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異世界エビルプリズン⑥




「・・・イドゥン連盟についてはこんなもんかな」



「イドゥン連盟以外の情勢については僕もそこまで詳しい訳じゃない」



「僕の知っている範囲で話していくね」



「オッケー!それでお願い」





エノクが私の言葉に頷く。


彼は私と一緒に再び地図を覗き込むと、北側の島・リーヴスラシル島を指差した。


そして、少し含みを持たせたような口調で話し始める。





「まずは魔族から話そうか・・・」



「・・・いきなりあれな事を言うんだけど・・・彼らは異種族、特に人間に対して排他的だ・・・」



「イドゥン連盟と交流があるのは”シメオン”、”レビ”、”ルベン”の3カ国のみなんだ」



「その他の国の動向はリアルタイムで僕達には入ってこない」



「今挙げた3カ国にしても、人間の冒険者や商人が現地に行った時結構トラブルに遭うと聞いているよ」



「人間と魔族はずっといがみ合ってきた歴史があるからこの問題は根深いんだ・・・」



「リーヴスラシル島・・・いや、彼らからすれば”シグルズ島”という名称だったね・・・」



「そこに渡航する際は冒険者ギルドで情報を集めてから行くべきだろうね」



「・・・そうね」





私は呟くように言葉を返した。


そこには少々の諦観の念が混じってしまっている。


人間と魔族の関係性は以前エノクに聞いている。


この2つの種族がいがみ合って来た歴史の経緯はそれこそ神話の時代まで遡るという。


現在の人間の始祖と言われているのは、救世の英雄であり神として崇められている”リーヴ”である。


だが、魔族の始祖はリーヴではなく、最終戦争の時に人類を裏切った大魔王の手先”シグルズ”らしい。


彼らは大魔王への服従の証として”大魔王の血”を身体に受け入れ、六芒星の印が身体の何処かに刻み込まれているという。


人間からしたら魔族は自分達を滅ぼそうとした大魔王に寝返った裏切り者であり、


魔族からしたら人間は進化を果たしていない軽蔑すべき旧世代の劣等種(インフェリア)なのだ。


これではいがみ合うのも当然ね・・・・


まあ、人種問題など私の知ったことではないのだが、トラブルに巻き込まれるのだけは御免被りたいわ・・・





「・・・次は西側諸国だね」



「さっきも少し言ったけど、ここは亜人・獣人達の領域だ」



「ルリスターン連邦は大小様々な部族をドラゴニュートが統括」



「エレヴァン王国はハーピーの国で、ギルムット王国とサマルケルム王国はリザードマン」



「中央草原のバルガ帝国やシャーサンバル王国はワーウルフが治めている」



「ガルガントゥメン王国はハーフリングで、クレタ王国はドワーフ」



「ザインシャンド連邦はハーフエルフが統括して治めている連邦国家だ」



「そして、西端に位置する国家はシグルーン王国で、ここにも様々な人種が住んでいるんだけど治めているのは人間の王家なんだ」



「ここには世界最大の魔法科学アカデミーがあって、世界有数の魔法大国だ」



「魔法科学の最先端は魔族の国か、シグルーン王国が覇を競っているという感じだね」





・・・そこまで言うと、エノクは”メガネの縁”をクイッ!と上げた。


その表情は何故かイキイキとしていた。





「魔法科学を追求する者にとってシグルーンは聖地みたいなものさ」



「僕は絶対人生で1回はここを訪れたいと思っているんだ!」



「カーラではお目にかかれない高度な魔法科学の書物で溢れているのが目に浮かぶよ!」



「冒険に出たら絶対に訪れようねレイナ!約束だよ!!」



「あはは・・・うん。そうね・・」





急にテンション高くなった彼についていけず、私は苦笑いをしながら同意の言葉を返す。


言うまでもないが、シグルーン王国はカーラ王国を除けば彼が最も信奉する国と言っても過言ではない。


シグルーンに到着したらエノクは図書館に引き籠もっちゃいそうよね・・・





「・・・次に南東のバルドル島だけど、ここはドワーフとダークエルフが住んでいる地域だ」



「人間とも比較的良好な関係を持った種族達だけど、干渉されるのは彼らは好まない」



「それにドワーフとダークエルフは仲が悪いからそこまで治安が良いとは言えないから注意が必要だよ」



「まあ・・・観光目的で行くような場所ではないということだね」



「それこそ、商人が交易のために訪れるか、冒険者が”スルトの地割れ”を訪れる時に通るかくらいじゃないかな」



「・・・なるほどね」





・・・まあ、過度に干渉されるのはどこの種族だろうが嫌だろう。


適度に距離を置く必要があるのは人間も同じことだ。





「そして、世界の東端に位置する孤島に存在する国がヘルモン王国」



「ここは”エグリゴリ”という巨人族の住む地域だ」



「彼らは3メートルから5メートルくらいの大きさで、人間の2倍から3倍くらいの体躯を持っているんだ」



「穏やかな種族だから人間に危害を加えることはまずないけど、怒ったら怖いよ・・・」



「その強さは言うまでもなく強大だから、怒らせてはいけない種族の代表だろうね」



「確かに。そりゃ怒らせたら怖いのは容易に想像付くわよ・・・」





エノクの言葉に私はしみじみと相槌を打つ。


私もエノクも巨人の恐ろしさは嫌というほど実感している。


私は例の兄弟に。


エノクは例の鉄巨人にトラウマを抱えている様なもんだ・・・





・・・って、あれ・・・?


