われたとおりにしましたよ・・・・」



「・・・お、仰るとおり”あそこ”から消えて、ここにいるじゃないですか・・・」



「なにをそんなに怒っているんですか・・・?」





思うように声が出せない状態で、僕は絞り出すように抗弁した。





「・・・・っ貴様あぁぁ!!」





僕のその言葉はカインを激昂させるに十分だったようだ・・・


彼はくわっ!と目を吊り上げると右脚を少し後ろに引いた。


そして・・・





ドゴッ!!!





「グハッ・・・」





一瞬だった。


気づいたらカインの膝が僕のお腹にめり込んでいた。


強い衝撃に嗚咽の声が口から漏れる。


僕はそのまま後方にふっ飛ばされてしまった。





ガシャーン!!





受け身も満足に取れないまま、どこかのラウンドテーブルに突っ込んだ!!


テーブルの上に乗っていた食器の破砕音が辺りに響き渡る!!





「キャーー!!」



「なんだなんだ!?」



「乱闘か!!?」





周囲の群衆から悲鳴の声が上がった。


突発的に起こった耳をつんざつくような怒号と不協和音に、大広間に一気にどよめきが広がる。





「ううっ・・・・」





一方、カインにふっ飛ばされた僕は腹部の鈍い痛みに悶絶していた。


お腹に手を当てて起き上がろうとするがすぐに動けなかった。


なんとか顔だけでも起こし、ふっ飛ばした張本人を見上げる。





カインは底冷えするような視線を僕に向けていた・・・





彼はテーブルの上に突っ伏している僕の前までずかずかと歩み寄ってくると、


湧き上げる憎悪の炎をぶつけるかのように言葉を浴びせて来た。





「俺の命令を無視するとはいい度胸だなぁ!チビ男ぉぉ・・・」



「当然、制裁を受ける覚悟は出来ているんだよなぁ・・・?」





ぐいっ!!





「うぐっ・・・!」





吐き捨てるように悪態を付いた後、彼は倒れ伏している僕の胸ぐらを掴み上げてきた。


再び宙吊りのような形に僕はされてしまう。





ぐっ・・・正気かよこいつ・・・


いきなり暴力に訴えてくるなんて・・・


しかも、こんな人目がある中でやってくるなんてどうかしてる・・・!





「うらぁあ!!!」





バゴッ!!





「がはっ・・・!」





躊躇いのない拳の一撃だった・・・


今度は顔面。


カインの憎しみのこもった殴打が頬にクリーンヒットし、僕は近くの地面に打ち付けられる。





「・・・酷い。何あれ」



「おい・・・・誰か止めろよ」



「もう、何なんですの?あれは。どこか余所でやって欲しいですわ・・・」



「衛兵たちは何をしているのよ・・・」





ふっ飛ばされた場所の周囲の野次馬達は我関せずと後ずさっていく。


ヒソヒソと噂話に興じ、冷ややかな視線を僕たちに向けるだけで関わろうとしない。


彼らは専属の護衛を横に置きながら安全な位置から見守るだけだ。


誰も僕を助けようとしてくれなかった・・・


ふっ飛ばされた場所にレッドカーペットが敷かれていたので、地面からの衝撃が緩和されていたのが救いだった。


ズキズキと主張する頬の痛みに耐えながら、僕は上体を起こして立ち上がろうとする。





「ぐっ・・・くそぅ・・・・」





だが、頭がふらついてすぐに起き上がることが出来なかった。


2本の腕に力が入らない。


今のカインの一撃で軽い脳震盪を起こしたのかもしれない。


カインは「フン」と鼻を鳴らして、芋虫のように地面に這いずっている僕を侮蔑の視線で見下ろしてきた。


口元に微笑を浮かべながら、まだ起き上がれずにいる僕に驕慢な態度で言葉を投げてくる。





「はっ!・・・いいざまだな。チビ男」



「お前は目上の者に対する礼儀がなっていなかったから、丁度矯正が必要だと思っていたところだ」



「そうやって虫が這いずり回るように、地面に頭をこすり付けて拝礼するのが俺への正しい接し方だ」



「よーく覚えておけよ。チビ虫」



「・・・・・っ」





抗えない暴力と今の言動。この理不尽な仕打ちに全身を巡る痛みで僕の頭が沸騰する。


体格、筋力、レベル、才能、あまつさえ貴族という権力の笠を着て、カインは抵抗できない僕を打擲してきた。


こんな奴に負けるわけにはいかない!


