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いざ、オークション会場へ




どうしたのだろう・・・


鶏が急にやかましく騒ぎ立て始めた。バサバサと羽もはばたかせている。


辺りの客も「なんだなんだ?」と動揺している。





「コココ・・・コケッ」



「コーコーコケ!」



「コケーコココココ・・・」



「コココ・・・・オケッ?」





・・・こっちを見ながら何かジェスチャーしているようにも見える。


気のせいかな・・・


もし、あれが本当に”グリンカムビ”という神話に謳われている鳥なら、


僕たちに何かを伝えようとしているのかもしれない。


残念ながらその意図は全く読み取れないけど・・・


僕は”翻訳魔法(トランスレーション)”をセカンダリースキルとして持っているけど、鳥に使っても効果は出ない。


翻訳の効果を出す為には対象が人間に近い知性を有する必要がある。


・・・いや、まさかね。


まさか、鳥なんかとコミュニケーションを取れるとは思えないけど。


鳥の中には人間と同等とまではいかないけど、準知性を有すると言われる種もいるらしい。


ましてやあれは伝説の霊鳥らしいから、もしかしたら・・もしかするのかな・・・?





「・・・・」





それからも、鶏は羽をバタつかせながら喚いていたが、


騒ぎを聞きつけた団長と劇団員が檻の前に戻ってきた。


彼らは鶏の急変した態度に唖然としているようだ。





「な・・なんだこいつ・・!?なんで急に暴れているんだ・・・」



「おい!コラッ!静かにしろ!」





団長は鶏を鎮めようとしたが、彼は一向に止める気配を見せなかった。





「コケーッコケッコケコケー!!!」





そんな鶏の様子を見て、団長は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


彼はヒステリーを起こしながら傍にいた団員に強い口調で命じた。


先ほどまで観客に見せていた紳士ぶりが嘘のような言動だ。





「くそっ・・おい、お前たち!!このバカな鳥をテントに戻せ!!早くしろ!!」



「は・・はい!!ただいま!」



「コケーッ!!!」





罵声に近い言葉を浴びせられた劇団員は直立不動の姿勢で二つ返事をすると、すぐさま檻と台を回収する。


彼らはそのままテントの中に消えていった。それと同時に鶏の叫び声も小さくなっていく。


その場に残った団長は今度は人が変わったようにニコリと微笑むと、観客に向き直った。


彼はゆっくりとお辞儀をした後丁重に言葉を発する。





「・・・皆様お見苦しい所をお見せしたことをお詫び致します」



「少々予定が狂ってしまい誠に申し訳ございませんが、これにて当劇団のショーを終了いたします」



「これからも珍しい魔物の数々を取りそろえさせて頂きます」



「今後も是非当”グレンデル・クラブ劇団”を御贔屓下さいますようお願い申し上げます・・・」





そう言って彼はシルクハットを取って再度お辞儀をすると、そそくさとテントの中に引っ込んでしまった。


尻尾を巻いて逃げるという表現がピッタリな逃げ様だ。


僕も観客もあまりにも突然の幕切れに呆気に取られてしまった。


会場はまたも騒然となったが、劇団はそれ以降出てこようとはしない。


テントの前には「閉店」の看板が立て掛けられ、入り口は閉じられてしまう。


その光景を見て群衆のほとんどは諦めたのか、広場から解散していった。


残った観客の一部から抗議の声はまだ上がっていたが、それでも彼らが姿を現すことはなかった・・・







ガラガラガラ・・・





僕たちはあの後すぐに帰宅の途についた。


広場の手近な駅を経由して宿屋までの帰りの馬車に今しがた入ったばかりだ。


外はそろそろ夕闇が降りる時間帯で、辺りを見回すと人々がせわしなく動いている。


店仕舞いを始めている武器屋の店主や、夕飯の買い出しをしている主婦にコック。これから営業を始めるだろう酒場の主人など様々だ。


馬車に入って僕が腰かけると、カバンの中からレイナがごそごそと出てきた。


彼女はそのままカバンの上に腰かけると、瞳を閉じながら一息ついた。





「ふう・・・」



「その・・・今日はどうだった?楽しめたかい?」





僕は若干ドキドキしながらレイナに声を掛ける。


彼女は目を開いて僕の方を向くと、微妙にバツが悪そうな顔をして答えてきた。





「うん・・・面白かったよ。最後はちょっと唖然としたけどね・・・」



「・・・あれは確かにびっくりしたよね。結局あの鳥が何なのか分からなかったし」



「本当よね!せっかく楽しんでいたのに、あれは酷いと思わない?」



「あれだけ人に期待させたんだったら、最後までやり通せっつーの!」





ほっ・・・


よかった・・・とりあえず楽しんではくれたようだな。


今日の重要な目的の一つが果たせたので僕はひとまず安堵した。


僕は彼女に相槌を打ちながら言葉を返す。





「最後、完全に逃げてたからなぁ。彼らもあの鶏の反応は予想外だったろうけど」



「そうね。最後の最後で彼の化けの皮が剥がれた感じよね。いかにもタヌキ親父って感じだし」



「・・・まあ、ジョークの方は私もちょっと面白かったんだけどさ」





ちょっとかぁ・・!?


