ヤドリギの体現者①
彼の言葉を遮るようにレイナが言葉を上げる。
「・・・あん?」
ヘルマンさんが思わず眉をひそめる。
レイナの突然の質問に彼も戸惑ったようだ・・・
僕もヘルマンさんの言葉を遮ってまで発言したレイナに驚かされてしまう。
そんな周囲の少々のどよめきが聞こえてきそうな雰囲気の中、レイナは静かに頭を下げた後、続けてきたのだ。
「・・・ヘルマンさん、言葉を遮ってしまいすみません」
「でも、私自身を諦めさせる意味でも、ヘルマンさんに確認したい事があるの・・・」
「もし、ヘルマンさん達が”ドラゴン”と対峙したら生き残れる?」
「例えばそう・・・スカディ海を北上した”未知の領域”・・・アイスドラゴン達の巣に突っ込んでいった時にあなた達は生き残れるんですか?」
「・・・・・」
ヘルマンさんはレイナの言葉に再び渋い表情を返す。
戸惑いと同時に、なんて言葉を返そうか思案しているといった感じだ。
突然こんな事聞かれるとは誰も思わなかったことだろう・・・
隣で見ていたミランダさんが「えっ・・・突然何言ってんの、あいつ・・・」と呟く声が聞こえてきた。
ヘルマンさんは少し間を置いて、頭をポリポリと掻いた後、答えてきた。
「・・・その質問の意図がよく分からんが、答えてやるとすると・・・まあ・・・無理だろうな」
「今の俺達じゃ、とてもじゃないがドラゴン一体でさえ歯が立たないだろうよ・・・」
「そんな状態で未知の領域のドラゴン達がいる場所に突っ込むなんて自殺行為に等しいな・・・」
そう言って渋々とヘルマンさんが答えた。
彼の言葉にレイナはコクンと頷く。
「なるほど・・・では、そういう勝てない相手が現状いると分かっている中で、」
「ヘルマンさん達が生き残る為に取る方策とはどういうものなの?」
レイナが重ねて質問をする。
すると、ヘルマンさんは自嘲気味に笑いながら答えてきた。
「ふっ・・・決まっているだろう?”戦わない”事だよ!」
「そもそも、そんな奴らがいる場所なんて冒険先として選ばないし、危険情報は事前に調べて避ける」
「それはダンジョンを選ぶときもそうだし、ダンジョンの中のルートを選ぶときもそうだし、モンスターと戦うときですらそうだ」
「危険因子は常に把握しておき、徹底的に死のリスクを避けるのが熟達した冒険者のすることさ・・・この回答で満足かい、嬢ちゃん?」
そう言って、ヘルマンさんはおどけるように両手を上げる。
すると、レイナは相槌を返しながらニコリと笑った。
「はい。結構です」
「・・・ヘルマンさんは先程、私の事を”小さいからすぐに魔物のエサ”になると言ってたけど、これには少し異論があります」
「ドラゴンという強大で巨大な相手からすれば私もヘルマンさんも、等しく”小人”です」
「彼らの前では私達全員が小さなエサであるという事は変わりなく、ただ喰われるだけの存在・・・」
「そこに私とヘルマンさんの身体の大きさの違いなどどれだけ問題になるんでしょうか?」
「重要なのは、今ヘルマンさんが言ったように、自分たちの力を考慮した上で、時と場所と対峙する魔物を選定する事・・・」
「情報を広く認識し、死のリスクを徹底的に避ける事です」
「つまり、仲間が喰われないようにするためには、”情報を握る事”と”対策”が生き残る上で最重要ということになります」
「私の身体の大きさの問題はないとはいわないけど、それは対策が可能です」
「私の身体は小さく耐久力がないというデメリットがある一方、小さく安全な場所に隠れやすいというメリットもある」
「冒険に同行しても私はよっぽどあなた達より被弾する可能性は低いだろうし、私の着ているこのドレスは”魔法障壁”の展開が可能です」
「万一、被弾しても一発でやられることはそうそうないでしょう・・・もちろん完璧ではないけどね」
「だけど、魔物のエサになる可能性はみんなあるし、私もこの冒険にみんなと同じく命を掛けようとしているのよ・・・!」
「ただ単に身体が小さいという理由で、冒険を諦めろと言われても納得できないわよ!」
レイナの言葉にヘルマンさんが思わず「ううむ・・・」と小さく唸った。
周囲で見ていたランベールさんやユリアンさん、ヴァネッサさんからも「ほう」「へぇ」と小さく感嘆の声があがる。
今のレイナの言葉に納得するものがあったのだろう。
僕もさすがレイナだな・・・と感心しながら見守っていた。
そんな中、ヘルマンさんはしばし腕組みをしながら逡巡した後、コクッと一つ頷いた。
「ふむ・・・なるほど。そりゃ嬢ちゃんの言うことは最もだな」
「確かに、魔物のエサにならない為に重要な事は”情報”と”対策”だ」
