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神殺しの剣⑤




私達はこれで正式に彼ら冒険者パーティに同行する契約が成立した。


冒険者ギルドを通していないが、彼らだったら信頼できるし必要ないだろう。


冒険者ギルドを通すメリットとしては報酬額を積めば高レベルのパーティを斡旋してくれることや、


ギルドが依頼人の身柄を保証してくれるという点だ。


今回のようにそもそも斡旋の必要がなく、冒険者パーティの実力がある程度分かっている場合や、


パーティの信頼がおける場合は冒険者ギルドを通す必要がない。


むしろ総報酬額から手数料を取られてしまうからデメリットのほうが大きい。


今回の場合、アニヒレーションガンの相場費用なども考慮に入れれば、数億の報酬額が見込まれる。


ギルドを通した場合はそこから1割の手数料を取られてしまうことになってしまうから、数千万クレジットの手数料が取られてしまうという訳だ。


これははっきり言って馬鹿らしいだろう。


彼らとはほぼ仲間同然でこれから付き合うことになるのだ。


余計な出費はお互い抑えなければならないし、意思疎通も重要だ。


先ほどヘルマンさんが条件をつけてきたように、冒険の方針は彼に一任し、私達は彼の指示に従うことになる。


エノクが再び席に着席すると、早速ヘルマンさんから冒険についての話が始まる。





「さて・・・正式にお前が俺達の依頼人になった訳だが・・・」



「依頼人と言えども、仰々しいのは俺達は好きじゃないからな」



「さすがに”坊主”と呼ぶのもあれだから、お前のことはこれから”エノク”と名前で呼ばせてもらうぞ」



「構わないだろ?」



「はい。もちろん問題ありません!」





エノクが微笑みながら頷く。





「・・・じゃあ、エノク。早速だが、俺達の今後の冒険の予定について話しておくぞ」





そして、ヘルマンさんはエノクを見据えて話し始めた。





「・・・先ほど、ちらほらと話題に出ていたから気づいているかも知れないが・・・」



「俺達は”地割れの島”にある”冥府の大洞穴”の深層部に挑もうとしているんだ」



「お前は”冥府の大洞穴”は知っているか?」



「・・・はい、少しは知っています。何でも未踏破の大変危険なダンジョンなのだとか・・・」





エノクがそう言ってヘルマンさんの問いかけに頷いた。


”冥府の大洞穴”・・・・それは地割れの島にあるという地獄へと続いていると言われる洞窟の事だ。


地図を見れば分かる通り、地割れの島は世界の海の果てとも言うべきスルトの地割れのすぐ手前に位置している。


スルトの地割れからは濃い瘴気が立ち昇っており、その付近では異形の魔物が数多く出現するのだという。


立ち入るためには瘴気を防ぐ防具や魔法アイテムは必須で、体力のない旅人は近寄ることすら出来ない。


まさに”魔の島”ともいうべき孤島なのだが、同時にそこには貴重な鉱物や、その島でしか生息していない薬草などが存在している。


市場では地割れの島のそれらの産出物は高額で取引されており、一攫千金を狙う冒険者たちの来訪が後を絶たないのだという。


冥府の大洞穴はその島の一角に存在している未踏破の洞窟だ。


場所が場所なだけに、スルトの地割れの底まで続いているんじゃないかとまことしやかな噂が流れている。





そんな場所の深層部に挑もうっていうんだから、やっぱりこの人達半端ないわよね・・・





私が、彼らの凄さにしみじみと感じ入っているとヘルマンさんが続けてきた。





「・・・そうか。知っているなら話が早い」



「俺達はそこに挑むために、今絶賛”準備中”というわけだ!」



「新たな仲間を加えることもそうだし、装備やアイテム、それに仲間たち全体の戦力の増強(レベルアップ)も必要だな。そのための資金調達ももちろん必須だ」



「それで、俺達はカーラ王都で仲間探しと、報酬が良さそうな依頼を探していたんだが・・・残念ながら時期が悪いのか条件にあった人物も、良い依頼もなくてね・・・」



「そろそろ活動の拠点を”ゴートランド共和国”の方に移そうと思っていたところなんだ」



「あの国の北部は豊富な鉱山資源が在り、冒険者への採掘の依頼も多いからな。資金調達の面ではもってこいって訳だ」



「お前もそれを踏まえて旅立ちの準備をしておいてくれ」



「・・・とりあえず、装備に関しては今着ているもので十分だろう。冒険に必要な生活必需品を用意してくれればいい」



「・・・1週間後の”9/20”に旅立つ予定だが、行けるか?」





ヘルマンさんの問いかけにエノクは相槌を返しながら答える。





「はい。大丈夫です!」



「1週間あれば十分整えられると思います!」





