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旅立ちへの思索②




・・・はい。こんなん出ました。


私が今、能力を掛けたものは「アモンギルド監修:魔物図鑑」というタイトルのただの紙の書籍だ。


これから分かるように、アナライズは身の回りの全てのものを判別してくれるわけではない。


魔力が内包されていない無機物に対しては効力を発揮出来ないのだ。


逆に言えば、魔力が少しでも対象に宿っていればアナライズによって解析が出来るという事でもあるのだけどね・・・


ちなみに私が先ほどポーションに対してアナライズを掛けた時は、名称の欄は「ポーション」、種類の欄は「魔法アイテム」と表示されていた。


私でも、アイテムの鑑定だったら、名前と種類くらいは一応判別できるようだ。


一方、人に対して使用した場合はどうだったかと言うと、昨日エノクに掛けてみたら名前しか表示されなかった。


彼が私に対して”心の壁”を作っていなかったにも関わらずだ。


だけど、これは仕方ない。


私の発揮できる魔法効果が絶対的に少ないし、エノクは私よりINTが当然高いはずだからステータスを見るまでは及ばないのだろう。


だけど、名前が見れることが分かっただけでも私にとっては十分収穫だった。


冒険で魔物と対峙した時も、名前が分かれば巻物から対象の魔物の情報を逆引きできるからだ。





カキカキカキ・・・





先程のアナライズの出力結果を転生者の巻物に記録し、アナライズの特性をまとめる。


アナライズをMP【10】で使用した場合の特性は大体見えてきた。


次からはMPを注入する量を増やし、魔法効果を上げた状態でどうなるかを確認するべきだろう。





「・・・よし!とりあえず今はこんなものかな」





アナライズのメモを書き終えた私はしばし思案を巡らす。


・・・セカンダリースキルを覚えたからと言って素直に喜んでばかりもいられない。


エノクの訓練終了の日まで、後1週間ちょっとに迫っている。


アイナさんはどうやらその日をもってエノクの護衛の役目を終えるらしい。


私もエノクも薄々アイナさんがいつか護衛から外れることは覚悟していたし、その事を告げられた時にもさして驚きはなかった。


アイナさんはエミリアさんという騎士団の副団長の次の強さを誇るのだ。


当然神遺物の探索という重大任務に彼女を外すなんて事はしないだろう。


それにエノクはエレノアさんの騎士団の誘いを断り、冒険者としての道を歩むと宣言したのだ。


いつまでも騎士団の好意に甘えるわけにはいかない。


エノクもそれを感じているからこそ、全力で訓練に励んでいるのだろう。


だからアイナさんの後任の護衛を付ける話も出たのだが、エノクがそれはお断りしたのだ。


私は後任の件は少し考えてもいいと思ったのだけどね・・・


だけど、エノクは覚悟が鈍るから嫌だと言ってきっぱりとその話を断ってしまった。


エノクの言いたいことも分かるから、それには素直に私も納得する。


自分を追い込んだ時に人はそれまでより信じられない力を発揮することがあるし、今までにないアイディアが思い浮かぶことがあるものだ。


私も前世で陸上をやっていた時に中々記録が伸びなくて悩んでいた時、自分を追い込んでそれまで以上の結果に至った事が度々ある。


自らを追い込みそれまでの殻を破ろうとする際に、背水の陣で臨むのは妥当な判断だ。





「・・・さて、今日もスケジュールを考えていかないとね」





私は転生者の巻物のメモを見返しながら、これからのプランを練っていく。


クラウディアさんの好意で、アイナさんの護衛が終わった後も、ここの宿舎は引き続き自由に使える許可をもらっている。


その為、旅立ちを急ぐ必要はないのだが、だからと言ってこのままだらだらと居続けていたら覚悟が鈍ってしまうだろう。


アイナさんとの訓練が終わったら、私達は所属する冒険者ギルドを正式に決め、早速冒険者のパーティを探す予定だ。


そして、アイナさんが任務で出撃する前に、私達は彼女に別れを告げて冒険の旅に出る事をもう決めていた。


ただし、出立を急ぐあまり準備不足で冒険に出ることになってしまっては本末転倒である。


旅立ちには入念な下準備が必要なのは言うまでもない事だ。


そして、その為にもどのような準備をしていくかを事前によく考えておかねばならない。


冒険者のパーティを探すに当たり、マルバスギルドの冒険者についてはある程度こちらでも把握できている。


先日、マルバスギルドでファリルさんという小太りの受付のおじさんに嫌がらせを受けながらも、エノクの機転で冒険者の目録の情報を取得できた。


あの後、エノクは記憶した目録を書き出して私に共有してきた。


目録に載っている情報は冒険者の名前とランクのみだったが、ひとまず名前とランクが分かれば冒険者の実力は把握することが出来る。


マスバスギルドでの冒険者のパーティ探しに大いに役立つことだろう。





「ただ、問題なのはエノクを受け入れてくれるパーティがいるかどうかよね・・・」





私は目録を眺めながら、そう呟いた。


結局問題はそこなのだ。


満足に戦うことも出来ない冒険者は熟練のパーティに参加することは難しい。


命をかける冒険に足手まといを連れて行くほどの余裕はどこのパーティだって無い。


冒険者は命を掛けるが、”冒険そのもの”の為に命を掛けるパーティはほとんどいないのだ。


