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不慣れな初日、いつもの日常







その後、僕達も紹介を終えた頃には、日も暮れて辺りはすっかり暗くなった。


光の源は船の灯りと夜空に浮かぶ月の光くらいになる。


明日の早朝にゴートランドに到着する予定なので、自己紹介の会は日没とともにお開きになった。


ヴァネッサさん達に別れを告げた僕達は、船の貨物室に向かう。


ここで、有料で荷物を預かってくれるサービスがあるとのことなので、100クレジットを支払って台車と旅道具をまとめて預けた。


その後、本日宿泊予定の3等客室の船室に向かった。


ギィ・・・と軋む木の扉を開けて僕は防護カバンを背負いながら部屋の中に入る。





「うわぁ・・・さすがに狭いわねぇ」





そう言って、レイナがひょこっと防護カバンから船室を覗く。


船室はとても狭かった・・・


窓もないし、ベッドと小さなテーブルに椅子。それと魔光ランプが置いてあるだけの簡単な作りだ。





「確かにそうだね。まあ・・・今日一晩だけだよ・・・」



「今日はレイナも仮設住宅なしでもいいかい?」



「ご飯も保存食だけになるけど・・・」





ちなみに、夕食が提供されるのは2等客室の乗船者までだ。


3等客室以下の乗船者は自分で用意した保存食を食べるか、何も食べずに飢えを凌ぐしかない。


船の中じゃもちろん料理なんか出来ないから、一応保存が効く堅パンやビスケット、干し肉などは用意してきている。


僕がレイナに一応断りを入れると、彼女はコクンと頷いた。





「・・・もちろん。そんなごちそうくれなんて贅沢言わないわよ」



「今後は旅先で、野宿が増えるんだしそういう事にも慣れなきゃね!」



「私は防護カバンの中で毛布に包まっているだけでも十分よ」



「うん。ありがとう、レイナ」





ゴトッ・・・・





レイナにお礼を言うと、僕は防護カバンをテーブルの上に置いた。


また、リュックから保存食を取り出し、小皿に移す。


同時に携帯のウォーターサーバーも取り出して、水を汲み、レイナ用のコップに水を注いで防護カバンの横に置いてあげた。





「ありがとう、エノク!頂きまーす!」



「はい。召し上がれ」





レイナがパクパクとビスケットを食べるのを微笑みながら見つめる僕。


しかし、次の瞬間目眩が襲ってきたので、思わず僕は目元を抑えた。





「ふぅ・・・」



「ごめん。僕ちょっと横になるね・・・」





ドサッ・・・





そのまま倒れるようにベッドに横たわる。


想像以上に疲れている自分に驚く・・・


ただ、この疲れは体の疲れというより精神的な部分が大きい。


冒険者として初めて踏み出した日ということもあるが、何しろ僕は国外へ旅する事自体も初めてなのだ。


当然、旅客船に乗るのも初めてだし、大海原の広大さや、船酔いなど、一つ一つの出来事が僕にとってはすべて新鮮な出来事だった。


船酔いに関しては、ある程度慣れたけど、まだ気持ち悪い・・・


”初経験”という情報の洪水が僕に襲いかかってきており、脳の処理がまだ追いついていなかったのだ。





「・・・疲れたんじゃない?」





僕の疲労を察したのか、レイナがそう言って微笑みかけてくる。





「ははっ・・・ちょっとね」



「朝からずっと気を張ってたから・・・」



「ダンジョンに潜ったわけでもなく、モンスターと対峙したわけでもないのに、こんなに疲れるなんて・・・」



「ちょっと情けないな、僕・・・」





僕が苦笑いしながらレイナにそう言葉を返すと、彼女は静かに首を振る。





「・・・そんなことないわよ」



「誰しも初めての経験は疲れるものだし、戸惑うものよ」



「私達は冒険者になったばかりのヒヨッ子でしょ?」



「冒険者にとって日常で、当たり前の出来事すら私達にとっては乗り越えていかなければならない”壁”という事・・・」



「でも、あのアイナさんの訓練さえ乗り越えたんだから、大丈夫よエノク!」



「自信を持ちなさい!頑張って最初は色々なことに慣れていこう!」



「・・・ははっ!うん。そうだね」





レイナがガッツポーズしながら励ましの言葉を送ってくる。


その言葉に思わず笑みがこぼれる僕。


確かに、アイナさんとの訓練の日々に比べれば、今日の経験なんて大した事ではない。


アイナさんとの訓練は壮絶だった・・・


毎日死ぬほど身体を痛めつけられ、生死の境を彷徨った経験をしたのだ。


