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初めての戦場




「うえっ!?」





私とエノクの目の前で銀の一閃が放たれた。


訳もわからないまま起こったその現象に、エノクに襲いかかろうとした者に戸惑いの表情が現れる。


直後・・・彼の顔に異変が起こった。





「あ・・・あがっ・・・」





ブシューーーー!!!


ゴロゴロゴロ・・・・





「・・・っ!!?」





エノクも私も目の前の状況に目を丸くしてしまう・・・


ショッキングな光景だった・・・


歪な悲鳴を上げるとともに彼の”首”が地面に転げ落ちたのだ・・・!


切断された身体からは血しぶきが立ち上がり、身体とともに地面に崩れ落ちてそのまま絶命してしまった・・・・・





「・・・・な、なんだぁ!!!?」



「なんだこりゃ・・・?!!!」



「何が起こった!!!!?」





慌てたのはエノクに襲いかからんとした者達である。


目の前で起こった突然の仲間の死に阿鼻叫喚の様相を呈し、混乱を隠せないでいた。


・・・だが、それも仲間が崩れ落ち、血しぶきの霧が晴れた後、彼らはすぐに悟った。


血飛沫の中、平然とそこに佇んでいるものがいて理解したのだ。





「て・・・てめぇ・・」



「や、やりやがったな・・!!?」





言わずもがな、アイナさんがそこには立っていた。


彼女は先程まで両手を下ろしていたと思っていたのに、いつのまにかその手には銀の輝く剣を持っていた。


彼女の眼光は凍てつくように寒く、睨まれたものを震え上がらせるに十分過ぎるものだった・・・・・





これ・・・アイナさんなの・・・?


怖いっ・・・・





彼女の視線を垣間見て私は身震いをしてしまった。


私達と普段接しているアイナさんの面影はない。


そこにはただ殺意と氷のように冷たい感情しか無い殺人機械のような人間が立っていたのだ・・・





「・・・・こ、このあまあああ!!」



「何しがるんだテメエええ!!」



「殺すっ!!!!」





仲間を殺されたことに激昂する荒くれ者たち。


頭に血が上った彼らはもはやドランの言ったことも忘れていた。


目の前の危機への対処と仲間を殺された恨みを晴らすために、怒声を上げながらアイナさんに襲いかかる!!!


ナイフを持った者が一人その刃を突き立てアイナさんに襲いかかったが、彼女はそれをサラリと躱す。


そして、すれちがいざま凄まじいスピードでその剣を奴の後頭部へ振り下ろした!!





―――ザシュ!!


・・・ボタッ!!





再び私達の目の前で首が落ち、辺りが血に染まる。


・・・だが、荒くれ者たちは今度はそれで止まることはなかった。


直前に首を落とされたものが、まだ地面に身体を崩す間もないタイミングでのことだ。


アイナさんの態勢が整わない内に奇襲をかけようと3人が襲いかかってきた!


真ん中の一人は斧を振りかぶり左右の2人は短刀でアイナさんの首に突き立てようと突進をしてくる!!


激情した彼らは夕闇が辺りを覆う街路の中、がな切り声を上げて目の前の”危険因子”を排除しようとがむしゃらに攻めかかった!!


このタイミングでの攻撃はアイナさんにとって確かに不意をつかれる形になったことだろう。


まだ、直前に剣を振り下ろした反動で身体が右に傾き、その剣は地面に突き立てられるような低位置にあった。


この位置から剣を構え直していては襲いかかる3人全てに対処することは不可能と思われた。


左右と前方の3方向から一斉に攻められ、背後にはエノクがいて逃げることも不可能だ。


・・・だが、アイナさんはここで傾いた態勢を無理に戻すことはしなかった。


彼女は傾いた身体をその場でくるりと回転させながら、遠心力を持たせた剣でまず斧を振り下ろした人間の胴体を一閃した。


続いて、左から襲いかかってきた者の顔面を剣を持っていない手で肘打ちを喰らわせ、左の空間に回避スペースを作り前方の斧を避ける。


そして、右から襲いかかってきた者を切り上げた剣の勢いを殺さずに、そのまま奴の首へと振り下ろした!!!





ザシュ!!





「・・・えぁ・・・」



「ぎぃああああああ!!」



「・・・・・」





あっという間の出来ことだった・・・


2人目の首を落としてから、襲いかかる3人の対処を完了した時間までわずか2秒。


とても常人とは思えないほどの速さと膂力だった・・・


あとに残ったのは、首が落とされて、断末魔を叫ぶこともなくその場に崩れ落ちた者。


身体を裂かれ苦悶の表情を上げながらうめき声を上げて絶命した者。


そして、肘打ちを顔面にモロに喰らい、痛さで地面を転げ回っている者だった。


アイナさんはそんな彼らを一瞥し無力化されていることを確認すると、呆然と突っ立っている残り2名の方に顔を向ける。





「・・・あなたたちはこないのですか?」





ザシュッ!





