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神殺しの剣②




「俺はこのパーティのリーダーをしているヘルマンだ」



「・・・それで、お前は一体、どこの誰なんだ?」





エノクが席に着席すると、早速ヘルマンさんがそう尋ねてきた。


まずは、当然とばかりにエノクの素性についての確認からだった。


そして、パーティ全員の視線がエノクに集中する。


彼らの表情から察するに、エノクに興味が沸いて話を聞こうと耳を傾けている人が半分。


とりあえず話を聞くが、仏頂面でエノクを冷めた目で見ている人が半分といったところ。


そんな彼らの視線が集中する中、エノクは自己紹介を始める。





「・・・はい。まずは自己紹介をさせて頂きますね」



「僕はもう既に職を辞しましたが、ガング・マイスター工房で魔法技師の見習いをしておりました」



「アザゼルギルドのメンバーでもあったので、これでもクレスの町では少しは名の知れた魔法技師なんです」





エノクが自身の身の上を話し始めると、パーティの内の何人かが「ほう・・・」という顔つきになった。


彼らもエノクがこの若さでギルドメンバーに選ばれていたことに少なからず驚きを覚えたのだろう。


通常ギルドのメンバーに選ばれるためには相当な実績と経験が求められる。


彼らもこれでエノクが凡百の魔法技師の見習いとは違うと認識したはずだ。


それはリーダーのヘルマンさんも感じたのだろう。


彼は切れ長の目を更に細めてエノクを見据えながら、言葉を返してきた。





「・・・ふーん。坊主、お前魔法技師なのか」



「しかも、ギルドメンバーだったって?」



「そんな奴が何でギルドを辞めてまで、俺達冒険者に依頼をしにきたんだ?」





ヘルマンさんはそう言うと、ギロリとした視線をエノクに向けた。


彼の性格の問題なのか、それが熟練の冒険者の全員に言える性質なのか定かではないが、彼は非常に用心深い性格のようだ。


エノクの事を信頼するに足る人物なのかまさに今見極めようとしているのだろう。


彼の疑念がこちらにヒシヒシと伝わってくる。


下手に取り繕ったり、嘘をついたら見破られてしまい、信頼を損なってしまうことに成りかねない。


依頼人として同行するなら、彼らから信頼を得ることは絶対条件だ。


ただでさえ、こちらには彼らに対して”出せる交渉カード”が限られている。


見返りが少ないどころか、信頼も出来ないなんて事になれば、すぐに追い返されるのが関の山だ。


エノクはヘルマンさんの視線を受け止めると、ゆっくりと事情を話し始める。





「・・・・僕は魔法技師として”大きな夢”があります」



「それは自分で神話のアイテムを作成出来るほどの魔法技師になることです」



「今では”分業”が進み、魔道具を作る際には魔法技師本人のレベルはそこまで求められなくなりました」



「魔道具の”型”さえ作れる技術と知識があれば、足りない魔力の投入は魔術師ギルドに依頼する事が主流になったからです」



「しかし、それでは親方のように本当に力がある魔法技師になることは出来ませんし、本当に高度な魔道具は魔法技師本人が魔力を使用しないと創ることは出来ません」



「魔法技師にもやはり”レベル”というものは必要なんです」



「・・・・・」





エノクの言葉をヘルマンさんや他のパーティは黙って聞いている。


今エノクが言った通り、魔法技師として仕事をするだけならレベルは実はそこまで必要ではないという。


熟練工(クラフト)の称号を得ている魔法技師でも、レベルは一般人と同じくらいの人は結構いるらしい。


彼らは依頼を受注して魔道具の原型を作成した後、その型に魔力を流し込む依頼を魔術師ギルドに掛けるという。


エノクが言った分業とはそういう事だ。


しかし、当然そうなると魔法技師の報酬の取り分は少なくなるし、何より、魔道具の事を一番良く分かっているのは当然創作している魔法技師本人だ。


魔道具に込める魔力の絶妙な力加減が分からず、”ムラ”がある魔道具が作られることなんてザラにあるし、品質も魔法技師本人が創作した魔道具よりやはり落ちる。


その為、本当に力がある魔法技師や、魔道具の創作に拘りのある魔法技師は全ての創作工程を自らで完結すべく、修業の道に入るという。


・・・エノクの親方がそうであったように、冒険者になるという道だ。


しかし、命を掛けてまでそのような道に進む魔法技師は一握りであるという。


ましてや、エノクのように大冒険者を目指し、挙句の果てに神遺物の創作をしようとしている者など皆無だろう。


エノクは彼を見つめているパーティ全員を見渡した後、改めてヘルマンさんに向き直って、依頼の内容を話し始めた。





「・・・僕の”依頼”は僕自身の研鑽の為に、皆さんのパーティに同行させていただきたいという事です」



「ただし、僕を護衛しろと言っているわけではありません」



「むしろ、皆さんのパーティの一員として苦楽を共にする覚悟が僕にはあります」



「僕が皆さんへお支払いする報奨金については、手持ちは少なく、皆さんを満足させるお金は今はありません・・・」



「だからお金とは違った形で皆さんに報酬をお支払いしたいのです」



「・・・旅の同行中、僕を召使い、あるいは、使い走りの様に扱ってくれて構いません」



「雑事は何でもこなしますし、皆さんの胃袋を満足させる為に料理もさせて頂きます」



「また、簡単なポーションや魔道具なら今の僕でも創作可能ですので、少しは戦闘面でも皆さんのお役には立てるはずです」



「そして、将来的に僕が一人前の魔法技師になった暁には、皆さんに格安で武具や魔道具を提供させていただくことをお約束いたします!」



「だから、僕を皆さんのパーティに同行させてもらえないでしょうか!?」



「・・・どうかお願いします!!」





エノクはこんこんと自らの思いを綴った後、最後にヘルマンさんに向って頭を下げた。


エノクの言葉を聞いて、彼らはお互い顔を見合わせながらなんとも言えない表情をしていた。


依頼を受けるか否か迷っているのだろう。


お金の報奨こそ提示していないが、旅の便利屋としてエノクを使うメリットが有ることを彼らも理解しているはずだ。


こちらの出せる報酬のカードとしてはエノクの魔法技師としての能力や、料理当番などの雑用としてエノクを使えること。


また、将来の武具や魔道具の調達が安く済むことなどだ。





彼らがこのメリットをどれだけ高く見積もってくれるかよねぇ・・・





そこで私は最終決定者であろう、リーダーの”ヘルマン”さんの方に視線を向ける。


彼は腕を組みながらエノクの言葉を吟味するかのように、目を閉じながら物思いにふけっていた。


やがて、彼は目を開き、感情を表さずにエノクを見据える。


彼は頬を描きながら静かに言葉を発した。





「・・・ああ、とりあえず。お前の依頼は分かった」



「俺達の冒険に同行したいという気持ちはお前から凄い伝わってきたよ・・・」



「・・・お前が嘘、偽りなく、本心で語っているというのもよく分かるし、お前が悪い奴じゃないというのも理解したよ」





ヘルマンさんの言葉にエノクは、目を大きく開く。


想像以上にこちらを高く買っている言葉にエノクも驚いたのだろう。


だが、次の言葉で私もエノクも唖然としてしまう・・・





「・・・だが悪いが、駄目だな」



「お前の依頼は受けられないよ」



「他を当たってくれないか?」




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