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カーラ王都




馬車はゆっくりと王都の前に架けられた石の橋を渡っていく。


石灰岩でできた橋は所々苔や草が絡みついていて王国の長い歴史と共に歩んで来たのだろう。


橋の欄干には王家の家紋と思われる戦乙女のレリーフが埋め込まれていた。


鎧兜を身に着け、盾を掲げているそれは年季を感じさせると共に重厚感をこれでもかというくらい旅人に見せつけている。


これまで街道を通り過ぎていく人の数はまばらだったが橋を渡る前から急激にその数を増していた。


どうやら橋の前が王都へ向かう街道の合流点になっているようだ。


橋を渡るとその先には長い長い人の列が帯をなしていた。


さらにその先を見ると王都の市街に続いている街道の幅と同じくらい巨大な門がそびえ立っており、


冒険者の団体や商人の荷馬車などが王都の中へ外へ絶え間なく出入りしていた。


馬車が列の最後尾に着きピタリと止まると、「ガヤガヤ」と騒々しい群衆の声が辺りに響き渡る。





「凄い盛況っぷりね・・・」





私はそれらの人の山を見てぽつりと感想を漏らす。





「うん。クレスの町も中心街は人通りが凄いけど、流石に王都には負けてしまうね」





エノクはそう言って私の呟きに答えてきた。


人だかりは多いが流れていくのもまた早い。


門の前では検問をしているだろうたくさんの兵士たちが、行き交う通行人たちを迅速に処理していた。





「ごめん。レイナそろそろ僕のカバンの中に入ってくれるかな?」



「人が多くなってきたし、検問もあるからこの中を見られるかもしれないんだ」



「まあ、招待状があるからさっさと通してくれるとは思うんだけど、一応ね」





エノクが窓際に腰かけていた私に声を掛けてきた。





「分かったわ」





私はエノクにそう返事をして窓際から客車の椅子に飛び降りると、彼の横に置いてある防護カバンの中に身をひそめた。


検問があるのは最初から分かっていたことだ。


まさかカバンの中まで調べられることはないと思うけど、


もし調べられたらその時は私に人形のふりをして欲しいみたいなこともエノクには言われている。


まあ、私は今お人形さんのようなひらひらなフリルのワンピースを着ているから、理にかなっているっちゃいるんだけどさ。


意外にエノクはちゃっかりしているのよね・・・





ガラガラガラ・・・





馬車はその間もゆっくりと列を進んでいる。


空はそろそろ日が沈もうとしているが人の波は途絶える気配を見せない。


この馬車の後方にも気づくと順番待ちの行列が出来ていた。


馬車が門のある場所に近くづくにつれ、カバンの中からでも一目で分かるくらい巨大な城壁が眼前に迫ってきた。


私は立ち並ぶ城壁の姿に目をやる。


川に沿うように配置された城壁は直線ではなく少し弓なりに湾曲していて、扇形のような形状をしていた。


川底から一番高い城壁の天辺まではゆうに25メートル以上はあるだろう。


さらにそれが目視が不可能なくらいまで延々と向こう側まで続いているというから、その威容には恐れ入る。





”難攻不落の巨大都市”





そういう言葉がまさにぴったりな都市だ。


大きいとは聞いていたけどまさかこれ程とはね。


エノクが驚くと言っていた意味がよく分かったわ・・・


もちろん東京とは比べられないだろうが、それでも城壁がぐるりと都市の周囲を囲むその姿は圧巻の一言だった。


やがて周囲の様子が石の壁だけになると、馬車はその動きを止めた。


どうやら検問所に着いたようだ。


馬車を牽引していた御者が客車に姿を見せ、扉を開けてくる。





「お客さんすみません。検問所に着いたんでチェックを受けてくだせえ」





御者の人は少しフランクな感じでエノクに声を掛けてきた。


まだ、年若い青年でいかにも平民と言った井出達の人だ。





「分かりました」





エノクがそう返事をすると、御者は再び前に戻っていった。


直後、馬車は扉が開いたまま、緩やかに前進する。


扉の外に衛兵の姿が見えるところまで来ると馬車はぴたりと止まった。


辺りには長槍を構えた兵士が複数人いて、先頭の人がエノクに声を掛けてきた。


その眼光はギロリと鋭く、僅かな不正も見逃すまいという気迫を感じられる。





「よし次!身分証を提示しろ」





衛兵の大きな声が辺りに響き渡る。


エノクから聞いていたけど、王都に入るにはカーラ王国の臣民以外の者、臣民だとしても身分証を持っていない者は通行税を取られるらしい。


他国から商人や冒険者として入国している場合はそれ相応の高額の税金が課されるとの事だ。





「はい」





エノクは衛兵に促されると、懐からトランプくらいの大きさのカードを取り出して提示した。


衛兵はしばしそのカードの中身を確認している。





大丈夫かな・・・?





私はその様子を静かにカバンの中から伺っていた。


大丈夫とは言っていたけど、いざとなるとやっぱり緊張する・・・


もし調べられたらどうやって人形の振りしようかな。


目をつぶっていた方がいいかしら。


じぃ~っと見られたら瞬きするところとか見られちゃうかもしれないもんね。


それともなんかポーズをして誤魔化すとか・・・う~ん・・・


私がそうやって悩んでいると兵士は簡潔にエノクに尋ねてきた。





「王都に入る理由はなんだ?」



「オークションに参加する為です」





エノクは即答する。





「招待状はあるか?」



「これです」





エノクはそう言うとあらかじめ準備していた招待状を兵士に渡した。


再び兵士は中身を確認している。


さて・・・それじゃ私の方も一応人形の振りして待ってましょう。


男は度胸・・・女も度胸よ!


