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神話の魔法アイテム




私達がギルドの外に出ると既に大分日が沈んでいた。


通りに等間隔で設置されている街灯があたりを照らしている。


もちろん、それらの街灯は電力ではなく、なにかの魔力によって動いているのだろう。


あたりを見回すと人の姿もかなり減っていた。


皆帰宅の途につきはじめたのだろう。


私達の後に続いてアモンギルドから出ていく人も多くみられる。





「・・・・はあ、なんとか終わった」





エノクがほっと息を漏らした。


ギルドへの依頼が済んでとりあえず一安心と言ったところかな?


依頼自体はかなりすんなりと受託されたと言っていいと思う。


面倒なことでも聞かれると思ったが、流石に相手もプロなだけある。


黙々と事務処理だけしてくれたのはこちらも助かった。


バッドステータスの治癒の情報提供なんて、普通に考えたら頭おかしい人の依頼だと思われるかもしれない。


なにか突っ込んでくるかと思ったが、こちらの依頼内容をそのまま聞き取って、そのまま掲示するだけというスタンスを貫いてくれた。


まあだからこそ、ギルド側も情報の内容に干渉してこない代わりに、保証もしないというスタンスなのだろう。


おそらくこちらがどんなに依頼料を高く設定しようがそれはかわらない。


あくまで自分たちは情報提供の場を設けているだけ。揉め事などは当人同士で解決せよということだ。


依頼に対しては自分たちは直接の被害を被らず、金だけは確実に搾取する。


なにか問題があったとしても、それはギルドの問題ではなく、冒険者の問題にすり替えられるという訳だ。





なるほど、”冒険者が居るところはいざこざが絶えない”・・・か


良くできたシステムね・・・感心するわよまったく。


ある意味冒険者もギルドの被害者としての面があるのかもしれない。


もっとも、同情はしないけどね。


だからこそ報酬も高いのだろうし。


それに私達もそれの被害にあう可能性だってあるのだ。


良い冒険者に当たることを祈るしかないわね・・・





「・・・・あっ!」





どうしたのだろう・・・エノクが急に声を上げた。





「・・・・ん?どうしたのよ」





私はエノクにカバン越しに尋ねた。





「・・・あ、ごめんレイナ。ちょっと見ていきたいものがあるんだけど、寄り道していいかな?」



「別にいいけど、なに・・・?」



「うん。ちょっと面白そうなものを発見してね・・・」





そう言うなり、彼は何かに惹かれるようにそちらに向かって歩き出した。


また、何か彼の関心を惹いたものでも現れたのだろうか・・・彼の足取りはいつもより速かった。


早く目的のものを確認したくてしょうがない感じだ。


私は物思いに耽るのを止め、彼が興味が惹かれているであろうものへ視線を向けてみた。





掲示板・・・?





それは非常に大きな掲示板だった。


掲示板の一番上には”ギルド街総合掲示板”という文字が彫られた金色のプレートがあり、その下には紙がわんさかと貼られていた。


各ギルドからの依頼情報や直近のニュース、様々な告知といったものが山のように溢れているようだ。


アモンギルドの中にも掲示板はあったがそんな比ではない。


この掲示板は大通りからちょっと外れた広場にあるのだが、その広場を端から端まで占有している。


それこそ、ギルド街に所属しているすべてのギルドがここに何らかの掲示をしているような感じである。


エノクが興味を惹かれたのはこの掲示板の中の何かの情報だろう。


というか、それしかない。





彼は”総合掲示板”のある場所で止まり、そこにある掲示物を眺めると感嘆の声を上げた。





「うわぁ・・・・すごいな」





凄い?


一体何を見ているのかしら・・・?





私も気になって、彼の視線にあるものを探ってみた。


エノクが見ているのはあれかしらね?


これでもかというくらいデカデカと見出しが書かれた貼り紙がある。


たぶん間違いないだろう。


えーと・・・なになに・・・





”神話級魔法アイテムのオークションを来月開催!!!!”





