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暗雲の宮廷




コンコンコン





「・・・団長、キースです」



「入れ!」





ガチャ!





「失礼します」





私が執務室で報告書に目を通しているとキースがやってきた。


彼は私の机の前まで来て敬礼をすると、手に持ったカバンから書類を取り出した。





「ご苦労。その書類は?」



「はい。先日申請していた”例の件”について外務省からの返書が届きました」



「おお!ついに来たのか!」



「それで、許可は下りたのか?」



「・・・それなんですが・・・」





彼が厳しい表情をしながら、外務省からの書類を手渡してきた。


それで私は察する。





「・・・まさか・・・申請が下りなかったのか?」



「はい・・・・残念ながら・・・」





私は信じられない気持ちでキースから受け取った手紙を開く。





ペラッ





----------------------------------------------------


【貴軍の国外派遣申請についての回答】



第9近衛騎士団団長


クラウディア・フィリア・マリュス・ヒルデグリム 殿



先日、卿より”ルリスターン連邦”への軍の派遣申請が上がってきたが、この申請を【却下】する。


ルリスターン連邦は我が国の友好国であり、外交・経済共に非常に重要な隣人国(パートナー)である。


先日の”王都襲撃事件”に端を発した神遺物の流出と混乱は既に国外にも広く波及しており、


この状況下での国外への軍の派遣は他国をいたずらに刺激するものである。


外交関係に亀裂が生じる恐れがある以上、我々としては卿の申請を容認できるものではない。


卿の本来の任務であるエレオノーラ王妹殿下の警護に専念されたし。



外務省 顧問補佐官 マイウス・バイルシュミット



---------------------------------------------------





私は手紙を読み終わった途端に無力感に苛まれた。





「なんだ・・・これは?」



「これが外務省の返答なのか・・・?」



「・・・はい。まさに取り付く島もない様子でした」



「王妹殿下の直属の騎士団である我々にここまで明確な拒絶をしてくるのは初めてかも知れません・・・」



「この態度の変化は”圧力”が働いていると考えるのが自然でしょう・・・」



「・・・・・」





キースの言葉に私は黙り込んでしまう。


そもそも、ルリスターン連邦への派遣申請は神遺物の探索に絡むものだ。


グラーネの町での一件で劇団の奴らはルリスターン連邦に入国した可能性が非常に高い。


そこで外交ルートを通して、軍の通行を求めるために外務省に依頼をしたという訳だ。


軍の派遣と言っても、想定していたのはたかだか我が騎士団1個小隊とマルバスギルドの傭兵のみである。


総人数としては20人未満の小規模の追撃部隊であり、とても1国を刺激するような部隊の編成ではない。


よっぽど王族の警護で他国に入国した時の方が大所帯である。


それにルリスターン連邦とは長年の友好国であり、現総統のドラゴニュートの”ディラキウム”殿とエレオノーラ殿下は親密な関係を構築している。


事情を知れば彼らも当然20人未満の軍の通行など許可を出すに決まっているのだ。


そういう事情を考えたら、外務省のこの対応はまさに異常とも言うべきものだった。


私は鋭い視線をキースに向ける。





「・・・”圧力”と言ったな?」



「・・・何か心当たりがあるのか?」



「・・・はい。恐らくは”アーダルベルト”王太子殿下の差金かと・・・」





アーダルベルトの名前を聞いた瞬間・・・私の中に”黒い衝動”が走った。


怒りで震えそうになる手を必死に抑え、私はキースへ言葉を続けた。





「・・・どういうことだ?」





キースはコホン!と咳払いを1つ挟むと、私を見据えて話始めた。





「国王陛下が退位される日が決まってから、”王太子派”の動きが活発化しています」



「次期内務顧問大臣候補の筆頭と目される内務次長の”オディロン卿”が各省の文官達へ通達を出しました」



「”新国王であるアーダルベルト陛下へ忠誠を誓うこと”」



「”また、新国王の統一した意志のもと政務を処理すること”」



「”これまでの古い慣例・慣習を捨て去り法令を厳格化すること”」



「”新国家の編成に当たり、既存の人事を大幅に見直す予定であること”」



「・・・以上の通達が、各省に行ったようです」



「現陛下のもとでは派閥の合議制により国政が運営されてきましたが、王太子殿下はその慣習を止めたいのでしょう」



「この通達では明言を避けていますが、これは”王妹殿下派”を認めないと言っているようなものです」



「最大派閥だった王妹殿下派は解体を余儀なくされるでしょう」



「この通達は事実上の次の宰相であるオディロン卿の言葉ですから、官僚たちが左遷を恐れて保身に走っても不思議ではありません・・・」



「アーダルベルト王太子殿下が王妹殿下を嫌っていることは周知の事実ですからね・・・」



「・・・・・」





・・・先日、国王陛下の退位の日が正式に決まった。


現、ヴァルファズル5世陛下は今年末で退き、来年以降アーダルベルト王太子殿下が次期国王として国政を主導していく事になってしまった。


これまでエレオノーラ殿下の威光もあり各省の役人たちにも融通が効いたのだが、その神通力が通用しなくなってしまったということだ・・・


キースはさらに言葉を続けてくる。





「・・・さらにこれは人づてに聞いた話ですが、どうやら口頭でも官僚達に釘を刺したようなのです・・・」



「”エレオノーラ殿下と第9近衛騎士団の行動を制限するように”、と・・・」



「”命令に違反する者は、忠誠の証なしとして厳罰に処す”とも言われたそうです・・・」





ギリッ!





