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異世界エビルプリズン②




「あー・・・あったあった」



「これが、さっき書いてあった噂の火山ねぇ~」





先程の伝記を読んでいる時に出てきた大火山を私は地図上で見つけた。


場所はカーラ王国からも近い。


カーラ王国の西には亜人の連邦国家ルリスターン連邦があるが、その北に巨大な火山が地図上に表示されている。


伝記集に出てくる地理用語と世界地図を見比べた時にそれぞれの要点をまとめておけば、各地方の情勢がおぼろげながらに見えてくる。


先程の伝記ではこの火山は有翼人(ハーピー)の信仰の対象とされていたと書かれていた。


・・・とすると、北のリーヴスラシル島に属している国家は魔族の国家のはずだから、


この火山のすぐ西に配置されている”エレヴァン王国”は有翼人の国家なのかも知れないと類推出来るわけだ。


もちろん、ルリスターン連邦の中にいる有翼人たちを指しているのかもしれないが、


予め当たりをつけておけば後日正しい情報をスムーズに頭の中にインプットすることが可能になる。


まあ、これくらいの事ならエノクに聞けば正しい情報は教えてくれると思うけどね・・・


特に、魔法や、武器・アイテムの知識なら、こんな本を読まずにエノクに聞いてメモった方が恐らく早い。


しかし、彼だって物事の全てを知っているわけじゃない。


魔法技師に関する以外の事だったら彼でも知らない事は山ほどある。


そして、もう一つ類推しておくことが重要な理由として、この世界では知りたい情報にすぐにアクセス出来ないことが挙げられる。


現に、これまで読んだところだとエレヴァン王国の情報は出てこなかった。


他の書物を手に入れられればどこかしらには書いてあるのだろうが、探すのは手間だし時間も掛かる。


冒険をする中で、時には不確かな情報、無知な状態で物事を判断せざるを得ない時も当然出てくる・・・というかそれがほとんだろう。


そういう場合、物事の正誤の判断精度を上げておくために、既存の知識から類推できる範囲を広くしておく事が重要だ。


フェルミ推定がその一例だろう。


私が今やっている作業はまさにその準備というわけ。





「・・・・ふぅ・・・」



「だけど、時間掛かるのよねぇ・・・」



「こればかりは仕方ないけどさぁ・・・」





”第8章 ヨルゲン・ビョルク”の伝記集のメモをようやく取り終えると、私は大きく息を吐いた。


朝からずっとこんな感じで、本をめくってはメモをするという事を繰り返していたため、流石に少し疲れた・・・


気づけば外から入ってくる光も赤みがかり、時刻は夕方を指していた。


いつの間にかこんなに時間経っていたのね・・・


ここで手を止めたら億劫でもう本を見たくなるかもしれない。


・・・だけど、今日の予定していたノルマはまだ達成していなかった。


そこで私はパンッ!と手を叩いてもう一度大きく息を吐く。


気持ちを強制的に切り替えて、自分に活を入れるためだ。





「ふぅ・・・・よしっ・・・!」





気合を入れ直した私は、身体全体を使って次のページをめくる。


この伝記集は過去の冒険者達の活躍を記したものだが、その内容は冒険者が実際に残した手紙や手記を基に構成されており真実味がある。


特に、冒険者の日常、過酷な旅の話や、旅行く先での光景、そして、魔物の話なんかは今後の参考になりそうだ。


たまに明らかに眉唾ものの話や、伝説の中のおとぎ話も混じっているから全部が全部そうだとは限らないのだけどね・・・


まあ・・・伝記集にはそういう話は付き物だから、眉唾ものの話はサラッと流す程度でメモっておけばいいだろう。


さて、次は第9章か・・・今度は誰が出てくるのやら。


・・・そう思って、私が第9章を読み始めた時だった。





カツ・・・カツ・・・カツ・・・





外の廊下から辿々しい足取りで近づいてくる足音が聞こえてきた。





「・・・エノクさん身体は大丈夫ですか?」



「・・・大丈夫です」



「ははっ・・・流石にちょっとフラフラしてますが・・・」





アイナさんの問いに苦笑いを返すエノクの声も聞こえてくる。





「では、明日も同じ時間に迎いに来ます」



「今日はゆっくり休んでください」



「はい。アイナさん、本日はありがとうございました」



「また、明日もよろしくお願いします」





ガチャ・・・


バタン!