神話級の魔法アイテム?


私はその掲示物の中身を読んでみた。





_________________________________________________________




◇神話級魔法アイテムのオークション情報◇




開催場所:

カーラ王都 ゴールド通り 1番地 

商人ギルド連盟会館 地下1F 競売広場


開催日時:

カーラ王国歴 435年 7月7日 18:00


主催者:

カーラ王国 王家、商人ギルド連盟


参加条件:

王国に認可を受けたギルド加盟者であり、ギルドから推薦を受けた者。

または、1000万クレジットの競売参加料を支払った者。


落札前提条件:

落札ギルド(もしくは落札者)は以後10年間カーラ王家に対し、

その毎月の収入の1割を納付すること。




競売品:



◆ロット№1:魔法の薬

出品者:アモンギルド

効果:30分間だけMPを500にする。

最低落札価格:1億クレジット



◆ロット№2:アムブロシア

出品者:ベレトギルド

効果:20分間だけMPを1000にする。

最低落札価格:10億クレジット



◆ロット№3:ネクタル

出品者:アミーギルド

効果:10分間だけMPを2000にする。

最低落札価格:50億クレジット



◆ロット№4:賢者の石

出品者:マルバスギルド

効果:5分間だけMPを5000にする。

最低落札価格:100億クレジット



◆ロット№5:ホーリーグレイル

出品者:バエルギルド

効果:???(測定不可)

最低落札価格:500億クレジット



◆ロット№6:知恵の実

出品者:カーラ王家

効果:???(測定不可)

最低落札価格:1000億クレジット




※詳しくはお近くの商人ギルド連盟加盟ギルドまで!!



__________________________________________________






うわぁ・・・なんというか動いている額がヤバいわね。


もう、私たちの世界とは別世界というかなんというか。


一般人はもう落札することはおろか、立ち入る事すら出来ないって感じ・・・


でも神話級のアイテムっていう割には効果はMPを特定の数値にするっていう地味なものなのね。


もっと凄い効果があると思ったんだけど。


それこそ一定時間無敵になるとか、大いなる能力を得るとか。


もっと派手な効果があると思ったんだけど、なんか意外・・・


でも、オークションの金額とかを見る限りこれらが凄まじい価値があることは一目でわかる。


私はエノクの方をちらっと見た。





「・・・・・」





キラキラキラ





うわぁ・・・目が輝いちゃっているわね。


なにがそんなに面白いのかしら。


魔法技師としてはこういう神話級の魔法アイテムに憧れるものなのかしらね?


よく分からないけど・・


邪魔しちゃ悪いから、気の済むまでそのままにしておいてあげよう・・・







私はしばし、その状態のまま待っていた。


手持無沙汰になった私は他の掲示物を見て暇を潰すことにした。


どうやらここら辺りは各ギルドの競売に関する情報が載っている欄の様だった。


貼られている掲示物を見ると”落札”という文字がそこかしこに見られる。





ふ~ん・・・なるほど色々なものが競売として取引されているのね。


どれもみんな最低落札価格が高いものばっかりだわ。


正直どれも手が出ないわね・・・





あら・・・?