「あああががが・・・・」





アイナさんはその2名に問いかけると同時に、地面を転げ回っている者に上から剣を突き立てトドメを刺した。


その返り血を浴び、全身が赤に染められながら、凍てつく視線を突っ立っている2名に向ける。





「・・・・ひっ!」





アイナさんの眼光を浴び2人は悲鳴を上げる。


訳も分からぬ間に5人があっというまに目の前の女に殺られた・・・


それも先程まで圧倒的に下と見ていた自分たちが犯す対象だった女にだ。


目の前の光景が彼らには信じられなかったことだろう。





「・・・ば・・化け物・・・」



「・・・い、いやだ・・・」





アイナさんが呆然としている彼らに対し一歩前に踏み出す。





カツ・・・





それを見て二人は後ずさる。





「う・・ううわあああああ」



「た・・・たすけてくれえぇーーー!!!」





彼らはすぐに恐慌状態になって全速力でその場から逃げ出した。


・・・アイナさんは彼らを追うことはしなかった。


すでに彼らは戦意が喪失していたし、逃げ出すものは追わない主義なのかもしれない。


だが、結局アイナさんの好意は無駄になるのだけど・・・





ブウウウウウゥゥン!!!


ズシャ!!





風を切る音ともに、巨大な剣の斬撃音が辺りに響き渡った。





「・・・ド・・ドラン」



「・・・な、な・・ん・・で・・」





逃げた二人は意味も分からぬままその場に崩れ落ちる。





「・・・だれが、逃げていいて言ったよ。クズども・・・」



「・・・・・」





・・・だが、身体を真っ二つに裂かれた二人からもはや言葉は返ってこなかった。


逃げようとした二人のならず者をドランが一太刀で切り捨てたのだ!!





あいつ・・・仲間を手に掛けた・・・!!?


なんて酷いことを・・・・・





私が絶句している中、アイナさんはドランに対し無表情のまま対峙すると、持っている剣を構え直す。





「・・・あなたは逃げないのですか?」





・・・彼女は逃げた二人を斬り伏せたドランの行動を特に咎めることはしなかった。


直前に起きた狂気に驚きを示すこともなく、まるで何事もなかったかのように振る舞っている。


アイナさんの今の興味はドランの出方のみのようだ。


あの狂気を目の当たりにして、なぜ彼女が眉一つ動かさずにいる事が出来るのか私には理解できなかった。


戦場においてはこんなの日常的に起こる光景で慣れているから?


分からない・・・・


これが初めての戦場である私にとってはまだ判断が付かない事だ。


・・・1つだけ分かるのは今の目の前の光景は狂気が場を支配しているという事・・・


アイナさんもたぶん少し狂っているのだ・・・


戦場では狂気を己に宿していなければ平静を保っていられないのかもしれない・・・・


・・・まあ、あのドランは戦場かどうかに関わらず常時狂っているようだけどね。


そして、ドランの方に私は目をやった。


奴は斬り伏せた大剣をブオン!と剣圧を鳴り響かせて血糊を振り払うと、再びそれを肩にかつぐ。





「・・・へっ、やってくれるじゃねえか、女・・・」



「・・・・・」





憎まれ口をドランが叩くがアイナさんは反応しなかった。


彼はそんなアイナさんに鋭い眼光を向けると怒りを滲ませながら話を続けてくる。





「・・・たくっ!面倒かけやがって!」



「さすがにここまでやられちゃ落とし前付けてもらうしかねぇな・・・」



「・・・だが、俺は優しいんだ。お前は上玉だからチャンスをやらないでもない」





え・・・この期に及んで何を言うの?


ドランはそこまで言うとニヤリと笑った。





「俺の女になりな!!そして、後ろのガキを殺せ!」



「・・・そしたらテメエは殺さないでいてやるよ!!」



「・・・・・」





あまりに支離滅裂な交渉に私は空いた口が塞がらなかった・・・


そんな要求アイナさんが呑むわけ無いのに馬鹿じゃないの・・・


案の定アイナさんも彼の言葉に苦笑を禁じえないようだった。





「・・・・ふっ」



「そんな戯言を言ってないでさっさと掛かってきたらどうなのです?」



「・・・まさか私が怖いという訳でもないでしょう?」





ギリッ!





その瞬間・・・ドランは苦虫を噛み潰したような憤怒の表情を露わにする。





「・・・・調子に乗るなよぉ!くそアマぁ!!!」



「俺をそこらへんの戦闘スキルもない雑魚と一緒にするんじゃねぇぞぉ・・・!!」



「・・・俺はな”Lv28”の大悪党なんだぜ!!」



「そこらへんの雑魚なんて片手で握り潰せる程強いんだ!」



「てめえが今発言したこと後悔させてやる!!!」





そう言ってドランは自らの力を誇示するかのように持っている大剣をブンブンと振り回した!





「・・・見せてやるよぉ・・・俺の能力をなぁ・・!!!」



「・・・・・」




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