初めてのセカンダリースキル
窓の外は既に漆黒の帳が下りている。
ダイニングルームの床には100冊を超える大量の本が置かれているが、
ドールハウスのあるテーブルの上は5冊の本が横並びで綺麗に置かれているだけだった。
これは先日の”本の崩落事件”もあって、テーブルの上に本を積み重ねる事を禁止されたからだ。
以降、その日に読む予定の本だけをエノクに頼んで朝出かける前にテーブルの上に置いてもらっている。
・・・まあ、どんなに速く読んでも、私が1日に読める本数は5・6冊が限度だから特に問題はない。
メモを取りながらの読書だとどうしてもペースは遅くなってしまうしね・・・
とりあえず今のペースを続けられればエノクの訓練が終わるまでに、借りてきた本の全てに目を通せる事は通せそうだ。
一応、目ぼしい情報は片っ端から転生者の巻物に記録しているので何かあったら後で振り返ることは出来るだろう。
あらゆるジャンルの本、しかもそれが大量にあるもんだから、情報量の多さに私も全然理解が追いついてないんだけどね・・・
まあ、冒険をする中で時間はたっぷりあるから、それは後で確認していけばいいだろう。
カキカキカキ・・・
壁にかけられた複数の魔法灯がドールハウスと私に影を作っている。
薄暗いダイニングルームには私がメモを走らせる音が静かに響き渡っているだけだ。
エノクは既に隣の寝室で寝息を立てており、明日もアイナさんとの過酷の訓練が待っている事だろう。
エノクの訓練もいよいよ佳境に入っている。
ここ1週間はセカンダリースキルの習得に重点を置いているらしい。
今までの体術の型の反復練習や、地獄のような基礎体力作りに加え、
セカダンリースキルの習得のためのイメージトレーニングも訓練内容に加わり、訓練の時間も長くなった。
エノクは朝早く起きて朝食の作成を終えた後、訓練場に向かう。
そして、夜フラフラになりながら部屋に戻り、夕食を作成後、私へ魔法やアイテムの講義を行い、日が変わる頃に就寝する。
エノクはあれだけ読書が好きだと言うのに、ここ最近はそれすらもしている余裕がない有様だ。
彼は講義を終えると、すぐに寝室に入り泥のように眠ってしまう。
そして、朝食作りのためにまた朝早くに起きるといった生活を繰り返している状態だ。
あまりに多忙なエノクを見かねて、無理に料理はしなくていいと伝えたのだけど、彼はむしろ気晴らしでやりたいと言ってきた。
訓練が過酷だからこそ、普段のルーチンをこなすことによって自らの生活リズムを整えているのだという。
そして先日、そんな過酷な訓練を継続した成果が実った。
エノクはついに戦闘用のセカンダリースキルを覚えることに成功したという。
それは”身体硬化”という、オロフさんが使っていた技の様だ。
オロフさんの技はエノクの脳裏に強烈な印象を植え付けていたこともあり、すぐにイメージ化が出来たとのこと。
・・・まあ、エノクは素直に喜べないかもしれないけどね・・・
エノクはオークション後、しばらくオロフさんの最期のシーンを思い出しては自己嫌悪に陥っていた。
その光景は彼にとって忘れたくても忘れられないものだろう。
だけど、ポジティブに考えればこれほど鮮明にイメージしやすいセカンダリースキルも無かった。
結果的にエノクはトラウマを乗り越え、災いを福へと転じさせることに成功した。
その努力は称賛されるべきものだし、セカンダリースキルを覚えたことは素直に喜んで良いと私は思う。
そして、彼が苦労してレベルを上げてくれたおかげで私にも朗報があるのだ。
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◇転生者基本情報
名前:遠坂 玲奈
年齢:18歳(寿命:未設定)
身長:17.5cm
体重:53g
BWH:8.7 5.6 9.0
Lv:5
HP:7
MP:17
STR:5.1
DEF:2.8
INT:2.0
VIT:3.6
CRI:0.9
DEX:2.9
AGI:7.2
LUK:1.4
プライマリースキル:グロース、ミニマム
セカンダリースキル:アナライズ
タレントスキル:大器晩成、酒乱、逃げ脚、テンプテーション
バッドステータス:1/10縮小化(永続)
所持アイテム:転生者の巻物、ディバイドストーン
所持クレジット:0
現在位置:カーラ王都 カーラ王宮 第9近衛騎士団宿舎
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まず・・・レベルが【5】に上がったという事が1点目。
そして2点目は、私もついにセカンダリースキルを覚えたことだ!
