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それぞれの旅立ち②




思わず声に出して突っ込みそうになる私。


エノクもクラウディアさんの冗談に唖然としていた。





クラウディアさん冗談とか言う人だったんだ・・・なんか意外





私が知る限りだと、彼女って王妹殿下に忠誠を貫く真面目な騎士でお硬いことしか言わないという印象だった。


彼女の意外な一面を知れたのかもしれない・・・・


しかし、クラウディアさんは緩めた頬を引き締め直すと、今度は真面目な顔つきでエノクに話を続けてきた。





「・・・最後に、旅立ちにあたりせめてもの私からのアドバイスだ」



「エノク・・・君のその旅は過酷なものになるだろう事は想像に難くない」



「だが、忘れるな・・・君の一番の強みは、君自身の強さではない」



「いかなる場合においても、状況を正確に把握出来る能力だ」



「それは君のパーティの危機を救う強力な盾になるし、今後訪れるであろうあらゆる不測の事態で”最善”を選択する知恵となるだろう・・・」



「決して1人で物事を解決しようとするな。周りを頼れ!周囲の状況を徹底的に利用しろ!」



「それが危機に瀕した時に状況を打開する鍵となるはずだ」



「私と騎士団を頼る事によって、君は上手く難を避けることができて、今日の旅立ちに繋がったのだ」



「結果的に私達は君に利用されたことになるが、私はそれを全く不満に感じていないどころか嬉しく感じている」



「君が恩と絆を大切にする人間だと私はすぐに分かったからだ。君の新しいパーティもきっとそれは感じていることだろう」



「・・・だから困った時は仲間を遠慮なく頼るんだ!分かったな?」



「・・・クラウディア団長・・・」





クラウディアさんがエノクを見据え真摯に述べてくる。


エノクと少なからず行動して彼に命を救われたクラウディアさんだからこそ感じた言葉なのだろう。


その言葉には確かな説得力があった。


クラウディアさんの親身な言葉にエノクは目を少し潤ませている。


エノクとクラウディアさんの出会いはアモンギルドですれ違ったのが初めてだが、実際に二人が会話をしてお互いを認識したのは商人ギルド連盟会館の地下牢でのことだ。


そこで、エノクの純真さとエレノアさんへの忠誠が本物だと見抜いた彼女はエノクの不法侵入を不問にしたのだ。


その時からクラウディアさんはエノクにとって恩人であり、姉の様な存在なのかもしれない・・・


クラウディアさんはそこまで言うと席を立ち上がり、エノクに手を差し出してきた。





「しばしのお別れだ・・・エノク」



「お前の冒険の武運を祈っている・・・達者でな」



「はい・・・・クラウディア団長もお元気で!!」





エノクも涙を拭って微笑むと、クラウディアさんの手をとり握手を交わした。


そして、横で見ていたアイナさんが二人に声を掛けてきた。





「では・・隊長、私はエノクさんを王宮の外までお見送り致します」



「ああ・・・頼む」





アイナさんが頷くと、エノクに声を掛けてくる。





「では・・・エノクさん、まいりましょう・・・」



「はい!アイナさん!」



「では・・・クラウディア団長!ありがとうございました!



「行ってきます!!」





そう言ってエノクが頭を下げて最後に別れの挨拶をすると、クラウディアさんも手を上げてエノクに応えた。


エノクとの惜別を悲しんでいるからなのだろうか・・・?


