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異世界エビルプリズン④




「ありがとうエノク」



「とりあえず、ネフィリムと蛇の先の領域については分かったわ」



「次は確か大森林だったわよね?」



「うん。そうだね」





私の言葉にエノクが頷く。





「4つ目の未知の領域である大森林についても以前レイナには話したと思うけど、改めて説明するね」



「この大森林は大陸の最北にある森林地帯で、魔族が治めている領域に存在している」



「大森林の中には数多くの魔物が生息しており、Lv50を越える強力な個体が多く、熟練の冒険者でさえ立ち入るのに躊躇する魔の森だ」



「出てくる魔物もさることながら、その森林の中も迷宮のように立ち入る人間を惑わせるんだよ」



「大森林の奥先にはエルフの聖域”アールヴヘイム”があると伝えられている」



「エルフは悠久の寿命を持ち、その知識と扱う魔法に関しては随一の種族だ」



「”オーゼット”さんも言っていたけど、レイナのバッドステータスの解呪の鍵となる場所については彼らに聞くのが一番だと思う」



「僕達の旅の目標の1つはエルフの聖域に入れるように力を付けることだろうね」





これは以前エノクから話を聞いている事だ。


私のバッドステータスの解呪のアイテムの候補としては神の酒(ネクタル)がある。


ただ、単純にネクタルを手に入れれば良いというわけではない。


”神の社”とやらを見つけそこでネクタルを捧げる必要があるとオーゼットさんは言っていたらしい。


そして、その神の社の場所はエルフに聞くのが一番だとも・・・


エノクの言葉に私は頷きながら同意する。





「・・・そうね。エルフの聖域に入るにしてもまずは力を付けることがなによりも先決なのは私も同意ね」



「だけど、大森林に入るべきかは事前に良く考えたほうが良いと思うわ」



「別にエルフって聖域に入らないと見かけない訳でもないんでしょ?」



「例の”アラン”さんはエルフに会ったことがあるって言ってなかったけ?」





事件のことをエノクから聞いた時、地下牢で会った吟遊詩人の話を私は聞いた。


その人はどうもエルフに会ったことがあるという。





「うん。言ってたね」



「滅多に見かけない種族ではあるけど亜人社会で暮らしているエルフも居ると僕は聞いているよ」



「そのエルフの人たちに話を聞ければ、大森林に行かずともなんらかのヒントは得られるかもしれないね」





エノクが私の言葉を肯定する。


彼はそのまま言葉を続けた。





「・・・後はネクタルかなぁ・・・まあ、正直こっちはお手上げ状態だよ」



「結局、神話のアイテムは奪われて行方知れずとなっちゃったし、ネクタルを調査する機会も失われてしまった」



「ネクタルをどうにかして手に入れる必要があるけど、今の時点ではどうすればいいのか見当もつかない」



「旅をする中で何らかの方法を見出す必要があるだろうね」





そう・・・一番重要な物の手がかりが消えてしまったのだ。


エルフについては探せば会えるかもしれないが、ネクタルについては手に入れる算段自体が消えてしまった。





「そうね・・・まあ、こればっかりはじたばたしてもしょうがないわよ」



「元々私達がどうあがいても手を出せる金額の品物じゃなかった訳だしね」



「むしろ、神遺物が強奪されて私はチャンスが巡って来たと思っているわよ?」



「・・・ええっ!?なんで!!?」





エノクが驚きのリアクションを返してきた。


私は手のひらを見せながら彼に説明をする。





「だって、あのままじゃ私達がネクタルを手にする機会は多分訪れなかったわよ」



「例の落札者の成金の手に渡っていたとして、そいつが素直に神遺物を見せてくれるとは思えない」



「だけど、幸か不幸かネクタルは劇団の手に落ちてカーラの人間はそれを取り戻すという大義名分を得ることが出来た」



「冒険者として力を付けることが出来れば、世間に後ろ指をさされずにある意味合法的に私達は手に入れることが可能になったのよ」



「これはチャンスが出来たと思わない?」



「・・・えっと、うーん・・・」





エノクが逡巡しながら言葉を濁す。


彼は少し間をおいた後、私の言葉に難色を示してくる。





「僕は流石にそれをチャンスと言うのには異論があるかな・・・」



「・・・カーラ王国としては窮地に陥ったわけだし、それに賊から取り戻したところでネクタルが僕達の物になるわけでもないでしょ?」



「レイナの言葉は分からない訳でもないけど、カーラの臣民の一人として、僕はそう単純に捉えることは出来ないよ・・・」





彼としてはカーラ王国の秘宝が持ち出されて、王国の存亡が掛かっているから素直にチャンスと捉えるのには抵抗があるのだろう。


・・・まあ、これは物の捉え方の問題だし立場によって変わる。


私はカーラ王国への思い入れがまだそこまで深くないからこんな割り切った事を言えるのだ。


しかし、私だって第2の故郷だと思い始めているクレスの町に危機が迫ったら嫌だという気持ちは既にある。


だから彼の気持ちは分かる。





「・・・ごめん。ちょっと考えなしで喋っちゃったわね・・・」



「確かにエノクの言うように賊から取り戻した所で私達のものになる訳じゃないし、チャンスと言ったのは撤回するわ・・・」





エノクの心情的に手に入れるという言い回しにも少し抵抗があるのだろう。


ここは彼を納得させるように言い方を変えるべきかしらね・・・





「でも1つ質問だけど、エノクはネクタルを取り戻したら調査もせずに、すぐにカーラ王国に返却するつもりなの?」



「えっ・・・?」





私は彼に質問をぶつけつつ、そのまま言葉を続けた。





