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悪魔の冒険者ギルド




ガヤガヤと周囲から様々な音がする・・・





道行く人の歩く音、馬のいななき、商売人の声、通行人の雑談の声など


雑多な音や声があらゆる方向から聴こえてくる。


余りにも音が混じりすぎて隣の人の話を聴くことさえ満足に出来そうにない。


私はその様子をこっそりカバンの中から伺がっていた。





目の前の舗装された大通りに沿って様々な店が立ち並んでいて、人が溢れんばかりに存在している。


それらの店は煉瓦とコンクリートでしっかりとした造りになっており、正方形と丸形を基調とした幾何学様式の様相を呈している。


店の内外には商品がところ狭しと展示されていて、店の前を群衆が激しく往来していた。


日用品や食材を取り扱う店にはエプロン姿の主婦やどこかの屋敷のシェフと思しき姿の人が商品を吟味している。


これから開店するだろう酒場の前には酒を飲むことを待ちきれない仕事帰りの労働者たちが雑談にふけっていた。


宿屋の中には各地からこの町に訪れた冒険者や商人で溢れ、情報交換をしているようだ。


そして、そんな日常の一コマを担う店達を抜けると今度は変わった様相の店構えが姿を現してくる。


剣や槍、盾といった物騒なものが展示されている武器屋の方に目を凝らすと


魔道具と思わしきアイテムやなんの動力で動いているか分からない機械も展示されていた。


そんな武器屋の周辺にいる人物も先ほどまでとは打って変わっている。


甲冑を着た剣士や、腰に一本剣をぶら下げマントを付けるだけの軽装な服装の冒険者、


さらにはローブに杖といういかにも魔術師といった井出達の人の姿も見受けられた。


絶対数は少ないがよく見ると人間以外の者もいるようだ。


頭からフードで全身を覆っていてなんの種族だかわからないが、


後ろ姿を見るとお尻の辺りにしっぽらしき物が蠢いているのが確認できる。


いずれにしても人が多いことには変わりはない。


ただでさえ活気があるのに、職業・人種共に異種混合の様相を呈していて、この場のカオスっぷりに拍車がかかっている。


ただし、そんな中でも整然と秩序を保った存在もいた。


長槍と甲冑を装備し、不動の構えで周囲の警戒を行う兵士の姿が点々と見られる。


一見カオスにも見えるこの場所だが、一たびなにか事件が起これば周囲の兵士たちが駆けつけてきそうな威圧感を放っている。


彼らの毅然とした佇まいは場に一定の秩序をもたらしていた。





ここはクレスの町の中心街。


エノクと私が住んでいるブロンズ通りの郊外から歩いておよそ1時間の距離にある場所だ。


歩いて1時間というのは私ではなくエノクが歩いてという意味だが・・・


今私はエノクが肩からぶら下げているカバンの中にいる。


このカバンは衝撃吸収用の素材でできており、さらにカバンの内側は金属加工されていて外からの衝撃にめっぽう強い。


エノクが私の外出用に作ってくれたカバンだった。


なぜ私達がこんな状態でここまで来ているかというと、話は昨日に遡る・・・











「アモンギルド?」





私はエノクの発した言葉を訊き返した。





「うん。アモンギルドに行ってみようと思うんだ」



「それってなんのギルドなの?」



「冒険者ギルドだよ。この町の中心で拠点を構えている民間のギルドなんだ」





冒険者ギルドは未開の地の探索、特定の鉱物・植物の採取、外来危険種(人間・動物問わない)の排除などの依頼を請け負うギルドの事だ。


ギルドには王国直営と民間のギルドがあるらしく、この町にあるのは民間のギルドだという。


腕に自信のある命知らずな荒くれ者どもが集い、彼らの居るところはいざこざが絶えない事で有名らしい。





「・・・なんでそんなところにいくのよ?」





私はエノクに率直な疑問を投げかけてみた。


彼らも依頼を受けて成り立っている以上別に命は取られやしないだろうが、


あまりこちらから近付きたいと思える場所でないことは確かだ。





「うん。あれからちょっと考えたんだけど、神話や伝説の話となると冒険者たちに依頼するのが一番だと思うんだ」



「冒険者は各地を渡り歩いているから地理や民間の伝承にも詳しいし、バッドステータスの治癒の噂とか何か知っている事があるかもしれない」





私達がバッドステータスの治癒の方法を探すと決めた翌日。エノクは早くもそういう結論に至った。


まあ、即断即決の彼らしい気はするが・・・


そう、彼は何事も決めることがとても速い。


頭の回転が速いからこそかもしれないが、方針がこうと決まればそれに向かってすぐに突っ走ろうとする。


なんというか猪突猛進なタイプね。


当初はどちらかというと大人しい子で何事も熟考して慎重に行動するタイプだと思っていたが実際はその真逆だった。


興味がある事や、思い立ったことはすぐにやってみないと気が済まない性質らしい。


