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未知なるものへの挑戦




「実はね・・・悩みというのは他でもないバッドステータスの中和の事なんだ・・・」





そういうことか・・・


あの書物を見て何か分かったという事ね。


残念ながら悪い方の事実だろうけど。


エノクの言葉にもどこか緊張が感じられた。





「まだ、はっきりと断言するのは早いけど・・・完全な魔道具の製作はかなり厳しいと思う・・・」



「・・・うん。大丈夫だから続けて」





私は話の先を促した。





「さっきの書物なんだけど、あの著者は大陸でも有数の魔術師なんだ・」



「しかし、そんな彼でさえ測定対象を8倍程度までしか大きくすることは出来ていない・・」



「つまり・・10倍にまで大きくするには彼が魔法を詠唱する以上の出力を誇る魔道具が必要だという事なんだ・・・」



「少なく見積もっても、魔法効果は20000を超えないと中和は出来ないという計算になる・・・・」





なるほどね・・・


あの著者のレベルは確か133。


INTも私なんかより比較にならないくらい高かった。


しかし、そんな彼でさえどんなに頑張っても8倍の巨大化まで。


つまり私のバッドステータスを中和できる程の出力を彼でさえ出せないという事だ。





「彼の魔法効果を実現することさえありえないのに、ましてやそれを超える出力の魔道具なんて夢のまた夢なんだ・・・・・」



「正直、ここまで中和が絶望的だとは思わなかったよ・・・・・・」





エノクの声が徐々に小さいものになっていっている。


声には若干の震えが感じられた。


さっきまで意気揚々と本を開いて目を輝かせていた彼とは思えない。


その状態で彼はさらに言葉を続けてきた。





「もしかしたら・・・レイナのバッドステータスを中和することは不可能なのかもしれない・・・・・・」



「いや・・・もうほぼ間違いなくそう断言していい状況なんだ・・・・・・・・」



「完全に僕の力が足りないせいだ・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・」





最後の方は小鳥がしゃべるようなか細い声だった。


彼は言い終わると、私に頭を下げて項垂れた。


私に対する申し訳なさがいっぱいに伝わってくる。





・・・たくっ


しょうがないわね





「ほらっ顔を上げて!男の子でしょ?そんなことくらいで落ち込んでじゃないの」



「・・・そ、そんなことくらいって・・・」





エノクが項垂れていた顔を上げた。


若干驚いた顔をして私を見ている。





「そんなことくらいでしょ?私はこうやって生きているんだし、大袈裟に落ち込みすぎよ」



「いつもの底抜けの笑顔はどうしたの?あんたはヘラヘラしているくらいで丁度いいんだから元気出しなさい」



「ひ・・ひどいなぁ・・・」





エノクは私の言葉に引きつった笑顔を見せた。


でも、先ほどよりは元気になったようだ。


これでいい。


もちろん今の言葉は半分やせ我慢だ。


戻れるのなら戻りたいに決まっている。


だが、今の私にとってはエノクがそれを気にして落ち込んでいるほうが我慢ならなかった。


彼が笑顔じゃないと私の方が落ち込んでしまう。


まったく、これじゃどっちがバッドステータスに掛かっているか分かんないじゃない・・・





「とにかくっ!落ち込むのは全てをやり切ってからでも遅くはないでしょ?」



「やる前から諦めてどうするのよ」





私は彼に向かって堂々と言い放った。


これに関しては迷いは一切ない。


やる前から諦めるなんて冗談じゃないわ。


しばしの沈黙の後、エノクは僅かに頷いた。


私の言葉に思うところがあったのだろう。





「・・・・うん。ごめん。そうだね、まだ、出来ないと決まった訳じゃないもんね」





少し、彼の目に光が戻ったようだ。


それを見て私は言葉を続けた。





「うん。色々探ってみましょうよ」



「魔法の世界なんだもの、異種族とか人間が知らない知識とかありそうなものだし、超古代文明のロストテクノロジーとかあるかもしれないでしょ?」



「ははは、異種族はまだ分かるけど、超古代文明のロストテクノロジーはさすがに夢見過ぎだよ」



「わっかんないわよ~。世界は広いんでしょ?未知なるものはいくらでも転がっているものよぉー?」



「ははは、そうだね」





よかった。元気になったようね。


友達からの受け売りの知識も少しは役に立ったようだ。


しかし、中和が難しいというのは依然として変わらない。


他のアプローチで行くしかないのかしら?


