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神聖にして不可侵の行幸




翌日・・・





「ほら!レイナあそこが大聖堂だよ。国内で一番大きい聖堂なんだ」





ガヤガヤガヤ・・・





「この聖堂は王国が生まれる前からあると言われている由緒正しいものでね!」



「かつて、一度滅んだ世界を救ったと言われる神を祭っているんだ!」





ガヤガヤガヤ・・・





周囲は溢れんばかりの人の声で満ちている。


僕は少し大きめの声で喋ったんだけど、


それでも声がかき消されるんじゃないかと思うくらいだ。


周りの人は僕が独り言を喋っていてもまるで気にしていない。


それくらい辺りが喧騒に満ちているからだ。





ちゃんとレイナは聞こえているのかな・・・?





「レイナ・・・聞こえるかい?」





トン・・・





僕が肩からさげている防護カバンの中から軽く叩かれる衝撃があった。


どうやら聴こえているようだ。


外に出るにあたって僕とレイナはあらかじめ意思疎通のための合図を決めている。


今回の様に言葉による伝達が難しい場面なんかを想定して決めたことだ。


合図といっても基本的には僕の言った言葉にレイナがノックで答えるというもの。


『はい』、または『肯定』がノック1回。


『いいえ』、または『否定』がノック2回。


『もう一度言って』がノック3回である。





僕達は今ゴールド通りの一角まで来ている。


昨日約束した王都の観光案内をレイナにするためだ。


流石にここまで歩くのは時間が掛かるため、朝早く宿屋を出発して王都内を運行している町馬車を使ってここまで来た。


それでも宿屋からここまで1時間くらい掛かっている。





改めて王都の広さを実感してしまうな・・・


宿屋からだとそんなに遠くないように見えるのにな。





ゴールド通り周辺は昨日通ったブロンズ通りの商店街と同じく、人が溢れんばかりに存在している。


しかし、昨日とは大きく異なっている点があった。


それは往来の人種だ。


昨日は王都の一般の居住者が大半を占めていたが、今周りにいる人は貴族や商人、冒険者が大半を占めている。


その中で特に目立っているのが貴族の連中だ。


貴族は家紋付きの豪華な装飾がされた馬車で移動している。


さらに貴族の取り巻きや従者が馬車の前と後ろに随伴していて、数十人単位の団体が大手を振って通り過ぎていく。


貴族の行列は周りをはばからず、一般人の通行をまるで気にしていないかのように振る舞っていた。


彼らにとっては一般人の方が避けて歩くのが当たり前。


唯一気にする時があるとすればそれは貴族同士がすれ違う時だ。


その時は先頭の従者同士がコンタクトを取り合い、どちらが格上の貴族なのかを確認をする。


格下の方が道を譲る形になるわけだ。





みんな避けて通っているな・・・そりゃそうか





貴族の一行が通る先には綺麗な一筋の線が出来ていた。


これだけ人波があるというのに、まるで海が割れたかのような光景である。


貴族の行列に近づこうなんて人はいない。


冒険者だろうが商人だろうが、司祭様だろうがみんな避けて歩く。


貴族は地方の領主であり武力と権力を兼ね備えた存在だ。


小さな国を持っていると言っても過言ではない。


立法権と司法権こそ王家に帰属するのもの、それ以外は王家から独立しており、その地方における軍事権と行政権、徴税権を持っている。


そのような強大な権限を有しているせいか、貴族には優越意識を持っている人が多い。


彼らにとっては領民は憐れむべき対象であり、導いていくべき迷子の子羊なのだ。


そこには驕りや傲慢と言った感情はない。


そもそも同じ人間として同列に見ていないのだからそんな感情持ちようがない。


彼らにとってはそれが当たり前。


貴族の中には立派な志を持ち、ノブレス・オブリージュを体現してくれるような名君もいる。


一方で専制政治に近いことを行い、領民に高圧的な態度で接する暴君もいる。


だから、貴族と言っても中々その性格を一言で表すのは難しい。


貴族に対する一般の人たちの反応も様々だ。


封建制度自体過去の遺物だと貴族を馬鹿にする者もいれば、深い敬愛を抱いている人も未だに多い。


しかし、いずれにしろ1つ共通して言えることがある。


それは皆貴族に対しては”畏怖”を覚えているということ。


絶大な権力者たる貴族を怒らせたらどうなるのか・・・


カーラ王国の臣民はみんな直感的にそれを悟っているのだ。


この風景がそれを物語っている。





「・・・・・」





目の前の貴族の行列を僕は複雑な気持ちで見つめる。


別に人に優劣があるということについては今更どうとも思っていない。


王族・貴族に関しても日ごろ接点がある訳でもなかったし、優劣を意識する場面なんかほとんどなかった。


王族と貴族は神聖にして不可侵であり、敬うべきもの、畏怖すべきもの。


世の中そういうもんかと納得できたし、生まれについても嘆いたことはない。


貴族についてもこれまでは特に悪い感情は持っていなくて、むしろ敬愛すら抱いていた。


クレスの町の領主は民政に深く関与し、ギルドの創設や孤児院の建設など、領民に対して善政を敷いていたからだ。


他の人も現領主であるエルグランデ伯を敬愛こそすれ、憎むような感情は持っていないだろう。


しかし、ここ最近の僕は以前までと違い貴族に対してあまり良い感情を持っていない。


まあ、その大体の原因が”あいつ”のせいなんだけどさ・・・





トントントントン・・・





僕が無言で物思いにふけっていると、カバンの中から4回叩かれた感触があった。





うん・・・4回?


