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暁のオークション⑯




僕が会場に戻ると観客達の声で相変わらず騒がしかった。


ビュッフェテーブル付近で食事を頬張る者。


ワイン片手に優雅に立ち話に興じている者。


見目麗しい美女を口説いている者。


空いているテーブルでなにかの賭け事をしている者。


酒に酔っ払って騒ぎを起こし、地下牢に連行されている者。


既にオークションに興味をなくしたのか、会場から出ていこうとする者までいた。


僕はそんな彼らを尻目に、懐に持っていた懐中時計を出して時間を確認する。





19:32





あれ・・・まだ、そんな時間だったんだ?


次のオークションが始まるまで、まだ30分くらいある。


これだったらもうちょい会場の中を歩き回れるな・・・





次のオークションまで、もうほとんど時間がないと思っていたからこれは嬉しい誤算だった。


聞き込みをするにしても、次のオークションが始まるまでにしたい。


でないと落札者のことに関して、自然に世間話を仕掛けるのは難しくなる。


しかし、問題はどこの誰に聞きに行くかだけど・・・・





そこで僕は改めて会場を見渡した。


壇上を中心に半円形の形状をした会場だ。


会場の外周に沿って神々の巨大な像が立ち並び、その間をカーラの兵士たちが埋めている。


壇上の両脇には2階席へ向かう階段があり、そこは騎士団が警護していた。


そしておそらくVIP席にも彼らは配置されているだろう。


騎士団は要人警護を主に担当しているとみるべきだ。


VIP達の警護に加え、彼らと世間話や暇つぶしの相手もさせられるとなると、武力と知性両方を兼ね備えていなければならない。


警護する方にも品格が求められるし、これは一般兵士には荷が重いだろう。


だから本当は騎士の誰かに聞きに行けたら良いんだけど、さっきちょっとやらかしちゃったしなぁ・・・


仕方ない・・・試しに兵士の方に聞きに行ってみるか・・・


兵士は会場の中も巡回しているし比較的話しかけやすい。


手近な誰かにちょっと話しかけてみるか。


そう決心した僕は、化粧室入り口付近を巡回していた兵士の一人に近づいていく。





「あのぅ、すみません!ちょっといいですか?」



「・・・・・」





兵士に声をかけたのだが、無反応だった。


・・・あれっ?


周りがうるさかったので聴こえなかったのかなぁ・・・


疑問に思いながらも僕は話を続けた。





「いやぁ・・・さっきのオークション興奮しませんでしたか?」



「落札価格があんなに高額になるなんて夢にも思わなかったですよ、ぼく」



「・・・・・・」



「それに見ました?あの落札した人の姿!!?あれも凄かったなぁ・・・」



「あれだけ金ピカな衣装だったら嫌でも印象残っちゃいますよねぇ~」



「・・・・・・」





兵士は相変わらず僕をスルーしていた。


・・・なんで反応しないんだよ!?


しかし、僕も必死だったから止める訳にはいかなかった。


めげずに兵士に話しかけ続ける。





「僕が思うにですねぇ・・・あれは絶対どこかの国の王族だと思うんですよ!」



「100億クレジットなんてさらっと出せるあたり、どこか大きな国の出身なのは間違いないと思います!」



「・・・・・」



「例えば有名な魔法大国である”シグルーン”あたりの王子様とかだったりして。ははっ・・・そんなわけないか」



「・・・・・」



「・・・ねえ!どう思いますか?」



「・・・うるさい」



「・・・・はい?」





ようやく彼が反応したと思ったら、不機嫌そうな声が返ってきた。


彼はゲンナリした顔でこちらを振り返ると、威圧する様な声で言葉を続けてきた!





「・・・今、任務中だ。話しかけるな!」



「これ以上続けてきたら、公務執行妨害で地下牢にぶち込んでやるぞ・・・!」



「あっ・・・す、すみませんでした!!」





ギラついた目を向けてきた兵士に僕は急いで頭を下げた。


彼は「ふんっ」と鼻をならすと、そのまま巡回任務に戻っていく。





うわぁ・・・こわっ!


