プライマリースキル
「・・・のろい・・・私のかかっているのが・・・」
私はさすがにそれを聞いてショックを隠せなかった。
自分の身の上が危険なのは十分分かっていたことだけど、こう言葉で聞かされると思い知らされる。
だが、それでもこの話は聞かずにはいられない。
「縮小化した人達の非業の死ってどんなこと・・・・?」
「・・・・」
私からの質問にエノクは逡巡する姿を見せた。
大体予想はしているけど・・・
「教えて・・・一応聞いておきたいの。」
「・・・・・・ちょっとショッキングな内容だけど、ほとんどの人が虫や小動物に捕食されたんだ。同じ人間に踏み潰された人もいた」
「・・・!」
やっぱり・・・そうなのね・・・
「体の大きさは外敵から身を守るうえで重要なんだ」
「体が大きければ威圧感を与えて虫や小動物を遠ざけることが出来るし、例え、襲われたとしてもせいぜい噛まれる程度で済む」
「しかし、1/10まで縮小化された人間はそうはいかない。今まで体の大きさによって防がれてきた数多の自然の脅威が一気に襲ってくる」
「正直、レイナが今こうやって生きているのは奇跡だよ」
それについては痛いほど同意できる。
既にその経験を十分すぎるほど経験している。
自分でもよく生きているものだと感心しているくらいだ。
「でも、それだったら、他の人間より小さい種族はどうなの?彼らだって条件としては一緒じゃない?」
私は疑問に思っていることをそのままエノクに尋ねてみた。
「ハーフリングやドワーフは人間より小さいと言ってもせいぜい半分くらいだ。それに彼らは人間より、強靭な肉体とパワーを備えている」
「妖精は今のレイナくらいの大きさだけど、普段は結界が張られたエルフの森に住んでいて安全なんだ」
「それに羽を持っているから空を飛べるし、いざとなったらLUKを上げて危機を回避することも出来る」
「・・・なるほどね」
私はそう言ってエノクの言葉に頷いた。
小さいと言ってもそれに見合う生存能力が彼らにはあるということだ。
しかし、人間だって特殊能力を使えるはずだ。
「人間だって、特殊能力を使えると思うけど・・ダメなの?」
「1/10縮小化された人間は"MP"以外の全てのステータスも1/10になるんだ」
「魔力効果のステータスである"INT"も1/10になる。能力を使おうとしてもまるで効果が期待できないんだ。」
それを聞いた私は服から巻物を取り出して、それを開いた。
・
・
・
◇転生者基本情報
名前:遠坂 玲奈
年齢:18歳(寿命:未設定)
身長:17.5cm
体重:52.5g
BWH:8.7 5.6 9.0
Lv:1
HP:5
MP:5
STR:3.1
DEF:1.6
INT:1.2
VIT:2.0
CRI:0.5
DEX:1.7
AGI:4.8
LUK:1.0
プライマリースキル:グロース、ミニマム
タレントスキル:大器晩成、酒乱、逃げ脚、テンプテーション
バッドステータス:1/10縮小化(永続)
所持アイテム:転生者の巻物
所持クレジット:0
現在位置:クレスの町 ブロンズ通り302番地 フランベルジュ家
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なるほど、今まで"MP"とバッドステータスばかり注目してたけど
Lv以下のステータス欄を見ると"MP"以外の全ての能力値が1/10になっているわね。
・・・
私は特殊能力を使った状況を思い出した。
鳥かごに向けて放った"グロース"、星の箱に向けて放った"ミニマム"いずれも効果がまるで感じられなかった。
それはある意味当然と言えば、当然だったのね・・・
MPだけでなくINTも関わってくることに気付くべきだった。
オンラインゲームマニアの友人もそんな事言っていたような気がする。
ほんとにさらっと言っていただけだったから、今まで思い出せなかったけど。
でも、なんでMPだけは変わってないの・・・?
しかし、私がそれをエノクに聞こうとする前に彼が意外な事を口にしてきた。
「ねえ・・・レイナもう一つ聞こうと思っていたんだけど、君はもしかしたら”転生者”じゃない?」
・・・!?
