戦闘ポジション
エノクたちはその後、1階へと降り商店街エリアに入っていった。
ここでの目的はエノクに合う武器がないか探すことと、冒険に役立つアイテムの収集だ。
流石王国最大のギルドというだけあり、揃えられているアイテムの品揃えも豊富だ。
来店する冒険者も人に限らず、亜人・獣人達の姿も見られることから、彼ら用の武器やアイテムもあるという事だろう。
剣や槍みたいにいかにも人間が扱う武器もあれば、爪や牙、あるいは尻尾の先に装着するテイル・ウィップなんかもあったりする。
小人用の武器もあったりしないかなぁ・・・
一寸法師に習えば、私の武器はやっぱり針だろう。
針で相手を倒すなんて事は出来ないだろうが、護身用の武器としては持ってても良いかも知れない。
以前はそれでネコから逃げられたわけだしね・・・
そんな事を考えている間にエノク達は商店街の中央まで到着した。
アイナさんはエノクへ顔を向ける。
「・・・さて、ここが商店街です」
「まずは何から探しましょうか?」
「熟練の冒険者には及ばないですが、私もそれなりには戦闘経験を積んでおります」
「せっかくなので私がエノクさんに役立つ武器や防具を見繕いますよ!」
アイナさんは自分の胸に手を当てながらそう提案してきた。
意外にもアイナさんが乗り気だった。
ギルドの受付を案内していた時よりその表情はどこか楽しげだ。
そこには戦闘経験者の余裕が見えるし、彼女の得意分野である知識を披露したいのかもしれない。
意外にお茶目な面があったのねアイナさん・・・
・・・まあ、アドバイスをくれるというのならこちらも断る理由はない。
「ありがとうございます・・・では、よろしくお願いいたします」
エノクがアイナさんに頭を下げる。
アイナさんは微笑みながら頷くと、話を続けてきた。
「分かりました。お任せ下さい」
「武器の選定の前に、ご自身の戦闘ポジションを確認しておく必要があります」
「まずは、そこについて説明しておきましょう――――」
そう言ってアイナさんは説明を始めた。
彼女が言うには冒険者における戦闘役は大きく5つに分かれるという。
1.前衛・・・戦士、武闘家、装甲戦士等、戦闘の最前線で敵と戦う者。
2.後衛・・・銃士、魔術士等、遠距離から敵を殲滅する者。
3.支援・・・魔術士、技術士等、補助魔法を使い前衛と後衛のサポート役をする者。罠の設置・回避、陣地の構築も担当。
4.回復・・・回復術士。パーティの回復役。
5.補給・・・技術士、支援者等、物資やアイテムの保全と退路の確保を担当するもの。平時における食材や薬草の採取、鉱物の採掘も担当。戦闘は極力行わない。
冒険者のパーティの規模にもよるが概ね上記の様に分類されるらしい。
ただし、前衛だからといって必ずしも戦士や武闘家などの近接戦闘ユニットが入るとは限らない。
時には防御魔法に特化した魔術士が前衛に入ることもあるし、逆に後衛に回復役や補給部隊の警護の為に戦士が付くこともあるという。
ここらへんはパーティの編成によって様々な特色が出るというわけだ。
一般的にパーティの人数は4人から組まれることが多いという。
この場合は前衛、後衛、支援、回復がパーティの基本構成になり、補給役は10人以上の中規模なパーティに見られるポジションだ。
未開の地奥深くに進むような大冒険者達は中規模以上のパーティを組むこともざらにあるという。
さらに、古代の遺物があるであろう巨大なダンジョンの中に進む場合には100人規模の超大規模なパーティを編成して探検に赴くこともあるらしい。
まあ、これは常時このパーティを組むというわけではなく、ギルドが主導する様な特別ミッションの時だけらしいけどね。
通常パーティとして組む人数は多くても20人くらいまでだという。
それ以上は統制が効きにくく、事実上の上限人数というものは決まっているという話だ。
そこまでアイナさんは話すとエノクに改めて問いかけてきた。
「――――以上が冒険者パーティの基本構成になります」
「エノクさんはどの戦闘ポジションを考えられていますか?」
「・・・そうですね」
アイナさんの問いにエノクはしばし考え込む。
ファリルさんがさっき言っていたようにエノクに戦闘向きのスキルはない。