冗談通じなさすぎじゃないか?・・・あの兵士・・・


任務なのだから仕方ないのかもしれないけど、いくらなんでもあの態度はないよな。


少なくともこの会場にいる客達は各国のギルドの推薦を受けたか、高額な入場料を支払って入場している人達なんだ。


先程のワーウルフの人達みたいに他国の要人だっているかもしれない。


客に愛想よくしろとまでは言わないまでも、あんな敵意剥き出しで対応するのは絶対まずいと思うんだよね。


下手したら、異種族との外交問題にも発展しかねないだろ。


まったく・・・カーラ王国の兵士達はどういう教育・指導を受けているんだよ・・・





僕は心のなかで不満をぶーたれながら、兵士の背中を見送った。


正直、逆ギレも良いところである。


僕の悪い癖だ・・・


余裕がなくなると、理論武装で相手を言い負かそうとする。


・・・彼に悪態付いている場合じゃないだろう!





僕はブンブンブン!と頭を振って邪念を振り払った。





・・・仕方ない。他の場所に行こう。





僕は心を切り替えると、化粧室周辺から歩き出した。


そのまま会場外周に沿って進んでいく。


会場の中心にも兵士はいるが、彼らの多くは外から中心を伺うような形で外周に配置されているからだ。


歩きながら警備している兵士をチラチラと伺い、話しかけやすそうな人はいないか探していく。


・・・酒飲んでぶっ倒れている兵士もいるくらいなんだ。


ちょっと世間話に応じてくれる兵士だってどこかにいるだろう。


雑談している兵士がいたならしれっと近づいてみよう・・・





・・・しばらくすると手持ち無沙汰にしてそうな兵士の一団を見つけた。


半円形の会場の外周にちょこんと窪んだ場所があり、神々の像の背後に隠れるように小さな部屋が設置されている。


その吹き抜けの部屋の壁一面には、青白い光を放つ巨大な”ルーン文字”が描かれていた。


・・・例のルーン結界が施されている場所だ。ここだけでなく会場の四方の隅に結界用の部屋が設置されている。


人目を避ける場所に設置されているせいか、いかにもサボれそうな所だ。


会場の中を巡回している兵士たちは職務を忠実にこなしていた印象があるんだけど、ここの人達はちょっとだらけちゃっている気がする。


そのまま部屋に近づいていくと、兵士達の雑談の声が聞こえてきた。





「はぁ・・・退屈だな、おい」



「ああ、こんな場所で警備とかダルくてやってらんねぇよ・・・」



「会場の中を巡回している奴らは羨ましいよな。うまいメシをこっそりつまみ食い出来るんだからよ・・・」



「ああ、まったくだ・・・」



「いいさ。交代時間が来たら、俺達も浴びるくらい酒飲んで、たらふく食ってやろうぜ!」



「当たり前だ!」



「・・・ああ、それだけが楽しみだ」



「お前ら、小隊長殿がいないからって、気を抜きすぎだろう!・・・まあ、俺も楽しみだが」



「なんだ!おめえもじゃねぇかよ!!」



「はっはっはっは!!」





兵士達の笑い声が聞こえてくる。


・・・よしっ!ここの人達は比較的ノリが良さそうだ。


僕は観光でもするかのように会場をキョロキョロと見渡しながら、兵士の一人に声をかけてみた。





「あのぅ、すみません!」



「・・・んっ?何だ坊主。どうした?」





特に拒絶感もなく彼は言葉を返してきた。


言葉の感触が良かったので僕は胸を撫で下ろす。





「物珍しいなと思ってちょっと観光に来ちゃいました・・・それ、なんですかね?」





そう言って、僕は兵士達の背後に描かれた巨大なルーン文字を指差した。





「・・・ああ、これか。こりゃルーン文字だ」



「これは”結界のルーン”を表していてな。会場のいる人間に能力の制限を掛けているのさ。来場客の安全のためにな」