鉄巨人といえば、あの”アモンギルド”にいた巨人達って・・・





その時、私の頭の中にピン!と思い浮かんできたものがあった。


エノクと一緒にアモンギルドへ依頼に行った時の事だ。


あそこには体長4メートルほどのフルプレートの巨人達がいたのを私は思い出したのだ。





「・・・ねぇ、そのエグリゴリという巨人族ってさ・・・」



「もしかしてアモンギルドにいた人たちじゃない?」





私の言葉にエノクはポン!と手を打つ。





「・・・あー!そういえばいたねそんな人達!」



「僕は他に考え事をしていたからあまり注視していなかったけど、確かに覚えがあるよ!」



「うん。レイナの言う通り多分彼らはエグリゴリ族だね」



「数は少ないけど人間社会で暮らす者もいると聞くよ」



「彼らの戦闘力はまさに用心棒として相応しいから、ギルドに雇われていたんだろうね」



「やっぱりそうなんだ・・・あれがエグリゴリ族か・・・」





あの時の彼らの存在感は凄かった・・・


ギルドの受付のすぐ横に立番していた彼らから威圧感をヒシヒシと感じていた。


私が小人ということもあるけど、彼らの巨体はもう山のようにデカくてギルドの会場を埋め尽くしていた。


遥かな天から大地を踏みしめている様な印象すら受けたのだ。


まあ、それも当然か・・・私の身長は今20cmにも満たないんだから、彼らは私の20倍の大きさを持つことになる。


エノクは30メートルの大きさの巨人を見たと言っていたから、私もエノクもちょうど同じくらいのサイズ差がある巨人を見上げたということだ。


あれが巨人か・・・・・





「・・・さて、最後に南西の”ヴィーザル島”の国々についてだね」



「だけど、この地域はカーラから遠いし、イドゥン連盟とも交流がほとんどないから書物による情報も少ないんだ」



「僕が知っている事といえば、人間が治めている国があるという事と、バクナワ海峡に向かう船がリザードマンの国に寄港する事」



「あとは、古代の遺跡が砂漠のあちこちに眠っていたりとか、不思議な塔や幻の都市の伝説がある事くらいかな」



「冒険者だったらもっと詳しく知っていると思うんだけどね・・・ごめんね」



「いや、ここまでの情報だけでも今は十分よ。助かるわ」





カキカキカキ・・・





エノクに礼を言いながらこれまでの情報を漏れなく巻物に書き写していく。


そんな遠方にあるヴィーザル島については今すぐ知る必要はない。


それよりもまずはカーラとその周辺地域、冒険を始めてすぐに行きそうな場所をもっと細かくリサーチするべきだ。


未だ所属する冒険者のギルドも、パーティを組む冒険者も何も決まっていないが、逆に決めないで良かったかもしれない。


各国の地理や情勢が何も知らない状況で冒険者のパーティに所属していたら危険だった気がしてならない。


・・・冒険において無知は罪だ。他者に今後の冒険の方針や判断を委ねざる得なくなる。


すなわちそれは、自分の命を他者に無条件で預けることに他ならない。


エノクは他の仲間を全面的に信用するかもしれないけどね・・・この子は良い子だから。


別にそれが嫌という訳ではない。


そういうエノクに出会えたからこそ私は救われた訳だし、彼のその性格を好ましいと思う。


本当に信頼が置ける仲間と行動を共に出来るんだったら、全面的に信頼したほうが恐らく良い。


経験豊富な仲間の判断だったら、駆け出しの冒険者の判断よりよっぽど信頼が置けるだろう。


だが、熟練の冒険者だって判断を間違うことは当然ある。


致命的なミスの判断を仲間がした時、その間違いを是正出来なかったら私達は運命を共にすることになってしまう。


・・・そんなのはゴメンだ。


だから時には仲間を疑う事も必要だし、ミスを察知できるかどうかは事前の情報収集に掛かっている。


今日は彼のお陰で大分世界の様子が知れた。


しかし、世界を知れば知るほど自分の無知を同時に自覚していく。


私にはもっと知識の吸収が必要だし、資料が必要だった。


幸いなことに王宮の中には膨大な蔵書量を誇る王立図書館がある。


これを使わない手はない。


ただし残念ながら、認可された宮廷魔術師や宮廷官僚以外は本の持ち出しが厳禁なため、エノクは借りることが出来ないらしい。


私はメモを取り終えると、改めてエノクを見据える。





「・・・ねぇ、エノク」



「もっと世界の情勢に関する色々な本を見たいのよね」



「なんとか王立図書館から本を借りることは出来ないのかな?」





私がそう尋ねると、エノクの表情が曇る。





「規則上はハッキリ無理って言われちゃったからね」



「借りられるなら僕だってそうしたいけど・・・」





残念そうに彼が首を振った。


もし借りられるんだったら、今頃この部屋に本が山と積まれているはずだ。


私達が王宮で生活を始めてもう3週間になる。


エノクはもちろん図書館に立ち寄ったのだが、司書に持ち出しを断られてしまったという。


写本はしてくれるみたいだけど、べらぼうに高いらしいのよね・・・


1つ最低でも1万クレジット掛かるらしい。


しかも最低金額でそれだからね・・・良い商売しているわよ。


・・・というわけで、写本の依頼も現実的ではない。


ここはやっぱり”コネ”を使わせて頂くのが現実的だろう。





「・・・エノク。明日ちょっとお願いなんだけどさぁ・・・」





私はそう切り出しながら、エノクにお願いをするのだった。









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