「レイナ・・・ただいま~」





入口のドアを締めた後、エノクは気だるそうに帰宅を告げてくる。


私は物陰から姿を現すと、エノクに言葉を返した。





「おかえり~」



「・・・大分、キツく絞られたようね・・・・」





エノクの憔悴した表情を見て私は今日の訓練の過酷さを悟る。


私の言葉にエノクは力なく笑った。





「ははは・・・うん。想像以上だったよ・・・」



「一時は死ぬかと思ったし・・・・」



「・・・ふふっ・・・お疲れ様」





私の労いの言葉にエノクは手を上げて応じると、


冒険者の装備を着用したままテーブル前の椅子にぐったりしながら座り込んだ。


過酷な訓練だったにも関わらず、その装備品は新品同様傷ついていなかった。


さすがアイナさんが見繕った装備だ。





「・・・・ああ、ごめん・・・・」



「・・・夕飯待ってくれてもいいかな・・・ちょっと休んでから作るね・・・」



「うん。私は大丈夫。ゆっくり休んでよ」



「・・・・ありがとう・・・・ふぅ・・・」





エノクはそう言って大きく息を吐く。


彼は背もたれに身を預けると、間もなく寝息をたててきた。


・・・今はゆっくり休ませてあげよう。





「さて、私は私で続きを頑張らないとね・・・」





彼が寝ている姿を尻目に、私は読書の続きを進めるのだった・・・・・







「・・・あれ・・・?」





その寝ぼけ声と共にエノクが目を覚ます。


彼は目をパチクリさせながら起き上がり、手元の時計を確認した。


時刻は”20:13”を指している。





「・・・あっ!ごめん・・・」



「こんなに眠っちゃてたんだ・・・」





彼が仮眠を取り始めてから3時間以上経過している。


その間に私の方も今日予定していたノルマ分を読み終えていた。


私は転生者の巻物から視線を外すと、エノクに向かって微笑みかけた。





「・・・大分疲れてたんでしょうね」



「私が横でごそごそと音を立てて本を読んでいてもまるで反応がなかったわよ」





私がそう言うと、エノクは若干バツが悪そうに答える。





「・・・そうだったんだ。悪い事したね・・・」



「遅くなっちゃったけど、今から夕飯作るね」



「・・・朝に仕込んでおいたからすぐに出来ると思う。ちょっと待っててね!」



「うん、ありがとう!お願い」





エノクは冒険者の装備を外すと、エプロンを付けて調理を始める。


その間に私は転生者の巻物に視線を戻し、自分のメモを読み返していた。


伝記集や世界地図、魔物図鑑を読んでいく中で疑問点がいくつか出てきた。


今のところそれらの疑問の答えが伝記集の中にも出てこなかったので、とりあえずメモとして残している。


後でエノクに聞いてみようかな・・・





「・・・おまたせー!」





調理を終えたエノクが、皿を持ってテーブルにやって来た。





ゴトッ!





私の目の前に小人用の皿が2つ置かれ、香ばしい匂いが私の鼻腔を大いに刺激する。





「今日は”ボルシチ”を作ってみたんだ!」



「チーズの”ピローク”と一緒にどうぞ」



「・・・うおおおお、美味しそう!!」





パチパチパチ!





私は感嘆の声を上げて、思わず拍手をしてしまった!!


ちょっと、そこの奥さん見ましたか!?


これがうちのエノクですよ!


ええ、ええ・・・どんなに疲れていようが、うちの子はこういう所は手は抜かないんですよ。


うちの母みたいに、カレーやシチューを作り置きして、2・3日持たせようなんてそんな浅ましい事は考えない子なんです!!


しかも、これを見てみなさい!!


このじっくり煮込まれトロトロになった極上のボルシチ!


そして、外側がチーズと混ざってコンガリ焼けたパイ生地とふんわりとした野菜とキノコが絶妙なハーモニーとなって食べるものに舌鼓を打たせるピローク!


もう、見てるだけヨダレが出てきちゃいますわー!


え・・・一口食べさせろって?


ざんねーん!これはもう私のもんよ!





パクパクパク!





「・・・おいちい・・・おいちいよーーー!!」





知能レベルが赤子以下になりながら私は目の前の芸術品を一心不乱に食す。





「・・・うん。朝に煮込んでいた甲斐があったね」



「牛肉の旨味がスープに良く溶け込んでいるよ」





エノクはそう言って、冷静に品評しながら料理を口に運ぶ。


彼は研究者としての知性を保っているのに、私は赤ちゃん並みに堕落してしまった。


彼と私。一体どこで差がついたのか?・・・今の私には分からない。


そんな事を考えているうちに、あっという間に目の前の料理を平らげてしまった。





「・・・あ~美味しかったぁ~・・・!!」



「ワラワは満足じゃ~・・・」





しみじみと私がそう語ると、エノクは微笑みを返してくる。





「ははっ!良かったよ」



「レイナにそこまで喜んでもらえて、なんか僕も疲れが飛んだ気がするよ」





ほのぼのとしたいつもの夕飯の風景が戻ってきた。


今日はお互い苦労したこともあって、夕飯の美味しさが格別だった。


エノクもいつにも増して嬉しそうな表情をしている。


・・・ってそうだった!


夕飯が美味しすぎて忘れそうだった!


エノクに疑問点を聞こうと思っていたのよ、私!←知能が戻った。





「・・・エノクちょっと良い?」



「本の内容について聞きたいことがあったのよ」




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