「・・・なるほど。そんなものがあったんですねぇ。どおりで能力が使えないなぁ~と思ってたんですよ。あははは」





もちろん、これは知ってた。


話の取っ掛かりに利用させてもらっただけだ。


ちなみに会場を警備している兵士は、この能力の制限を一部解除されているはずだ。


僕は相槌を打つ傍ら、兵士の手首をチラリと伺う。


そこにはルーン文字が刻み込まれた真鍮の腕輪が装着されていた。


・・・これは”巫女の腕輪”(ヴォルヴァ・バングル)と呼ばれるものだ。


ルーン結界の中において、特定系統の能力の使用を開放する魔道具の一種である。


何の種類が開放されるかは腕輪の種類と刻み込まれたルーン文字に依る。


”真鍮”の腕輪の場合、開放対象は補助能力系統だ。


兵士達の場合は低級補助能力が開放されているのだろう。


彼らは有事の際自分のステータスをアップさせたり、相手をダウンさせたりするくらいの事は出来るはずだ。





「・・・でも、そうすると皆さんも警備大変なんじゃないですか?能力が使えないなんて・・・」



「ふふん。そう思うか?だけどな。俺たちはちょっと例外なんだわ。ここじゃ俺たちにかなう奴はいないと思うぜ?」



「・・・例外ですか?」



「・・・坊主。流石にそういうことは機密上ほいほい言えねぇんだわ。上官に俺がどやされちまうよ」



「あはは・・・すみません!大丈夫ですよ!ただ、好奇心で聞いただけですから!」






僕は苦笑いをしながら取り繕った。


すっとぼけるのもこれくらいでいいだろう。


・・・さっさと本題に入ろう。





「・・・そう言えば、先程のオークションは皆さんもご覧になられたんですか?」



「さっきのオークション?・・・ああ、あのネクタルとかいう酒のオークションだろう?」



「もちろん見たぞ」





僕の問いに対し、目の前の兵士はニヤリと笑う。





「ここからだと死角になっていてよく見えねえからよ。覗きに行ってやったぜ!」



「神々が飲む酒なんて、そうそう拝めるもんじゃねえからな。任務中だろうがなんだろうが絶対に見てやると思ってた!」



「はっはっはっは!!」





そう言って兵士は高らかに笑った。


背後にいた彼の同僚たちからツッコミの声が上がる。





「本当、”クルト”はサボることに関しちゃ一流だよな!」



「ああ!全くだ!この間なんて巡回任務と言っておきながらパブの姉ちゃんと遊んでたしなぁ」



「うるせえ!それは町の治安維持の一環だっつーの。お前らだって”あの酒”に興味津々で覗いてただろうが!」





クルトと呼ばれた目の前の兵士が後ろの同僚たちにそう言い返す。


彼の言葉に後ろの兵士達は顔を見合わせると、バツが悪そうに答えた。





「いや、まあ、そりゃあ・・・なぁ・・・」



「ああ・・・だって不老不死の酒だぜ?興味がわかないわけないーっつの」



「本当は俺たちもこんな場所で警備なんてしてなかったら、堂々と間近で見れたのになぁ」



「うちの隊長さんの引きが悪かったんだからしょうがねえよ・・・」





うんうん、と同僚の兵士達は頷く。


警備する場所はクジで決められたのかもしれない。


ネクタルに話題が切り替わった所で、僕は彼らの会話に割り込んだ。





「僕は幸運にもオークションを間近で見ることが出来ましたよ」



「ネクタルはもちろんですけど、落札した人も全身金ピカで凄かったですよ」



「やっぱりあれくらいの財力がないと、神の酒なんて手に入れることが出来ないんでしょうねぇ・・」





話をなんとか落札者の方に持っていこうとする。


すると、彼らもあの落札者については思うところがあったのだろう。


僕が話題に出すとすかさず話に食いついてきた。





「ああ!あいつか!あの、えっらそう~なやつだろう?」



「あの成金野郎・・・金に糸目つけずに競り落としてきやがったもんな」