「カーラ王国に返却したら、商人ギルド連盟が間違いなく出しゃばってくるわよね?」



「契約を履行するために、すぐにでも例の成金にネクタルを届けようとすると思う」



「私達には報奨金だけ与えて、調査をする時間なんか多分与えてくれないと思うわよ」



「それでもすぐに返却するつもり?」



「・・・いや、えーーっと・・・それはさすがに・・・」



「それなら僕達が苦労して取り戻すメリットがほとんど無くない?」





私の予期せぬ質問に彼はここでも言葉を濁してしまう。


どうやら、流石に金品だけの見返りで返却することには彼も抵抗があるようだ。





「そう、流石にそれは私もどうかと思うのよね」



「だからちょーーーっとの間”借りる”だけでいいのよ!」



「エノクがネクタルの構造を詳細に調査(アナライズ)できるくらいレベルを上げて、それを創作できるようになれば、カーラ王国にも多大な貢献ができるでしょ?」



「だからそれまでの間”借りる”だけなら私は良いと思うのよね」



「・・・うん。まあ・・・それは確かにね・・・」





私の言葉を受けるとエノクは視線を下げ思索に耽り始める。





「・・・いずれ返すにしても、少し”借りる”くらいの権利はあっていいはずだよね・・・」



「何よりそれでカーラ王国や、王妹殿下の将来に大きく役立つんだったら悪い話じゃないのかな・・・」





自分を納得させるかのように、彼は独白を続ける。


彼はカーラ王国の臣民として王家に忠誠を誓っている身だ。


ネクタルを取り戻したところで、それを自分の物にするという考えがそもそも無かったのだろう。


あるべきところに返した後に改めてネクタルの調査をお願いする事を想定していたのかもしれない。


エノクのそういう義理を通そうとする姿勢は私は好きだけどね・・・


だけど、今回返すべき相手はカーラ王家というより、事実上商人ギルド連盟なのだ。


奴らはエノクを狙ってきた容疑者であり、平然と他者を切り捨てる冷酷無慈悲な連中だ。


そんな奴らに無理に義理立てする必要はないし、私はエノクと違って博愛主義者ではない。


ただ、クラウディアさんとその騎士団。そして、エレノア王女にだけは恩がある。


だからカーラの秘宝である”知恵の実”をもし見つけたら、彼女たちには渡そうと思うけどね。


しかし、それ以外の神遺物を見つけても返す必要性を私は感じていない。


これを言ったらエノクは怒ると思うから、今は黙っておくけど。


そもそも神遺物の扱いを今話す必要がないわね・・・





「エノク・・・なんか話が大分それちゃったわね」



「今、ネクタルの扱いを話してもしょうが無い気がするわよ・・・」



「まだ冒険も始めっていないし、どういう方法で手に入るかもわからないのに・・・」



「話を戻しましょう?」



「・・・ははっ!確かにそうだね」



「気が早すぎたよね。僕達」





エノクがそう言って苦笑いを返してきた。


お互いもうネクタルが手に入ったことを前提に話を進めている事に私も思わず苦笑してしまう。


私達はお互い苦笑した後、再び地図の話に戻った。





「・・・えーっと、そうすると、次が最後かな?」



「”スカディ”の海を北上した領域だね」



「・・・スカディの海・・・さっき北東の海って言っていたわよね?」





私はそう言いながら、地図の北東に目を移す。


北東の海は小さな島がぽつぽつと存在するだけで、国らしきものも見当たらない。


唯一目につくとすればドラゴンらしき物体が地図上に表示されていることくらいかな・・・


私の質問にエノクが相槌を打つ。





「そう。そこがスカディの海だ」



「地図を見れば分かる通り、小島がいくつか点在する程度だけど、ここはアイスドラゴン達の巣になっているんだよ」



「ドラゴンを怒らせないように通り抜けることが出来れば北に抜けられるけど、怒らせた途端に超危険地帯に早変わりさ」



「繁殖期である秋から冬はドラゴン達が獰猛になっているから特に近づかない方が良いと言われている」



「なるほど・・・ドラゴンの繁殖期は獰猛になるのね」





カキカキカキ・・・





同じ様に得られた情報を転生者の巻物に書き残していく。


ドラゴンにも様々な種類がいるが、いずれのドラゴンもLv100以上の大冒険者でないと歯が立たない存在だという。


冒険者がドラゴンの生息する領域に足を踏み入れる時は常に死を覚悟して臨まなければならない。


ドラゴンとはそれだけ強大で規格外の魔物であり、畏怖の象徴だ。


”ドラゴンスレイヤー”の称号を名乗るのは冒険者にとって憧れであり、


もし、一体のドラゴンでも討伐出来たら莫大な報奨と名誉が約束される。


そんなドラゴン達が何体も生息する場所を船で通り抜ける・・・


スカディの海がやばいのはよく分かったわ・・・





「肝心のスカディの海の先についてだけど・・・これもあまり情報がないんだよね・・・」



「北に進めば極寒の氷海が広がっているのは分かっているんだけど、常に猛吹雪が吹いていて視界も不明瞭なんだ」



「自然そのものが脅威となっている場所だし、冒険者や魔物もほとんど寄り付かない」



「噂レベルの話だと、探索しても多分蛇の壁にぶつかるだけだと言われているよ」



「そのせいか、未知の領域の中では一番不人気な場所だと言えるだろうね」



「まあ・・・確かにロマンをあまり感じるような場所ではなさそうよね・・・」





彼の言葉に頷く。


他の未知の領域については少なからず冒険者の好奇心を刺激する情報が存在するが、


この領域については危険を侵してまで進みたいと思わせるものが何もなかった。


氷の世界と蛇の壁しかないと言われちゃねぇ。まあ、誰もそんなところ行かないわよ・・・


不人気なのも納得ね・・・




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