めっちゃ受けてたじゃん!





「ははっ・・・そうだね。彼は冗談のセンスはあったよ」





僕は思う所はあったが、素直に同調した。


ここで突っ込みを入れるのは野暮っていうものです。はい。







それからも僕たちは今日の出来事について感想を述べあった。


彼女は始めて見る魔物の数々にとても驚いたようだ。


特にアンデッドの「ファイアスケルトン」についてはどういう原理で動いているのかと僕を質問攻めにした。


僕もモンスター図鑑以上の知識は知らなかったから、詳細には答えられなかったけど・・・


一方、僕が気になっていたのは、やはり”アビスミミック”と最後の”グリンカムビ”だ。


両方知らない生物だったのはあるけど、どちらも本物なら飛びっきりレアだという事が大きい。


アビスミミックは研究対象として。グリンカムビはその奇妙な行動についてだ。


あの鳥は一体何を僕たちに伝えたかったのだろう・・・


・・・


あの劇団はしばらく王都にいるのだろうか?


出来れば彼らと交渉して、可能なら翻訳魔法( トランスレーション)を掛けてみたいな・・・





僕たちがそんな感じで今日の話題に花を咲かせていると馬車が宿屋に到着した。


宿屋に戻ってクレアさんの抱擁に出迎えられた僕は、彼女の歓待を満足に受けないまま部屋に戻る。


既に日は落ちていて、あまりオークションまでの時間がなかった。


部屋に戻った僕は急いで身支度を整える。





「どうかな?決まっているかい?」





彼女が見えないところでフロックコートの正装に着替えた僕はレイナに尋ねた。





「うん、大丈夫。バッチリ!」





彼女は親指を上に向けてグッドポーズを僕に出した。





「ありがとう」



「それと、ごめん・・・昨日も言ったけど、留守番頼むね?」





僕は彼女にお礼を言うと同時に、申し訳ない気持ちで彼女にお願いをした。


ちょっとまだ罪悪感がある・・・


本当は彼女も連れていきたいけど、流石にこれは難しい。


持ち込めるのは、せいぜい招待状に財布、それにバッドステータスの中和アイテムくらいだろう。


今回はディバイドストーンも宿屋に置いていくしかなかった。


僕が頼みの言葉を口にしたと同時に、彼女は途端にそっぽを向く。


そのままツンとした態度で言葉を返してきた。





「・・・エノクだけ、美味しいもの食べられそうで良いわねぇ~」



「私も行きたかったなー・・・」





・・・どうやらまだちょっと拗ねているようだ。


明らかに演技掛かっているけど・・・





「ははっ、勘弁してよ。帰ってきたら美味しい食べ物と、土産話も上げるからさ~」





僕はそんな感じで軽く弁解する。


彼女が本気でないのはその態度を見ていれば分かる。


彼女は僕以上に聡明だし、オークションに参加できない理由もよく分かっているはずだ。


これはオークションの不参加にかこつけて土産物を要求していると僕は見た!


そして、僕のその予想は的中する。





「よし!頑張って!行ってらっしゃい!」





レイナが手のひらをクルっと返すように、グッドポーズを僕に向けてきた。


はは・・・分かりやすい。


しかし、その言葉を口にした後、彼女は今度は一転して真面目な顔つきになる。





「・・・エノク、気を付けてね。何にとはいえないんだけどさ・・・」



「”ネクタル”なんてどうでもいいんだから、身の安全を最優先しなさい。分かった?」





レイナが不安そうに言葉を口にしながらも、お姉さん口調で僕に指図してきた。


これも彼女らしいと言えば彼女らしい。


僕は彼女に心配を掛けないように少し強い口調で言葉を掛けた。





「大丈夫だよ、ただのオークションなんだから。それに会場の警備は超厳重なんだ」



「”ネクタル”が誰の手に渡るのかも見てくるからさ、安心してよ!」



「うん・・・まあ、そうだよね」





彼女はうんうんと頷いた。


まあ、彼女が心配するのも分からない訳じゃないんだけど、会場はおそらく二重三重に結界が張られているはずだ。


能力も満足に使用できないだろうし、会場はカーラ王国の騎士団が警備に当たっているはず。


よほどのことがない限り事件など起きようはずもない。


・・・よし、出発の準備が整った。





「それじゃ行ってくるよ!」



「うん、行ってらっしゃい」





ひらひらとレイナが手を振ってきた。


彼女の声援を受けた僕はオークション会場へ向けて部屋を後にする。


いよいよだ・・・







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