その顔には影が差しており、なんとも言えない複雑な表情だった・・・・・







・・・ガラガラガラ





「・・・アイナさん。ありがとうございます!」



「ここまでで結構です!!」





台車の音を立てながら王宮の正門までくると、エノクがアイナさんに声を掛けた。


アイナさんが少し不安げな表情で返事をしてくる。





「・・・大丈夫ですか?荷物がだいぶ多そうですが・・・」



「坂道があるのにこの量だときついでしょう」



「港まで荷物を運ぶのを手伝いましょうか?」





彼女はそう言いながら、エノクの荷物に目を向ける。


そこは冒険に必要な必需品がこれでもかと積み込まれた巨大なカバンの山だった。


先日調達した様々な調理器具や魔道具に加え、エノクの私服や魔道具創作キットなども入っている。


エノクの身長の半分ほどもある巨大な旅行カバン5つ分が、台車の上に載せられていた。





「あはは・・・・大丈夫ですよ」



「アイナさん何言ってるんですか。僕はもう熟練の冒険者の仲間なんですよ?」



「これくらい一人で持てるようにならないでどうするんですか?」





エノクは痩せ我慢の言葉を精一杯吐く。


アイナさんには当然そんなのお見通しだろうが、彼女は微笑みながら相槌を打った後、静かに言葉を続けてきた。





「それもそうですね・・・分かりました。将来の大冒険者に掛ける言葉ではありませんでしたね」



「私はここで見送るとしましょう」



「しかし、せめてあなたの旅の無事をここで祈らせてください」



「エノクさんの旅にリーヴ神とヘルヴォルのご加護があらんことを・・・!!」



「・・・アイナさん」





アイナさんの言葉に再びエノクは目を潤ませる。


彼女は別れの直前までエノクの身を案じてくれている。


アイナさんが護衛に付いたのは私やエノクにとって非常に幸運なことだった。


彼女がいなければ、私達はエノクの自宅に帰宅した時にならず者達にやられていたかもしれない。


彼女がエノクを鍛えてくれなければ、私達は冒険者のスタートラインにも立つことが出来なかったかもしれないのだ。





「アイナさん・・・本当にお世話になりました・・・」



「御恩は一生忘れません!!」





エノクはアイナさんの手を取ると、彼女の前で深々と頭を下げた。


エノクの頬にいつの間にかつーと涙が伝っていく。


惜別の涙を見せるエノクにアイナさんが目をパチパチとさせた後、口元を緩ませながら諭してくる。





「・・・旅立ちに涙を見せるものではありませんよ・・・」



「今日はエノクさんにとって記念すべき日です」





そして、アイナさんは背筋を伸ばしエノクに敬礼をして見送ってくれたのだ。


そんな彼女に対し、エノクも敬礼を返して言った。





「アイナさん!・・・どうかお元気で!!」





エノクはアイナさんに背を向け王宮の門を出る。


背後ではアイナさんが不動の姿勢でエノクを敬礼で見送っていた。


こうして私達は2ヶ月間過ごした王宮を後にしたのだった・・・







「あっ・・・いた!」



「どうやらもうみんな着いているようだね」





エノクがそう言って前方を指差した。


周囲には潮の香りが漂い、カモメの鳴き声が聞こえてくる。


王都の東部に位置する港に到着したのだ。


軍艦や交易船、漁船、遊覧船、渡航船など、多様な船で賑わう港の一角にある船着き場で”彼ら”は私達を待っていた。


エノクは彼らに手を振り、自らの到着をアピールする。


時刻は丁度正午になろうとしていた。港で待ち合わせていた約束の時間だ。





「・・・あ、あいつ、ようやく来たーーー!遅いっつ―の!!」





憎まれ口を叩いてきたのは、やはりというかミランダだった。





「まあ・・・あんな荷物抱えてちゃしょうがないわよ」



「初めての冒険だもの・・・荷物は多くなっちゃうものよ」





そう言ってポン!とミランダの肩を置いて彼女を宥めるようにヴァネッサさんが口を開く。





「おっ!坊主気合入っているなぁ!若い頃の俺を思い出すねぇ・・・」





しみじみとランベールさんがそう言って過去を回想する。





「そりゃ”一流シェフ”を目指している奴なんだからな!調理器具とかたくさん入っているんだろう!」



「・・・はっ、馬鹿らしい・・・」





ランベールさんの言葉にユリアンさんとビクターさんが反応する。


エノクがいつの間にかシェフを目指していると勘違いしている食いしん坊のユリアンさんに、それを一笑に付している情報屋のビクターさん。


彼らの性格がよく出ていると言っていい反応だった。


エノクは台車を押しながらゆっくりと彼らの前まで来るとペコリと頭を下げる。





「みなさん・・・お待たせいたしました!」



「本日からよろしくお願いいたします!!」





気合のある一声とともに仲間たち全員へ会釈をした後、ヘルマンさんの方へと向いた。


ヘルマンさんは腕組をした状態でエノクを見据えると声を掛けてきた。





「いよいよだな・・・エノク」



「晴れて今日からお前も俺達のパーティの一員だ!」



「依頼人だからと言っても俺は容赦しねえぞ?」



「道中しごいてやるから覚悟して付いてこいよ!」



「・・・・はい!お願いします!」





ヘルマンさんの”しごき”宣言にもエノクは力強く相槌を返した。





「へっ・・・いいねぇ。気合十分じゃねえか」



「それにパーティ内でのお前の役割をちゃんと分かっているようで何よりだぜ!」





そう言って、彼はエノクの荷物に視線を移す。


旅行カバンに収まりきれずにチラチラと見える調理器具や魔道具などを見てヘルマンさんはニヤリと笑った。


パーティのサポート役としてエノクが持ってきた荷物が要望に叶っていることに彼は満足したのだろう。


出だしとしては”合格”ってところだろうか。


そして彼は鋭い視線でエノクの荷物をチェックしていくと、ふと、”私”が入っている防護カバンに視線が止まるのだった・・・





「・・・それ、この間もぶら下げていたよな?」



「でかくてやたら頑丈そうだけど、それには何が入っているんだ?」



「何かの秘密道具でも入れているのか?」



「・・・・・」





ヘルマンさんの言葉にパーティの視線も防護カバンに集中する。


・・・期せずして絶好の紹介の機会が訪れた。


エノクは一旦間を置くと、防護カバンの中にいる私に声を掛けてきた。





(・・・レイナ、行ける?)



(・・・うん、お願い。エノク)





彼は私の言葉に頷くと、パーティの面々に顔を合わせ、静かに言葉を発した。





「・・・はい、ヘルマンさん。それなんですが、重要なお知らせがあります」



「・・・実は、もう一人仲間を紹介させて頂きたいんです」



「頼れる僕の相棒です」





エノクはそう言うと、防護カバンを前に抱えて蓋を開けた。


そして、ゆっくりと私はカバンから身を出すと、彼らの視線が集中する中静かに頭を下げて言ったのだ・・・・・





「皆さん、初めまして!レイナと申します――――」









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