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とある魔法技師見習いの日常①




僕の目の前には轟轟と唸る火柱が立っている。


そこはまさに新たな生命が生まれる場所。


魔法技師の僕たちにとってはそういう神聖な場所である。


僕はいつもこの光景に見惚れてしまう。


魔法石の元となる魔鉱石が目の前の高炉にくべられ、しばしの間鉱物が溶解するのを待っている。


僕はこのわずかな時間が堪らなく好きだった。


自分と火との対話。はては自分と魔法技師の在り方についていつも考えさせられる。


そして、自分が自分らしさを感じられる時間でもあった。


自分は今最も尊い業務に従事しているのだと。


新たに生まれてくる生命を祝福するために僕は今いるのだと。


そう、自分を確信させることができるのだ。





「・・・・・」



「おい、エノクぼさっとしてんな!!高炉からモノが上がったら一気に畳みかけるぞ!」



「はい、親方!!すみません!!」





親方の大きな声が作業場に響き渡る。


僕も含め数名の人間が高炉の前で槌を持って身構えている。


この槌は魔法の槌であり、叩いた対象に魔法効果をピンポイントで発動させることが出来るものだ。


火から上がった魔鉱石は純粋な魔力結晶体に変わって出てくる。


魔力結晶体は空気中のマナとの相性が悪く、時間が経てばたつほど不純な魔力が中に流れ込んでしまう。


その為、魔法石として完成させるためには、魔力結晶体に流し込みたい能力を素早くたたき込み、


外界の魔力が流れ込まない様に表面を魔法でコーティングする必要がある。


まさに時間との勝負だった。





「・・・・よし、モノがあがったぞ!打て!!」



「・・・・・!!」





親方の合図とともに、僕たちは全身全霊の魔力を込めて槌を打ち込んでいった・・・・









「・・・・よし!無事に作れたようだな。合格だ!!」





ふぅ・・・と周りから安堵のため息が漏れた。


親方の検品になんとか合格した様だ。


僕も内心ほっとした・・・


あらゆる作業工程の中で魔法石の製錬が一番疲れるからだ。





「お前たちご苦労だったな!今日はもう上がっていいぞ」



「はい!!ありがとうございました!」





親方のその言葉に僕たちも元気よく返事をした。


今回の様に魔法石の製錬をやる際には、一際気合が入るというのもあるだろう。


皆の返事もいつもより声が張っていた。


しかし、挨拶が終わると皆途端に脱力感に襲われているようだ。


他人と雑談する余力も残っていないようだった。


皆めいめいにその場から去って行っている。


僕も仕事が終わってほっと一息ついた。


ただ、疲れはしたが達成感と充実感がある。





・・・





しばし、その余韻に浸っていたが、気付くと親方以外は皆いなくなっていた。


僕もそろそろ帰ることにしよう。


・・・今日の夕飯は何を買って帰ろうかな。


そう僕が思案を巡らせてたとき、親方から声がかけられた。





「おう!エノクちょっと今時間いいか?」



「はい。なんでしょうか?」





何か僕に用があるのだろうか。しかし、内容の見当がつかない。


僕は親方に呼ばれると、その前まで行きかしこまった。


その状態のまま僕は親方の顔を伺う。


親方は頭にゴーグルを付けて、シャツ一枚に厚手のズボンを着るというシンプルな服装をしている。


その体は筋骨隆々であり、本人の豪快さも相まって親方はとても大きい人に見えた。





「おいおい!なんだ!そんな畏まんな!」



「そんな辛気臭い話をするわけじゃねえんだぞ!ガッハッハ!」





親方がバン!っと僕の背中を叩いた。


かなり痛い・・・





「いえ、なんかすみません。これはもう僕の癖な様なものでして・・・」



「相変わらずだなおめぇは!まあ、そんなお前も嫌いじゃないけどよ」





親方は後腐れなくこういう事を言う人だ。


もう、親方とは長い付き合いだが、この性格はずっと変わらない。


そして、僕もそんな親方と接するとき一歩引いた態度をとることも変わらない。


親方と僕はそんな間柄だった。


別に親方の事を苦手としているわけじゃない。


それどころが彼の事は大好きだし、小さいことなんかすべて吹っ飛ばすような彼の豪快さに僕は憧れもしていた。


将来は親方のような人物になりたいとさえ思う。





親方の名前は”ブラッドフォード・ガング”という。


ここ”ガングマイスター工房”の主人であり、たくさんの職人と見習いを抱えている魔法技師の大家だ。


この町では二人しかいない<マスター>の称号を持つ魔法技師でもある。


親方はなにかと僕を気に掛けてくれる。