そういえば”あいつ”はもう一つなんかバッドステータスについて言っていたわね・・・


それについて聞いてみようかな。





「ねえ、エノク。中和じゃなくてバッドステータスそのものを治すことは出来ないの?」



「治すことかい・・・?」





エノクは私の言葉を聞くと唇に手を当てて考え込んだ。





「う~ん・・・そういう話は聞かない訳じゃないんだけど、ほとんど雲を掴むような話なんだ」



「雲を掴む話?」





どういうこと?


でも話自体はあるという事よね。





「大魔王の存在と同じさ。神話やおとぎ話の世界の話なんだよ」



「伝承として今に伝わっているものはあるけど、どれも伝説の域を出ていないんだ」





・・・そう”大魔王”の存在。


私がこの世界に来てからまず感じた違和感がそれだった。


ここに来て間もない頃、彼に大魔王の存在について聞いたことがある。


この世界は人間同士や異種族との間で戦争こそ行われているものの、世界を破滅に追いやるような存在なんてものはいないということだ。


しかし、それでいてバッドステータスという呪いが確かに存在する。


バッドステータスがなぜ”大魔王の呪い”と言われているかについて尋ねてみたら、それは結局のところ神話によるものらしい。


神話曰く「この世界に生まれ出づる罪深き者たちに大魔王が制裁として呪いを課す」という事が謳われているということだ。


正直、なんの罪やねんってその時は突っ込んだんだけど・・・まあ、神話なんてそんなもんよね。


だから、結論から言えば大魔王という存在はいるといえばいるし、いないといえばいない。


そんな、あやふやな存在だということだ。


もっとも、魔族という種族はいるらしいんだけどね。


これも神話が出所であり、大魔王の血を引くと言われている種族だから”魔族”と言われている。


だから、そこの王が”魔王”といえば魔王だ。


しかし、魔族の姿は人間とほとんど変わらないらしい。


違いがあるとすれば、若干肌が黒く、体のどこかに六芒星の刻印があり、人間より長寿で高い魔力を持つという。


彼らとは仲がいいとまでは言わないが、これまで大きな戦争に至った事もなく割と平和に共存してきたらしい。


小競り合いは今でも起こるようだけどね。でも、それは人間同士でも同じことだから彼らと特別険悪という程でもない。


というわけで大魔王というのは所詮神話の世界の話であり、この世界ではほとんど信じられていない。


私はエノクから聞いた話を思い出して頷いた。





「なるほどね・・・・神話の世界の話か」



「そう、神話の世界の話だね。魔法科学的に治すことは不可能だと結論付けている」



「だからこそ、バッドステータスの中和の技術が進歩してきた歴史があるわけだけど・・・」





エノクはそこで一旦話を区切って再度続けた。





「・・・だけどね。完全な魔道具の製作が難しいと分かった以上、そちらも当たってみる価値はあるかもしれない・・・」



「・・・へえ、なんか意外」



「意外かい?」



「だって魔法技師というくらいだから、魔法科学しか信じないと思っていた」





私は素直に思っていることを述べた。


彼のこれまでの言動からしたら、根っからの魔法科学信奉者だ。


理論と数式で表せない事柄は信じない性質だと思っていた。


だが、エノクはそれに対して反論してきた。





「そんなことはないよ。魔術師や、魔法技師だって神を信じている人は多いし、神話もしかりだ。」



「魔法科学で説明できないことなんていくらでもあるんだ。そう言った見方をするのも僕はありだと思うよ」





科学だけで説明できない事はあるもんね。


それはこの世界でも同じことか。





「それに神話でバッドステータスの記載があるように、またそれの解呪がされたという記載もあるんだ」



「バッドステータスは現に存在するのに、それが解呪出来ないと結論付けるのは早計過ぎると思うんだよ」





私は彼の言葉に頷いた。


確かにね。


出所は同じ神話なのに、バッドステータスは信じて、解呪が出来る事は信じないというのはおかしな話だ。





「うん。異論ないわ」





私はエノクにそう返事をした。


どちらにしても今は色々な方法を試していく必要があるのだ。


神話だろうが、おとぎ話だろうが、それがオカルトであろうが、試して白黒をはっきりさせていかなきゃならない。


エノクは違う道筋が見えて幾分かすっきりした顔つきになっていた。





「よかった・・・なんかレイナには助けられちゃったね」



「”お姉さん”に相談してよかったでしょ?」





エノクは苦笑いをしながら私の言葉を聞いていた。





ともかく、これで私たちの今後の方針が決まった。


バッドステータスそのものを治す方法も視野に入れて探っていく。


それは私たちが未知なるものに挑戦するという意思を固めた時でもあった。




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