巻物のセカンダリースキルの欄に”アナライズ”の文字が眩しく輝いていることがよく分かるだろう。
ようやく・・・ようやくよね。
初めて有用なスキルを手に入れた気がするわ・・・
グロースもミニマムも戦闘で使いこなす事が出来れば強力な補助魔法というのは分かっているんだけど、
私が戦闘に参加出来ないから完全に宝の持ち腐れの状態になっている。
一方で、アナライズは非戦闘時においてもあらゆる場面で役に立つ事だろう。
これは私が読んだ魔法科学史の本に書いてあったことだが、アナライズは魔法科学の叡智の粋を結集して開発された能力なのだという。
かつて「深淵の叡智」と呼ばれる魔法図書館が存在していた。
その図書館は先史文明の技術が記録された知識の殿堂であり、魔法科学のアカシックレコードが眠る場所だと言われている。
最終戦争の際、先史文明の人々はその知識を守るために、図書館がある都市ごと異空間へと転送させ、そこから知識を引き出す能力を開発したという。
その時に開発された能力の一つが”アナライズ”だ。
深淵の叡智は異空間からこの世界へ信号のような魔力波を今も送り続けており、その魔力波はこの世界にあまねく届いている。
そして、図書館は展開した魔力波を回収し、この世界の事象を解析する。
アナライズは対象の魔力を掘り起こして構造化する能力であると同時に、深淵の叡智から出された魔力波に解析対象の魔力を乗せて図書館に送信する能力も持っている。
私達は図書館の知識を直接得ることは出来ないが、解析したい物の魔力の構造を図書館に送信すれば、図書館はその魔力に応じて知識を吐き出してくれる。
アナライズを使用した時、基本的なステータスの値とは別に解析対象の細かな説明文が出てくるが、この記述がまさに深淵の叡智から取り出された情報なのだ。
・・・もちろん、魔法効果が多い方が詳細な魔力の構造を描写することができ、図書館から多くの知識を引き出せるのは言うまでもない。
これだけ聞いてもアナライズがいかに高度な技術によって成り立った能力だか分かるだろう。
「さて・・・それじゃ、また試してみましょうかね・・・」
先ほど、アナライズを発動して4時間が経過した。
私のMPも回復したことは巻物で確認済みだ。
私の発揮できる魔法効果じゃアナライズによって掘り下げられるのは、ほとんど上辺だけの情報に過ぎない。
アナライズを覚えてから既に何回か試しているが、対象の”名称以外”の項目についてはほとんど【測定不可】と出力されてしまう。
これでは詳細なステータスの把握などまず不可能だろう。
だが、名前だけ知る事が出来ればひとまず十分だ。
対象が何なのかを知ることが出来れば、転生者の巻物に記録した情報で詳細は確認することが出来る。
・・・グロースとミニマムの能力が戦闘でほとんど役に立たない以上、アナライズが今後の私の主力の能力となる事だろう。
一応、付け加えておくとグロースは全く使えないわけではない。
MP<5>という最低限のコストで自分の全てのステータスを1.1倍に引き上げる事が出来る。
その状態でアナライズを使用すれば魔法効果が少しだけ高い状態でアナライズの解析が出来るようになるだろう。
もちろん、グロースにそれ以上のMPを注ぐのは現状無駄になるだけなので、注ぐのは最低限の<5>で十分なのは言うまでもない。
アナライズの最低MPコストは<10>だから、今の私なら両方を使うだけのMPが一応備わっている。
アナライズ単体の性能を見たいから、グロースは今は使わないけどね。
「アナライズ!」
カチカチカチ・・・
私はMP<10>を注ぎ、アナライズを目の前の”本”に向けて発動する。
しばし、カチカチと演算する音が響いた後、私の網膜に解析結果が浮かび上がってきた。
フォン・・・
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アナライズ結果【10】
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名称:測定不可
種類:測定不可
価値:測定不可
創作難度:測定不可
効果:測定不可
説明:測定不可
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