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謎の問いかけ




「あらあら、どうしたの?そんなに落ち込んじゃって」





彼女が僕の様子を見てそんな言葉を掛けてきた。


言葉は僕を心配するふりをしているが、その態度は僕を嘲弄していることは明らかだ。


落ち込んでいるのはあなたのせいだとは口が裂けても言えない。


これが世の習い。


ある意味、いい勉強になったと言えるだろう。





「いえ・・・何でもありません。ありがとうございました」





僕は彼女にお礼を言った。


情報提供をしてくれた意味と、若干の皮肉を込めて。


・・・


そして、少し間を置いた後、彼女から意外な声が漏れた。





「へぇ~・・・・」





彼女はこちらをみて少し驚いた顔をしている。


僕からお礼を言われたことが彼女は意外だったのだろうか?


答えてくれるかどうか分からないけど、一応彼女に聞いてみた。





「・・・どうしたんですか?」



「・・・気が変わったわ」



「はい?」





彼女は不敵な笑みを浮かべたままだったが、先ほどよりは幾分か言葉に険が無くなっていた。





「話してもいいわよ・・・もっといい情報を」



「えっ!?急にどうしたんですか」





先ほどまでのやり取りを考えたら驚きの返事が相手から返ってきた。





「坊やの事少し気にいっちゃったわ」



「いつもならこれで、”はいさよなら”なんだけど、坊やになら条件次第では”本当の情報”を教えてあげてもいいわよ?」



「ほ・・・本当ですか!」





思いもかけない彼女の提案に僕はテーブルに身を乗り出して反応した。


僕にとっては天から降ろされた蜘蛛の糸のような話だ。


彼女の言葉に反応せざるを得なかった。


しかし、彼女はそんな僕の態度を冷静に言葉でけん制してきた。


その言葉には一切の抑揚がない。





「落ち着きなさい。”条件次第”と言ったでしょ。まだ、話すとは決めてないわ」



「・・・・」





僕は大きく息を吸ってゆっくりとそれを吐いた。


そうだ・・・落ち着くんだ。


せっかく相手がくれたチャンスなんだ。


これを逃すわけには行かない。





「それで、条件とはなんですか?」





僕は努めて冷静に聞くと、彼女はニヤリと笑って、言葉を口にしてきた。





「ふふふふふっ・・・・私の”正体”はなにかを当てることよ」



「・・・正体ですか?」





正体・・・?


本名を当てるとかそういう事を意味しているのだろうか?


その事を尋ねようとしたら、彼女に手のひらで制された。





「質問は一切受け付けないわ」



「答えられるのも一回だけ。よく考えることね」



「・・・・」



「・・・ふふっ、もっとも考えても無駄だろうけどね」





彼女はそう言って余裕の態度を崩さなかった。


僕が答えを出せない事に彼女は相当な自信があるようだった。





「ただ、条件がこちらに有利すぎても面白くないわね・・・」





そう言って彼女はしばし思案をした後話を続けてきた。





「そうね・・・もし”万が一”でも答えを当てることが出来たなら」



「坊やにはご褒美としてお金を返してあげましょう」





・・・・!!!





「いいんですか!?」



「”万が一当てることが出来たら”よ」



「それにあんなの私にとってははした金に過ぎないもの」



「はした金・・・ですか?」





僕にとっては給料5か月分の大金なんですが・・・


彼女にとってははした金に過ぎないらしい。


あらためて、冒険者というものが儲かる職業だと僕は感じてしまう。





「それならなんで僕の依頼を受けたんですか?」



「あなたにとってはメリットがほとんどないと思うんですけど・・・」





僕は疑問に浮かんだことを彼女に聞いた。





「あら、また質問?」



「なんでもかんでも根掘り葉掘り聞いてくる男は嫌われるわよ坊や?ふふっ・・・」



「あっ・・・その」





まいったな・・・


条件反射的にどうも疑問に思ったことを聞いてしまうんだ僕は・・・


しかし、今の彼女はそんなに嫌そうな感じにも見受けられなかった。


先ほどは明らかにこちらを威嚇してきたような態度をとっていたが、今はちょっと意地悪なお姉さんという感じだ。


いずれにしても、近づきがたい人ではあるんだけど・・・





「でも、まあいいわ。それに関しては答えてあげましょう」



「依頼を受けたのは坊やに”興味”があったからよ」



「興味ですか・・・?」





興味って何の話だ・・・?


僕と彼女はまるっきり接点が無いはずなんだけど。





「あなたはこの町だと割と有名人らしいじゃない」



「工房ギルドきっての天才少年がいるというもっぱらの噂よ?」



「この町に着てまだ間もない私が聞いたくらいなんだもの、噂の広がりは相当なものだわ」





そこまで噂が広がっていたのか・・・


僕としては魔法技師の間だけだと思っていたんだけど、冒険者にも噂が伝わっていたらしい。


まあ、親方が有名人だというのもあるのかもしれないけど。





「そうしたら、冒険者ギルドに”噂の張本人”から依頼が来ているっていう話を聞いてね。興味が出たってわけ」



「なるほど・・・そういうことだったんですか」





僕は彼女の言葉に頷いた。


少しはギルドメンバーとして活動してきた甲斐があったようだ。





「少しは感謝してもらいたいものね・・・私はLv50を超えている冒険者なのよ?」



「あんな金額の依頼を受けること自体凄い稀な事なんだから」





いや、そんなこと言われても、肝心の情報があれじゃあ全然ありがたみはないんだけど・・・


僕は思うところがあったが、ここは素直にお礼を言っておくことにした。





「・・・それはありがとうございます」





しかし、同時にやはりという感情も僕の中で駆け巡った。


やはり彼女は只者じゃなかった。


持っている雰囲気といい威圧感といい、並みの冒険者ではないと思っていたが、まさか熟練の冒険者だとは思わなかった。


Lv50を超えている冒険者への依頼は法外な料金がかかる。


彼女からしたら確かに10万クレジットなんてはした金もいいところだろう。


逆に言えばそんな彼女からちゃんと話を聞くことが出来れば、僕にとっては大きなチャンスになるかもしれない。


ちゃんと答えられるかは望みは薄いけど・・・





「私は明後日には王都に発たないといけないから、明日までは答えを待つわ」



「ま、せいぜい頑張って一晩考えることね坊や、ふふっ・・・」





そう言って彼女は燃えるような琥珀色の瞳を僕に向けてその目を細めた。


それは傲岸不遜にして婉前たる彼女を表しているような瞳だった・・・







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