まだ小さかった僕を魔法技師見習いとして採用してくれただけじゃなく、彼の持っている技術を惜しむことなく伝授してくれる。


さらには生活に困らない様にと条件付きで工房ギルドのメンバーにも推薦してくれた。


おかげで僕はギルドから依頼を受けて、報酬を受けることも出来るようになったし、ギルドのメンバーとしてある程度の認知度を得るにも至った。


小さいころに両親を亡くし、身寄りのなかった僕にとって親方は第二の親ともいえる存在だ。


だけど・・・だからこそ、僕にとっては近寄りがたい存在だった。


彼に失礼な態度は取れない。


親方は「もっと気楽に接してこい!」と言ってくれるのだが、僕にはどうしてもそれが出来なかった。


たぶん、今後もそうなんじゃないかと思う・・・


そんな僕に親方が話を続けて来た。





「話っていうのはな・・・お前”オークション”とか興味あるか?」



「オークションですか?まあ、無いわけではないですけど・・・」





親方とオークション・・・・全然繋がりが見えてこない。


なんか興味がそそられた魔法アイテムでも出されるのだろうか。


僕がパッと思いついたのは”例の”オークションだが、まああれは届かない夢だ。


それ以外となると、なにがあるのだろう。


僕には見当がつかなかった。





「実はこの間”アザゼルギルド”に招待状が届いてな」



「来月の初旬に王都で開催されるオークションへの参加要請だったんだ」



「推薦でうちからも2名出せるらしい」





”アザゼルギルド”というのは僕たちが所属している工房ギルドの名称だ。


クレスの町には民間の工房ギルドが2つあり、その内の一つがアザゼルギルドだった。





「ギルドの会合でうちの工房から2名とも派遣することが決まってな」



「誰を送り出すか、考えていたところなんだが・・・・」





そこで親方は僕の方をチラっとみた。





「そこで考え付いたのがお前って訳よ!どうだ!興味ねえか!?」





親方がルンルンと期待した目でこちらを見てくる。


僕を送り出したくて仕方がないようだった。


その気持ちはとってもありがたい。


僕も後学の為そういう場に参加すること自体には興味がある。


でも、今の僕にはほとんど持ち合わせがなかった。


たぶん行ったところでただ見て帰ってくるだけという感じで終わるだろう。


それだと親方に申し訳ない気がする。


ここは素直に事情を話そう。





「ごめんなさい。実は今ある事にほとんどお金を使っちゃって、参加してもただ見学するだけで終わると思います」



「せっかく親方に推薦してもらっても、そんなんじゃ親方の顔に泥を塗るだけだと思いますが・・・」





僕は申し訳なさそうに親方に事情を話した。


親方は一瞬キョトンとした顔でこちらを見てくる。


だが、すぐに大口を開けて大笑いをしてきた。





「ハッハッハッハ!!そんなこと気にしてたのか、おめぇは!?」



「そんなこと全く気にする必要はねえぞ!楽しんでくりゃそれでいいんだよ!」



「第一泥なんか塗られても、俺が泥を食っちまうわ。ガハハハハハハ!!!!」





親方は僕の言ったことを全く気にしてないようだった。


・・・こういう姿の親方に僕は何回助けられただろうか。


彼の豪快な姿を見ていると、僕の考えている悩みがちっぽけなものに見えてくる。


親方は身体も器もとても大きい人だった。


親方はひとしきり笑った後、さらに言葉を続けてきた。





「それにな…今回の招待状は所詮は向こうの”数合わせ”よ」



「招待してきた連中はこちらが落札をすることを”これっぽっち”も期待してないだろうからよ」



「・・・期待していないんですか?」





僕は思わず疑問を口にした。


オークションへの参加を呼び掛けておきながら、落札を期待してないって変な話だな・・・





「ああ。額が額だからな。一般人にはとても落札できる代物じゃない」



「俺たち職人だってそれは例外じゃない。あんなもの落札出来るのは商人ギルドの連中か、一部の冒険者くらいだろうさ」





え・・・もしかしてそれって・・・


僕は頭に浮かんだ疑問を聞かずにはいられなかった。





「すみません。それってオークション対象はなんでしょうか?」



「ああ、なんでも”神話の魔法アイテム”って言っていたな。エノクもきっとびっくりすると思うぞ?」





!!!!!





「・・・まあ、どうしても嫌だってんなら、無理にとはいわな・・・」



「行きます!!!」





僕はそう力強く宣言した。


その時の面くらった親方の顔が印象的だった。







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