「・・なんで、それを知っているの!?私、言ったっけ?」
今のエノクの台詞は結構驚いた。
彼が転生者の存在を知っていたとしても別におかしくはない。
私がこの世界に転生したのと同じく、地球の記憶を保持したまま転生した人は他にいるだろうとは思っていた。
問題なのは、なんで私が転生者だと断定できたのかだ。
なんかそういう事を判別する能力とか、私にそういう目印になるようなものでも付いているの?
私の着ている服とかかな?
ここの人たちにとっては異邦人っぽい服装かもしれないものね・・・
「・・・あ、驚かせてごめんね?別にレイナの何かを知っているって訳じゃないんだ」
「その・・・この世界の事をよく知っていないようだったからね。もしかしたら・・・って思ったんだ」
「・・どこで私が転生者だって気付いたの?」
エノクの事を疑っているわけではない。
だけど、これは聞いておかないと気が済まなかった。
私はできればこの世界では転生者としての自分を隠しておきたいと思っていた。
郷に入っては郷に従えじゃないけど、余計ないざこざに関わらないためにはこの世界の住人になり切るのが一番だ。
「レイナは無意識だから気付かなかったかもしれないけど、名前を言ったときに”私のいた世界”って言ったでしょ?あれが最初の疑念だったね」
「確信したのはバッドステータスの事を聞かれた時。この世界で最初から生まれているのなら、あんな事は絶対聞いてこないよ」
「バッドステータスは他者に知られたくないものなんだ。普通は話題に出すのも忌むべきものだからね」
「・・・・」
なるほどね・・・言われてみればもっともな話ね。
バッドステータスの事を言ったのはちょっと迂闊だったかもしれないわね。今後は気を付けないと。
っていうかこの子結構鋭い・・・ちょっと舐めてたかも。
能力に関する知識といい、今の洞察力といい、ただ者じゃない。
将来大物になるかも・・・
まあ、私としては頼もしいからいいんですけどね。
デートプランは7回まで引き上げることにしよう。
「・・・でも分からないな・・・」
エノクがそう呟いて、考え込んだ姿勢を取っていた。
どうしたんだろう?
「なにが分からないの?」
私はそのまま素直に聞いた。
「ミニマムに掛かったんじゃないというのは分かったんだけど、何故レイナに”縮小化”のバッドステータスが付いたのかが分からないんだ」
「ああ、そういうことね」
それは、こっちだって知りたい。
なんで寄りによって1/10縮小化などというとんでもないものが付いてしまったのか。
正直運が悪いにも程がある。
もし、私が”縮小化”のバッドステータスが付くと分かっていたのなら、この世界への転生を選択する訳がない。
まあ、”完全に”ランダムらしいから、しょうがないっちゃしょうがないんだけどね・・・
・
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そんな感じで私とエノクはしばらく思案をしていた。
エノクも下を向いて考え込んでいる。
しかし、直後彼は何かを思い出したように顔を上げ私に尋ねてきた。
「・・・ねえ、レイナの能力の秘密に関わることかもしれないけど、聞いていい?」
「どうぞ」
私は手でジェスチャーを返した。
今更隠すものなんて、自分の裸以外ない。
ああ、あとアルコール中毒死という恥ずかしい過去も隠しておきたいわね・・・
それと私が、お酒飲んで暴れたという過去も。
なんだ・・・結構あるじゃない。
だが、エノクから来た質問は私の予想だにしないものだった。
「君は”プライマリースキル”はなにを持っているんだい?」
「プライマリースキル?」
さっきの巻物に書いてあった能力の事かな・・・?
だが、それを考える前にエノクの方から説明をしてくれた。
「プライマリースキルは先天的にその人が得る能力の事だよ。」
「後天的に得るセカンダリースキルと違い100パーセントその力を引き出すことが出来る能力の事なんだ。」
「普通は2つまでしか持てない。」
ああ、それだったら、やっぱりあれしかないわね。
「間違ってないなら、”グロース”と”ミニマム”よ。」
私は、そう答えた。
だが、エノクは私の答えを聞くや否や大きく目を見開いた。
「やっぱり・・・そういうことか・・・」
・・・?
なにか分かったの・・・?
「私の今の答えで何か分かったの?」
「うん・・・たぶん僕の予想が間違っていなければだけどね・・・」
エノクはそう言って眼鏡を掛けなおした後、続けた。
「レイナが縮小化した理由はたぶん”グロース”と”ミニマム”をプライマリースキルとして覚えたからだよ・・・」