「ふっ、こりゃ嬢ちゃんに一本取られたねぇ・・・だが、それだけじゃまだ足りねぇな!」
「あんたを同行させるメリットが以前不明のままだ」
「・・・これについては説明できるかい、嬢ちゃん?」
そう言うと、ヘルマンさんはニヤリと笑いながらレイナに問いかけてきた。
「・・・ええ、今から言います」
レイナは静かに闘志のこもった声でそう返事をする。
先程までと、空気が少し変わった・・・
今のレイナの発言を受けてみんなが彼女の言葉に注目をしている・・・
レイナは気合を入れるようにふっ!と一息ついた後、ヘルマンさんを見据え話し始めた。
「・・・先程も言ったように”情報”が重要なのは話した通りです」
「そして、ヘルマンさんがビクターさんを情報屋として重宝しているのは見ていれば分かるわ」
「・・・ならば私はビクターさんとは違った視点で、あなた達に情報を提供できるかもしれない・・・」
「なぜなら、私はこの世界とは違った文明・技術を持った世界からやってきた”転生者”だからね」
「なにっ・・・!?」
ヘルマンさんが顎に手を当てながら、目を見開く。
周囲もレイナの今の言葉でザワッとした。
それもそうだろう・・・
”転生者”というワードはある意味”バッドステータス”と同じくらい他の人に漏らしたくない情報だ・・・
特に相手が冒険者ならなおさら、異世界の物や知識を狙い本人が狙われる可能性もある。
オーゼットさんがそうだったように”転生者狩り”を生業とする冒険者もいるくらいだ・・・
だから、転生者はこの世界では一般の住人に溶け込んで生活する事が基本だし、沈黙を貫く。
僕もレイナには口酸っぱく言って釘を刺していたんだけど、まさか自分で暴露するとは思わなかった・・・
それだけヘルマンさん達が信用出来るからという事もあるし、レイナの覚悟の現れだろう・・・
ヘルマンさんが険しい表情で僕を一瞥してきたので、僕はコクッと頷く。
もちろん、レイナが転生者であることを肯定する意味でだ。
周囲の驚きも冷めやまらぬも、レイナは続けてくる。
「・・・”転生者”の利点についてはもちろん知ってますよね?」
「この世界より科学技術が進んだ世界の知識を持っているから、その視点で私もアドバイスが出来ると思う」
「これが私を同行者として連れて行く、メリットの1つ目よ」
「・・・・・」
険しい表情のままヘルマンさんはレイナの言葉を聞いている。
肯定も否定もせず、じっとレイナを見据えていた。
「・・・そして、2つ目のメリットとしてはエノクの加入による、パーティの戦力ダウンの負荷を減らせるということよ」
「先日、ヘルマンさんが言ってたように、魔物の戦闘時には常時エノクのサポートをする人間が必要・・・」
「そして、駆け出しの冒険者が魔物によくやられるケースとしては、死角からの不意打ちを喰らってしまう事が多い」
「でも、私がエノクの”後ろの目”となれば、彼の死角を減らすことが出来るでしょう」
「加えて、もし混戦模様になり、エノクが魔物の対応に追われて状況判断が難しい時でも、私がエノクのポジションを最適な場所へ誘導することができる」
「前と後ろの”両側の目”をエノクが持つことによって、彼の被弾率が減り、結果的にあなた達のサポートの手間も減らすことが出来るわ」
「・・・これが、2つ目のメリットよ」
レイナの説明にランベールさんが「ほう!」と思わず頷く。
彼はレイナの言ったことにどうやら得心が言ったようだ。
レイナ・・・さすが・・・・!!
そのとおりだ!
僕も思わず心のなかでレイナに拍手を送った!
・・・当たり前のことなんだけど、僕は強力な魔物相手の戦闘ではお荷物に等しい・・・
そんな状況で、僕が最優先にすべきなのはモンスターを倒すことではなく、生き残る事。そして、周りの足を引っ張らないことだ。
”前と後ろの目”を持てば飛躍的に生き残れる確率が上がるだろうし、パーティの中での僕の動きも良くなる。
レイナが僕の第2の目になってくれるんだったら、これほど心強いことはない!
周りのメンバーの負担も減るだろう事は想像に難くなかった。
今のレイナの説明に、ランベールさんとユリアンさん、そしてヴァネッサさんは好意的な反応を示しているようだ。
それは彼らの嬉々とした表情を見れば分かる。
ヘルマンさんとビクターさんは比較的冷静に聞いているようだ。
そんな彼らの中でミランダさんだけはむすぅ・・・とはっきりと不満げな表情でレイナを見つめていた。
何が不満なのかは僕には分からないけど・・・
だが、そんな彼らの態度すらも一変させてしまうほどの発言をこの後レイナがするとはこの場にいる誰も予想つかなかった事だろう・・・
もちろん僕も・・・




