魔力通信機
(・・・レイナ聞こえるかい?)
エノクの声が私の頭の中に直接響いてきた。
声が聞こえてきた瞬間、私は「おお・・・!」と思わず感嘆の声を上げてしまった。
まさか、ここまできちんとクリアに聞こえてくるとは思わなかった。
しかし、まだこれでコミュニケーションが成立するわけではない。
私はエノクに返事を返すべく、ブレスレットの形状をしている目の前の魔力通信機に触れた。
そして、魔力波をエノクに送ることをイメージしながらエノクに返事を返す。
(うん・・・大丈夫聞こえるよ)
(・・・良かった。どうやら、レイナも無事に使えるみたいだね)
エノクが安堵する声が、再び私の頭の中に響いてくる。
とりあえず、これでコミュニケーションが成立したことが分かったので私も一安心だ。
高かったからね・・・これ。
私がそう喜んでいると、続けてエノクから連絡が入る。
(・・・よし、とりあえず緊急の時は今後はこれを使うようにしよう!)
(魔力通信機に触れてないと、会話が出来ないからそこは注意が必要だよ)
(僕は腕輪として常時付けているつもりだけど、レイナはそれは無理だろうから、連絡を取りたい時だけそれに触れて連絡取ってもらえば構わない)
(逆に僕から連絡したい時は防護カバンをコンコン!と叩くから、レイナは魔力通信機に触れて受信して欲しい)
(うん。分かったわ)
私は魔力通信機を使って、エノクに返事を返す。
防護カバンの中において、これまで私はモールス信号のような方法でしかエノクに意思疎通を送ることが出来なった。
しかし、今日この時点において、ついに電話にアップグレードされたというわけだ!
もどかしさを感じていたから、私の喜びもひとしおだった。
(じゃあこのまま2階に上がるよ。また、何かあったら連絡するね!)
(はーい。了解!)
そう言って私達は魔力通信機の会話を切る。
そして、エノクは2階へ上がる階段へと足を向けるのだった・・・
・・・今、私達はマルバスギルドを再度訪れている。
エノクの訓練が今日の午前中を以って終了した。
アイナさんの最後の課題をエノクが無事に突破したのだ。
彼が最後の訓練を終えて、ニヤケ顔をしながら家に戻った時は正午すらまだ回っていなかった。
私は丸一日掛かるだろうと予想していたから、彼の予想外に早い帰宅には流石に驚いてしまった。
エノクから最後の課題の詳細を聞いた時は、一瞬唖然としてしまったが、早く終わったのも納得できる内容だった。
最後にアイナさんニクイ演出してくれるじゃない・・・
なにはともあれ、これで無事に訓練は終了した。
私は改めて巻物を広げて自分のステータスを確認する。
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◇転生者基本情報
名前:遠坂 玲奈
年齢:18歳(寿命:未設定)
身長:17.5cm
体重:53g
BWH:8.7 5.6 9.0
Lv:7
HP:8
MP:23
STR:6.1
DEF:3.4
INT:2.4
VIT:4.4
CRI:1.1
DEX:3.5
AGI:8.4
LUK:1.6
プライマリースキル:グロース、ミニマム
セカンダリースキル:アナライズ
タレントスキル:大器晩成、酒乱、逃げ脚、テンプテーション
バッドステータス:1/10縮小化(永続)
所持アイテム:転生者の巻物、ディバイドストーン
所持クレジット:0
現在位置:カーラ王都 マルバスギルド本部 1階商店街
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どうやら今回の訓練の恩恵で、私は最終的にLv【7】まで上げる事が出来たようだ。
一方、エノクはLv【14】まで上げることが出来たと先ほど言っていた。
1ヶ月という短期間でこれほど早く上げることが出来たのは上出来と言って良いだろう!
