神殺しの剣④
「なんだ・・・これは・・・?」
「・・・綺麗・・・」
「銃か・・・?」
エノクが開いたアタッシュケースの中身を見て彼らは思い思いに言葉を発した。
どうやら、彼らは崩壊銃を見たことはないらしい。
彼らは不思議な形状した銃と、神秘的な電子の動きを見せる弾に視線が釘付けになっている。
それはリーダーであるヘルマンさんも例外ではなかった。
彼は少々呆気に囚われた後、眉間にシワを寄せながらエノクに尋ねてきた。
「坊主・・・なんだこれは?」
「なんかの銃に見えるが・・・・」
ヘルマンさんはそう言いながら、顎に手をやりながらしばし銃に見入っていた。
熟練の冒険者のパーティでもすぐに思い当たらないということは、それだけこの銃が貴重だという証左に他ならないだろう。
そして、エノクがパーティメンバー達を見据え説明を始める。
「はい・・・これは崩壊銃と呼ばれる先史文明の遺物です」
「非常に強力な武器でこの銃砲の一発で、ドラゴンすら倒すと伝わっている武器なんです」
「・・・・!?」
そのエノクの言葉にへルマンさんや、パーティメンバー達の顔色が変わる。
彼らの表情には少なからず驚きの感情が出ており、エノクの説明を聞いても信じられないようだった。
そんな中、ヘルマンさんが訝しげな表情でエノクの問い返してきた。
「・・・本当か、それ・・・?ドラゴンですら一発で倒す銃なんて存在するのか?」
「そんなものが存在するなら誰でも”ドラゴンスレイヤー”の称号が得られちまうだろう・・・」
「お前の言うことは俄には信じがたいんだが・・・」
そう言って彼は疑問を呈してきた。
・・・まあ、彼の疑問ももっともだろう。
冒険者にとって”ドラゴンスレイヤー”の称号はまさに人生をかけて追い求める憧れの称号だ。
それがあれば冒険者として箔が付くし、その名声によりそれまで以上に冒険者としての活動の幅が広がるのは言うまでもない。
エノクの説明を鵜呑みにすればこの銃があればその称号を得られると言っているに等しいのだ。
彼らにとってはそんな甘い話は容易に信じられないだろう。
ヘルマンさん達が険しい表情でエノクの説明を聞き、アニヒレーションガンを呆然と眺めている時だった。
「いや・・・その銃の話は俺も聞いたことがある・・・」
それまで彼らの会話に参加せず、静観していた優男が口を開いた。
言葉少なくポツリと発したその言葉にパーティの面々の視線が彼に集中する。
「・・・ビクター本当か?」
「・・・ああ、俺も噂レベルだがな・・・」
ヘルマンさんの問いに、”ビクター”と呼ばれた優男が頷きながら答えた。
彼はヘルマンさんと同じく20代後半の金髪の男性だった。
どこぞのビジュアルバンドのボーカルを務めててもおかしくない容姿に、長身で細みの身体。
切れ長の二重の目に、高く真っ直ぐに通った鼻筋に、シャープな顎。
世が世なら、世間の女子にイケメン男性として持て囃されておかしくない風貌を彼は持っていた。
彼はヘルマンさんに顔を向けて、銃について静かに話し始める。
「先史文明の遺物の中には”億”を超える値段を付けられる武器も少なくない・・・」
「中には当然銃もあるんだが、その中の一つに”これ”の特徴と一致する銃の情報を聞いた覚えがあるんだ・・・」
「なんでもその銃の弾倉は不自然なほど膨らんだ球状をしていて、コインくらいの弾を入れる挿入口が左右に2つ付いているんだとか・・・」
「そしてその弾の方も特徴的で、白い水晶球の様な玉がぐるぐると中を回っているという摩訶不思議な弾なんだという・・・」
「・・・その威力は絶大で、相手が何者であれ、全てを消し飛ばせる究極の一撃を放つという話だ・・・」
「正直、おとぎ話に出てくるような武器で、眉唾ものの話も良いところだと俺は思ってたんだが・・・・」
そこまで言うと、ビクターさんは一旦区切って、エノクの開いたアタッシュケースの中に視線を向ける。
「・・・これを実物で見せられちゃ”情報屋”としてはその話も信じねぇ訳にはいかねぇな・・・」
彼はそう言って両手を上げ、驚いたリアクションを取った。
ヘルマンさんはビクターさんの仕草を見て「マジか・・・」と呆気にとられた感想を漏らす。
そして、彼は再び銃をしげしげと見つめるのだった。
・・・ふふん、驚いているわね。どんなもんよ?←何故かドヤ顔
私が彼らのリアクションに大いに溜飲を下げていると、エノクが続きを話し始める。