僕は抵抗の意思を見せるためにジロリと目の前の”糞バカ”を睨みつけてやった。






「何だその目は・・・」



「・・・・・」



「まだ、殴られ足りないようだな・・・貴様!」





カインはそんな僕の態度にまたしても激昂する。


普段連れている美女の前で見せる優雅な彼とは大違いだ。


眉間に深いシワを寄せ、クワッ!と大きく見開いた目は血走っていた。


彼は床に倒れ込んでいる僕を強引に引っ張り上げて起こすと、再び右手を引いて殴りかかる姿勢を取る。


その状態で僕に最後通牒の言葉を突きつけてきた・・・





「・・・大サービスだ」



「今日はこの俺が直々に礼儀と作法を貴様に叩き込んでやる・・・」



「泣いて許しを請うまで俺は決して貴様を許さん」



「”カイン様申し訳ありません。こんな所に忍び込んだ私が悪うございました・・・”」



「”カイン様の厳命を無視し、愚かな行いをした私をどうぞお許しください・・・”」



「”二度とカイン様には逆らいませんし、ギルドメンバーの地位も私には過ぎたるものなので、この際辞退いたします・・・”」



「そう言って、地面に頭をこすり付けながら泣いて許しを請え!!」



「そしたら、少しは慈悲を考えてやらんでもない」





ふ・・・ふざけんな!


誰がそんなことするかよ!!


第一、ギルドの事は今は関係ないだろう・・・このクズ野郎!!


この状況でそんな脅しを仕掛けてくるなんて、奴はあまりにも卑劣だった。


絶対にこんな脅しに屈しやしない!!


恥や外聞、この後どうなるかなんて僕は一切考えられなかった。


こいつに許しを請う真似なんて絶対できない!


それをするくらいなら、死んだほうがマシだとすら思えてしまう。


・・・僕はもう完全に頭に血が上っていた!


ギリリと奥歯を噛みしめ、怒鳴り散らしたい衝動をなんとか抑えている状態だった。


そんな状況下でカインは話を続けてきた。





「さあ!早く俺に許しを請え!」



「これがラストチャンスだぞ、チビ!」



「・・・・・」





右腕を後ろに引き絞って、いつでも殴れる体制で彼はそう問うてきた。


僕は口角を僅かに上げて、”ニッ”と微笑みながら彼に返答する。





「バーカ」






心底馬鹿にするようにそう言い放ってやった。





ドガッ!!





・・・直後。


目の前が一瞬ブラックアウトした・・・





「がはっ・・・・・」





・・・気づいたら仰向けで床の上に倒れていた。


目を覚まして、最初に吐き出した息には血が混じっていた。


額からもつーと血が流れているのを感じる。


観客達のざわめきが耳にちらつく中、おぼろげな意識を総動員して周囲の様子をうかがう。





「・・・よくも俺をバカ呼ばわりしやがったな!このクソチビィィ!!」



「貴族の俺に対して不敬を働いた罪は万死に値するぞ!!!」



「裁きがお前の望みなら、望み通りその身体で贖わせてやる!!!」





声のした方向へ目線を向けると、カインが烈火のごとく怒っていた。


彼の放った怒号は周囲の観客のざわめきをかき消す程とどろく。


それは意識が朦朧としていた僕の耳にもハッキリ聞こえてきた程だ。


そんな彼の様子を見て僕はなぜか安堵感を覚えた。


胸のつかえがスーッと一つ取れたような感覚が身体中に巡る。





ははっ・・・ざまぁみろ。ついに言ってやったよ・・・





これまで表向きは彼に服従の態度を取っていたが、面と向かって歯向かったのは今回が初めてだ。


だけど、その代償が大きいのは想像に固くない。


カインは鬼のような形相で僕に歩み寄ってきた。


その身から醸し出される尋常でない雰囲気に僕は圧倒され、冷や汗が出る。





殺されるかもしれない・・・





ここに来て、初めて僕は命の危機を察する。


彼は僕の近くまで寄ると、その脚を大きく後ろに振りかぶった。





くっ・・・!


・・・こいつここで僕を私刑(リンチ)にでも掛けるつもりか!!?





・・・理不尽な暴力の嵐が目前に迫っている。


それに備えて僕が身を丸めて耐えようとした、その時だった・・・





「何事だ!!!!」





大喝一声!!


大広間に覇気を伴う雷鳴が轟いた。


会場の邪な空気を振り払い、万里を震撼させるその声は、僕たち二人・・・いや、会場の人間全ての注意を惹くに余りあるものだった。


声のした方向に首を傾けると、色鮮やかな甲冑姿の乙女が人波を割って出てくる姿が目に入ってきた。





あ、あれは・・・


クラウディア団長!?




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