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下品な来訪者達




お客さん・・・!?


アイナさんの言葉に私の身体に緊張が走る。


それはエノクも同じだった。


彼が息を呑むと同時に、外から声が聞こえてくる。





「・・・おい!こいつがそうなのか?」



「・・・いや違うだろう・・・もう一人のガキの方だろう」



「ヒャッヒャ・・・どっちでもいいだろう!暴れられればよう!!」





複数人の男の声だった。


こちらに危害を加えようとするような言動。


どうみてもまともな客じゃないのは明らかだ。





「・・・おい!それより、この女めちゃくちゃ上玉じゃねえか?」



「確かにすげえ別嬪だ・・・犯してぇ・・・」



「どっかのお嬢様なんじゃねぇか?この場に立ち会うなんて運が悪いねぇ・・・へへへ」



「安心しろよ、お嬢ちゃん・・・俺たちが可愛がってやるからさ!」



「ヒャハハハハハハ!!!」





何人もの下卑た笑いが周囲に響き渡る。


不愉快極まる笑い声の中、私は自分の過ちに気づき頭を抱えていた。





くそっ・・・!


まさか、待ち伏せまでしていたとはね・・・


なんで帰宅しようとエノクが言った時に止めることをしなかったんだ私・・・!!!





・・・そう、これは予想できたことだった。


元々クラウディアさんに助けを求めた理由もこういう状況を回避するために住処を移したからだ。


住居を移し、さらにアイナさんという護衛も付いたことで慢心していたのかもしれない・・・


そもそもエノクが襲われるという確証も無かった。


商人ギルド連盟がエノクを危険人物として排除するかもしれないという予想もただの推測だったし、自分の考えに半信半疑だったのだ。


だから私は思ってしまった。


”避難したのは考えすぎだった”と。


アイナさんも付いているし、ちょっとくらいなら帰宅しても大丈夫だろうと思ってしまったのだ。





結果的にこれじゃ自分から罠に入りに行ったようなものじゃない・・・


なんて甘い判断しちゃったのよ・・・





自分の迂闊さに思わず愕然としてしまう。


予測が出来ていたからこそ余計に悔しかった。


外からはならず者たちの嘲笑が絶え間なく聞こえてくる。


気づけばエノクの身体は小刻みに震えていた・・・


彼も気づいているのだろう・・・奴らのターゲットが”自分”だと・・・


エノクは荷物を置いてその場を立ち上がると、アイナさんの後ろに回った。


そして、玄関の外へと視線を向ける。


・・・外には予想通り、ならず者たちが何人もいた。


かなり・・・多い・・・5人、6人、7人・・・いや、8人はいる。


目に見える限りの範囲でもそれだけの人数だ。


皆、ナイフや、斧などの近接武器をちらつかせながらこちらを威嚇している。


・・・まさか、空き巣・・・なわけないわね・・・


こんな人数で空き巣なんか入るわけ無い。


彼らがこちらに敵意を持っているのは疑いようがなかった。


エノクは震える拳をギュッと握り、アイナさんに話しかけた。





「・・・アイナさん」



「僕も戦います・・・!」



「僕はもう無力な子供ではありません・・・!」





彼はそう言ってエアロフィストを胸の前に構え、戦う意志を見せる。


しかし、冒険者の衣装をまとっているとはいえ、エノクは戦いなんてしたことはないだろう。


素人目に見ても、今のエノクは緊張でガチガチになっているし、肩に不自然に力が入っていた。


・・・これでまともに戦えるの?


