表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/184

ステータスと魔法効果②






「――――ねぇ、聞きたいんだけどさ」



「私も能力を活用すれば戦闘に貢献出来そうじゃない?」



「エノクにグロースを掛けてステータスを1.1倍に引き上げたり、敵をミニマムで1/1.1に引き下げたりすれば少しは役に立つと思うんだけどな」





エノクに戦闘魔法の概要について教えてもらっている時、ふと頭に引っかかっていた疑問を彼にぶつけてみた。


私のプライマリースキルを何とか有効活用できないかと思ったのだ。


現状役立たずとしか思えない私の能力だが、まったく効果が無いわけではない。


少しでも役に立つのなら私も自分の能力を使って彼の戦闘の役に立ちたかった。


・・・しかし、私の質問にエノクは渋い顔を返してくる。





「うーん。そうだね・・・」



「1.1倍でもそれが”本当に効果を及ぼす”のなら意味のあることだと思うけどね・・・」



「だけど今のレイナじゃ、それは厳しいと思う・・・」





彼はそう言ってやんわりと私の言葉を否定してきた。


それで私は何となく彼の言いたいことを悟る。





「・・・もしかしてそれって対象のINTに関係すること?」



「相手によって効きやすさが変わるかもしれないって言いたいの?」



「・・・うん、流石だね。その通りだよ」





エノクが私の言葉に頷く。





「極端な例で説明すれば分かりやすいと思うけど、レイナは”太陽”を1.1倍に大きく出来ると思うかい?」



「えっ・・・太陽?」



「太陽ってあの”太陽”?」





そう言って私は窓の外で燦々と輝いている太陽を指さした。


エノクは私の言葉に相槌を返す。





「うん、その太陽」



「・・・いや、無理でしょ。そんなの・・・」





手を横に振って否定する。


別に魔法を使わなくても容易に想像がつく。


あんな巨大で凄まじいエネルギーを放つ太陽を、私みたいな小人が大きさを変化させるなんて想像すら付かないわよ・・・・・





「そう。無理なんだよ」



「レイナは確かに巨大化魔法(グロース)縮小化魔法(ミニマム)を使えるかもしれないけど、それは万物全てに同様の効果を及ぼせるわけじゃない」



「太陽がもし1.1倍に大きくなったらこの世界は焼き尽くされてしまうだろう」



「逆に1/1.1に縮小してしまったら太陽から放たれる光量が不足してしまい、この世界は氷に閉ざされてしまうかもしれない」



「だけど実際にはそんな事にはならないし、レイナが発揮できる魔法効果が仮に”1億”有ったとしても太陽の大きさはまったく変化しないだろうね」



「・・・そして、それは太陽みたいな大げさなものじゃなくても同様なことが言えるんだよ」



「自分より遥かに高いINTを持つ格上の相手や、複雑な機構を有する魔法アイテムとかね・・・」





彼の説明で私は納得する。





「・・・はぁ、なるほどね」



「つまり私の今の発揮できる魔法効果ではエノクの能力アップにも、相手のステータスダウンにもまったく効果を及ぼせそうにないって事?」





エノクに改めて問いただすと、彼は申し訳無さそうに頷いてきた。





「・・・・ごめん。そういう事だよ」



「補助魔法は自分自身に使う分には問題ないんだ」



「だけど、自分以外の誰かや、何かに対して使うときは、自分が発揮する魔法効果がそのまま相手に効果を及ぼすわけじゃないという事だね」



「実際には魔法効果は減衰するから、自分の発揮した魔法効果がこの”補助魔法効果表”の”必要魔法効果”と同等の数値になることなんて稀なんだ」





エノクは説明しながら、補助魔法効果研究書(グロース・ミニマム編)を指さした。




-------------------------------------


補助魔法効果表(グロース・ミニマム編)


-------------------------------------



倍数 必要魔法効果



1.1  1

1.2  1052

1.3  1514

1.4  1942

1.5  2340

1.6  2712

1.7  3062

1.8  3392

1.9  3704

2.0  4000

2.1  4282

2.2  4550

2.3  4807

2.4  5052

2.5  5288

2.6  5514

2.7  5732

2.8  5942

2.9  6144

3.0  6340

3.1  6529

3.2  6712

3.3  6890

3.4  7062

3.5  7229

3.6  7392

3.7  7550

3.8  7704

3.9  7854

4.0  8192

4.1  8397

4.2  8602

4.3  8806

4.4  9011

4.5  9216

4.6  9421

4.7  9626

4.8  9830

4.9  10035

5.0  10240

5.1  10445

5.2  10650

5.3  10854

5.4  11059

5.5  11264

5.6  11469

5.7  11674

5.8  11878

5.9  12083

6.0  12288

6.1  12493

6.2  12698

6.3  12902

6.4  13107

6.5  13312

6.6  13517

6.7  13722

6.8  13926

6.9  14131

7.0  14336

7.1  14541

7.2  14746

7.3  14950

7.4  15155

7.5  15360

7.6  15565

7.7  15770

7.8  15974

7.9  16179

8.0  16384

8.052 16490 (測定限界)



