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富と権力と力




・・・


しばし考えて彼女の言葉の意味を探ろうとしたが、答えは出なかった。


しかし、彼女はそんな僕の態度は気にも留めていないようだ。


こちらには構わず紙ぺら一枚と万年筆を出して来た。





「じゃあ、これにサイン頂戴」



「情報提供の証としてギルドに提出しないといけないから」





ギルドへの情報提供の報告書のようだ。


依頼人がサインをする欄が明示されている。


しかし、今はサインするわけにはいかない。


このままだと流石に意味が分からなかったので僕は彼女に訊き返した。





「ちょっ・・・ちょっと待ってください!」



「どういう意味ですか!?聞いたことないんですけど今の話!?」





僕は思わずその場を立ち上がり、若干激しい口調で言葉を発した。


しかし、彼女はそれは事も無げに受け流し言葉を返して来る。





「あら?とっかかりになるような話をしたつもりなんだけど?」



「まだ、何か情報が必要なのかしら?」





凄いあっけらかんとした態度だった。


この人は・・・!!!





流石に彼女の言い分に僕は切れそうになった。


ハッキリ言ってこんなのは彼女の作り話もいいところだ。


僕もバッドステータスの中和に少なからず携わってきたが、魔女の話なんか聞いたことがない。


もし、本当にそんな魔女がいるのなら世間にとっくに知られているはずだ。





「取っ掛かりも何も、こんなのあなたの作り話じゃないですか!?」



「こんなの情報でもなんでもないですよ!!」





僕は再度彼女に詰め寄る。


しかし、彼女は不敵な笑みを崩さず、クククと笑ったままだ。


僕の反応が楽しくてしょうがないようだ。





「なにがおかしいんですか!?なにか変な事言ってますか僕は!?」



「ふふふっ・・・・まだ分からないの?坊や」





そう言って前置きをした後、彼女は話を続けてきた。





「”これが”坊やが支払った金額に相応しい情報だという事よ」



「最初に言ったでしょ?デマを掴まされるのが落ちだって」



「それに坊やは情報の質は問わないんじゃなかったのかしら?」



「そ、それは・・・」





確かに僕はそう言った。


でも、こんなのが情報だなんて僕は認められなかった。


妄想と情報は全く違う。


妄想はその人の頭の中からしか出てこないが、情報は情報の元となるソースが必ず存在するはずだ。


だったら、彼女に聞いてみればいい。何からその情報を得たのかを。





「それなら一つお聞きしたいんですが・・・」



「情報には必ず情報の元となるソースがあるはずですよね?あなたは何からそれを知り得たんですか?」



「まさか”自分自身”だとは言わないですよね・・・?」





流石にこの質問は彼女も困るだろうと僕は思った。


ところが、彼女は相変わらず、余裕を崩さない態度で意外な回答をしてきた。





「当然他人から得た情報に決まっているじゃない」



「他人から得たことについては間違いなく保証するわ。なんなら、嘘を判別する魔道具を使ってもらっても構わないわよ?」



「それでもし嘘だったら、私の身体を好きにしてもいいわ。ふふっ・・・」





え・・・?


流石にこれは予想外の回答だった。


魔道具の真偽の判定は非常に高い精度を誇っている。


もし、彼女が嘘を付いているなら、こんなことを言うのは墓穴を掘ることに他ならない。


つまり、彼女は本当の事を言っているという事か・・・?





「まだ、納得してないようね」



「しょうがないから大サービスでもう少しだけ、お話をしてあげようかしら」





そう言って、さらに彼女は話を続けてきた。





「本来あるべきはずなものを持っていなかった3人の者達が西の魔女を倒してそれらを得ることが出来た」



「私はそういう話をある人から知ったわ」



「バッドステータスは本来持ち主が持っている能力に対してのアンチスキル」



「だったら、この話はバッドステータスの治癒に通ずる話だと思わない?」



「・・・・」





僕はその話を聞いて少し考えた。


彼女の言い分も理にかなっているところがないわけではない。


だけど、まだ引っかかるところがいくつかある。


彼女がどう取り繕ったところでこの話に真実味がないのは確かなのだ。


人に聞いたことが確かだったとしても、その内容が真実だとは限らない。


僕は頭に浮かんだ疑問点について彼女に聞くことにした。





「もう二つ程聞きたいことがあります」



「あなたはそれを本当の話だと思っているんですか?また、誰からその情報を知ったんですか?」





僕はまくし立てるように彼女に質問をした。





ヒュン!!!!!





しかし・・・その直後


彼女は僕を牽制するかのように、恐ろしいスピードで右手の人差し指を僕の目の前に突き立ててきた!


その余りの速さに僕は度肝を抜かされた。





速すぎて全く見えなかった・・・・





そして、彼女は身も毛もよだつような威圧感を秘めた声で僕に話しかけてきたのだ・・・





「チッチッチ・・・」



「駄目ね・・・坊や。なんでも人に聞けば教えてくれると思っちゃ大間違いよ・・・?」



「情報はね・・・・・”ただ”じゃないの。欲しいのならそれ相応の見返りを出しなさい・・・」



「この話の続きを聞きたいのなら、そうね・・・20万クレジットで承るわよ、ふふっ・・・」





彼女は口こそ笑っているが、その目は全く笑っていなかった・・・





「・・・は、はい。すみません」





僕はそのあまりの迫力に頷くしかなかった。


下手な事を言おうものならそのまま彼女に捻り潰されそうな圧倒的な威圧感がそこにはあった。


僕を殺すなんて彼女からしたらたぶん赤子の手を捻るより簡単なのかもしれない・・・・


しかし、彼女は僕が頷くと同時に、一転して今度は柔和な笑みを浮かべてきた。





「うん♪良い子ね坊や、理解が早くて助かるわ。じゃサインよろしく~」





彼女は先ほどまでとは別人のように、おどけた感じで僕に話しかけてきた。


僕は彼女に言われるままに報告書に自分の名前をサインして、彼女に渡した。


これは仕方ないだろう・・・


ほぼ間違いなく偽物だろうが、一応情報らしきものは話してもらったのだ。


質は問わないといった以上こうするより他にない。


それに、これ以上粘ってもいろんな意味で良いことになりそうになかった。





「はい、ありがとう。これで依頼完了ね」



「・・・・」





彼女は僕からの報告書を受け取ると、満足そうな顔で僕に言ってきた。


だが、僕としては最悪の結果だった。


ハッキリ言って空振りも良いところだ。取っ掛かりすら掴めていない。





「はあ・・・・」





僕は自分の不甲斐なさに思わずため息をついてしまった。


あの10万クレジットは一体何だったんだろう。





こんなんじゃレイナに顔向けが出来ないよ・・・





少しは予想していたとはいえ、現実は甘くはなかった。


僅かな僕の期待も容易に裏切ってくる。


結局は世の中金を多く持っている者が得をし、権力を持っているものが世を動かし、強さを持っているものが戦場で生き残る。


弱者は強者にいいように操られるだけ。それを拒めば、蹂躙されるのが落ちだ。


僕は何一つとして力を持っていなかった。




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