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伝説降臨・・・?




箱が見えなくなってしまって僕は嘆くように呟いた。


本音を言えばもう少し観察していたかった。





まあ、あんなレアモンスター見れただけでも儲けものなんだけど、


せめて軽くスケッチしたかったな・・・





今日の日誌にあのモンスターを書く事は僕の中でもう決まっていた。


これまでモンスターの事について書くことはなかったけど、僕の中の探求心が「やれ!」と囁いている。


本当は解析もしたかったけど、まあこれは無理だし無謀すぎる。


そもそもあれにアナライズなんて掛けられるはずないんだ。


出来るんだったらとっくに他の冒険者や鑑定士が行っているだろう。


あのミミックの生態が”未知”だというのは、アナライズを誰も掛けることに成功していないという事。


劇団の団長が言うように、解析を試みた者は皆吸い込まれてしまったのだろう。





いつか出来る日が来るといいなぁ・・・





僕がそんな望み薄な将来を夢想していると、団長がショーの第2幕を開始した。





「さて、続いての魔物ですが、世の中瓜二つの人間がいることはご存知でしょうか?」



「もし、遭われたならお気をつけあれ。もしかしたら、それはこのモンスターが化けて出た姿なのかもしれません・・・」





今度はおとぎ話の語り部のように彼は話だした。


観客はすっかり彼の魅せる演出に虜になってしまっているようだ。彼の話す言葉や仕草に一喜一憂している姿が覗える。


それだけ先ほどの”アビスミミック”が衝撃的だったということだろう。


神の視点でただ傍観するだけだった観客が、あわや深淵に引きずり込まれそうな恐怖を味わえたのだ。


そのスリルは筆舌に尽くしがたい。


なるほど、この劇団が大々的に宣伝したくなるのも頷ずける。


レアモンスターを取りそろえただけでなく、これだけの演出家がいるのなら観衆をがっかりさせることもない。


しかし、一方で僕は先ほどまでの興奮がいささか冷めてしまった。


彼の今の言葉で次に何が出てくるのかおおよそ見当が付いてしまったからだ。





たぶん、次はあれだな。


おそらく”ドッペルゲンガー”だろう。





ドッペルゲンガーはゴースト系の魔物で、対象の生物の姿やスキルを似せることが出来る特性を持つ。


しかし、ステータスまで模倣することは出来ない。


いたずら好きな幽霊であり、レベルも低級な者が多く基本的に無害な奴である。


まれにレベルが高い個体になるとある程度ステータスまで複製してくるらしいが、基本的にはオリジナルの劣化コピーだ。


研究対象としてはあまり興味が沸く相手ではない。


それでも、先ほどのようなサプライズがあるんじゃないかと少し期待していたのだけど、僕の予想は的中してしまった。


前口上を語り終えた団長が檻のカーテンを開けさせると、そこには木製の額縁が付けられた大きな姿見が立て掛けられていた。


鏡には全身の輪郭がぼんやりした灰色に光るモンスターが映し出されている。顔や形もはっきりしていない。


魔物図鑑で見た”ドッペルゲンガー”そのものだ。


会場には再び低いどよめきがこだまする。





「さて、せっかくですので皆様にもショーに参加していただきましょう」



「誰か試しに魔物をもっと近くで見たいという方はいらっしゃいませんか?」





彼は観客に対し、ショーへの参加を呼びかけた。


それに呼応して何人もの人たちが挙手をして、ショーへの参加を要望する。





う~ん・・・僕はいいかな。。。


見世物としては面白いけど、やっぱりインパクトは若干弱い気がする・・・


先ほどと比べてしまうとどうしてもな・・・





仕方がない。


アビスミミックがあまりにも強烈過ぎた。


ドッペルゲンガーも珍しいと言っちゃ珍しいが、レア度で言ったらアビスミミックとは比較にならない。


もっとも周囲の観客は先ほどと同様十分楽しめてはいるようだけど。





群衆の一人が団長に導かれて檻の前に来ると、幽霊がその人の姿を真似て鏡の前に姿を現した。


周囲からまた驚きの声が上がる。


ドッペルゲンガーの複製(コピー)を目の前で見せられた男の人も後ろに大きくのけ反っていた。





「皆様ご安心を。この檻はミスリル製の特別の檻で結界が張られております」



「魔力探知系の能力や霊的生物の透過を遮断する効果があります。この魔物が外に出ることはありません」





すかさず団長が周囲に対して説明する。


それを聞いた群衆から安堵のため息が漏れた。


目の前で姿を複製された男の人も胸に手を当てて安堵している。


ドッペルゲンガーはそんな男の人の格好を見ていたようだ。


彼が男の人の真似をして胸に手を当てる仕草をすると、会場には笑い声がこだました。


ははは、面白いな。


幽霊なのに彼はかなりひょうきんな奴のようだ。今度は僕も少し受けた。





「・・・あはははは!!」





・・・レイナはもっと爆笑していた。


周囲の観客の笑い声に交じってレイナの笑い声が響く。


意外に彼女は笑い上戸なのかもしれない・・・


まあ、彼女が楽しんでくれてなによりだけど。







それからもグレンデル・クラブ劇団のショーは続いた。


鷲と獅子の肢体を持つ空飛ぶ魔獣『ヒポグリフ』。


犬の頭と蛇頭のしっぽを持ち、背中から無数の蛇が舞い踊る『オルトロス』。


全身が炎で燃えていながら決してその身が朽ちない不死の魔物『ファイアスケルトン』


