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税関




ミャーミャー!





・・・ウミネコの鳴き声が辺りに響きわたる。


陸地が近づいてきたからか、鳥が船のマストの上にたむろし、僕達を歓迎するかのように上空を旋回していた。





「よし!そろそろつくぞー!」



「帆をたため!錨を下ろす準備に入れ!」



「はい!キャプテン!」





船員達のけたたましい声が飛び交う中、僕とレイナは朝日に照らされている甲板の上から前方の陸地を眺める。





「あれがゴートランドの首都”アエギスフォート”だね・・・」



「初めて見るけど綺麗な町だね・・・」





しみじみと僕がそう言うと、防護カバンの中のレイナが魔力通信機を使って声をかけてきた。





(確かに・・・)



(町並みが”赤色”に統一されていて、なんか映えるわね)





レイナがそんな感想を言ってくる。


ゴートランドの首都アエギスフォートは赤レンガ造りが基本の都市だ。


人口は30万人ほど。


国民の多くが切妻屋根の赤レンガの家に居を構えている。


政府の市庁舎や教会、大型の公共建築物などもほとんどが赤煉瓦で統一されており、町全体が重厚さと威厳さを放っている。


冬の時期に雪が積もると、赤と白がおりなす風光明媚な都市としてカーラ王都と並び旅行客に人気がある都市だ。


僕達が徐々に近づいてくるその町並みをワクワクしながら見つめていると、後ろから僕に声をかけてくる人がいた。





「おはよー!エノク早いわね~」



「もう出発準備できているなんて気合入っているじゃん!」



「あっ!ヴァネッサさん!おはようございます!」





ヴァネッサさんに会釈しながら、横においてある荷物の山をチラリと一瞥する。


まだ、日が昇る前から僕とレイナは起床し、出発準備を整えていた。


僕の荷物が一番多いというのもあるし、新しい冒険の舞台であるゴートランド共和国を早く目にしたいという高揚感もあったというのもある。





「ヴァネッサおはよう!」



「昨日の交流会は楽しかった。また、やろうね!」





そう言ってレイナも防護カバンの蓋を開けてヴァネッサさんを出迎える。


ヴァネッサさんはニコリと微笑むとレイナにも挨拶を返す。





「ふふ、おはよう!レイナ」



「私も貴方の話聞けて楽しかった」



「今度は私達だけで女子会でもしましょうよ!」



「まあ・・・ミランダは来るか分からないけど・・・」





彼女はそう言って両手を上げながら渋い表情を返す。


レイナもヴァネッサさんの表情を見て苦笑いを返すのだった。


それからすぐに、他のメンバーも合流してくる。





「おはよう、ヴァネッサ、エノク、レイナ」



「よお!」





ランベールさんとユリアンさんだった。





「ランベールさん、ユリアンさんおはようございます!」



「おはよう」





手をひらひらと振りながら甲板に上がってくる彼らに僕とレイナも手を上げて応える。


ランベールさん達と合流すると、早速昨日の交流会の話題が出た。





「よお!昨日は楽しかったな!」



「特にレイナの転生した時の話は凄い興味深かったぞ?」



「今度はあんたが元いた世界の話を俺は聞きたいねぇ・・・」



「あはは!うん。そのうちねー」





ランベールさんが腕組みしながらレイナに語りかけると、彼女は朗らかに笑いながらランベールさんにタメ口で答える。


昨日のお互いの自己紹介ですっかりレイナはランベールさんとユリアンさんとも打ち解けたようだ。


彼らの身の上話の時にヴァネッサさんとレイナがツッコミを入れて場は大いに盛り上がった。


自然と笑いが僕達から上がり、和やかな雰囲気中で会話が進んだので、僕もリラックスして楽しむことが出来た。


彼らは僕とレイナをすっかり”飲み仲間”と認識したようで、「今度は酒場で一緒に飲もうぜ!」と誘われている。


僕とレイナは未成年なんだけど・・・まあ、酒は飲めなくてもそういう会に参加すること自体は大歓迎だ。


美味しいものを食べられるというのももちろんあるし、彼らの冒険の体験談を教えてもらうことも出来て非常に有益だ。


断る理由は僕もレイナもなかった。


そんな感じで僕達が談笑をしていると残りのメンバーも合流してくる。


他の乗船客も続々と甲板に上がってきて、下船準備を始めている中、ヘルマンさんが手を上げながら僕達に近づいてきた。





「おはようさん!」



「・・・なんだ?お前ら朝っぱらからそんな楽しそうに話しやがって」



「エノクや嬢ちゃんといつの間にそんなに仲良くなったんだ?」





ヘルマンさんが僕やレイナが混じって談笑している姿を見て、不思議そうに首を傾げてきた。


そんな彼をヴァネッサさんがジトー!と睨みながら言葉を返す。





「リーダーの仕事放り投げたあんたの代わりに、私達が率先してエノク達と親交を温めてたのよ!」



「・・・あんたがどこかの姉ちゃんと”よろしく”してた間にね!!」





棘のある言葉でヘルマンさんを糾弾するヴァネッサさん。


それに対しヘルマンさんは悪びれもせず、肩をすくませる。





「・・・おいおい!そりゃ誤解だぜヴァネッサ!」



「昨日はエノクと嬢ちゃんも入ったことだし、今後のパーティの活動計画を一人で練っていたんだぜ?」



「第一、この船の中にゃ、碌なお姉ちゃんいなかったし、そんな事する気も起きなかったよ!」



「やれやれだぜ・・・」





ヘルマンさんが残念そうに答えた。





(どうやら、”よろしく”するお姉ちゃんは探してたようね・・・)