確かに未知の領域を探索しこの世界の謎を知るために、本当の意味で冒険を志すものも確かにいる。


しかし、大部分の冒険者と呼ばれる者達の冒険の目的は、情緒もへったくれもないが”金”なのだ。


魔物退治や、世界の隠された財宝。あるいは高い報奨金を請け負って傭兵になるなど、一攫千金を狙う奴らが殆どだという。


私のようにバッドステータスを解呪して人並みの生活を送る為に冒険を志したり、


エノクのように神話のアイテムを作成してよりよい世界を見てみたい、なんて金以外の動機で動くやつはマイノリティなのだ。


だからこそ、足手まといの冒険者をわざわざ雇うほど彼らは優しくない。


”ギブ・アンド・テイク”が成り立たなければ熟練のパーティは初心者を入れることなんてまずしないのだ。


しかし、熟練のパーティに”ギブ”を与えられる駆け出しの冒険者なんてまずいない。


テレポーテーションなどのよほど有用で特殊なプライマリースキルを持っていたり、


あるいは、そこまで有用なスキルを所持していなくとも、知識、技術などでパーティの運営に役立つなら、まあ、参加を認められることもあるかもしれない・・・


しかし、それは結構例外の話だ。


結局のところ、低レベルの冒険者は同じ低レベルの冒険者と組む他なく、満足に冒険をすることもなく命を落としていく。 


それが嫌な”ギブ”を所持しない者達は、自らの自由と身体を捧げる事によってでしか熟練のパーティに参画できないのが現状だ。


”悪魔の奴隷”メフィスト・サーヴァントが一番良い例だろう。


ちょっと癇に障るけど、あのマルバスギルドのファリルさんが言ったこともあながち間違いではなかったということだ。





・・・さて、ではここで問題になるのが、エノクは熟練のパーティに魅力的に映るほどの”ギブ”を所持しているか?という事だ。


私はこの回答は"Yes"だと感じている。ただし、エノクの戦闘の強さが魅力なのではない。


エノクは現在レベル13にまで上昇したが、正直成熟した一般人とレベルは大して変わらない。


アイナさんに戦闘技術を指導されているおかげもあり、立ち回りの上手さは格段に良くなったと本人は言っているが、肝心のレベルは未だ一般人のレベルを抜けていなかった。


一般人の多くはレベル10~15の間に固まっているらしく、それ以上は体を鍛えている衛兵や騎士、あるいは冒険者といった者達が到達する領域だ。


アイナさんとの訓練が終わればさらに上がっている可能性はあるが、私と経験を共有している関係上、上がってもあと1か2が限度だろう。


強さはエノクのアピールポイントにはならないが、彼には他の人にはない2つの大きな長所がある。


それが、プライマリースキルとして”アナライズ”を持っていること。そして、もう一つが言わずもがな魔法技師としての才能だ。


戦闘ポジションにおける支援役(サポーター)として彼はこの上ない有望株だろう。


プライマリースキルでアナライズを使用すればあらゆる敵の情報、未知のアイテム、罠の状態の有無などを把握することが出来る。


そしてレベルが上がれば彼の魔力量が上がり、より高度な魔道具の制作も可能になる。


素材を集めることさえ出来れば、高い代金を支払うことなくパーティに強力な武具や魔道具の提供が出来るようになるのだ!


エノクが成長出来たらの話だけど・・・


ここを上手くアピールすることが出来れば有望なパーティに参加することも夢ではないだろう。





「・・・後は、どう生き残るかよね・・・」





”90:90:90の法則”・・・冒険者の生存率の法則だ。


何故これほどまでに冒険者の生存率が低くなるのか?


私はその秘密を探るべく、冒険に関する本に関しては念入りに調べていった。


そして、冒険者が危機に陥る状況をある程度把握することが出来た。


冒険者が命を落とすことが多い場面は主に次の6つだ。





1.ダンジョンのトラップに掛かってしまった時。


2.情報が十分に揃っていない未知の領域で遭難した時。


3.宝物や財物の争奪戦で冒険者同士の戦闘が起こった時。


4.戦争に傭兵として参加した時。


5.強敵の魔物と遭遇した時。


6.未知の病や強力な呪いに掛かった時。





冒険で危険な事といったら、私達はすぐに強力な魔物との遭遇を思い浮かべるが、それは数ある危機的状況の一つに過ぎない。


想定される危機的状況には全て対応策を用意した上で冒険に臨みたいところだ。


熟練のパーティだったら、その環境の中でも生き残る対応策がある筈なのだけど、こればっかりはそのパーティに入ってみないと分からない。


そして、そんな丁半博打の状態でパーティに命を預けるなんて事は私には出来ない。


私達は私達自身で生き残る術は備えていたほうが良い。


エノクの切り札は何と言っても”アニヒレーションガン”だ。


1発しか撃てないとはいえ、ドラゴンでさえ一撃で屠る究極の一打を私達は持っている。


これは強敵の魔物相手に対する有効な対応策だ。


しかし、これだけでは勿論心もとないし、他の危機的状況に対しても準備を整えていく必要がある。





「うーん・・・どう準備を整えていくのがいいかな・・・」





そして、私は書物を紐解き、これからの冒険に今日も思索を重ねていくのだった・・・









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