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オークション幕間④ ~月明かりの下で・・・~




ニヤニヤ





「うぐぐ・・・・」





妖精のニヤついた視線を受けながら悶える私。


た・・・ただじゃ嫌だってなに?


妖精の癖に対価を要求するってどういうこと!?





「ただじゃ・・・嫌なの・・・?」





恐る恐るリリーに尋ねてみる。





コクッ





え・・・


まさかとは思うけど・・・





「まさか、お金寄こせって言ってるの・・・?」





コクッ





えぇぇええええ!?


よりによってお金かい!!?


人間の通貨なんて何に使うのよあんたは!!?


まさかの妖精の頷きに私は大いに驚いてしまった。





カキ・・・カキ・・・カキ・・・





澄ました表情でリリーはまた何か文字を書き始める。


強張った表情でそれを眺める私。





”き・ん・か・ちよ・だい”





・・・金貨ちょうだい?


1万クレジット寄こせって事!?


ねぇよ!そんなもん!!


1万クレジットがあれば、豪邸建てられるわい!(←大げさ)


なめた口聞いてくれるじゃない!お嬢ちゃんよぅ・・・


そっちがその気なら私にも考えがあるわい!


私は下を向き、いかにも気落ちした感じで言葉を呟く。





「金貨ねぇ・・・今手持ちが無いのよねぇ・・・」



「・・・・・」





それを聞いたリリーは「ふぅー」という感じで手のひらを上に向けて首を振った。


話にならないとでも言いたいらしい。


私は気にせず言葉を続ける。





「リリーにはお礼として、凄いこと教えてあげようと思ってたんだけどねぇ・・・残念だなぁ~」





ピクッ!





「・・・ほら、さっき私に聞いてきたことあるでしょ?」



「私が大冒険して、今こうして生きているって話」



「凄かったのよぉ・・・他の人間達に捕まっちゃったり、ネコに食べられそうになっちゃたりしたんだからぁ」





ピクッピクッ!





「空も飛ぶことが出来ない私がその危機をどうやって乗り越えてきたか」



「”友達”にならその武勇伝教えて上げることが出来たんだけどなぁ・・・」



「あ~残念だなぁー・・・」





チラッ・・・





私がリリーの様子を横目に見ると、


彼女はなにか物欲しそうに手をモジモジと弄っていた。


ふっふっふ・・・


その様子を見て私は心のなかでニヤリと笑う。





「どこかにお金を要求しないで、能力を気前よく見せてくれる”友達”いないかなぁ~」



「・・・・・」





途中からさも、その場に他に誰もいないかのように振る舞う私。


さらに独り言を呟き続ける。





「ああ!こんな凄い体験談もう2度と語ることは出来ないかも知れない・・・!」



「これを聞いてくれる私の”友達”はどこにいるの!?」



「はぁ・・・私はもう諦めるしかないのかしら・・・」





そう言ってガクッと項垂れた。


もはやこれまでと、諦観の雰囲気を出しながら、私はリリーの方に向き直った。


罪悪感を言葉にたっぷりと込めながら詫びの言葉を口にする。





「リリー・・・引き止めて悪かったわね・・・」



「私はお金を持っていないし、あなたの要求に答えることは出来ないわ・・・」



「短い時間だったけど、ありがとうね・・・楽しかった・・・もう行っていいよ」



「・・・・・!?」





突然の別れを告げられて、リリーはその目を大きく見開いた。


流石にこの急な展開に驚いているようだ。


彼女はその場で呆然と私の挙動を見つめている。


別れの言葉を告げた後、私は床に伏せ「よよよ」という感じで崩れ落ちていた。





・・・・・





クイクイ・・・





袖を引っ張る感触があった。


それにつられ私は顔を上げる。





「・・・・・」





モジモジと身体をくねらせ、私から目線を逸らして赤面しているリリーの姿がそこにあった。





「あれ・・・リリー?どうしたの?」



「・・・・・」



「もう、行っても良いんだよ?」





彼女は私の言葉にフルフルと首を振ると、エンピツをとってまた文字を書き始めた。





”お・か・ね・い・ら・な・い”





「えっ!・・・いいの!?」





さも、相手から驚きの提案を受けたかのように私は反応する。





コクッ



カキ、カキ・・・・





”ぼ・う・け・ん・の・は・な・し・お・し・え・て”





「冒険の話をしたら、能力見せてくれるの・・・?」





コクッ・・・





・・・・よしっ!勝った。交渉成立!