今後、攻撃魔法などのセカンダリースキルを覚えれば話は別だろうけど、
結局レベルを上げていけばプライマリースキルがその冒険者の一番の強みになるのは想像に難くない。
エノクのプライマリースキルは”アナライズ”と”創作能力向上”。
いずれも魔法技師として有用な能力だが、攻撃用の能力ではない。
やっぱりエノクの冒険者の適性を考えると、”3.支援”か”5.補給”のどちらかになりそうよね・・・
「・・・僕としては”後衛”か”支援”を考えています」
「僕は戦闘に特化したスキルはまだないですが、セカンダリースキルは攻撃系のものを習得していきたいと思っています」
「銃を使えばスキルに依存せずにある程度自分の戦闘力を補うことも出来ますし、」
「冒険をする中で魔法技師としての腕前を磨けば、自分の武器をカスタマイズして戦闘力を強化することも出来ます」
「もちろん魔法技師の適性を考えれば、”支援役”が僕のベストポジションであるとは思うのですが、後衛でも戦えるようにしたいと思っているんです」
エノクがアイナさんに要望を伝える。
そのチョイスは私にとってちょっと予想外だった。
へぇ・・・エノクが後衛役を考えているとは思わなかったわ。
・・・そう、この世界は剣や魔法の世界と思いきや、「銃」もちゃんと存在するのだ。
ただし、銃の発射エネルギーとして使われているのは火薬ではなく、魔力結晶体だけどね・・・
つまり魔法エネルギーを使った、「魔法銃」というわけだ。
打ち出すものはオーソドックスな金属の塊であることもあれば、魔素を火や水、風、などの特定のエネルギーに変換して打ち出すことも出来るという。
これだけ聞けば、他の武器なんかいらないんじゃないかと思うかも知れないが、そう簡単に行かないのがファンタジー世界の怖いところ。
防御魔法や補助魔法はどのパーティも少なからず使えるモノだし、回復魔法という最高のチート能力があるせいで即死さえしなければ負傷者は素早く復帰出来てしまう。
この世界にマシンガンでもあれば話は別だったかもしれないが、連射が利かないというのも魔法銃の弱点だ。
エノクいわく、魔力結晶体の暴発の恐れから銃は連射できる代物ではないとのこと。
それに人間相手ならまだしも、強力な魔物には効果も薄い。
ドラゴン相手に小さなハンドガンをいくらぶっ放そうが効くわけないのは容易に想像できるだろう。
むしろそういうものに対抗するためには伝説の金属を加工した剣や槍と言った近接武器の方が効果がある様だ。
以上から分かるように、この世界では銃は絶対的な武器ではない。
しかし、弱い魔物相手には十分強いし、スキルに依存せずにある程度戦闘力を発揮できるというのは大きなメリットだ。
駆け出しの冒険者には頼もしい味方だと思うし、エノクが銃を選択したのは悪くない。
・・・と思ったのだが・・・
「・・・ふむ。支援と後衛ですか・・・」
「魔法技師であるエノクさんの適性を考えれば支援役は最もな選択だと言えるでしょう」
「銃に熟達すれば後衛役というのも悪い選択ではありません」
「しかし、銃をメイン武器として選択するのは私は余りお勧めしません」
「銃は連射が利かず、大量の敵相手には効果が薄いからです」
「もし、ダンジョンの中ですぐに銃の装填ができずに、魔物に囲まれる状況になったらエノクさんはどう対応するつもりですか?」
「・・・そ、それは・・・」
アイナさんの言葉にエノクは口淀む。
私達の考えとは裏腹にアイナさんは厳しい意見を返してきた
私もアイナさんの言葉にハッとさせられる。
彼女の言うことも最もね・・・
確かに、ダンジョンの中を行けば他のメンバーとはぐれることもあるだろうし、
敵が大量に現れればパーティの隊列も崩れることがあるだろう。
その様な状況において連射が利かない銃しか獲物がないのは致命的だ。
エノクが返答に戸惑っていると、そこでアイナさんは意外な言葉を続けてくる。
「エノクさん。銃はサブの武器として活用するべきでしょう」
「銃をカスタマイズして自身の強化にするというのは良いアイディアだと思います」
「しかし、それを実現する前にやられてしまっては元も子もありません」
「そこで私はエノクさんに”体術”をお勧めします」
「・・・・え?」