人の返り血を好み、その赤く染めた帽子を被ることを趣味とする残忍なゴブリン『レッドキャップ』


・・・等々。


劇団の誘い文句「世にも奇妙な異形の生物」に相応しく、カーラ王国では見たこともない魔物の数々が次から次へと現れた。


よくもまあ、ここまで珍しい魔物を集めたもんだと感心する。


いずれの魔物もみんな初級の冒険者が手に負えない強力な魔物ばかりだ。


もちろん熟練の冒険者のパーティに協力をしてもらったり、ギルドへの依頼で購入したりしたのだろうが、


相当にお金を掛けなければここまでの魔物は集めることは出来ないだろう。


魔物を観た群衆の反応もまた上々だった。


彼らは、時にその珍しさに歓喜し、時にその醜悪な姿を嫌悪し、時に団長が漏らす軽快なジョークと演出に頬をほころばせた。


僕もさすがにアビスミミック程の衝撃はなかったけど、初めて邂逅する魔物の数々は興味深かった。


特段、感情が高ぶるようなこともなかったが飽きることもなく鑑賞出来ていたと思う。


ちなみにレイナは大いにショーを楽しんでいたようだ。


特に観客に笑いが巻き起こったところではレイナも必ず受けていた。


僕と生活していた時には分からなかった彼女の一面を今日は垣間見れた気がして少し嬉しかった。


・・・


そんな感じで宴もたけなわ。空がそろそろ赤みがかりそうな色に変わる頃、いよいよ最後の出し物が出された。


団長が観客に対して一際大きな声量で言葉を発する。





「さて、皆様いよいよ次が最後の出し物になりました!!」





それを聞いた何人かの観客から「えー!?」とか「ぶーぶー!」という声が上がる。


彼のショーが終わることを惜しんでいるようだ。


団長はそんな声に軽く頭を下げた後、言葉を続けた。





「ここまでたくさんの喝采を頂きありがとうございます」



「次で皆様とお別れになるのは私も誠に残念でなりません・・・・」





彼は若干声量を下げて悲しむ素振りを見せた後、顔を上げて再び大音声を轟かせた。





「しかし!!最後は皆さまに私どもが有するとっておきの”伝説”をお見せします!!」



「きっと皆様も気に入る事でしょう!」





彼はそれを言い終わると群衆に向かってニヤリと微笑んだ。





伝説?


これ以上まだサプライズがあるのか?


最初のアビスミミックも十分”伝説級”と言えるような魔物だと思うけど、彼はそれ以上のなにかを保持しているという事か?





僕の中にアビスミミック以来の”興味”が沸き起こった。


彼がほら吹きでないのはここまでの見世物でわかっている。


彼が”伝説”と言うのであれば、それに相応しいなにかを見せてくれるという事だろう。


周囲の人も彼の言葉にどよめいた。





「伝説だって・・・」



「何を見せてくれるのかしら・・・?」



「伝説って言うから神話の化け物でも出すんじゃない?」



「ふっ・・・”ネフィリム”でも出してくるとかな・・・」



「ははは!そんな怪物が出たら見世物だけじゃなく、この世も終わるぞ」





群衆は好き勝手に酔狂な噂を立てて、馬鹿話に花を咲かせているようだ。


身も蓋もない噂が周囲をざわめかせる。


一方、喧騒の中心にいる人物はそんな様子をニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべながら顎を撫でていた。


彼はそんな観客の反応が楽しくて仕方ないのだろう。


基本的に紳士な態度を見せる彼だけど、時折見せる顔はなんとなく彼の本性を表しているような気がしてならなかった。





人々の風聞が冷めやらぬ中、劇団員数人がテーブルクロスが被された”なにか”を担いで登場してきた。


首を捻りながら僕は”それが”なにかと思案する。





なんだあれ・・・?


一応、檻っぽいけど・・・随分小さいな・・・





それはこれまでと違って随分と小さな檻の様だった。高さや幅も人の身長の半分くらいだろう。


これまで魔物が入っていた檻は、人が入れるくらいの大きさから馬が数頭入れるくらいの大きな檻だった。


だから、あんな小さなものは今回始めてだ。


あれが伝説・・・?


周りの人も”それ”を見て首を傾げている。





劇団員は僕の身長程の高さがある台をテントから持ってくると、その上に小さな檻を乗せた。


団長はそれを確かめた後、最後の仕上げとばかりに観客に向かって大きなジェスチャーをする。





「さあ!!!お待たせいたしました!」



「いよいよ最後の見世物の登場です!!」



「皆様、私と一緒にカウントダウンコールをお願いいたします!!!」





これ以上伸びることが不可能なくらい両手を横に広げた彼は大音声で観客に呼びかけた。





「いきますぞぉーーーー・・・はい3・2・」





それに合わせてノリが良い一部の観客もカウントダウンを叫ぶ。





「・・・・2・・・1・・・・はい!!!」





彼の合図とともに、劇団員が檻のクロスをぱっと取り外した!


数百人の群衆の視線が檻の中に雨の様に降り注ぐ。





・・・はい・・・?





会場は”それ”を見てシーンと静まりかえった。


誰もが目の前の”それ”の意味を図りかねているようだ。


無理もない・・・・だってさ・・・





”それ”も大衆の視線に思わず首を傾げるようなそぶりを見せている。


”それ”は見られることに飽きたのか、やがて高からかに声を発した!





「・・コココ・・・コケコッコーーーーーー!!!!」




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