私はそう決心し、不動の姿勢を作って取り調べを待ち構えた。


しかし・・・





「うむ。本物のようだな。通ってよし。次!」





私がサボテ〇ダーのような格好で待ち受けているとあっさりと通行許可が出てしまう。


私の華麗なポーズも全くの無意味になってしまった。


この右に45°傾いた状態で不動の姿勢を保つのがどれだけ難しいのか分かっているのかしら?


心配して損しちゃった・・・


私が感慨にふける間もなく、許可が下りるとすぐに兵士の横に控えていた御者が客車の扉を閉めてきた。


そして、程なくして馬車は再びゆっくりと前進を始める。


この町を覆っている何層に及ぶ城壁は視界一面を覆っていて、それはまるで石のトンネルの様にも見える。


しかし、ややもしてトンネルを抜けた先には王都の街並みがその姿を見せてきた。


私は街並みをよく見るためにカバンからひょっこりと顔だけ覗かせた。


視界いっぱいに広がる町の風景をその目に宿しながら感嘆の声を呟く。





「わぁ・・・すごーい・・」





今日はずっと驚いてばかりのような気もするが、それもしょうがない。


私のイメージとしてはクレスの町の中心街に毛が生えた程度のものを想像していたのだけど、王都の街並みはそれとはまったく異なっていた。


簡単に言えば、クレスの町は雑然としているが、カーラ王都は整然としている。


建物の多くは屋根部分と側面を赤と白を織り交ぜた煉瓦で出来ており、窓や扉は全て等間隔で配置され、模様も左右対称を基調としている。


数学的な”美”とでも言えば良いかしらね。長方形の煉瓦造りの美しい調和を感じることが出来るのだ。


建物だけではない。その立ち並んだ姿にも美を感じることが出来る。


ここら辺りは商店街なのか大通りの両側には多くの商店が並んでいるが、露天商などはなく、通りに面した場所に商品は置かれていない。


クレスの町は外だろうが中だろうが物が溢れるように展示されていたが、王都では建物内だけに収められている。


また、建物一つ一つが巨大な建築物でありこれが等間隔できちっと立ち並んでいる。


なんというか徹底して調和を意識した街づくりをしているという感じね。


もっとも、人に関してはあまり変わってはいないようだけど・・・


私は建物から視線を移し、今度は周囲の人々を見まわした。


辺りは耳がつんざくような人々の声で溢れている。


冒険者、商人、職人、聖職者、子連れの主婦、コック、どこかの屋敷の使用人や兵士に、果ては人間以外と思われる者まで・・・


行きかう人々は様々な装いでその身を着飾っている。


異種混合の様相を呈しているのは王都だろうがクレスの町だろうがそれは変わらなかった。


もっとも、一般の人達はクレスの町と比べて裕福そうな格好をしている人が多いとは思うけどね。


王都だからやっぱりお金持ちの人が多いのかしら?


物価高そうだもんね・・・





私が王都の情景に思いを馳せている間も馬車は目の前の石畳の大通りをゆっくりと闊歩かっぽしていく。


人が多いのでぶつからないかとひやひやするが、そこは御者が上手く手綱を捌いているようだ。





「どうだい、王都の感想は。大きい町でしょ?」





私が周囲の光景に釘付けになっていた時エノクが声を掛けてきた。





「そうね。想像以上に大きさだったわ。それに綺麗な町よねぇ・・・」





私はしみじみとエノクに答えた。





「カーラ王都は王国のみならず人類が住んでいる都市でも指折りの巨大都市だからね」



「人口も50万人を超えているし、カーラ王国の文化の粋を集めた綺麗な街並みと強固な城壁」



「さらに、王国の400年を超える歴史の中で幾たびも外敵の侵入を阻止した実績から”不滅の都カーラ”の異名を持っているんだ」



「へえ・・・随分カッコいい異名を持っているのね」





だけど、それも分かる気がする。


この世界は魔法があるから一概には言えないけど、あの城壁の強固さはそう簡単に破られるものではない。


加えてこの町の華やかな雰囲気はその二つ名を取っても全然名前負けをしていない。





「ははっ、格好いいでしょ?一応僕もカーラ王国の臣民だからね。この王都は僕たちの誇りでもあるんだ」



「そうやって、褒めてもらえるのは素直に嬉しいよ」





そう言ってエノクは笑顔をこぼした後、さらに話を続けてきた。





「王都には宮殿があるのはもちろんの事、大聖堂や競技場、カジノや公共浴場、劇場や修道院といった各種公共施設も充実しているんだ」



「今回の旅は2泊3日で行程を組んでいるから、明日の昼間だったら王都の中を観光できると思うよ」



「せっかく王都に来たんだからレイナにも案内してあげるね」



「うん、ありがとう。楽しみにしてるわ」





私は頷きながらお礼を返した。


そのあと、再度町の風景に視線を移す。


それからも馬車はしばらく大通りを道なりに進んでいった。


周囲の人の声は途切れず、いくつもの商店が立ち並ぶ区画を過ぎた後、やがてとある宿屋の前で馬車は止まる。





「どうやら着いたようだね」




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