(・・・あははっ・・・)





レイナが魔力通信機を通じて、僕にツッコミを入れてくる。


・・・僕は苦笑いを返す事しかできなかった。


ヴァネッサさんはヘルマンさんの言葉を聞いて思わず「はぁ・・・」と眉をひそめませながら目を閉じる。


横にいたランベールさんやユリアンさんもやれやれと苦笑いしながら首を振るのだった。


どうやらヘルマンさんのこの行動はいつもの事のようだ。


彼らからどこか諦観の念が伝わってくる。





「・・・なに、この空気」



「・・・いつもの事だろう。ほっとけ・・・」





最後に甲板に上がってきた、ミランダさんとビクターさんが僕達の様子を見て首を傾げるがすぐに事情を察したようだ。


特に気にもせずにそのまま二人は僕達と合流する。


パーティ全員が揃ったことを見てヘルマンさんは頷いた。


彼は先程までの微妙な空気になった事を全く感じさせずに僕達に告げてくるのだった。





「よぉし!全員揃ったな!」



「それじゃ、ゴートランドに着く前に俺達の今度の予定を確認しておくぞ!」



「エノクとレイナの嬢ちゃんもよく聞いておけよ?」



「・・・あっ!はい。分かりました」





僕は相槌を打ちながら彼の言葉に耳を傾ける。


先程までの空気が一変して空気がピシッ!と引き締まるのを感じる・・・


周囲にいる誰もが真剣な表情でヘルマンさんの言葉を聞いているようだった。


先程までの緩い空気が嘘のようだ。


僕は「さすがヘルマンさんだなぁ」と感嘆しながら今後の予定を頭に叩き込むのだった・・・







それから程なくして、僕達の船はゴートランドの首都”アエギスフォート”に入港する。


船に乗り込む時とは正反対で僕達は一緒に行動することになる。


・・・まず、下船した僕達に待ち構えていたのは港の関門だった。


大都市に入る時はどこの文化圏でも同様だと思うけど、まず通行税を払わされるのが基本だ。


持っている荷物に応じて税額が計算され、現金か物納を要求される。


もし払うことが出来なければ、荷物の一部を没収されるか、最悪門前払いで町に入ることすら出来なくなる。


税関の前の行列に僕達が並んでいる間、レイナが防護カバンの中から言ってきた。





(エノク・・・これだけ荷物あると結構お金かかりそうじゃない?大丈夫なの・・・)



(うん・・・まあ一部冒険用の物が入っているとはいえ、料理道具などの日用品も多いからね)



(そんなに通行税は取られないと思いたいけど・・・)





レイナにそう返答しながら不安になった僕は自分の荷物を改めて確認する。


台車に載せられた荷物は巨大な旅行カバン5つ。


この中には僕の衣服や日用雑貨以外にも、冒険用のアイテム・罠、料理道具、魔法技師の創作キットなど、旅先で困らないようにありとあらゆるものを持ってきている。


なにが必要で、なにが不要なのか自分でもまだ分からないし、ないよりもあったほうが良いだろう・・・


そう思って、思いつく限りのものを持ってきたらこれだけの量になってしまった・・・


それに通行税のことだけではない。


神殺しのパーティの人たちはあっさり受け入れてくれたけど、レイナのこともある・・・


1/10に縮んだ人間なんて見たら税吏の人はきっと驚くだろうし、ちょっとした騒ぎになるのは間違いない。





レイナにはまた人形のフリしてやり過ごして貰うしかないのかなぁ・・・





僕が逡巡しながら不安な顔で荷物を見ていると、横にいたヴァネッサさんが僕に声をかけてきた。





「なに?エノク、そんな深刻そうな顔しちゃって・・・」



「あ、ヴァネッサさん、実は・・・」





僕は彼女に悩みを打ちあける。


すると、彼女はあっさりとこう答えてきた。





「あっ、なに、そんなこと?」



「税関に関してはいちいち荷物検査なんか心配しなくても大丈夫よ」



「・・・え!そうなんですか?」





彼女があっけらかんとそう答えてきたので、僕は思わず聞き返してしまう。


すると、ヴァネッサさんは少し得意げな顔をしながら僕に言ってきたのだ。





「・・・まあ、見てれば分かるわよ」





彼女は腕組しながら前にいるヘルマンさんを手のひらで指し示す。


彼女につられて僕はヘルマンさんを伺うと、税関の兵士がヘルマンさんにまさにこれから職務質問をするようだった。





「・・・貴様の身分と荷物を確認する!」



「身分証を提示しろ!」



「はいよ」





意気盛んに職質してきた兵士にヘルマンさんは懐から身分証らしきカードを取り出す。


兵士はそれを受け取り、丹念に確認した後、ヘルマンさんの後ろに控えている僕達を指差してきた。





「・・・後ろにいる6人は貴様のパーティか?」



「ああ、そうだ」



「ふむ・・・”ギルドカード”は本物のようだな」



「よろしい。荷物検査は不要とする」



「規定通り、”ゴーレム級冒険者のパーティ”は一人5,000クレジットの通行料になる」



「合計7人だから、3万5千クレジットの徴収だ」



「おう、これだ。確認してくれや」





ヘルマンさんは金貨と銀貨をチャラチャラと兵士に手渡す。


兵士はそれを確認すると、静かに頷く。





「うむ。確かに・・・」



「お前達7人通っていいぞ!」





兵士はそう言ってあっさりと通行許可を出したのだった。



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