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旅立ちへの思索




飛び出すように僕は台所から出ると、崩れた本の山に駆け寄った。


うず高く積まれていた本は雪崩が起きたかのようにドールハウスの辺り一面を覆っていた。





「レイナ!大丈夫!!!?」





心臓がバクバクと鳴りながら僕は崩れた本を慎重に取り除いていく。


本を取り出していき、背表紙が裏返しになったある本に手を掛けた時、レイナのうめき声が聞こえてきた!





「う・・・うぅ・・・」



「レイナ!?そこか!」





裏返しになった本を持ち上げると、その下にうつ伏せの状態で倒れているレイナの姿を発見した!


パッと見ただけだと、彼女は特に負傷はしていない様子だ。


しかし、油断は出来ない。


僕は彼女の反応を確かめるべく、指で軽く背中を擦った。





「レイナ!大丈夫?」



「怪我はないかい!?」



「う、うーん・・・大丈夫・・・」





レイナは呻きながら頭を軽く振ると、むくりと起き上がってきた。


彼女が無事そうで、僕はひとまず安堵する。





「ああ、良かった・・・」



「心臓が止まるかと思ったよぉ、もう・・・」





ほっと僕は一息を付く。


彼女は苦笑いをしながら僕に返事をしてきた。





「あはは・・・ごめんごめん!ちょっと油断しちゃった」



「いやぁ、まさか本に圧殺されそうになるとはねぇ~」



「自分が小人だって事、嫌でも実感させられたわ・・・」





レイナはしわくちゃになった黒いフリルのドレスのシワを伸ばしながら呑気に返事をしてきた。


僕は安堵したと同時に彼女の呑気さに少し怒りがこみ上げてくる。





「・・・もう!本当に気をつけてよね!!」



「心配したんだよ僕?」



「今回は大事には至らなかったけど、今のレイナからしたら本の重さだって十分脅威になるんだ」



「読書に集中するのは良いけど、周りが見えなくなるまで根詰めたら駄目だよ!」



「危険だから、これからは本を積み上げて置いておくのは無しにしよう」



「じゃないと僕、図書館に本返してきちゃうからね!」



「うっ・・・ごめん。反省してます・・・」



「次からは気をつけて読むわ・・・」





レイナはシュンと縮こまりながら、謝罪をしてきた。


流石に本を返すと言われたら、彼女も聞き入れるしかないだろう。


彼女に悪いと思いつつも、僕は少しホッとした。


これで少しは加減を考えて読書をしてくれる事だろう。


レイナの気持ちはもちろん僕だって嬉しい。


今彼女が無理して知識を詰め込んでいるのは僕をサポートするためなんだから、嬉しいに決まっている。


だけどそれでレイナが体調崩す事を僕は望んでいないし、ましてや命の危険にさらされるなんて論外だ。


・・・まあ、かく言う僕も訓練に命を掛けているから人のことは言えないんだけどさ・・・


それでも僕にだって男としてのプライドがあるんだ。





「・・・レイナ、知識を入れるのは、やっぱり今じゃないと駄目なのかい?」



「冒険に出てからじゃ遅いのかい?」





レイナに改めて問い掛ける。


彼女の鬼気迫る様相を見かねて、思わず口をついて出た言葉だった。


彼女が無理をするのは僕が未熟で頼りないからに他ならないだろう。


本当はレイナには無理して欲しくなかった。


叶うなら、冒険の事は全部僕に任せて、カバンの中で優雅に寛いでいて欲しかった。


訓練で強くなった僕を信用して欲しいし、頼りにして欲しいと思う。


そういう僕のちっぽけなプライド・・・自分を大きく見せたい小さな見栄みたいなものがあった。


だけど、案の定この問い掛けにレイナは・・・





「うん。今じゃないと駄目ね」



「冒険に出てから、知識を入れようと思っても機会なんてそうそう訪れるものじゃないでしょ?」



「以前も言ったけど、これが私の戦いよ」



「鉄は熱いうちに打て!」



「無理してでも今は知識を入れないとね!」



「・・・・・」





そう言って、僕の言葉に真っ向から言葉を返してきた。


彼女の目に迷いはなかった。


やっぱり、流石レイナだな・・・


こんな彼女にだからこそ、僕は惹かれたのだろう・・・





「・・・分かった」



「そこまで言われちゃ僕は止める術を持たないよ」



「無理をするなとはもう言わない・・・」



「だからサポートが必要なら遠慮なく言って欲しい」



「書物を見るより、僕が教えたほうが早いこともあると思うからね」





仮にも魔法技師としてこれまでやってきた自負がある。


特に魔法や、武器・防具・アイテムの事に関してはそこらの文献に負ける気はしない。


長年かけて培われた僕の魔法技師の経験と知識。


レイナがどんなに速く文献を読もうが、これは一朝一夕で身につくわけではない。


当たり前だが、本の中身を記憶するのと理解するのは話が別だからだ。


そこは時間を掛けてレイナが本を読み解くより、僕が教えることによって体系立てて効率的に伝えることが可能だろう。


それに彼女が言うには、冒険に関する事柄は中身の精査を行っているが、それ以外のことは記録することを優先して理解は後回しにしているらしい。


限られた時間の中で最も効率的に知識を得ようとした結果、そうしているとの事。


これもレイナらしいっちゃレイナらしいよな・・・


全部の知識を入れるのはとても時間が足りない。


恐らく彼女は、冒険に必須ですぐに知識を入れるべき情報と、すぐに必要でなく冒険をする中でメモから取り出せば良い情報と分けているのだろう。


この取捨選択の割り切りの良さと、スマートに効率化してくるところは流石レイナだと感心してしまう。





「うん。ありがとう!エノク」



「使えるものは何でも使うのが私の流儀だから、そうさせて貰うわ」



「訓練で大変だろうけど、早速今日の夜から頼むね!」





そして、レイナは僕の提案にニコリと微笑んで、早速頼んできた。


本当にレイナらしい・・・


冒険に必須な知識は絶対に入れようとする彼女だからこそ、僕の提案は断らないと思った。


僕は二つ返事で了承の言葉を返す。





「ああ、任せてよ!」



「だけど、その前に夕飯作っちゃうね」



「ふふっ・・・ちょっと豪勢に食材を買ってきたんだ」



「今日は久しぶりにレイナの呆け顔を見れると思うよ?」



「・・・えっ?何よそれ~」



「なんか嬉しそうじゃない?良いことあったの?」



「ははっ!・・・それは後で話してあげるよ!」





レイナにそう告げると、僕はキッチンに戻って料理を再開する。


彼女は僕の含みを持たせた言葉に若干不満げな表情をしていたが、すぐにまた読書に戻った。


・・・何はともあれ、これで今後の予定は決まった。


朝と昼はアイナさんと訓練で、夜はレイナに魔法技師の知識を伝授する。


今までよりさらに忙しくなるが、昨日までと違い僕の心は晴れやかだった。


アイナさんに訓練の期間を”1ヶ月”と告げられて、早2週間。


もう訓練は折り返し地点に差し掛かろうとしている。


ここからがまさに正念場と言えるだろう。


訓練が一段落したら、冒険の準備を進めるがてら気分転換にまた王都の町を散策してもいいかもしれないな・・・


所属する冒険者ギルドの選定や、パーティ探し、冒険に必要なアイテムの調達。旅立つまでにやらなければならない事はまだまだ多くある。


だけど、それでも僕は今の状況が楽しいし充実していた。


レイナには後で課題突破したことをたっぷりと聞かせてあげよう!


僕はウキウキした気分で料理を皿に盛り付けながら、レイナとの食事に思いを馳せるのだった・・・









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