「不老不死によっぽど興味があったんじゃないか?金と権力を手に入れたやつの行き着く先は不老不死っていうのはよく聞く話だろう?」



「・・・ああ、かもな。俺たち見たいな愚民なんかには絶対くれてやらんという執念を感じた。正直、ムカついたよ」



「態度からして気に食わねえ奴だったもんな・・・同じ金持ちでも王妹殿下と比べたら月とスッポンだぜ!」





”クルト”さんが王妹殿下の名前を出して落札者の男の人を批判すると、


周りの兵士達も賛同するように「うんうん」と頷いた。


みんな仲いいんだなぁ・・・





「みなさんはあの落札者についてはなにかご存知なんですか?」



「なんか、顔つきといい、佇まいといいここら辺の人じゃなさそうですよね」





心の中で彼らの仲の良さに感心しながら、僕はいよいよ核心に迫る情報について聞いた。





「確かにあいつは見ねえ顔だよな。お前らはなんか知ってるか?」





クルトさんはどうやら何も知らないようだ。


彼は同僚に質問を振る。





「知らねぇよあんなヤツ。まあ、少なくともカーラのヤツじゃねえとは思うが」



「俺もわかんねぇな。・・・でも、どうせどっかの王族や貴族なんだろう?」



「だろうよ。結局、ああいうものは俺たち平民には縁がないってこった」



「まったく、不公平な世の中だぜ・・・」





・・・うーん、駄目か。


全員知らないっぽい。


少し期待したんだけどな。。。





僕が当てが外れて肩を落としていると、別の兵士が一人近づいてきた。





「・・・おう。今帰ったぞ」



「”ラルフ”か、随分遅かったな。そんなに便所混んでたのか?」



「それがよぉ。酔っ払った兵士達がいて洗面所を占領してやがったのよ」



「うげぇ・・・まじかよ。そいつら懲罰もんじゃねぇか」



「命知らずなやつらだな~。下手したら首が飛ぶかもしれんつーのに」





どうやら彼らの同僚の一人のようだ。


ラルフと呼ばれた兵士の話に同僚の兵士達は驚きを露わにしている。


彼が話題にした”洗面台を占領していた兵士”って、僕も見たあれかな?


確かにあれは酷かった・・・


軍の法には詳しくないけどあれは懲罰されても仕方ない気はする。


ラルフさんは話を続ける。





「そう言えば、小隊長殿も化粧室で見かけたぞ?」



「声をかけたんだが、人が多かったせいかこっちには気づかれなかったが・・・」



「タイミング的にそろそろ戻ってくる頃合いじゃないかな?」



「げぇ、やべえ!」





ラルフさんの言葉にクルトさんは狼狽える様子を見せる。


クルトさんはこちらを振り返ると、焦って僕に声を掛けてきた。





「おい、坊主!一応この近辺は一般人は立入禁止なんだ」



「小隊長殿からお咎めを喰らう前にさっさと失せな!」



「あっ!はい、わかりました・・・」





仕方ない・・・


聞き込みは空振りだった事だし、ここにはもう用はない。


さっさと離れよう。





僕は帽子のつばに手を掛けて彼らに一礼すると、そそくさとその場から離れた。


そして、僕が会場に戻る通路の出口で別の兵士とすれ違う。


しかし、彼は通路から出てきた僕のことを気に留める事もなく、そのままルーン結界が張られた小部屋に向かっていった。





・・・話の流れからすると、彼が”小隊長”なのかな?


その割には完全に僕をスルーだったんだけど・・・





通路は短い一本道。


入口の先にはあの吹き抜けになっている小部屋以外存在しない。


そこから出てきた僕のことを彼は少しも気に留める様子がなかった。


少し気になった僕は通路入口の横に隠れると、そのまま顔を覗かせる様に聞き耳を立てた。





「―――お前らご苦労だった。交代の時間だ」




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