※ミニマムは各倍数の逆数の値



-------------------------------------





アーネスト・グレイスリーという大冒険者級の魔術師が書いた補助魔法の効果表だ。


ここにはグロースとミニマムの大きさの変化の倍率に対する、必要な魔法効果量が記載されている。


魔法効果=【詠唱した人のINT】×【その能力を使用する為に注いだMP】÷【その能力の最低MPコスト】で求められる。


しかし、エノクが述べるこの効果表の数値はあくまで自分自身に魔法を掛ける際に必要な効果量だという事だ。


他の相手や、複雑な機構を有する魔法アイテムに魔法を掛けたときは話が変わってくるということだろう。


例えば私がINT”400”を持ち、グロースを唱えるためにMPを<50>注ぐとしよう。


そうすると私が発揮する魔法効果の量は400×50÷5=4000ということになる。


この魔法効果の量を発揮することが出来れば私自身の大きさを2倍にすることが出来る魔法効果を得られるということだ。


しかし、あくまでそれは私自身に対してのみであり、他の人に同様の効果を及ぼすことは出来ない。


対象にかけた魔法効果はここから減衰され、2倍以下の変化量しか相手に及ぼせないという事だ。


当然自分より格上の人物や、大規模な自然現象に対しては全く効果が出ないのだろう。


私は溜息を付きながらエノクに言葉を返す。





「はぁ・・・取り敢えず納得したわ」



「私の魔法がエノクの戦闘に役立ちそうにないこともね・・・」





私が発揮できる魔法効果は現状100にすら届かない。


結局私のプライマリースキルは役立たずという訳だ。


そこで、私は改めて補助魔法効果表の数値を眺めてみる。


上の方を眺めてみると1.2倍に必要な魔法効果は1052と記載されている。


さらに、次の1.3倍では1514、1.4倍では1942と続いている。


表の下の方に目を移すと5.0倍では10240。5.1では10445と記載されていた。


何故か、リストの上の方が0.1倍上げる時に必要な魔法効果の幅が大きい。


1.2倍から1.3倍の魔法効果の幅は462に対し、5.0倍から5.1倍の幅は205しかない。


改めて見ると何これって感じよね・・・?


