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暁のオークション⑩




「はい・・・?」





突然かけられた声に僕は思わず面食らう。


驚きとともに声がした方に顔を向けると、”にやぁ”と下卑た笑顔を僕に向けているあの老人がいた。





「魔法の薬を見た感想はどうじゃったのか?と聞いておるのだよ」





状況判断が追いつかなくて、一瞬固まっていた僕にその老人は再度声を掛けてきた。





「ええ・・と、もちろん凄かったですけど・・・」



「失礼ですけど・・・あなたは?」





困惑しながら返答すると、老人は満足そうな笑みを浮かべた。





「ふぁっはっは。そうじゃろう、そうじゃろう!」



「ワシラにとってはあれらこそまさに生涯を掛けて追い求める、”ケテルの王冠”」



「欲望・願望・情動・欲求・・・・・全ての欲を掛けて辿り着いた錬金術の成れの果てなんじゃからのう」





無精髭が生えている顎を撫でながら老人は愉快に答える。





「・・・・・まあ、もし神話のアイテムを作れるとしたら錬金術くらいでしょうね」



「おとぎ話の中での話ですけど・・・」





錬金術は神の真似事と言われている。


現在の魔法技術では到底なし得ないアイテムや遺物を作成することさえ錬金術師は出来たという。


もちろん、もし本当に錬金術師なんて存在したら魔法技師より上位の存在であることは間違いない。





「ところで、あなたはどなたですか・・・?」





僕は再度彼に問いかけた。






「御伽話じゃと・・・?そんな訳なかろう」



「現にほれ、そこに錬金術というものが存在しているではないか」





そう言うと、目の前の老人は着席したまま魔法の薬が置かれていた壇上を指差した。





「あれこそが証拠よ」



「神、もしくは神ならぬものが超技術を用いて創造した神遺物(アーティファクト)・・・」



「”真の神”を目指そうとした者共のうたかたの夢よ・・・」





どこか一抹の憂いを含んだ顔をしながら、その老人は言った。





・・・・・


なんだろう・・・この人は神話のアイテムについてなにか思うところがあるのだろうか?


いま一瞬凄い寂しそうな顔を僕に見せた気がする・・・





と、思ったのも束の間。


彼はこちらを振り返ると、今度は呆れたような表情を浮かべた。





「こんな単純な事の真贋を見極められぬとは・・・・小僧、お前はまだまだ未熟じゃな」





ただでさえシワくちゃなのに、さらに深い溝が出来た顔を僕に向ける。





・・・いや、だから、あなたはどこの誰だよ!?