エノクの姿に私は不安を抱く。


しかし、ここでアイナさんが前方に警戒を向けたまま、思わぬ返事をしてきた。





「・・・エノクさん、それは駄目です」



「王国内での私闘は禁じられているのはご存知でしょう?」



「加えて、いかなる理由であれ町の中での冒険者の武器の使用は禁じられています」



「あなたの今装備しているその武器はこんなところで振るうために買った訳ではないはずです」



「・・・で、でも・・・この状況じゃ!多勢に無勢ですよ!!」





エノクがそう言って、食い下がろうとするがアイナさんは右手を上げてそれを静止した。


そして、彼女は僅かに首をこちらに振り向けると、穏やかな表情でエノクに言葉をかけてきた。





「大丈夫ですよ、ご安心を・・・」



「カーラ王国の治安を守るのは騎士である私の責務です」



「この場は私にお任せを」



「エノクさんはしばらく家の中で待っていてください」



「・・・アイナさん」





カツカツカツ・・・





アイナさんはエノクに待つよう指示すると、荒くれ者共が待つ街路へ自から赴いた。


その後ろ姿はピンと背が張っており、これから起こるであろう戦いに対しても一切怯む様子がなかった。


そんな彼女の姿を素直にカッコいいと思ってしまう。





「ハッハーー!おい!女の方から出てきたぜ、へッへッへ!」



「おう!!姉ちゃん最初に俺と遊ぼうぜ!俺のちんぽで天国を味あわせてやるからよ!!」



「あっ!てめぇ・・・抜け駆けは許さねえぇぞ!」



「そうだそうだ!!ヤるなら最初に順番決めてからだろうが!」



「ふざけんな!俺が最初に目つけたんだ!てめえらの分はねえよ!」



「んだと、てめぇ!独り占めする気かよ!殺すぞ!」





街路に出たアイナさんを荒くれ者達が取り囲む。


しかし、彼らはアイナさんの取り合いを始めて勝手に仲違いを始めてしまった。


その節操のなさとバカさ加減に私は呆れてしまうのだが・・・





「・・・おめぇら・・・黙れ・・・」





その瞬間どすの利いた声が辺りに響き渡った。


途端、言い争いをしていた連中の顔に緊張が走る。


声のした方向に目を向けるとアイナさんを取り囲んでいる者たちとは少し離れた場所に一人の大男が立っていた。


その男は8人の中でも背丈が抜きん出て大きく、持っている武器がとてもインパクトがあった。


他の7人はナイフや小ぶりの斧を持っているだけなのに対し、その男が持っているのは”大剣”だった。


それは大ナタを更にデカくしたような太い剣で、力のある人が振るえば人はおろか馬や牛などの動物でさえも一太刀で両断できそうな大業物の武器だ。


アイナさんはもちろん、エノクも一目で分かった事だろう・・・・


あの男がこの荒くれ者共の”ボス”だということを。





「・・・誰に断りなく、勝手に取り分決めてんだぁ?」



「俺がいつそんな事認めたんだっけなぁ!?ああん!!!?」





大男は肩に担いだ大剣をゆらゆらと振りながら、いかつい眼光で荒くれ者たちを威圧する。


少しでも口答えをしてしまえばその大剣による無情理な暴力が自分たちに襲い掛かると感じたのだろう。





「す・・・すまねぇ”ドラン”」



「ちょっ、ちょっと悪ふざけが過ぎただけだって・・・」



「そ、そうだぜ!一番目はドランに譲るからよぉ」



「お前を差し置いて俺達が獲物を横取りなんてするわけねえよ・・・」





先程までイキっていた連中が急にしおらしくなってしまう。


”ドラン”と呼ばれた男は彼らの答えを聞いてニヤリと笑った。





「・・・おう、そうだよな?分かってんじゃねぇか、おめぇらも」



「その女はまず俺が貰うってのが道理だろう」



「安心しろ・・・俺は優しいからよ!」



「俺が飽きたらお前らにも回してやっても良いぜ」



「・・・あ、ありがてぇ!」



「お、恩に着るぜ、ドラン!」





ドランにビビり散らす荒くれ者たち。


彼らはこの男と隷属の関係を結ばされているようだった。


憐れね・・・


自分より弱いと思われるものに対しては威張りまくる癖に、自分より強い存在には媚びへつらって絶対服従。


このような形ででしか生きてこられる術がなかった彼らを気の毒にさえ思ってしまう。


ボロボロの衣服をまとっている彼らはどこかの貧民街(スラム)の出身なのだろう。


アイナさんを一番に貰うことを確認していい気分になったドランがさらに調子に乗る発言を始める。





「・・・おっ、そうだ!!」



「そこの”ガキ”を殺した奴に2番目を回してやるよ!」



「ついでに今回の分け前もはずんでやるぜ!!」





そう言って彼はエノクを指さしてきた。





「・・・・っ!」





エノクが息を呑む。


明確な彼の殺害指令だった。


彼らのターゲットがエノクであることが確定したとともに、何者かがエノクを邪魔だと思っている事も明らかになったわけだ・・・


ドランのその言葉を聞いた荒くれ者達が、再度高揚する。





「よっしゃあ!!」



「あのガキ殺すだけでそんな貰えんのかよ!」



「さすがドランだぜ!」



「俺が一番に殺してやるぜ!」





荒くれ者たちの興味が急にエノクの方へと向く。


アイナさんへにじり寄っていたその足を止め、こちらに襲いかからんとその足を一歩踏み出した時だった。


ここで、彼らの言動を静観していたアイナさんが動く。


彼女は左右の者たちに向けて静かに言葉を発した。





「・・・あなた達に警告します」



「それ以上、この家に近づかないでください」



「後ろの少年に危害を加えようとした者は私が切り捨てます」



「命が惜しいなら、おとなしくこの場から去りなさい」





・・・厳かな声だった。


最近はアイナさんも私達の前で感情を表に出すことも増えてきた。


だが、今の彼女からは出会った当初のあの無機質な感情しか伝わってこない・・・


それが逆に恐ろしく感じてしまう・・・


しかし、もちろん荒くれ者たちにとってはそんな事は知りようもないだろう。





「ヒャハハ!おいこの女なんか言っているぜ?」



「おお、怖い怖い!怖いでちゅねーー!!」



「ハハハ!可愛い顔して怖いこと言うじゃねえかお嬢ちゃん!!」



「安心しろよ。テメエの相手はドランがしてくれるってよ!夜の方だけどな!ギャハハハ!!!」



「・・・・・」





彼らは数の利もあり、自分たちが圧倒的に優位だと思っているのだろう。


また、アイナさんが女だからといって舐めてかかっているのかもしれない。


アイナさんの警告を無視し、荒くれ者共はエノクが見守る家の中へと踏み込もうとした!





ヒュン!!!




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