私は喜びをおくびにも出さず立ち上がると、


やれやれという感じで彼女に言葉を返す。





「仕方ないわねぇ・・・」



「”友達”にそこまで言われちゃ、私も話すしかないかなぁ。あの大冒険を!」



「・・・・・」





私は天上の夜空に浮かぶ星々をうつろな目で仰ぎ見て、過去へと思いを馳せた。


リリーはそんな私をじっと凝視して言葉の続きを待っていた。





「・・・そう」



「あれは私がまだ18歳になったばかりの頃だったわ・・・・・」





壮大な戯曲でも語るかのように、私は自分の冒険譚を語り始めた・・・







「・・・・・それは突然に襲いかかってきた!」



「運命を司る3柱の女神が私を見放し、死神が迫りくる恐怖を私は感じていた・・・」





戯曲「小人になった女子高生」は最高潮の盛り上がりを見せていた。


机の上の舞台女優になった私は、月明かりのスポットライトを浴びて迫真迫る演技を披露している。





「・・・まさに絶体絶命のピンチだった!もはや万事休す!!」



「このままでは魔獣キャットに追いつかれて私は食べられてしまう!」



「この身は八つ裂きにされ、見るも無残に土に帰すことになるだろう・・・」



「私はそう覚悟した・・・」



「・・・・・」





観客であるリリーは固唾を飲んで私の進行する劇を見守っている。


彼女は私が見せる大仰な台詞回しや振り付けの度に興奮し、羽根をパタパタと震わせていた。


どうやら観客の反応は上々のようだ。





「・・・その時だった!!」



「前方から輝くような光とともに門が開いたのよ!」



「・・・・!?」



「絶望の淵から逃れる唯一の一手・・・・私はそれに全てを掛けた!」



「・・・私は最後の力を振り絞り、その門に飛び込んでいった・・・!!」



「・・・・!!」





リリーは前かがみの姿勢で食い入るように私を見つめていた。


パタパタパタ!と先程よりもさらに速い速度で羽根を羽ばたかせ、机の上に小さな乱気流を巻き起こす程だ。


「どうなるの!?どうなるの!?」と彼女の心の声が聞こえてきそうなくらいの反応ぶりを示している。


私はそんな彼女の反応を見てニヤリと微笑むと、劇の最後を飾るべく締めのセリフを述べた。





「・・・”小人になった女子高生”第1章 完!!」





私はそう力強く終劇を宣言した。





「・・・・・!!???」





パタッ・・・





リリーの羽音が止まった。というか時が止まった。


彼女にとってはまさに青天の霹靂のような終劇だっただろう。


幽霊でも見たような顔をしている。


私はそんな彼女に振り向くと、フリルのワンピースをひらひらさせながら深々とお辞儀をする。





「お客様・・・本日のご来場誠にありがとうございました!」



「第2章以降の公演は後日また執り行う予定でございます!」



「・・・またのご来場心よりお待ち申し上げております」



「・・・・!!!???」





リリーはもう訳が分からないばかりに、私に詰め寄ってきた。


そして、私の胸元を両手で掴むと勢いよく揺さぶってくる!





プンプン!





ぷくーっと頬を大きく膨らませ、怒りの感情そのままにぶつけて来た。


フグかあんたは・・・





「・・・どうしたのリリー?」



「劇はこれで終わりよ。楽しくなかった?」





私はなだめるようにリリーに言ったが、彼女はそれに納得いかなかったようだ。


私からすぐさま離れてエンピツを取ってくると、殴るように文字を書いた。





”こ・れで・お・わ・り・!?・つ・づ・きは!・?”





「第1章はこれで終わりよ。続きを上映するかはリリー次第・・・」



「・・・・!」





先程までの軽いノリが嘘のように、私は冷淡にそう言い放った。


私の変わり身の早さにリリーもギョッ!っと驚く。





「・・・この意味は分かるわよね?」



「さっ、約束。今度はリリーが私に見せる番よ」



「・・・・・・」





コクッ・・・





・・・私が冗談で言っているのではない事を彼女も悟ったのだろう。


彼女は少しションボリしながらも頷き、私からそっと離れた。





少し冷く言い放っちゃったかな・・・


私も本当はこんな交換条件みたいな形で迫ることはしたくなかった。


だけど、しょうがない。これはお遊びでやっているのではないのだから。


冷血と言われようが、利己的と言われようが、死んだらそれでお終いだ。


自分の今後の生存が掛かっていた。


もし今後、冒険の旅に出たら私ははっきり言ってモンスターの捕食対象でしかない。


弱肉強食の死の世界で身を守る術がないのなら、即、死に繋がる。





―――私は”絶対に”彼女に能力を見せてもらう必要があった。





私が将来的に”生き残る為”に彼女達妖精の能力がどうしても必要になってくる。


加えて言うなら、リリーと今回限りの付き合いにもしたくなかった。


セカンダリースキルを覚えるためにはその能力を十二分にイメージする必要があるから1回で覚るのは難しいだろう。


彼女には私のイメージを完璧にするまで何度も足を運んでもらうことが望ましい。


今回限りで、はいさようならという形にはしたくなかった。





さぁ!見せてもらうわよ・・・


あなたの能力を・・・!!!





先程まではリリーが食い入るように私の劇を鑑賞していたが、今度は私が彼女を凝視する番だった。


リリーは私から少し距離を取ると、月明かりが照らす窓際で佇む。


そして、目を瞑り天を仰ぐと、言葉にならない声で何かを静かに口ずさみ始めた。





「・・●・★・▲・□・・・」





ヒュォォォ・・・





静かな風が彼女に纏わり付いていく。


金髪のショートヘアがさらさらと揺られ、羽根がそれに合わせゆらゆらと動き、リリーはフワリと浮き上がる。


そのまま焦点が定まらない朧気な目つきで彼女は空中をたゆたい始めた。





「・・・・・!」





光?・・・あれは何?


リリーの周りに青白い光が集まってきている。


青白い光の粒が風と共にどこからともなく現れ、彼女の周囲に薄い衣を形成していく。


それはあまりにも薄く、ゆらゆらと風に揺れている為、存在を視認するのが難しいほどだ。


月明かりに照らされて躍動するその幻想的な光景に私は目が離せなかった。





・・・これが・・・妖精の能力!









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