歯ぎしりをしてしまう。


今の私は眉間にシワが寄って、およそ優雅で上品とは程遠い憤怒の表情をしている事だろう・・・


・・・恐れていたことが現実となってしまった。


アーダルベルトが国王の座に付く前にエレオノーラ様の権力を削ぎ落としにかかる事は予想出来たことだ。


・・・だが、それでも少しは奴のことを信用していたのだ。


流石に神遺物の奪還の邪魔まではすまいと・・・!!


奴だって今カーラが危機に陥っていることは理解できているはずだ。


ここまで奴が愚かだったとは思わなかった・・・


そして、頭にきていることはもう一つある・・・





「・・・官僚たちは正気なのか?」



「何故、神遺物奪還の実行部隊である我々の邪魔をする!?」



「奴らには危機感というものがないのか!!!」





ドン!!





机を叩きながら、吐き捨てるように言う。


アーダルベルトのみならず、カーラの官僚たちまでがここまで腐っているとは思わなかった。


私の怒号の言葉にキースは無念そうに首を振った。





「・・・仰るとおり、彼らにはその危機感がないのでしょう・・・」



「オークション品が奪われたとはいえ、カーラにはまだ多数の神遺物が保管されています」



「それらがある限り多少奪われたところで大丈夫だと思っているのでしょうね・・・」



「彼らにとっては国よりも自らの保身のほうが重要だと言う事です・・・」



「・・・・・くっ!!」





わなわなと身体が震えてしまう。


なんと愚かな・・・


今すぐ滅ぶことはないにしろ、カーラは確実に衰退の道へ突入する。


そして、カーラが衰えきったある時点で周辺国は雪崩を打つようにカーラに押し寄せてくるだろう。


それが想像つかないというのか・・・


だったらもういい。


それなら私にも考えがある・・・





「・・・キース」



「確か王族の国外への外遊は”侍従庁”の専権事項だったはずだな?」



「はっ。その通りです」



「国王陛下の裁可は必要ですが、顧問大臣や外務省を通さず国外への巡行が可能です・・・ってまさか」





キースはそこまで説明すると、私の意図に気づいたようだ。


彼は眼鏡のブリッジを抑えながら、私に鋭い視線を向けてくる。





「ああ・・・エレオノーラ殿下に外遊頂くしかあるまい」



「外務省の奴らの言う通り王妹殿下の警護に専念してやろうじゃないか」



「そして、堂々とルリスターン連邦に入国してやれば良い」



「・・・なるほど。それなら確かに外務省も顧問大臣も横槍は入れてこれないでしょうが・・・」





キースも私の意見に同意を示すが、彼はまだ腑に落ちないようだった。





「・・・しかし、王族の外遊は侍従長からの申請が必要です」



「また、平時の時ならいざしらず、各国との関係が微妙なこの時期に国王陛下が殿下の外遊を許可するものでしょうか・・・」





彼はそう言って疑問符を投げかけてきた。


キースの言うことも一理ある。





「・・・確かに侍従長の説得は必要だろうが、リーファ殿ならそこは上手くやってくれるだろう」



「陛下にしてもエレオノーラ殿下から直にお話頂ければ無下には断るまい」





私はそこまで述べると、改めてキースを見据えた。





「・・・キース。殿下の外遊準備をしておいてくれ」



「陛下の裁可が下り次第すぐに騎士団が出発出来るようにしたい」



「時間が経てば経つほど我々は劇団の追跡が困難になるからな」



「もう一刻も無駄にはできん」



「・・・はっ!承知いたしました!」





キースがそう言って私に敬礼を返してきた。


一度方針が決まれば彼はその高い実務能力で私の要望を実現すべく動いてくれる。


騎士団の準備は彼に任せておけばいいだろう。


私の方は殿下とリーファ殿に会わなければならないな・・・





コンコンコン・・・





「隊長、アイナです」





私が殿下の離宮へ向かうべく席を立とうとした時だった。


執務室の扉の外からアイナの声が聞こえてきた。





「入れ」





ガチャ!





「失礼します」





私が入室を促すと、扉を開けてアイナが入ってきた。





「アイナ役目ご苦労・・・・・って、その姿はどうしたのだ!!?」





アイナの姿に私は面食らってしまう。


側にいたキースも目を丸くした様子だった。


アイナは上半身タンクトップに下半身は下着(パンツ)だけという、とても扇情的な姿で入室してきた。


一瞬アイナの気が狂ってしまったのかと私は疑ってしまうのだが、


彼女はいつもの冷静な調子を崩さず私に返答してきた。





「はっ!これはこの後予定している訓練の為です」



「お気になさいませんように」





いや、それは無理な注文だろう・・・


私とキースに奇異の目を向けられても、アイナはどこ吹く風の様子だ。


常に冷静で物怖じしないその態度には感心してしまうと同時に呆れてしまう。


・・・アイナはたまにこういう他者が驚くような行動を見せる時がある。


冷徹なまでに任務に従順で合理的な判断を下す為、他の団員から苦言を呈される事も少なくない。


しかし、彼女はエミリアに次ぐ実力と高い任務の達成率を誇っているため、最終的に他の者も黙らざるを得なくなる。


アイナのことは私も高く評価しているし、信頼もしているからこそ、直属の部下として第1小隊の隊員に加えているのだ。


きっとこの姿で訓練を行う事も何らかの意図があるのだろうが・・・・





「エノクさんが隊長に面会を希望しているという事でお連れしております」



「お会い頂けると幸いです」



「・・・エノクが?」





困惑している私をさらっと受け流した後に、アイナは意外な来訪者の名前を口にする。


・・・エノクだった。


彼はアイナの後に続いて入室してきたのだが、その姿を見て私はまた驚いてしまう。





「クラウディア団長失礼します!」




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