これじゃ初心者ほど魔法の威力を上げづらいじゃない・・・





「・・・ねえ。エノクもう一つ質問があるんだけど!」



「この効果表を見るとさ。最初の方は次の倍率に必要な魔法効果の幅が大きいじゃない?」



「これってどうしてなの?」





私の質問にエノクも効果表のリストを確認する。





「・・・ああ。これか」



「流石レイナだね。いい着眼点だ」



「ちょっと魔法効果の特徴についてもこの際話しておくべきかな」



「・・・レイナが今言ったように魔法の出力は最初ほど上がりにくくなっているんだ」



「これはあらゆる魔法・特殊能力が共通する自然界の法則でね」



「ある一定ラインを越えるまでは必要魔法効果の幅が広く、そのラインは”初級者の壁”と言われているんだ」



「そして、必要魔法効果は最初”対数的な増加”を見せるんだけど、ある一定ラインを越えると法則が変わって、一定の間隔を刻む”線形的な増加”へと変化するんだ」





急に数学的な話になって私の頭の中に?がいっぱい浮かんできてしまう。





「・・・・・?」



「ごめん、詳しく説明してもらっていい?」





私の反応はエノクも想像がついていたのだろう。


彼はペンと紙を引っ張り出してきた。





「了解。ちょっと数学的な話になっちゃうから具体例を交えて説明するね?」





彼はそう言うと、文字を書きながら私に説明を始める。





「まず、1.1倍についてだけど、これに必要な魔法効果は”1”だ」



「これはグロースやミニマムだけでなくどの特殊能力を使用したとしても最小の必要魔法効果は”1”なんだよ」



「その能力を使用するMPがあり、スキルを習得さえしていれば基本的には誰でもその能力を発現出来るというわけだね」





これは直感的にはすぐに理解できる。


必要魔法効果が”1”だからこそ、私はグロースやミニマムの魔法を使うことが出来るのだ。





「そして、それ以外の必要魔法効果の量というのは実は”計算式”で算出が出来るものなんだ」



「魔法の自然界は非常に数学的に設計されているからね」



「この効果表では8倍くらいまでしか書かれていないけど、さらに上の倍率の必要魔法効果も計算式で算出することが可能なんだよ」



「・・・へぇ!そうなんだ?」





意外な事実に私は感嘆の声を上げる。


魔法なんて未知の現象をそんな数学的に解明できるなんて思いもよらなかった。


流石、魔法科学が発達している世界なだけあるわよね・・・





「うん。だけどここが重要なんだけど、各能力ごとに計算式は2種類存在するんだ」



「何故なら途中で法則が1回変わるからね」



「そして、法則が変わる境目のことを”初級者の壁”と言う」



「この壁を乗り越えるまではまともに能力を発揮出来ない事からそう名付けられたんだ」



「当然、グロースとミニマムについてもこの”初級者の壁”は存在するよ」



「この効果表を見ると、丁度4倍が法則の変わる境目のようだね」



「・・・なるほど」





確かに、4倍あたりで必要魔法効果の幅が変わっているように見えるわね・・・





「じゃあ、実際に計算してみよう!」



「まず、1.2倍から4倍未満までの必要魔法効果についてだね」



「これは 必要魔法効果=log2(x)×4000 (xは倍数の値) という計算式になる」



「例えば【3倍】の必要魔法効果を算出しようとすればlog2(3)×4000という式で求められるんだよ」



「log2(3)は約1.58だから 必要魔法効果≒1.58×4000≒6320になるんだ」



「対数的に増加するというのは計算式の中に対数である”log”が入っているからだね」



「ただし、この計算式を覚える必要はないよ。この表を見れば既に必要魔法効果は算出されているからね」



「とりあえず、自然界の法則のもとでは最初必要魔法効果は対数的に設計されており、その幅が大きいということさえ覚えておけば大丈夫だよ」



「・・・オッケー。取り敢えず把握」





といってもいきなり対数の計算なんて私は出来ないけどね。


log2(3)は約1.58なんて、なんで当たり前のようにそんな数値がぱっと出てくるのだろう・・・


この子が天才だってこと今更ながら実感するわ・・・





「さて、どちらかと言うともう一つの計算式の方が本題かな」



「4倍以上の必要魔法効果についてなんだけど、これは次の計算式で割り出せそうだね」



「必要魔法効果=1024×2^[log2(x)+1](xは倍数の値)」



「例えば8倍が計算しやすいかな?」



「この場合の計算式は、必要魔法効果=1024×2^[log2(8)+1]となる」



「log2(8)は3になるから2の指数の値は3+1で4になる」



「つまり2の4乗は16だから1024×16=16384になるという訳だね」



「同様な計算をすればさらに上の倍数の必要魔法効果を割り出すことも出来る」



「2の指数の部位に、2を底としたlogが入っているからxに(4、8、16、32、64、・・・)を当てこんで行けばイメージしやすいかな」



「16倍なら2の指数の値は4+1で5になるから2の5乗は32。従って計算式は1024×32=32768」



「32倍なら2の指数の値は5+1で6になるから2の6乗は64。従って計算式は1024×64=65536」



「64倍なら2の指数の値は6+1で7になるから2の7乗は128。従って計算式は1024×128=131072」



「・・・こんな感じだね」





エノクが長々と数式を書いて私に見せてくれた。


一見複雑そうに見えるが、logの計算さえしてしまえば後は単純な掛け算や乗数の計算で必要魔法効果が割り出せそうだ。


・・・まあ、今割り出してもあまり意味はないだろうけどね。


とりあえず後で役に立つかもしれないから計算式は覚えておくとしよう。







・・・ということがあった。


私は低レベルな人ほどレベルが上がりやすいから、それに準じて魔法の威力も上がりやすいのかと思っていた。


しかし、この一件でそれが勘違いだったという事が分かる。


この世界の法則ではあらゆる能力や魔法というのは初心者ほど敷居が高くなっているのだ。


全く・・・酷い世界よね。


だが、嘆いても仕方ない。


”初級者の壁”・・・私達は何としてもそれを乗り越えないといけないのだ。


そして、その為に今の私のやるべき事はもう決まっていた・・・





「イメージトレーニングはこれくらいでいいわね」



「続けましょうか・・・・・」





私は気持ちを新たに引き締め、今日も目の前の”本の山”と対峙するのだった・・・・・









※参考

必要魔法効果一覧表・拡張版

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1372568/blogkey/3282311/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