そんな合図決めてたっけ?





でも、こんな人目がある中でカバンを開けてレイナに聞くわけにもいかない。


仕方ない・・・一旦建物の陰に隠れるか・・・





僕はいったん手近にある建物の裏方に入っていった。


流石にブロンズ通りと違ってここは裏路地でも人通りが多かったが、


これくらいだったらカバンを開けても覗き見されることはないだろう。


僕は辺りを見回して問題がないことを確認した後、カバンのフタをそっと開けた。





「どうしたんだい?」



「すぅ・・・・・ぷはぁ!!」





開けた瞬間レイナは大きく息を吸ってそれを吐いた。


・・・息苦しかったのかな?





「大丈夫・・・?」





心配になって再度レイナに声を掛ける。





「・・・大丈夫よ。ちょっと人ごみに酔っただけだから・・・それよりどうしたの?」



「えっ?」



「急に立ち止まって、ぼうっとしてたじゃない。突然案内が止まったから驚いたわよ」



「ああ・・・」





貴族の行列を見てたら、思いのほか時間が経っていたようだ。


いけない・・・いけない。あんまり時間がないのに・・・





「ごめんごめん!ちょっと考え事してたんだ」



「続き行こうよ。どこか気になったところはある?」



「せっかく来たんだから、レイナに決めて欲しいんだ」





レイナは「そう?」と言った後、少し首を捻った。


僕は仕事の都合上何回も王都を訪れているし、ゴールド通りも見慣れている。


観光だったらレイナの興味のあるものを見てもらった方が良いだろう。


それに昨日の事もあるし、せめてこの時間だけでもレイナに楽しんでもらわなきゃな・・・





・・・昨夜、オークションへの不参加を彼女に要請した。


理由はなんてことない。


オークション会場は厳格な荷物チェックがあると踏んだからだ。


王都に入る際には招待状もあったしあっさりとパスしたけど、会場はそうはいかないだろう。


武器や危険物の類はもちろん持ち込み不可だろうし、魔法アイテムもバッドステータスの中和に関するもの以外は原則ダメだろう。


流石にそんな状況の中でレイナを連れて行ってもあっさりとバレてしまう。


彼女の身の安全を考えるのなら連れて行かないに越したことはない。





「う~ん・・・どうしようかなぁ・・・」



「正直、どれも凄くて迷うのよねぇ~・・・」





レイナはカバンの影から辺りをキョロキョロと見回しながら、唸るような低い声を出す。


そんな彼女の目は初めてきた場所に対する期待と歓喜に満ちてキラキラと輝いていた。


・・・どうやら昨日の事はもう気にしていないようだ。


当初、彼女はそこまでこのオークションに興味はないと思っていたんだけど、それは勘違いだった。


昨日この話を切り出した時にレイナは想像以上に驚いていた。


まあ、彼女の立場からしたらそれは当たり前の話なのかもしれない。


自分のバッドステータスの解呪のアイテムが出品されるんだから気にならないはずがない。


現状、僕たちの手の届かないアイテムだったとしても、それがどうなるかは見届けたいはずだ。


もうちょっと早く気づけばよかったんだけど、直前になって彼女の期待を裏切る形になってしまった。


彼女のためとはいえ、レイナには悪いことをしたな・・・





昨日の事を回想しながら、彼女の目線につられた僕は周囲に視線を移す。


辺りの建築物には精緻な技巧によって紡ぎだされた芸術作品が所狭しと並べられていた。


太陽光に反射されたそれらは堂々たる威風を伴い、道行く人へ眩いばかりの輝きを放っている。


昨日通ったブロンズ通りも幾何学的な美があったが、流石にこのゴールド通りの芸術性には到底かなわないだろう。


この通り自体が一つの芸術みたいなもんだ。


芸術家達の粋を集めた彫刻や彫像レリーフなどがあたり一面に埋め込まれている。


それこそ、建物の柱や壁面、道路の中央や街灯の柱、あるいは浮島へ渡している橋の欄干に至るまで、ありとあらゆるところにだ。


僕はカーラ王国から外の世界にはまだ出たことがないけど、これほどまでに芸術性に富んだ都もそうはないだろう。


世界各地を渡り歩いている冒険者にも話を聞いたことあるけど、やはりカーラ王都は別格らしい。





「・・・おっ!ねえ、エノクあれはなに?」





レイナはとある一カ所に目を留めると、少し興奮気味に僕に話しかけてきた。


彼女の指差す方向を見ると、高い建物が入り乱れる間に大きなテントが顔を覗かせていた。


珍しいものを見かけて、僕は一瞬なにかと思案する。


レイナが指差した方向はメインストリートから外れた裏道の先で、大きな広場がある方向だった。


広場は憩いの場として人気があるが、メインストリートと比べると人通りは少ない。


ところが今日はやけに人が多かった。


サーカスでも来ているのかな?


いや違う・・・サーカスだったら競技場を借りて上映するはずだ。


VIP達にも人気があるサーカスがあんな椅子も満足に用意されていない場所で上映なんかされるはずない。


あんな隙間でやるものと言ったら・・・





「・・・見世物小屋か」







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