アイナさんには本当に感謝しても仕切れない。
ただ、エノクは訓練が無事に終わって喜んではいたが、同時に少し寂しさも感じているようだ。
この2ヶ月、エノクが王宮の外へ出る際には何をするにしても彼女には同行して貰っていたのだ。
彼女は私達の命の恩人だし、エノクの戦闘の師匠でもある。
彼女には護衛という範疇を超えて公私に渡って私達をサポートしてくれた友人だった。
そんな彼女が明日から私達と行動を別とする事になれば、少し感傷に浸っても仕方のないことだろう・・・
アイナさんは、訓練が完了した報告をクラウディアさんに告げに騎士団の詰所に向かったとの事だ。
そして、そのまま第1小隊の隊員として復帰するという。
詳細は聞いていないが、騎士団の方でどうやら大きな動きがあるらしい。
今月末に遠征のためにカーラ王国を離れるという話だ。
アイナさんも当然それに参加する予定だという。
幸いなことに9月末までには2週間ちょっと期間がある。
それまでには冒険の準備を終え、彼女には挨拶をしてから旅立つ予定だ。
そういうわけで善は急げ!
訓練終了して喜びも束の間、私達は早速冒険者のパーティ探しと、冒険の準備をしにマルバスギルドに訪れたという訳だ。
マルバスギルドの1階は商店街になっていて、武器・防具などはもちろんの事、貴重な魔法アイテムや、交易品なども取り扱っている。
特に魔法王国として名高いシグルーン王国産の魔法アイテムはここで手に入れることが出来るとの事。
冒険に臨むに当たり、私が防護カバンの中にいてもスムーズにエノクとコミュニケーションが出来る魔道具が欲しいと思ったのだ。
そして、先程”13万5000”クレジットで魔力通信機を購入したという訳だ。
これはブレスレットのように腕に装着する魔法アイテムで、念話が出来る通信アイテムだ。
電話のように電波を送受信するわけではなく、使用するのは魔力波という事になる。
従って、念話をする為には使用者のMPが必要になってきており、1分使用する毎にMPを1消費する。
また、このアイテムによる魔力波の通信距離は半径1キロが良いとこらしいので、遠隔通信には向いていない。
日常生活で使用するアイテムと言うより、冒険者がダンジョンなどの狭い領域に潜った際に仲間と状況を把握するときによく使用されるアイテムなのだという。
MPを消費するアイテムという都合上、あまり長時間念話をすることは出来ないがこれがあればエノクとの意思疎通が格段に良くなるのが嬉しいところだ。
ふふっ・・・まあ、ちょっと高かったけどね。
これは買って正解っしょ!
目の前のブレスレットをなでなでと触りながら私は満足気に笑う。
私にとってこれは神アイテムと言ってもいい魔道具だった。
冒険の準備に使えるお金は残り20万クレジット程になってしまったが、これは必要経費だろう。
これまでのもどかしい思いをせずに思うと、自然と笑みが浮かんできてしまう。
ガヤガヤガヤ・・・・
程なくして、辺りから歓楽街特有の騒がしい声が聞こえてきた。
・・・どうやら私が防護カバンの中でニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている間に、エノクはマルバスギルドの2階へ到着したようだ。
彼はそのまま冒険者ギルドの受付窓口がある、大広間のあるエリアへと足を進めていく。
今回の私達の目的は冒険者のパーティ探しだ。
先日の来訪時は、受付窓口で斡旋して貰う方向で検討したが、結果は承知の通りファリルさんに『悪魔の奴隷』になった方が良いと言われてしまった。
その為、今日は一旦別の方向から攻めて行く事を、エノクとは話し合っている。
冒険者達がパーティを集めたいと思う時、主に3つの方法があるという。
1つ目がギルドの斡旋を受けること。
2つ目がギルドの案内掲示を利用して募集を掛けること。
3つ目が、直接会って勧誘をすること。
以上の3つだ。
掲示板に張り出すのもマルバスギルドに許可を得る必要があり、
いくらか広告費を支払うことになるのだが、斡旋を受けるよりは割安らしい。
質はともかく大量に募集をかけたい時なんかは有効な手段だという。
「・・・あ!あったよ。あそこのエリアだね」