心のなかで老人にツッコミを入れる。


どうも人の話を聞かない人のようだ。


いきなり向けられた困惑の表情にこっちこそ困惑するよ・・・


・・・


でも、待てよ・・・


このアイテムに対する熱の籠もった語り様、彼はひょっとして・・・





「・・・あなたももしかして魔法技師なんですか?」





ふと浮かんだ疑念が口を衝いて出た。





「・・・・ほう」





目を細めながらその老人は、席に着こうとした僕を見上げる。


意外そうな表情を見せながら彼は問いかけてきた。





「察しの良い小僧じゃな。どうして分かった?」



「・・・ただの勘ですよ」





短くそう返す。


やはりそうか。


僕の知っている熟練の魔法技師の人たちはアイテムに対してのウンチクをやたら語りたがる。


もしやと思ったけど、どうやら僕の経験が正しかったようだ。





「ふむ・・・同類の匂いを嗅ぎ取るくらいの知能はあるようじゃな」





目の前の老人は顎に手をあて、見定めるように僕を凝視した。


一瞬の沈黙が続いた後、彼の目つきはさらに厳しくなる。


そして、険のある声で僕を威圧するように言葉を続けてきた。





「・・・だがな、所詮はただ、魔法アイテム( もの)を作るという点で共通しているだけに過ぎん」



「お前と同等と思われるのは心外じゃぞ?”劣等種( インフェリア)”の小僧よ」



「わしはお前の10倍は長生きしているし、技量も経験も桁違いじゃ」



「決して勘違いするでないぞ・・・?」





うっ・・・居づらい。


彼の鋭い目線が僕に突き刺さっているのが感じる。


変に彼のプライドを刺激してしまったらしい。


僕としてはただ確認したかっただけなんだけど・・・


それにしても、10倍生きているとか、人間の事を”インフェリア”って言っているって事は、


もしかして彼は・・・





「・・・・魔族の方ですか?」





目の前の老人の顔色を伺いながら僕は聞いた。





「・・・その呼び方は多少なりとも不愉快じゃな、小僧。わしらは人間よ」



「ワシラの立場から見たらお前たちの方こそ異教の神々を崇拝する、魔族じゃて」





若干の憤怒を込めて、彼はそう答えてきた。


しかし、すぐにその態度は一変する。





「・・・まあ、神などというものを信奉していないワシがこの話をするのもおかしな話じゃがな。ふぁっふぁっふぁ」



「・・・・・」





神を語るのがよほど可笑しかったのか、目の前の老人は今度は愉快そうな笑みを浮かべて答えてきた。


僕はそんな彼の反応に戸惑いを覚える。





・・・つ、疲れる。





話が噛み合っていないというのもあるんだけど、


何が彼の逆鱗に触れて、何が笑いのツボに触れているのか、こっちは全くついていけない。


・・・しかし、そんな中でもいくつか分かったことがある。


まず、彼は間違いなく”魔族”であろう。


魔族は見た目こそ人間と殆ど変わらないが、人間より倍は長寿であり、魔力量も優れている。


そんなもんだから人間より優越意識を持つ人が多く、人間を劣等種(インフェリア)と呼ぶという。


僕はこれまで魔族と”あまり”関わり合いは持たなかったけど、彼らの噂はギルドの先輩や冒険者の人達からよく耳にする。


残念なことに、噂の大体は人種差別に起因するいざこざで、良い話をほとんど聞くことはない。


・・・しかし、それも仕方のないことなのかもしれない。


人間と魔族は遥かな昔からいがみ合いの歴史を持つ。


大きな戦争に発展したことはないらしいけど、お互い友好的な関係とは口が裂けても言えない仲だ。





「・・・・・」





次になにを話すか僕は言葉を探していた。


こういう時なにを話せばいいんだろう・・・


魔族との交流がほとんどなかった僕にはぱっと言葉がすぐに思い浮かばない。


人種に関わるセンシティブな話題だけは避けたほうがいいよな・・・


僕がそうやって迷っていると・・・・





「・・・ところで、お前は何が目当てでここに来たんじゃ?」





僕がしばし思索にふけっていたら、老人の方から声を掛けてきた。





「・・・ええっと、もちろん神話のアイテムの見学です」



「魔法技師にとって、こんな経験を得られる機会滅多にないですからね・・・」





言葉を選びながら無難な答えを僕は返す。





「・・・そういう事ではない!どの代物が小僧の目当てかと聞いたのじゃ」



「こんな簡単な問いも理解できんのか、このアホは!」





また、機嫌を損ねたのか、再び眉間にシワを寄せて老人はそう言ってきた。


この老人は癇癪も持っているようだ。


下手な事を言うとすぐにこれだよ・・・


正直今すぐにここから離れたい気分だけど、それで変に騒がれるのも困るしなぁ・・・


僕は嫌々ながら言葉を返した。





「知恵の実ですよ・・・」





自分の目的をこの老人に素直に知られるのに抵抗があったのか、僕はとっさに違うアイテムを口にする。


”知恵の実”はこのオークションの目玉商品だ。


最低落札価格が一番高いと言うだけでなく、出品者はあのカーラ王家。


先程エレノア殿下が言っていた”カーラの秘宝”とはこれのことだろう。


もっともそれらしい理由を考えてたら、ぱっと頭に出てきたアイテムがそうだった。





「・・・なに」





老人の眉間がピクッと動く。





「ふぁっ!!貴様のような小僧がか!?」





目の前の老人はしわくちゃな顔をひどく歪ませた。


そして彼はこれでもかというくらい上背を反り返らせる。





「ふぁーはっはっはっは!!!」



「笑わせよる。笑わせよるのぅ、小僧ぉ・・・。分不相応という言葉を知るが良い」



「神の真似事でもしたいのかお前は!?だったらまことに誠に残念じゃったなぁ・・・」



「貴様が100万回生まれ変わったとしても、あれを手にするのは不可能じゃて。ふぁーーふぁっふぁっ!!!!」



「・・・・・」





彼は容赦のない嘲笑を僕に叩きつけてくる!


流石にこの理不尽な罵倒に僕は怒りを感じざるを得なかった。


冗談じゃない!!


ただ、世間話をしていただけで、なんでこんな赤の他人に怒鳴られないといけないんだよ!!?


こんな頭のおかしい老人に付き合っていた僕が馬鹿だった。


さっさとここから離れよう・・・





「・・・・・」





僕はむんずと椅子においてあったカバンを掴んだ。


老人に背を向け、足早にその場を離れようとする。


しかし、その直後の老人の一言を僕は無視できなかった。





「”あの王女”といい、小僧といい、インフェリアはやはりアホしかおらんようじゃのう・・・」



「ふぉっふぉっふぉ・・・」





・・・・・ムカッ!!


呟くような放たれた老人の一言は僕の胸の中を焼き焦がすように駆け巡った。


流石に今の言葉は聞き捨てならなかった!





「どういうことですか・・・?」





僕は極力冷静を装ったまま彼に聞き返した。


ここで怒りに任せて彼を問い詰めることは簡単だが、


癇癪を起こした目の前の老人と同類と思われるのが嫌だった。


僕の我慢が持てばの話だけどね・・・





「ほっ?なにがじゃな?」



「今のセリフですよ・・・・・・王女がどうのこうの言っていたでしょ?」



「訂正してください・・・!」





今度は僕がムスッとした顔で彼に問い詰めた。




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