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直球(165km/h)




「はふはふ・・・」



「ふぅー・・・ふぅー・・」





私は目の前でぐつぐつ煮えている鍋料理に悪戦苦闘していた。


今日の晩御飯はオムライス。そして、豚肉のソーセージに人参・大根等の野菜を入れたポトフだった。


小人用の小皿に取り分けて貰っているが、それでも冷まさないと火傷する熱さだ。


しかし、じっくり煮込んである分野菜と肉の旨味が凝縮しており、舌がとろけるような絶品の料理に仕上がっている。





もぐもぐ・・・


あ・・・熱いけど・・・おいひい・・・






言葉にならない声を出しながら私はエノクの料理を堪能していた。


彼は長年一人で料理をしていただけあって腕も確かだし、そのレパートリーも豊富だ。


この家に来てそろそろ1ヶ月経つが晩御飯が全く同じ内容だったことは一度もない。


簡単な時はパンにキノコのスープみたいな時もあるんだけど、


そういう場合でもスープの出汁を取るのに何時間も掛けてたりと、出されるものには必ず一品趣向が凝らされている。





彼はいつも料理を振舞うと、私が食べている姿を微笑みながら見てくる。


その度にエノクには美味しいと言って返しているんだけど、どうしても私の料理の評価が気になるらしい。


さすがに食事中の姿をガン見されるのはちょっと恥ずかしかった。


恥ずかしさを紛らわせるためにセクシーなお姉さんを装って


「あんまり見つめちゃ・・・いや~ん」と彼に抗議したんだけど


世界で一番有名な某ネズミ風に「ハハッ」と言われて華麗にスルーされてしまった。


今ではもう諦めている。





ただ・・・





私は一旦食べる事を止めエノクの方を見た。





「・・・・」





今日の彼は下を向いて何かを考え込んでいるようだった。


料理は思い出したように口を付けている程度だ。


そして、時折チラッとこちらを伺ってくるのだけど、すぐにまた視線を戻すということを繰り返していた。


明らかにいつもと様子が違っている。





なんかすごい気になるんだけど・・・どうしちゃったのかしら?


料理を気にしている訳ではなさそうよね・・・





思えば昨日オーゼットさんと交渉して帰ってきた後からこちらを伺う素振りを彼は見せていた。


思い当たることと言ったらバッドステータスの治癒の件についてだ。


実はエノクからはまだ何も結果を聞かされていない。


「先にちょっと工作したいものがあるから、情報については後で話すね」と言われてそのままお預けの状態をくらったままだ。


工作の件は先ほどディバイドストーンをネックレスにしたことによって完了している。


私とエノクの胸元にはそれぞれディバイドストーンがキラリと光っていた。


この件についてはお互い了解したし、私に言い淀む事はもうないはずだ。


・・・・となるとバッドステータスの治癒に関する事しかないんだけど・・・


エノクが私に言い淀むという事はまた私にとってよくない話なのかもしれない。





「ねえ、エノク」



「うん・・・?」





私は事情を聞くべくエノクに声を掛けた。


彼は下を向いていたが、私の声に反応してこちらを向く。


相変わらず彼は難しい顔をしたままだ。





「ほら、言ってみなさい」



「え・・・!?」



「私になにか言いたいことがあるんでしょう?」





エノクは私の言葉にその目を大きく見開いた。





「・・・なんで、分かったんだい?」



「いや、分かるわよ・・・そりゃ」





何度もこちらをチラ見して、物思いに耽っているんだから気付かない方がおかしい。


エノクは苦笑いしながら私に言葉を返して来た。





「はぁ、レイナには隠せないな」



「そんなに心配しなくて大丈夫よ。いつ何言われても私はオールOKなんだから」



「・・・本当かい?」



「当たり前じゃない。私がご飯食べている時でも気軽に話しかけてきてよ」





ニコッ!


私は彼にウィンクした。


いちいち気を使われるのは好きじゃないからね。


これで少しは彼も遠慮しないで物を言ってくれるようになるといいけど。





「うん。じゃあ、思い切って聞いちゃうけど・・・」



「どうぞどうぞ、どーんと来い!」





私は熱々のポトフを口に運びながら、彼の言葉を待った。





「レイナの前世はなんで死んだんだい?」





!!!?


グホッ!





「あっあつい、あつ、あちゅい!!」





喉に熱々のポトフが引っかかった!





「うわぁ、レイナ!大丈夫か!?みず・・・みず!」





私の様子を見て、慌ててエノクが水を汲んでくる。


エノクから水を受け取った私は急いでそれを飲み干した。





「ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ・・・・ぷはぁ」



「だ・・・大丈夫?」





エノクが心配そうな顔をして私を覗いてくる。





「・・・だ、だいじょぶ・・・はぁはぁ」





私は息を切らせながらなんとかそれに答えた。


はぁ・・・びっくりして喉に詰まらすとかドジっ子か私は!


それにしても・・・





「いきなりどうしたの・・・?さすがにその質問には驚いたわよ」



「ごめん。まさか、ここまで驚くとは思わなかったよ」



「いや、まあ・・・どーんと来いって言ったのは私なんだし・・・気にしないで」





私は手を上げて彼に答えた。


ただ、それで驚くか、驚かないかと言われたら話は別だ。


なんで死んだの?なんて聞かれて驚かない人がいるのなら教えて欲しい。


彼は私が落ち着いたところを見た後、申し訳なさそうに話を続けてきた。





「実はどう聞けばいいか分かんなくてさっきから悩んでいたんだ」



「でも、これを聞かないわけにはいかなくてさ・・・」





なるほど・・・さっきからチラチラこちらを伺っていたのはどう切り出すか迷っていた訳ね。


でも、流石にあんな直球で聞いてくるのはどうかと思う。


話を切り出す順序というものがあるでしょうに。


彼の質問がいつも核心から入る事を忘れてたわ・・・





「もしかして・・・それって、バッドステータスの情報に関わる話?」



「・・・うん、流石だね。実はそうなんだ」



「昨日の話を今してもいいかい?」



「ええ・・・」





私は言葉少な気に彼の言葉に頷いた。


変な緊張が私の中に走る。


今から聞かされる話は私にとってなにか決断を迫られる話だろうという気がしてならなかった。





「オーゼットさんから聞いた話なんだけど・・・」





エノクはそう言って昨日聞いた情報を私に話し始めた・・・







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