エノクが了解の言葉を口にすると、ヘルマンさんはパンッ!と手を叩く。





「・・・よしっ!決まりだ!」



「それなら、エノクに俺達のパーティを紹介しなきゃな!」





そう言って彼は二カッ!と笑う。


そして、仲間達に手を差し向けながら彼はパーティの紹介を始めた。





「・・・まずは、うちのパーティの頼れるガーディアン!」



装甲戦士(シールダー)のランベール!」



「”ランベール・ロルモー”だ。よろしくな、坊主!」





ヘルマンさんに紹介された”ランベール”さんがエノクに手を差し出してきた。


彼は一目で修羅場をくぐり抜けてきたであろう事が分かる30代後半のフルアーマーを装備した戦士だった。


そのガタイの良さに顔のあちこちに付いた古傷と本人の眼光も合わさり、歴戦の猛者のような風格を彼から感じる。





「はい!ランベールさん!よろしくお願いいたします」





エノクはそんなに彼の手を取り、にこやかに答えながら握手をした。


続けて、ヘルマンさんはランベールさんの隣の男性に目を向ける。





「・・・そして、次に紹介するのはうちのパーティの切り込み隊長!」



「”オーガスレイヤー”の異名を持つユリアンだ!」



「”ユリアン・ブレッカー”だ。お前の飯美味かったぜ!」



「冒険中、お前の作る料理超期待しているからな!」





そう言ってユリアンさんも笑顔を見せながら、エノクに手を差し出してきた。


彼の年齢はヘルマンさんと同じく20代後半といったところ。


彼はブラウンの長髪を後ろで結わえたポニーテールが特徴だった。


ランベールさんと同じく背が高く、鍛え上げられた肉体を持っていることは服の上からでも伺える。


そして、もう一つ彼の特徴としては背中の鞘に納められた身の丈ほどもある大剣だ。


あの大きさの剣を振るえるのなら彼が常人の域を越えた実力者だということは誰でも分かるだろう。





「あははっ・・・はい!精一杯皆さんに美味しいもの作れるように僕も頑張りますよ!」



「よろしくお願いします!ユリアンさん!」





そう答えながらエノクはユリアンさんと握手を交わした。


エノクは魔法技師としてではなく、料理当番として期待していると言われて思わず苦笑いをしてしまう。


まあ、ユリアンさんも悪気があって言ったわけではないだろう。


一見すると、裏表があるような性格の人物には見えない。


単純に思ったことをそのまま話してしまう素直な人なんだろう。





「じゃあ・・・次はうちの女性陣だな」



「その長袖の白いローブを着た女が、ヴァネッサだ」



「うちのパーティの回復役をしてもらっている」





ヘルマンさんに紹介されると、泣きぼくろのその赤髪の女性がエノクにウィンクを送ってきた。





「”ヴァネッサ・ツェラー”よ。よろしくね!エノク」



「私もあんたの料理気に入っちゃったから、同行を心から歓迎するわ!」



「回復が必要ならいつでも言いなさいね?」



「あっ!はいありがとうございます。ヴァネッサさん!」



「どうぞよろしくお願いします!」





エノクは僅かに頬を紅潮させながらヴァネッサさんに頭を下げる。


胸が大きい・・・ちょっと妖艶なお姉さんという感じの人だ。


だけど、その発言や雰囲気から面倒見の良さが見て取れる。


困ったことがあったら、彼女は頼りになりそうね・・・・





「そして、そっちのとんがり帽子を被った奴が魔術師のミランダだ」



「パーティの後衛と支援を担当してもらっている」





紹介されたミランダと呼ばれた若い女性は目を細めながらエノクを見つめてきた。





「”ミランダ・ウォッシュバーン”よ・・・」



「・・・まあ、依頼だからやるし、あんたの料理は気に入ったけど・・・勘違いはしないでね」



「私はあんたと違って”エリート”なんだから、あんたと仲良くして貴重な時間を無駄にするつもりはないの」



「だから馴れ馴れしく話しかけてこないでね」



「それに・・・私、弱い男嫌いだから」



「・・・あははっ、はい、分かりました・・・よろしくお願いいたします」





そう言ってミランダがエノクに釘を刺してきた。


彼女にエノクはやはり苦笑いで返すしかなかったようだ。


彼女はまだ10代後半で若く、エノクや私とほぼ同年代くらいの女の子だ。


この年齢で熟練の冒険者のパーティの1人として活動していることからしても、


彼女が自画自賛ではなくエリート冒険者なのだろうことは本当なのだろう。


ちょっと感じ悪い子だけど・・・まあ、時間かけて徐々に打ち解けて行くしかないだろう・・・




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