それからすれば、船酔いなんてただ旅慣れしているかどうかの問題だろう。


自惚れじゃないけど、僕はモンスターと初めて対峙することになったとしても、


そこらの駆け出しの冒険者より余程上手くやれると思っているし、その自信もある。


これもアイナさんの訓練で一度”地獄”を見たからに他ならない。


少し元気が出た僕はレイナに微笑みかける。





「レイナも今日は本当にお疲れ様!」



「なにはともあれ、ヘルマンさんがレイナの同行を受け入れてくれて良かったよ・・・」



「レイナもすぐにパーティメンバーと馴染んだようだし、僕にとってはそれが一番嬉しい」





僕がそう言うと、レイナはポリポリと頬を掻きながら頷く。





「ふふっ・・・そうね」



「一時は私もどうなるかと思ったけど、何とかなってよかったわよ・・・」



「ヴァネッサ達とも仲良くなれたし、私もほっとしてる・・・」





レイナはそう言って、大きく息を吐く。


どうやら彼女も今日は相当気を張っていたのだろう。


彼女にも少なからず疲労の色が見て取れる。


しかし、彼女は深呼吸をして自らの疲労を吐き出すかのように呼吸を整えると、静かに僕を見据え言ってきたのだ。





「・・・だけど、本番はこれからよ・・・気を抜く事は出来ない」



「ヴァネッサがさっき言っていたわよね?ミッション中と自由時間ではパーティの行動がまるで変わるって・・・」



「うん。言っていたね・・・団体行動が中心になるって」





レイナの言葉に僕は神妙に頷く。


彼女は鋭い視線を僕に向けながら続けてきた。





「まだ、どこの町を拠点にして、どれくらい滞在するかも分からないし、ヘルマンさんがどんな依頼を請けるかも分からないけど・・・」



「1つはっきり言えるのは、私達は自由時間も無駄にすることは出来ないってことよ」



「ミッション中団体行動が中心になるってことは、当たり前だけど、彼らの行動に私達が合わせなければならないってことを意味する」



「・・・ビクターさんが先日”役立たずと判断したら、躊躇なく置いていく”って言ってたけど、あれはたぶん本気・・・」



「強敵の魔物を倒す事は出来ないまでも、最低限、彼らに付いていける実力が無ければ、私達は彼らの足を引っ張り続けることになる」



「団体行動になったらヘルマンさんが私達をサポートしてくれるのかもしれないけど、それを待って行動してちゃ芸が無いし、本当の意味でパーティの信頼を得ることは出来ないわ」



「私達は自ら率先して、彼らの役に立つようにまずはパーディ内での立ち回り方を身につける必要があると思うの」



「もちろんそれと同時に訓練に励んでレベルを上げるのも重要」



「・・・自由時間はとにかく私達の研鑽に使うべきね」



「・・・そうだね」





レイナの言葉に僕は深く頷いた。


彼女の言葉に少し緩みそうになっていた気持ちが引き締められる。


今日交流を深められたヴァネッサさんや、ランベールさん、ユリアンさんは皆良い人だ。


それは先程の自己紹介からでも分かるし、同じ仲間として彼らの役に立ちたいと僕は心から思う。


・・・だからこそ、彼らにおんぶに抱っこじゃダメだ。


早くいっぱしの冒険者になる為に努力をしなくちゃならない。





「・・・うん。レイナの言う通りだ」



「僕もこんな事で弱音を吐かないようにしないとなぁ・・・」





そう言ってしみじみと僕が述べると、レイナがクスッと笑いながら返事をしてくる。





「・・・修行中の身なら、愚痴の1つや2つ出て当然だと思うわよ?」



「別にそれくらいでエノクの気が済みのなら、いくらでも私は聞いてあげる!」



「遠慮なくお姉さんに言いなさい!」





レイナはどん!と自分の胸を叩いて言ってきた。


その言葉に僕も思わず苦笑してしまう。





「・・・うん。ありがとう」



「どうしても愚痴を言いたくなった時は頼らせてもらうよ」



「任せなさい!」





レイナが力強く頷きながら言ってくる。


その言葉に僕の心の中がぽかぽかと暖かくなった。


こういう時のレイナって本当に心強いなぁ・・・





「さっ!明日も早いし、今日はもう寝ましょう?」



「休むのも仕事のうちってね!」



「うん、そうだね。おやすみ、レイナ」



「おやすみ~・・・」





こうして、僕達の冒険者の一日目が終わったのだった・・・






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