それでいて洞察力や、魔法に関する知識が半端ないから困ったものだ。今回の話も一応道理にはかなっているのだ。


だからこそ魔法技師見習いなんてやっているのかもしれないけど・・・


・・・


逆に、私は大胆な行動をするように見えて意外に慎重派だ。


冒険者ギルドなんてゴロツキがいそうな所にはそもそも近づこうとさえ思わない。


計算できない様な行動は出来るだけ慎むタイプである。


・・・そんな私だからかもしれないが、以前、同じクラスの女子達にこんな嫌味を言われたことがある。





『遠坂ってさー意外にあざといよねぇーー』



『ああ、それ言えているかもー』



『男子に絶対媚び売ったりとかしているよねーー』



『ねぇーー』





余計なお世話じゃボケっ!!


彼氏の一人だってこっちにはおらんわい!


なんか嫌な事思い出しちゃった・・・





「・・・レイナ・・なんか怖い顔しているけど、大丈夫?」





はっ!





「ごめん!なんでもないわ。ちょっと昔のこと思い出しただけよ」



「・・・嫌な事でもあったの?」





ちょ・・・そこを聞いてくる!?


こういうところは鈍感なのよね・・・





「ほんとになんでもないから気にしないで!それより話を戻しましょう?」



「・・・う、うん。そうだね」





流石にエノクも察したのだろう。


それ以上は聞いてこなかった。


・・・ごめんね。流石にこんなことは言えないわよ。


私って意外に隠したい過去があったのね・・・





「・・・一応聞いておくけど、そこの冒険者ギルドは危険はないのね?」





私は確認の意味で彼に話題を振った。


さっきまでの空気を払拭したいのもあったけど。





「ああ、それはもちろんだよ。依頼人に手を出したら、彼らだってどうなるか分かっているからね」



「ギルドは依頼人からの報酬で成り立っているのに、それにちょっかいを出そうものならギルド自体が黙っていない」



「ギルドからの制裁があるのはもちろん、最悪除籍処分や、公開私刑になることだってありえる」





まあ、そりゃそうか。


それなら依頼しに行くのも合点がいくけど。


でも・・・





「ねえエノク。それなら私もその依頼に付いて行っていい?」



「え!?」





エノクは驚いた顔をして私の方を見た。


慌てた様子で私を止めてくる。





「だ、ダメだよ!外は危険が一杯なんだ!」



「ましてや町の中心なんて人ごみで溢れているんだ。危険すぎる」





彼の言いたいことはよく分かる。


私の今の体じゃ人とぶつかった衝撃でさえ致命傷になりかねない。


そういう危険性も理解しているから、私はこの2週間一度も外を出歩かずにもっぱら家で留守番だった。


自分一人で外をうろつこうなんてことは今も微塵も考えていない。


しかし、今はエノクという頼もしい協力者がいる。


元来私はアウトドア派なのだ。正直言ってずっと家に引きこもっているのは辛いものがあった。


外の世界を見てみたいと思うのは自然の衝動だった。





「エノクの言いたいことはよく分かっているつもりよ。危険だってこともね」



「それだったら・・・なんで・・」



「ちょっと私の我がまま聞いてもらってもいい?考えがあるのよ」



「考え・・・?」











・・・というのが昨日の夜の話。


エノクが渋々ながらこのバッグに加工を施してくれて、私をここまで連れてきてくれたという訳だ。


正直彼におんぶに抱っこ状態である。負担を掛けているのは良く分かっているつもりだ。


いつかこの借りは彼に返さなきゃね・・・





「ほら、見えてきたよ」





エノクがバッグ越しに私に話しかけてきた。


騒がしすぎる商店街を抜けると、整然とした区画によって立ち並ぶ大きな建物が顔を覗かせるようになった。


それぞれの建物にはなにかの意匠らしきマークの看板が掲げられている。





ここがギルド街か・・・





あれだけ溢れていた人ごみもここに来てかなり落ち着きを見せていた。


一般人と思しき人は大分数が減っている。


人種に関してはより専門職が多くなっている気がした。


冒険者や魔術師はもちろん、エノクが普段着る作業着のようなものを着ている人たちも見受けられる。


しばらく、その中を進んでいくと一際大きな建物が存在感を誇示して来た。


バロック形式の豪華絢爛な外装にレリーフ。建物の上にはいくつもの彫像が並べられている。


一見すると煌びやかな外装をしているというのにどこかまがまがしさがあるのは気のせいだろうか。


特に象徴的なのはそこに掲げられている看板だ。


鳥の頭に狼の胴体、蛇の尾っぽを持ち火を噴いている悪魔の姿がマークされている。


ここが噂に聞く”アモンギルド”ね・・・


エノクはギルドの門の前で立ち止まると私に声を掛けてきた。





「・・・レイナ、入るよ・・」



「ええ・・・」




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