「・・・今、そちらの方が仰って頂いた通りです」
「この銃は、非常に珍しく貴重で億を超える価値を優に有しています」
「もし、オークションに出品したら、数億の値段が付くでしょう・・・」
「・・・この銃は親方から貰った大切な銃なんですが、こういう使い方なら親方も許してくれるでしょう・・・」
「依頼を請けて、同行を許して頂き、僕が”Lv50以上”になったら・・・・追加報酬としてこの崩壊銃を皆さんに差し上げます!」
「いかがでしょうか・・・?」
エノクの言葉にヘルマンさんの視線がギロリと鋭くなった。
「・・・へっ!そう来やがったか」
「切り札を取っておいたって訳かい・・・」
「従順なフリしていながら、一方で俺達が切り札を出すに値するパーティか見定めてやがったな・・・坊主?」
「意外に肝が座ってるじゃねえか・・・」
「・・・・・」
そう言うと、ヘルマンさんは口元にニヤリとした笑みを浮かべる。
彼は再び仲間に顔を向けると、頭をポリポリと掻きながら声を掛けた。
「・・・あ~・・・つー訳で、状況が変わった」
「”総合的に判断して”、どうやらメリットの方が上回っちまった様だ・・・」
「パーティにメリットがあるんだったら、俺も請けることはやぶさかではない・・・」
「この坊主の依頼を請けてもいいか一応聞いておくが・・・・お前らはどう思うよ?」
ヘルマンさんはそう言ってしぶしぶ仲間に尋ねると、彼の仲間からジト~とした目が向けられる。
「・・・だから、最初から私は良いって言っているじゃん!素直に間違いを認めなさいよ・・・」
「そうだぞぉ!その銃のことを抜きにしても最初からメリットは大きかっただろうが!」
「ああ・・・十分その坊主の能力役に立つよな」
「・・・本当負けを認めないよねぇ、ヘルマンって・・・」
「・・・うるせえ!お前らはただ単に”美味い飯”食いたいだけだろうが!」
仲間からの総ツッコミに、ヘルマンさんが逆ギレする。
その様子はまるでコントでもしているかのようだった。
どうやら結構愉快な人達のようだ。
ヘルマンさんはやれやれと首を振ると、今度はビクターさんに顔を向ける。
「ビクター・・・お前はどう思うんだ?」
彼はそう言って、今度はビクターさんを見据える。
その表情は先程までと違いキリリと引き締まっていた・・・
ビクターさんは自分を”情報屋”と言っていたし、彼の意見にヘルマンさんも一目を置いているのかもしれない・・・
ヘルマンさんの視線を受けたビクターさんは、彼に視線を合わせると、静かに言葉を返した。
「・・・その銃は未知の強敵に遭遇した際の俺達の切り札にもなりうる武器だ・・・」
「その坊主のお守りをするだけで、俺達の命のストックが一つ増えるに等しい・・・」
「今度、”冥府の大洞穴”に潜ることを考えれば、安全策は大いに越したことはないだろうな・・・」
ビクターさんのその言葉にヘルマンさんも顎に手を当てながら頷いた。
「・・・なるほどな。お前も賛成というわけか・・・」
彼は頭を掻きながら一息つくと、改めてエノクを見据える。
そして、「ふっ・・・」と微笑を浮かべた後、エノクに言葉を返してきた。
「坊主・・・どうやら、お前の粘り勝ちのようだぜ」
「・・・だが、依頼を請けるにあたりこちらからも条件がある・・・」
「1つ目は俺達が危機に瀕した時はその銃の使用を認めること」
「2つ目はお前が依頼を取り下げ、俺達のパーティから離れる時はそれまでの報酬としてその銃を譲渡すること」
「3つ目は冒険中はリーダーの俺の指示に従うこと」
「・・・以上の条件を追加で呑めるならお前の依頼を請けてやる」
「・・・どうだ、呑めるか?」
「・・・・・」
ヘルマンさんが出してきた条件にエノクは一瞬考える素振りを見せる。
だが・・・こちらの回答はもう既に決まっているようなものだった。
彼が出してきた条件は当然のものだろう。
(・・・レイナ問題ないよね?)
(ええ・・・もちろん)
エノクは私の言葉に頷くと、ヘルマンさんを改めて見据える。
「はい!・・・その条件で結構です!」
そして、彼は力強くそう返事をしたのだ。
その言葉にヘルマンさんも二カッ!と笑みを返してきた。
「オッケー!・・・なら、契約成立だ!」
「よろしくな!坊主!!」
「はい!よろしくお願いいたします!!」
そして、エノクとヘルマンさんは固く握手を交わしたのだった・・・




