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ギルドへの依頼




鉄格子で仕切られた窓口から男の声がしてきた。


私が男の方を見ると、オールバックの丸渕の眼鏡を掛けた男がエノクの方に顔を向けていた。


その顔は無表情そのものであり、何を考えているのか全く分からない。


底が知れない雰囲気を漂わせている。





「あの、ギルドへの依頼をしたい者なんですが・・・」





エノクが目の前の男に対して依頼を口にする。


声色から若干の緊張があることを感じられた。





「ご依頼ですか・・・当ギルドをご利用いただき誠にありがとうございます」





そう言った後、男は慇懃に一礼をした。


しかし、その顔は全く嬉しそうじゃない。


愛想笑いくらいしなさいよ。


某ファーストフード店だったら、失格ねこの人・・・


男はそんな私の思惑とは裏腹に何事もなかったように続けてきた。





「・・・ご依頼内容をお伺いしてもよろしいでしょうか?」



「あ、はい。えーとですね・・・・・・」





エノクがそれに対してゆっくりと依頼内容を話し始める。


依頼内容は当然バッドステータスの治癒の方法についての情報提供だ。


男はエノクが依頼内容を話している間も全く表情を崩さずに聞いていた。


ここまで来ると感心さえしてしまう。





・・・ある意味これが本当のプロフェッショナルなのかもね。





依頼内容は分かっていたので、エノクが話している間に私は周囲を見回してみた。


このバッグは小さな穴が所どころ開いており、外の様子を伺うには都合が良い。


当然エノクに細工をお願いしたからではあるが。





窓口はここも含め全部で4つあるようだ。


それぞれの窓口は全て依頼人ないし、冒険者への対応を行っている最中だった。


エノクの後ろの方を見ると既に何人かの人が並び始めている。


どうやら、順番待ちをしているようだ。


私達は結構ラッキーな方だったらしい。


まともに並んでいたら、結構な時間待たされていただろう。


今度は窓口の両端に視線を向けてみる。





・・・!!





私は一瞬自分の目を疑った・・・


そこには天を衝くような偉丈夫が場に睨みを利かせていたのだ。


それこそ身長4m以上ありそうな大男達だ。・・・たぶん男だろう。


それぞれ斧と槍を持ち、フルプレートで身を包んでいるのでその顔の中を伺い知ることは出来ない。


圧倒的な威圧感で場を支配していた。


ちょっとでもおかしな真似をしようものなら、一撃のもとに切り伏せられるだろう。


その存在感はまさに、巨人。まさに、ガーディアンであった。





・・・うひゃぁ・・・でっかっ!


何あの人たち・・・あんな山のようにデカい人が存在していいの?





存在しているからこそ、ここは異世界なのだろう・・・


地球だったら、彼らならギネス記録は余裕だろう。


私は改めてここが地球とは違う世界なのだと感じざるを得なかった。





「なるほど・・・要件は承りました」





窓口の男が声を発したので私はそちらに視線を戻した。


どうやらエノクの説明が終わったようだ。


男はさらに話を続けてきた。





「・・・今回のご依頼は情報提供という事ですので、依頼料は最低100,000クレジットからになります」



「我々ギルドは1割の手数料をいただき、残りの分を冒険者の皆様にお支払いする形になります」



「それを踏まえ、冒険者の皆様が手に取りやりすい金額になる様に依頼料をご提示ください・・・」





クレジットはこの世界の通貨を表している。


ここ”カーラ王国”と周辺7か国で流通している通貨だ。


人間社会においては主要な通貨の一つであり、信用力も高いらしい。


ちなみにパン一個で大体10クレジット。


そして、魔法技師見習いの毎月の平均給与が20,000クレジットだという。


それを考えると10万クレジットはかなりの大金である。





エノクそんなお金あるのかしら・・・・?





「・・・・それじゃあ、10万クレジットでお願いします」





そう言ってエノクは財布から金貨10枚を取り出し、窓口に提出した。


・・・


私はそれを見るなり、胸が締め付けられる感じがした。


たぶんこれはエノクの持ち合わせている精一杯のお金なのだろう・・・


私のバッドステータスの治癒の手がかりを得るために彼はなけなしのお金を出したのだ。





はぁ・・・私はなんて無力なのかしら・・・





しかし、今はどうすることも出来ない。


私は成り行きを見守るしかなかった。





窓口の男はエノクが提出したお金を認めるなり静かに話を続けてきた。





「・・・畏まりました。念のため、注意事項も申しあげておきます」



「まず、依頼料は高ければ高いほど熟練の冒険者が受けやすくなり、情報提供の質も高まります」



「依頼料が高ければ我々ギルドも下位の冒険者に依頼を斡旋することはございません」



「しかし、依頼料が今回のように最低ですと受ける冒険者の質も低くなり、情報提供の質も低くなる傾向にあります」



「我々ギルドは情報の質は一切保証いたしかねますので、予めご承知おきください・・・」





うわぁ・・・なんというか完全に自己責任という訳ね。


これで失敗しようものなら高すぎる勉強料だわ・・・


エノクどうするのかしら・・・・?





「・・・・・分かりました。それでも10万クレジットでお願いします!」





エノクは今の話を聞いても、依頼をすることを辞めなかった。


回答するまでに若干間はあったが、それでも力強い回答だった。


なんか、ちょっと泣けてくる・・・





窓口の男はエノクの回答を聞いて僅かに頷いた。


そして、書類を提示するとともに話を続けてきた。





「・・・かしこまりました。それでは契約成立という事で、こちらの契約書にサインをお願いいたします」


「ペンはそちらをお使い下さい・・・」





そういって男は窓口においてある万年筆を手のひらで示した。


なんか不思議な感じがする万年筆だった。





「はい」





エノクはそのペンで契約書にサインをすると窓口の男に書類を返した。


書類を受け取った男はサインを入念に確認している。


何をそんなに確認しているのだろうか?


サイン1つでえらい入念なチェックね・・・





男はしばらく確認をした後、再度言葉を発してきた。





「・・・ありがとうございます。これでご依頼完了になります」



「ご依頼の公布は1週間後になります。もし、取り下げる場合は3日前までにご申告下さい」



「ただし、その場合でも手数料は頂くことになりますのでご注意願います・・・」



「それでは、お気をつけてお帰り下さい・・・・」





そう言って窓口の男は最後に慇懃に一礼をしてきた。


彼は最後まで表情を崩さなかった。







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