私はとある競売だけ最低落札価格が割と低いものを発見した。





_________________________________________________



◆不動産競売



競売方式:入札制



開催場所:クレスの町 ゴールド通り33番地 ベレトギルド本部


開催期間:カーラ王国歴 436年 12月31日 17:00 まで


主催者:ベレトギルド


落札条件:開催期間終了までに最も高値を付けた者に落札




落札対象物件:クレスの町 シルバー通り254番地 


最低落札価格:200,000クレジット



※入札の際にはベレトギルド本部まで申告の事。


____________________________________________________






へぇ・・・・こういうお得な物件もあるのね。


不動産の癖に、こんなに安いなんてなんかいわく付きなんじゃないの?この物件・・・


それか立地が悪いか、凄いおんぼろだとか。


まあ、あんまり関わらないほうが良いと思うけど。


その時エノクから私に声が掛かった。





「ごめん。待たせちゃったね・・・行こうか」



「うん。気にしないで、別に大丈夫よ」





どうやら、十分堪能した様ね。


エノクは満足そうな顔をしている。


そして、いつもより饒舌な感じで私に話しかけてきた。





「いや~凄かったね、あれ!見た?あの神話のアイテムたちを!!?」



「ああ、あれね・・・見たわ」





うん。見た。そして、超高かった。


私の中のイメージとしてはそれだけだ。





「正直あれだけ、神話の魔法アイテムが集まるところなんて見たことないんだよ!!」



「ああ、落札は無理でも、オークションだけでも見に行けたらなぁーーーー・・・」





あら、また目が輝きだしちゃった。


そしてすぐに落ち込んじゃった。


なんか、忙しいわね。


フフッ…まあ、見てて楽しいけど。


そうだ、せっかくだから彼に聞いてみるか。





「ねえ、あの神話のアイテムってそんなに凄いものなの?」



「凄いよ!凄いなんてもんじゃないんだ!!」



「魔術師や、魔法技師にとっては生涯に一度お目にかかれるかどうか分からないくらい凄いものなんだよ!!!」





うわっ!いきなり来た。


なんていうか今のエノクはハイテンションモードね。


こんだけハイな彼は見たことない。





「でも、MPをある一定の数値にする程度なんでしょ?能力や普通の魔法アイテムでも上げることは出来るんでしょ?」



「とんでもない!!そんなこと普通は出来ないんだよ。出来るとしたら、こういう神話の魔法アイテムだけさ」



「え・・・そうなの?」





この情報は初耳だった。


ステータスの向上は補助魔法で出来るし、MPもそうだと私は思い込んでいた。





「ステータスの最大MPだけはね。レベルの上昇以外で挙げることは出来ないんだ。」



「魔道具や、能力を使っても最大MPだけは”不動”なんだよ。それはあのバッドステータスでさえ例外じゃないんだ」



「でも、その”唯一の例外”がこの神話の魔法アイテム達なのさ。これは使えば人間が到達できない能力を使う事さえ出来るかもしれないんだ!」





そうだったんだ・・・


そこで私は以前疑問に思っていて、エノクに聞き忘れていたことを思い出した・・・


よく考えたら私はバッドステータスでステータスの値が1/10に縮小しているにもかかわらず、MPだけはもとの”5”のままだったのだ。


あれはつまりこういう事だったのだ。


MPだけは状態異常の影響を受けていなかったという事ね。もっと早くに気付くべきだった・・・


でも、これで合点がいったわ。


神話のアイテムを皆が欲しがるわけね。


私はエノクの言葉に頷いた。





「エノクのいう事分かった気がするわ。そりゃみんな欲しがるわけよね」



「あっ!分かってくれた♪そうなんだよ。だから、みんな一度はお目にかかりたいと思っているはずなんだよ~」





エノクは相変わらずハイテンションなままだ。


まずい、このままだとあれを伝える機会を逸しそうだ。


私は少々強引に彼を呼び止めた。





「ねえ!エノク!!」



「えっ…な、なに・・急にどうしたんだい・・・レイナ」



「ごめん!言いたいことがあるの・・・」





・・・


私は深呼吸して一言息を吐いてからエノクに続きを話した。





「さっきのギルドの事。私絶対忘れないからね」



「え・・・ギルドの事・・・ってなに?」



「ありがとうね・・・・」



「え・・・・・レイナ?」



「ありがとう」



「・・・・うん」







私達はそのまま帰宅の途に就いた。


ギルドへの依頼は無事に成功したものの、結果はどうなるかはまだ分からない。


1週間後に依頼は公布されるが情報に関しては正直言ってあまり期待できそうにない。


しかし、例えそれがどんな情報だったとしても私は後悔しないだろう。




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